モフモフが現れた
「ダンジョンと言えばさ、山裾の街にもあっただだろう?俺は攻略をしていないけどどうだったの?」
準備をしている時に聞いてみると彼らは皆あのダンジョンをクリアしたのだと言う。
「ダンジョンと言っても小さかった。全部で3層でね。魔獣もモグラと蝙蝠だけ。ボスってのもいたが蝙蝠のでかいのと取り巻きだけでね。正直強くなかったよ。ドロップも冴えないのばっかりだったな」
トミーが答えてくれる。攻略クランもクリアしているが情報クランと同じで大した難易度でもなかったという。ダンジョンクリアよりもモグラをテイムする目的で行くくらいが丁度良いだろうと。
ここだってそうかも知れないよ。そう言うと皆がそれはそれで構わないと言う。
「最初に乗り込む。何がいるか分からない。これが冒険だろう?」
常に先頭にいる攻略クランのナイトのジャックスが言うと、情報クランのトップナイトであるリックもその通り、なんでも受け止めてやるぜと言っている。2人とも、いや全員が気合い十分だ。
(ミント、この洞窟はダンジョンなの?)
(その情報は持ち合わせていません)
やっぱりな。中に入るとまた変わるかもしれないが入る前だと教えてくれないか。ただやっぱりまだ誰も入った事がないと言う事が分かった。
ナイト2人が先行、その次にタロウと俺とリンネ。その後に他のメンバーという順で洞窟に入ることにする。タロウの気配感知がダンジョンでは必要だろう。うん、俺じゃないんだよ。
空蝉の術2を誦え終えたタイミングでタロウの背中に乗っているリンネが言った。
「主、参るのです」
その言葉でアライアンスを組んでいる全員が洞窟に入っていく。入り口から100メートル位まではまっすぐになっているがクラリアが言った通り奥に進むと壁が光っていて明るくて松明がいらない位だ。
100メートル進んだところで右にカーブしているがそこに近づくとタロウが体を落として低い唸り声を上げた。すぐにジャックスとリックが盾を構えて前に出るとそのままカーブを曲がった。
「ゴーレムだ。単体。LV87」
いきなりLV87が出てきた。ジャックスがAIから聞いた情報を声を出して伝えてきた。全員がカーブを曲がると正にゴーレムがジャックスに殴りかかるところだった。それを盾で受け止めるジャックス。すぐに背後から前衛ジョブが前に走ってきてゴーレムを攻撃する。俺もタロウも前衛として攻撃するとあっという間にゴーレムが倒れた。
「この人数なら問題ないな」
前に進みながらスタンリーが言う。PWLにおけるトップクランと言われている情報クランと攻略クランの最強パーティの揃い踏みですよ、大抵の困難はクリアできるでしょう。
進んでいくと同じゴーレムが出てきたが同じ様に瞬殺する。一本道の洞窟を進みながら出会うゴーレムを倒していく。今のところ敵はゴーレム、LVは87で変わらない。そのまま進むとゴーレムが複数体になった。ジャックスとリックの2枚盾で対応している間に魔法と武器で2体をほぼ同時に倒し切る。俺以外の前衛は85からの武器を装備している事もあり攻撃力が半端なく高い。
ゴーレムの単体、複数体を倒しながら一本道の洞窟を進んでいくと通路の先が下に降りていく階段になっていた。誰も疲れていないのでそのまま階段を降りると2階も1階と同じ様な洞窟になっていた。ただ1階が通路だったのに対して2階は広い空洞になっており、そこに魔獣が徘徊しているのが見える。ゴーレム以外に獣人のオークが徘徊しているのが見えていた。
「広場の奥に通路があるな。あの奥に行くのだろう」
階段の下の方で立ち止まって前を見ているスタンリーが言った。俺は他のゲームではダンジョン攻略は嫌と言うほどやってきたがPWLでは初めてだ。レベルも低いしここは大人しくしていよう。
「レベルは88と89がいるわね。パーテイを分ける?」
リンクするかもしれない場所ではアライアンスを解消し、パーティそれぞれが敵を倒した方が良いだろうと言うクラリアの提案で階段でパーティを3つに分ける。情報クラン、攻略クラン、そして俺とタロウとリンネだ。俺たちは遊軍ということになった。
「タクらも強いから1体受け持って倒してくれてもいいから」
「わかった、頑張るよ」
俺がクラリアの言葉に返事をする。正直俺のレベルでどうなのよと思うが…。
「主、ガンガンやるのです」
「ガウガウ」
従魔達はすっかりやる気モードだった。リンネは暗い所が苦手じゃなかったのかよ。
3つのパーティに分かれた俺たちは広場に出ると左右と中央に分かれて攻略を始める。俺は左側の受け持ちだ。左にいたゴーレムが俺たちを認識して襲ってきた。タロウが威圧でヘイトを取るとすぐに刀で切り付ける、ゴーレムがこちらを向くとタロウの蹴りが入り、リンネが魔法を撃つ。攻撃を切らせることなく続けるとゴーレムが光の粒になって消えた。予想よりも動ける。タロウとリンネが良いダメージを叩き出している。これなら何とかなるかもしれないぞ。
その後俺たちが3体倒して奥に進むとほぼ同じタイミングで2パーティが通路にやってきた。彼らはそれぞれ4体倒したのだという。レベル差と人数差の違いだと思いたい。
「5人になったら試練の消化が進んでるぞ」
1人が言って全員がウィンドウを確認すると、確かにここで倒した数だけ試練のお題の残り数数が減っているということが分かった。どうやらこのダンジョンは試練の街のエリアの中という扱いになっているみたいだ。俺にとっては経験値が稼げるだけで十分だが他のメンバーからみればダンジョンを攻略しつつ試練のお題を消化できるので一石二鳥だよね。
「行けるところまでパーティ単位で行動した方がよいな」
トミーが言った。
「そうだな。タクは問題ないか?」
そう言ったスタンリーが俺に顔を向ける。
「大丈夫だ。タロウとリンネが優秀だからな」
「任せるのです」
「ガウガウ」
「じゃあこのまま続けよう」
広場の奥にある通路を抜けるとその先はまた大きな空洞、広場になっていた。ミントによると徘徊しているのはリザードと呼ばれる2本足で歩く地竜らしい。レベルは88だが硬そうな魔獣だ。それが広場のあちこちに配置されている。
俺たちは一旦通路に戻ってそこで休憩を取る。休める場所で休んでおかないとこれから先で食事が取れるかどうか分からない。
「山裾の街のダンジョンよりも本格的だね」
「確かに。何層になるのか分からないが本腰を入れる必要があるかも知れないな」
通路の壁に背中を預けながら思い思いに話をするクランメンバー達。俺はタロウの身体に上半身を預けたまま持参した梨やパンを食べている。ダンジョンに入ると俺がとやかく言うことはない。2つのクランにお任せでいいだろう。
リンネは俺の足の間に体を入れて顔を太ももの上に置いている。タロウもリンネも尻尾の振り方を見れば今彼らがどう言う状態なのかわかる様になっていた。今は従魔達はリラックスしているな。両クランのメンバー達は今まで毎日トレントと蜂相手だったので相手が変わって新鮮だと話しているのが聞こえてきた。毎日同じ相手ばかりしていたらそりゃ作業になるわな。
休憩後に広場の攻略を開始する。地竜は硬いがタロウとリンネの魔法、それとちょっとだけ俺の刀の威力で倒せていく。経験値が入るのでなかなか美味しい。PWLでダンジョン攻略は初めてだけど基本はフィールドと同じだ。出会う敵を倒して奥に進んでいくだけだからね。
「楽勝なのです」
「ガウガウ」
タロウとリンネが強くなってるから助かっているよ。俺は空蝉の術で分身作っているだけの気がしないでもないけど、深く考えるのはよそう。
情報クランのメンバーの1人が地竜のテイムができたと叫んでいる声が聞こえてきた。ただあちらは5人パーティなのでテイムできた瞬間にテイマーギルドに地竜が飛ばされているので能力が分からない。俺は地竜を従魔にする気はないがどう言う能力があるのかはあとで聞いてみよう。
広場、通路、また広場、そして通路という2層を進んで行くと下に降りる階段が見えてきた。階段の下には転送盤が見えている。
「これに乗ったら地上に戻れるってことかしら」
ぼんやりと光っている転送盤を見ているクラリア。1層から2層に降りるところにはなかったが2層から3層に降りるところにはある。隔層ごとにあるんだろうか。
「上から再びここに飛んでくる手段があるかどうかが確認できないな。最後に使ったらどうだろう」
スタンリーの言葉にそうしようということになって休憩を終えると3層目の攻略を開始する。ここはまた景色が変わっていてダンジョンの中だというのに木が生えている森の様になっていた。そしてそこに徘徊しているのは猛獣系の狼だ。タロウほど大きくはないがそれでも足が速そうな四つ足の狼がいるのが見える。
「初めてモフモフが現れたわね」
階段から前を見ているクラリアが言った。
「ただレベルは90と高くなっている。慎重にやろう」
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