美味しい梨ができました

 翌日から4日間、外で経験値を稼いだ俺は今忍者レベル74だ。NEXTの経験値は多くなっているがなんとか74まで上げたぞ。タロウとリンネに頼りまくっているがまあいいだろう。


「頼るのです。タロウとリンネを頼っていいのです」


「ガウガウ」


 自宅に戻って従魔を労っているとリンネがそう言ってくれる。

 俺はリンネを膝の上に乗せて撫でながら聞いた。


「きつくないか?」


「平気なのです。主のために頑張るのです。主が撫でたら元気になるのです」


 殊勝な事を言ってくれる。涙がでるよ。タロウも縁側に上がると俺の隣で横になって体を押し付けてくる。任せておけと言った感じか。


 ここ数日頑張ったから明日は自宅でのんびりしよう。そろそろ梨が収穫できる頃だし。


 翌日インするとランとリーファの2体の妖精達が木の枝から縁側に飛んできた。


「ランとリーファが畑を見ろと言っているのです」


「わかった。皆で行こう」


「行こう、なのです」


「ガウ」


 タロウの背中にリンネが乗り、ランとリーファは俺の肩に乗っている。その格好で畑を見てから果樹園に移動した俺たちの目の前に大きな梨の実がなっているのが目に入ってきた。


「おおっ、立派に成長しているじゃない」


 モンゴメリーさんからもらった苗木が全て成長していて梨の実が沢山なっていた。見た感じだとモンゴメリーさんの原生林に成っていた実よりも大きめだ。枝に成っている梨の実を一つちぎると口に運んで食べてみる。


「めちゃくちゃ甘くて美味しいぞ」


 ジューシーで甘い。うん、すごく美味しい。頬張りながらランとリーファを見てサムズアップすると彼らもお返しにとサムズアップしてきた。


「タロウとリンネも頑張ったのです」


「もちろん、タロウとリンネも頑張ったんだぞ」


 俺が撫でてやるとタロウもリンネも機嫌が良くなった。


「みんなが頑張ったから美味しくできたんだ。ありがとうな」


 そう言うと妖精たちは歓喜の舞を踊り、タロウは尻尾をブンブンと振り、リンネはタロウの背中から俺の腕の中にジャンプしてきた。


「皆な主が大好きなのです。主のために頑張るのです」


 6本の尻尾をブンブンと振りながらそう言った。


「そうか。うん、ありがとう」



 この梨は農業ギルドのネリーさんとレストランのジョンストンさん、原生林のモンゴメリーさんには味のチェックをして貰わないといけない。俺は畑の野菜の収穫と果樹園からりんごと梨、そしてビニールハウスからイチゴを収穫する。収穫は俺の仕事だ。畑の収穫が終わると種を蒔く。すると俺の肩に乗っているランとリーファがステッキを振ってくれる。これであとは水やりだけで成長してくれる。


 従魔達に留守番を頼んだ俺は収穫した野菜と果物を持って農業ギルドに顔を出した。例によってギルマスのネリーさんが検品をしてくる。


「今日は新しく育てた梨を持ってきたんだけど検品してくれますか?」


「梨?どこで苗木を手に入れたんだい?」


 この街の農業ギルドには梨の苗木はない。俺は試練の街で知り合った梨の果樹園をやっている人から苗木をもらって育てたんだよと答える。なるほどと言って梨の実の一つを齧ったネリーさん。


「こりゃ瑞々しくて美味しいね。この街じゃ梨は滅多に出回らない果物だよ。うん、これは売れるよ」


 よかった。ギルマスの太鼓判をもらったぞ。


「この梨もまた高く売れる。どんどん育てて持ってきておくれ」


「わかりました」


 梨も想像以上の値段で買い取ってくれた。安定した金策があるというのはありがたいね。



 自宅に戻るとタロウとリンネを連れて試練の街に飛んだ俺はまずはジョンストンさんのレストランに顔を出した。モンゴメリーさんからもらった苗木を育てて梨ができましたと報告をして梨を彼に渡す。


「これは甘くて美味しい梨だな。うちの店で出しても問題のない味だよ」


 一口食べてそう言ってくれた。レストランのシェフが褒めてくれたぞ。これは嬉しい。ランとリーファのおかげとは言え自分が作ったのを褒められるのは嬉しいんだよ。


 俺たちはその足で街を出ると原生林の中にあるモンゴメリーさんの自宅を目指した。最初に来た時に左に曲がって原生林の中に入っていく目印を覚えていたので今度はスッと行けた。


 モンゴメリーさんは俺が持ってきた梨の大きさを見てびっくりし、食べるともう一度驚いた表情になる。


「大きいが甘くてジューシーだ。これは美味しい梨だ」


 よかった。苗木をもらって育てた梨を食べて美味しいと言って貰えて一安心だよ。


「開拓者の街の農業ギルドやジョンストンさんにも美味しいと言ってもらえました」


「そりゃそうだろう。これは一級品だ」


 モンゴメリーさんがベタ褒めしてくれる。妖精と精霊の木のおかげなんだろうがそれでも褒めてもらえると嬉しい。


「これを食べちゃあ俺も負けてられないな。よし、また気合いを入れて梨を育てるぞ」


「頑張ってください。俺も頑張りますんで」


「リンネとタロウも頑張るのです」

 

 やりとりを聞いていたリンネが言った。タロウも俺の横でガウガウと言っている。


「はは、従魔ちゃんたちも頑張ってくれよな」


「はいなのです」


 モンゴメリーさんの言葉に答えるリンネ。せっかく来たんだからジュースでも飲んでいってくれと手作りの梨ジュースを振る舞ってくれた。これがまた美味しいんだよ。


「原生林の中だから空気が美味しいですね」


「そうだろう?ここはなぜか魔獣もいない。試練の街も悪くはないんだが俺はここに住む方が性に合ってるんだよ。水も空気も美味いしな」


 外にあるテーブルに座ってジュースを飲みながら話をしている俺たち。タロウは俺の横の地面の上に座ってリラックスしていて、リンネは俺の頭の上に座っている。


「原生林が邪魔でここからは試練の塔は見えないですね」


 俺が座りながら首を左右に動かして言った。


「試練の塔か、街のシンボルだが滅多なことじゃあ中に入れない。そして本当の試練はあの塔に入る資格ができてからだと言われているな」


 ここでも同じ事を言われる。まずは資格を取る、つまり俺たちプレイヤーはレベルを85まで上げろということだろう。タクのレベルはいくつなんだ?と聞かれたので74だと答えると、


「まだ道のりは遠いな」


「そうですよね、仲間の中にはレベルが76とか77とかもいますけどね」


「慌ててレベルを85に上げれば良いという話じゃない。以前そう聞いたことがある。俺には何のことだかさっぱりだけどな」


 彼も同じ事を言う。ヤヨイさんが言っている様にまず85に上げろというのは試練を受ける資格の1つが85という意味なのだろうか。そう言えばモトナリ刀匠もレベルは最低条件だと言ってたな。他にも条件があるというのは間違いないな。


 85という目標があるとは言え、俺は今までのペースでのんびり過ごすつもりだけどな。モンゴメリーさんの家でジュースを飲みながら話をした俺達はまた来ますと彼の小屋を後にした。


 原生林から転移の腕輪で別宅に飛び、そこから街の外に出ると、日が暮れるまで森の中で魔獣を相手に経験値を稼ぐ。経験値稼ぎになるとタロウとリンネが生き生きして次々と敵を倒していく。


「主はじっとしているといいのです。タロウとリンネで倒しまくるのです」


「いやいや、そうはいかないって。俺も戦闘に参加させてくれよ」


 戦闘好きというかタロウもリンネもレベルが上がるごとに強くなっているのが実感できているのだろう。敵を倒したくて仕方がない様だ。リンネは尾も増えて6本になっている。魔法の威力も随分と強力になっていた。


「タロウとリンネは本当にすごいな。強くなって助かっているよ」


 たった今大きな蜂、フォレストビーをほぼノーダメージで倒した後で俺が言うとタロウはガウガウと声をだし、リンネは俺の頭の上に乗ってくる。


「頼るのです。リンネとタロウともっと頼っていいのです」


 俺の頭の上からそう言ってくる。実際リンネの言う通り2体に頼りまくりだよ。俺はタロウとリンネをしっかり撫でてやる。


 この日は日が暮れるまで街の外で頑張っていた2体の従魔達。レベルは上がらなかったが75にまた少し近づいた。こうやって少しづつでも地味に経験値を稼いでいかないとな。85までの道のりはまだまだ長い。

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