やっぱりLV85

 モンゴメリーさんの家を訪ねて頂いた梨の苗木を植えた翌日。俺は従魔達に留守番を頼んで1人で山裾の街に飛んだ。訪ねる先はくノ一忍具店だ。


 結界で隠してある店の中に入って声をかけると奥からヤヨイさんが出てきた。


「あら、タクじゃない。いらっしゃい。久しぶりね」


 俺が試練の街に着いたんだよと言うとテーブルを勧めてくれた。畑で採れたいちごとお茶の葉のお土産を渡すと早速飲みましょうと俺の畑のお茶の葉を使ってお茶を入れてくれた。


「美味しいお茶ね」


「ありがとうございます」


 お茶を飲みながらの雑談だ。新しい街に着いてモトナリ刀匠の店を訪ねたんですよと報告をする。


「モトナリ師匠は元気だった?」


「元気でした。刀と忍者の装束を売りながら奥で刀を打っているんだって言ってましたよ。


 ヤヨイさんはモトナリ師匠の下で修行をしてから独立してここ山裾の街で店を開いたらしい。


「師匠は弟子については男女種族関係なく、分け隔てなく教えてくれたのよ。厳しかったけどたくさん学ばせて貰ったわ」


 当時を懐かしむ表情で話をする彼女。おそらくドワーフの親父も彼女と同じ頃に弟子になっていたんだろうな。


「最近、新しい刀を打ったんだと言って見せて貰いました。今までの刀より少しだけ刀身が長いんですが素人の俺が見ても凄い刀だとわかるくらいでした」


「レベルいくつからの刀?」


「85だって言ってました」


「やっぱり85なのね」


「やっぱり……ですか」


 そう言うとヤヨイさんが俺を見ながら言った。


「試練の街。レベルが85になって初めてその街の名前、試練の意味がわかるわよ。ただレベルをあげれば良いって話じゃないけどね、でも85にまで上げるのは最低条件」


 レベルを85まで上げて終わりじゃないってことか。モトナリ刀匠と同じ事を入っている。でもこれ以上は教えてくれないだろう。ヤヨイさんから今の俺のレベルを聞かれたので72と答えるとまだまだ道のりは長いわねと言われたよ。


「レベル上げ以外に農業やったりうろうろしたりしているのでのんびり上げますよ」


「そうね。それがいいんじゃないかな。レベル50以上の忍者のプレイヤーはタク1人だしね。のんびりやるといいわよ。競争じゃないんだから。うちで買ってくれたその刀と防具、そしてその素早さが上がる腕輪があればタクならそのまま85まで使えるから」


 優秀な刀と防具を買っておいてよかった。そのあとはしばらく雑談をしていると、新しくプレイヤーになった人の中で忍者のプレイヤーがこの街に来るのを楽しみにして待っているいるというヤヨイさん。確か第3の街からここに来るにはレベルが52前後だったか。第2陣が今どれくらいのレベルなのかわからないがそう遠くない時点で来るのだろう。初期組と違って地図もあれば攻略方法、魔獣のレベルもわかっている。情報クランがしっかりと商売をしているだろうしな。


 また来ますとお礼を言ってくノ一忍具店を後にした俺は転送の腕輪で開拓者の街の自宅に戻ってきた。


 ちゃんと留守番をしていた4体の従魔を労り、畑と果樹園、ビニールハウスの世話を終えるとタロウとリンネと一緒に試練の街の別宅に飛んだ。ウィンドウを見てクラリアがこの街にいるのを確認して連絡を入れると今はオフィスにいるというのでタロウとリンネを連れて市内の彼らのオフィスを目指す。リンネは相変わらず俺の頭の上だ。身体が大きくなっているのだが今でも頭の上にちょこんと乗る。まぁゲームだからそこはあまり気にしない様にはしているが。


「主、用事が済んだら外に出るのです」


 通りを歩いていると頭の上から声がした。


「おう。魔獣をとっちめるか」


「ガウガウ」


 隣を歩いているタロウもやろうぜと言っているな、これは。


「とっちめるのです。タロウもやる気満々なのです」


 その前に報告だ。情報クランにつくと応接に案内された。タロウも一緒に入ってきてソファに座る俺の横の床の上に腰を下ろす。すぐにクラリアとトミーが入ってきた。リンネは俺の頭の上でグデーとなっている。前足と両足、6本の尻尾が頭から垂れて俺の頭がドレッドヘアみたいになっているがリラックスしているみたいだから許してやろう。


「レベル85がスタートになる。それが試練の始まり。ということか」


 俺がくノ一忍具店のヤヨイさんから聞いた話をした後でトミーが言った。


「彼女のその言葉から見ても、ただレベルを85にして終わりってことじゃないみたいね。それが最低条件だって言っているし。そこからが試練のスタートなんでしょう」


 そうは言っても今のところその試練がどう言うものかは見当もつかない。レベルが85になると街の中にある試練の塔に入れる様になるんだろうなと予測するだけだ。


 トミーもクラリアもレベルは75になったところだという。スタンリーやマリアも同じレベルでトップのレベルらしい。ただ他のプレイヤーの中にもレベル75はそれなりにいるという。


「皆が85目指しているからね。今はレベル上げで周辺のエリアはプレイヤーが多いわよ」


 情報クランからもレベル85になると専用の武器や剣が店先に並ぶと公表していることもあり今はこの街ではレベル上げが”熱い”らしい。まあレベル上げはいつでも熱いのは間違いない。


 タクはどうしているのと聞かれたのでレベルは72で、この前に原生林の中に住んでいるNPCを訪ねてきたという話をする。


「あの中に人が住んでるの?」


 まさかと言った感じでクラリアが声を出した。


「農業というか果樹園をやっている人がいるんだよ」


 2人にレストランからの話をした。原生林に住んでいるモンゴメリーさんから貰った梨の苗木を自分の畑に植えたんだよと言う。


 梨の木の苗木の件は試練とは関係ないんだろうけど個人的にこういう横道にそれてゲームをするのも面白いと思っている。


「そのモンゴメリーさんは試練については何も話してなかったから多分関係ないんじゃないの?」


「普通ならそうでしょうけどタクだからね」


「そう。タクだから何かあるんじゃないかと期待してしまうな」


 2人してそう言うが、そんな毎回当たりを引かないって。

 その後、聞いた話だと第2陣は今は第3の街をベースにしてレベルを上げている人が多いらしい。もちろん一部合成職人さんになる人がいて、その人たちは始まりの街にいるらしいが。


「早い人で今のレベルが40超えたくらい。もう少ししたら山裾の街に行く人が出るんじゃないかな」

 

 情報クランが調べたところエリアボスはすでに弱体されているレベルになっているらしい。最初のエリアボスはLV40に弱体化されているのを確認していると言っていた。こういう検証もしっかりとやっているんだなと感心する。


「そうだ、あの攻略クランが倒した半魚人のNMはリポップしたの?」


「それがまだなのよ。毎日あのエリアに出向いているんだけど湧きをまだ確認できてないの。おそらく最低でも1ヶ月?それくらいの間隔かも知れないわね」


 結構良いものをドロップしたからな。それくらいの間隔になるんだろうか。POPしたら連絡入れるのでヘルプをよろしくねと言われたがそれは問題ない、いつでもOKだよと返事をする。忍者が活躍できる場面は多くないだろうし、情報クランにはお世話になっているからね。それよりも何よりも、フレのお願いは断るつもりはないよ。


 情報クランを出た俺たちはそのまま街の外に出た。クラリアが言っていた通り街を出た草原はプレイヤーの数が多かったのでそのまま森の中に入っていく。タロウがいれば木に擬態しているトレントも怖くない。リンネの魔法も尾が6本になってさらに威力を増していた。俺の蝉で盾をしている間に2体の従魔がしっかりとダメージを与えてくれる。


「タロウもリンネもいい感じだぞ」


「ガウガウ」


「主、もっと褒めていいのです」


 森の中で3時間ほど魔獣を倒したがレベルは上がらなかった。レベルアップに必要な経験値がかなり増えている様だがこれは地道にやるしかない。陽が暮れて来たので帰ろうと市内に戻ってそのまま別宅から自宅に移動する。


 最後は4体の従魔とのんびりと時間を過ごしてからログアウトするのが今のルーティーンだ。タロウとリンネは外で発散したからかご機嫌がよく2体で庭を走り回っていて、ランとリーファは縁側に座っている俺のところに飛んでくると肩に座って羽をゆっくりと動かしていた。

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