NMが見つかった
「主、父上と母上に褒められたのです」
村長の家を出た俺とタロウが参道から鳥居をくぐると祠からリンネが駆け寄ってきた。恐らく精霊の木の世話をしていた事で褒められたのだろう。実際リンネは頑張っていたぞ。
「良かったな、リンネ」
「リンネは嬉しいのです、本当に嬉しいのです」
俺に抱き着いてきたリンネを撫でてやると腕の中で何度もそう言う。
見ると尾が6本になっていた。その6本の尻尾をブンブンと振り回している。感情丸出しのリンネを見るのは初めてだな。それほど嬉しかったのだろう。頑張っていたのは間違いないからな。
祠の前にリンネの両親が座っていた。お土産のイチゴを供えた俺は2体の九尾狐に頭を下げた。隣ではタロウが腰を下ろして座っている。リンネ?いつの間にか俺の頭の上ですよ。
「おかげ様で自宅の庭の精霊の木に木の妖精と土の妖精がやってきました。ありがとうございます」
うんうんと頷く2体の九尾狐。
「タクと霊狼、そしてわが娘がしっかりと育てた結果だ」
「タロウはもちろん、リンネも毎日精霊の木の面倒をみていました。頑張っていましたよ」
俺がそう言うと目を細めるリンネの両親。
「リンネも立派になってきたわね」
「母上、ありがとうなのです」
これからもよろしく頼むぞという九尾狐の父親の言葉に分かりましたと答える。俺達はもう一度村長の自宅に顔を出してクルス村長とユズさんにお礼を言うと村のコンビニに寄る。キクさんに自作のポーションを渡すとえらく喜んでくれる。
「ポーションは消耗品だからね。いくらあっても困らないんだよ」
そのお礼にとまた沢山の野菜をもらっちゃったよ。どう考えても俺が貰い勝ちしてる気がするんだよね。街に戻ってネリーさんに買い取ってもらおう。
隠れ里を出て自宅に戻った俺達。夕方前の時間で畑に日が差している。タロウは精霊の木の根元、枝にはランとリーファが座っている。うん、そこなら日陰だから過ごしやすいよな。リンネはというと俺の頭の上に乗っていた。縁側に座ってのんびり過ごしていると頭の上から声がした。
「主、これから外に出て敵をやっつけるのです」
「もう日が暮れてきているぞ」
「いいのです。リンネの魔法で片っ端から敵をとっちめてやるのです」
尾が6本となり魔法の威力が増したのを確かめたくて仕方がない様だ。
分かった分かったと明日は街の外に出るにする。試練の街の周辺でレベルを上げることにしよう。明日外に出るという話を聞いていたタロウも精霊の木の根元に寝ころびながら大きな尻尾をブンブンと振り回している。この2体は戦闘好きだよな。
今日はそろそろログアウトしようかと思っていると端末が鳴った。
「主、お電話なのです」
「うん、ありがとう」
端末を手に持つと珍しくスタンリーからだ。
攻略組は多忙じゃないのか?
「どうした?」
挨拶を交わしてから聞いた。
「ちょっとヘルプをお願いしたいと思ってな。今から別宅に移動できるか?
出来ればタクの別宅で話をしたい」
秘密の打ち合わせというやつかな。分かった今から移動するよと通話を終えるとそれを待っていたかの様にタロウが傍にやってきた。察知しとるな。と同時に頭の上からも声がした。
「出撃なのです」
「ガウガウ」
「外じゃないぞ、試練の街にある別宅に移動するだけだ」
試練の街の別宅に移動すると、裏庭の門が開いてスタンリー、マリア、クラリア、トミーというトップクランのトップ4がやってきた。マリアは当然タロウを撫でまわす。ただいつもよりも撫でている時間が短いな。さっと撫でると部屋に入ってきた。う~ん、ややこしそうな話の予感。
「急に呼び出して悪かったな」
庭に面している洋間には余裕で6人は座れるソファとテーブルが置いてある。あると便利かなと買っておいてよかったよ。
「いや、そろそろ落ちようかな、なんて思いながらぼーっとしてたところだったから平気だよ」
「主は明日の出撃に備えていたのです」
リンネが言うと、明日の出撃?と聞いて来るスタンリー。
「いや、今日隠れ里に行ったらさ、リンネの尾が6本に増えたんだよ。明日はこの街の周辺でレベル上げをしようかなんて考えていたんだよ」
俺は精霊が自宅にやってきたお礼を言いに里に出向いた時の話をする。聞いていた情報クランの2人は本当だとリンネの尾を見て数を数えている。スタンリーはそう言う事かと言ってから
「その出撃はちょっと先に伸ばして欲しい。実はだな」
そう言って話始めるスタンリー。
攻略クランは情報クランと協力しながら試練の街の周辺を攻略しているらしい。
「このエリアはこんな感じなの」
情報クランのクラリアがテーブルの上に手書きの地図を広げる。地図の片側に試練の街、原生林の台地が書かれており、その試練の街を囲む様にして森があった。試練の街はこのエリアの西側に位置している様だ。
「それでだ今日は街から南側を探索していたんだよ」
彼らはレベル上げ、印章集めをこのエリアで進めている。確かにここのエリアなら敵のレベルが高い分経験値は多く、そして印章も集められる。
「その途中で森の中にある大きな池を見つけてな、その池に住んでいるNM。その討伐の手伝いをお願いしたい」
池にNMがいるのか。それにしてもまだLV71の俺に手伝い?
「厳密に言うとね、最初は地上にいるんだけど狂騒状態になったら池に移動するのよ」
スタンリーに変わってマリアが言う。ふむふむ。
「その池から強烈な水鉄砲を打ってきてナイトが持たないのよ」
聞くと2度ほど挑戦して2回とも狂騒状態になってナイトがやられてジリ貧で負けているらしい。NMは半魚人のサハギンという獣人らしく、地上では片手剣を振り回し、水に入ると口から水鉄砲で攻撃してくる。精霊士多めで体力は削れるんだけどナイトが持たないらしい。
「まともに食らうとLV73のジャックスでも数メートル吹っ飛ばされる。すると立て直している間にまた水鉄砲が来てな。ナイトの2枚盾もやってみたが同じだったんだ。2枚盾にすると僧侶が魔力切れになるんだよ」
NM戦は10名で60分という制限があるらしい。近接と遠隔という2種類の攻撃でないと倒せないので10名をどうするかパーティの編成が難しいのだという。
それにしてもフィールドにいるNMなんて初めてだな。
「話は分かったよ。それで俺の蝉で回避しろと?」
俺がそう言うとその場にいた4人が全員頷いた。地上にいる時はナイト盾と近接で体力を削れる。狂騒状態になったら蝉で回避しつつ精霊魔法を打ち込む作戦でやってみたいのだというスタンリー。
従魔はどうなるんだ?3枠使うのか俺だけなのか。
聞いたら3枠使ってくれて構わないと言われたよ。
「逆にリンネの魔法は必須だよ。尾が増えて魔法の威力が増しているというのなら尚更だ。地上ではタロウの攻撃力も必要だ。あと7名はこっちで用意する」
「リンネに任せるのです」
早速魔法が使えると聞いてリンネが6本の尾をブンブン振り回す。
「大丈夫か?」
「大丈夫なのです。主は心配性なのです」
いや、お前が自信過剰なんだろうが。
情報クランからはクラリアがシーフでヘルプをするらしい。構成を聞くと俺たち3枠以外にはナイト、僧侶、戦士、シーフ、精霊士x3だそうだ。戦士はスタンリー、マリアは精霊士枠におり、そしてシーフがクラリア。
タロウは実質戦士だし、リンネは精霊、回復魔法がいける。実質は精霊士4、僧侶2、戦士2という感じかな。シーフはジョブ特性でトレハンというドロップが上がるスキルを持っていてレベルが上がるとそのトレハンスキルも上昇するらしい。LV72だから期待しているんだよと言うスタンリー。攻略クランに高レベルのシーフはまだいないそうだ。
序盤、サハギンが地上にいる時は盾はナイトで戦士やシーフ、忍者の俺、そしてタロウがダメージソースになる。狂騒状態になったところで俺が蝉盾をしつつ精霊士とリンネが魔法で削って倒すという作戦だ。聞いているとこのNMは盾ジョブがキーとなる。彼らはそう見ている。
「このエリアというかフィールドでNMが徘徊しているのは初めてなのよ。ドロップも気になるしね」
NMのサハギンのレベルは不明だそうだ。ただ感触的にはLV80台後半じゃないかというのが攻略クランの見立てになっている。この辺の感覚はスタンリーやマリアなら間違わないだろう。
「そのドロップだがドロップ品が出た場合の取り扱いについて先に決めておきたい」
「俺は要らない」
と即答した。いいのかと聞いてくるので本当に要らないと答える。俺が見つけたNMでもないし、フレのヘルプでそんな事は言いたくないし。もちろん金とか報酬とかも要らないからなと言っておいた。クラリアもどんなアイテムをするのかという情報はクランとして興味はあるので教えてくれるだけで良いという。
結局ドロップ品が出た場合には攻略クランが手にすることになった。それでいいよ。丸く収まった。
「こういうNMって時間POPなんだろうか。それとも他にトリガーがあるんだろうか」
俺が言うとスタンリーが俺を見て言った。
「おそらく時間POPのNMだと思われる。トリガーとなるほど南エリアでは多くの魔獣を倒していない。多く倒す前にNMを見つけたからな」
なるほど。そしてこれについてはまだ広めたくないから秘密の打ち合わせにしたのかもな。フィールドのNMなんてレアだろうし、初めて倒せば良いドロップも期待できるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます