隠れ里に報告に行こう
妖精のランとリーファが手伝ってくれた野菜と果実を収穫して農業ギルドに持ち込んだ。作物を渡しながら自分の畑に土の妖精と木の妖精がやってきて、彼らが手伝ってくれて収穫したのがのがこれだよと話をするとギルマスのネリーさんが驚いた顔になった。
「タクの畑に木の妖精と土の妖精がやって来たというのかい?」
「そう。気が付いたら来ていたんだよ」
「確か庭に精霊の木を植えていたね。それでやって来たんだろうね」
「どうやらそうらしい」
「となるとこれは普通の野菜と果物じゃなくなるよ」
そう言うと俺が納めた野菜や果物を包丁で少し切ると口に運んで食べ始めた。
すべての野菜とリンゴ、イチゴを食べ終えると顔を上げて俺を見る。
「想像通りだよ。この味は隠れ里で作られている野菜や果物と同じだ。イチゴはあの村にはないがそれでも今までのイチゴとは全然味が違うね。これは凄い事だよ。お茶もいい味だよ」
興奮した顔でそう息巻いているが俺にはまだぴんとこない。
「いいかい」
そう言ってネリーさんが説明してくれた。隠れ里の果物の野菜は幻の産品と言われてどこの街のレストランでも取り合いになる位に人気がある。幻と言われているのはその味もそうだが滅多に市場に出ないからそう言われているんだよと言った。
そこまでは分かるので頷く俺。
「その幻の産品がこれからはタクの畑から定期的に供給されるんだよ。レストランの連中は喜ぶだろうね。しかも今まで無かったイチゴやお茶まである。間違いなくこれも取り合いになるよ」
「そうは言うけどさ、今まで数が少なかったのが定期的に供給されるとなるとその価値が下がるんじゃないの?」
幻が幻じゃなくなるんじゃないか、その結果お値段も下がるんじゃないのかと思っていることを彼女に言った。
「あんたね、この世界にどれだけの数のレストランがあると思っているんだい?タクの畑で出来る分なんて全体から見ればたかがしれているよ。今まではいつ来るか分からなかった幻の野菜や果物の供給が安定するとなれば皆飛びついてくるね」
熱く語ってくれるギルマスのネリーさん。
そういうものなんだ。これは高く売れるよと本当に高い値段で買い取ってくれた。今までの倍以上、80万ベール近くで買い取ってもらったよ。こっちは作った作物が高く売れる分には何も問題はない。良い金策になるし。
これからも頼むよとはっぱをかけられて農業ギルドを後にした俺。
自宅に戻って縁側に腰を下ろすとタロウとリンネ、ランとリーファを前にして言った。
「ランとリーファが手伝ってくれた作物と果物が高く売れたよ。みんなのおかげだな」
そう言うとランとリーファの2体の妖精達は俺の目の前の空中でお互いの手を繋いでその場で浮かびながらくるくると回った。俺はこれを妖精の歓喜の舞と呼んでいる。これがめちゃくちゃ可愛いんだよ。
タロウは座っている俺の足に大きな身体をぐいぐい押し付けてきた。リンネは俺の頭の上に乗ったまま言った。
「当然なのです。皆主の為に頑張っているのです。これからももっと頑張るのです」
「そうか、これからも頼むぞ」
妖精が手伝ってくれた作物を収めたこともあり俺はその報告とお礼を兼ねて隠れ里に行くことにする。元はと言えば隠れ里で精霊の木を貰ったのが始まりだからね。礼を尽くすのは当然ですよ。リンネに話をすると大喜びだ。
野菜と果物、お茶の葉を箱に詰めると精霊の木に近づいて、そこの枝に座っているランとリーファに言った。
「隠れ里に行ってくるからお留守番を頼むよ」
「♪」
「♪♪」
「大丈夫だ、任せろと言っているのです」
妖精達とのコミュニケーションにも問題がない。リンネがいてくれて大助かりだな。
街の外に出てタロウとリンネを呼び出すと早速タロウが腰を下ろした。
「いや、今日はタロウには乗らない。移動の途中で少しでも敵を倒しながら行こう」
折角外に出るのだから少しでも敵を倒して経験値を得たい。それに急ぐ必要もないしね。
「分かったのです。タロウとリンネで周囲を警戒するのです」
そう言いながら自分はちゃっかりとタロウの背中に乗っているリンネ。
開拓者の街からフィールドに出るとそれなりにプレイヤーがいた。広い草原のあちらこちらに4、5名のプレイヤーが固まっては魔獣を倒している。俺達は山の坑道を目指して真っすぐに進んでいく。その途中で魔獣に会うと倒して進んでいくこと4時間、山の向こう側に続いている坑道の入り口が見えてきた。
ワープを使って坑道を抜け、そのまま山裾に沿って西を目指す。暫く進んで行くと俺達の前に東屋のセーフゾーンが見えてきた。数名のプレイヤーがこのセーフゾーンで休んでいた。フィールドで戦闘をしている時にこのセーフゾーンを見つけたんだろう。別にこのセーフゾーンが一部のプレイヤー専用と言う訳ではない。こまめに動けば見つけることが出来るしね。もしかしたら情報クランがこの場所の情報も売っているのかも知れないな。プレイヤーの生死に関わる情報だし。
「こんにちはなのです」
「こんにちは」
挨拶をして彼らを見るとナイト、戦士、戦士、精霊士、僧侶の組み合わせだ。PWLで最もオーソドックスな構成だと言われている。戦士2名の中の1人が狩人だったりシーフだったりすることもあるが基本は前3後2だ。
俺達が入っていくと5人がびっくりした表情になる。フェンリルに言葉を話す九尾狐だ。驚くのも当然か。
「それが噂のフェンリルと九尾狐だね。初めて見たよ」
狼人のナイトが言った。ジンと言うプレイヤーでリアルのフレンド繋がりで男性5人でパーティを組んで経験値を稼ぎながら印章を集めているんだよと教えてくれた。俺の予想通りこの場所は情報クランから買ったらしい。
「それであんたは忍者のタクだろう?有名人だよな」
俺が有名?有名なのはタロウとリンネだろう?
「そうなのです、主は有名なのです」
「ガウガウ」
おいおい、やめてくれよ。
彼らが教えてくれたがゲームの公式サイトでこのPWLの世界の映像を編集して流しているらしいが、その中で試練の街に続くエリアボスを倒した時の動画の一部がアップされているらし。その中に俺が一時的に忍盾でジャイアントゴーレムと対峙していた動画があったらしくフェンリルと九尾狐を従えている忍者のタクと言う名前が広まったそうだ。
「そういう事か」
情報クランから聞いていた話の通りみたいだ。公式の動画なら文句言えないしな。それに俺だけじゃなくて他のプレイヤーも映っているだろうし俺だけ目立っている訳じゃない、うん、そう信じたい。
彼らは印章を集める目的でこの辺りに湧く魔獣を倒しているのだという。印章は経験値が入る魔獣しか落とさない。LV70のプレイヤーがLV1のスライムを倒してもレベル差がありすぎて経験値は入らない。このシステムがあるので第2陣がメインにしているフィールドで初期組が印章集めの目的で魔獣を倒しまくるという事が起きずにうまく棲み分けができている。
じゃあまたな、と声をかけて俺達が東屋のセーフゾーンを先に出るろ、そこから更に西に進んで行く。
「大丈夫なのです。誰もついて来ていないのです」
タロウも頷いている。
それを確認するとダミー岩をすり抜けて隠れ里に入った。
通路の先にはいつものユズさんが待っていて俺達を出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「ガウガウ」
「こんにちはなのです」
「リンネ、お父さんとお母さんに挨拶してきていいぞ」
俺がそう言うとタロウから降りたリンネ。
「はいなのです。行ってくるのです」
そう言ってリンネは先に村長の家の裏にある祠に向かって駆けだして言った。残った俺とタロウはユズさんの案内で村長の家を訪ねると、クルス村長が出迎えてくれた。
俺は自分の畑で採れた野菜や果物を渡しながら家の庭に土と木の妖精がやってきたことを告げる。
「この村で頂いた精霊の木を植えていたら大きく育ちました。それで精霊の木が妖精を呼び寄せたそうです。今日はそのお礼でこの里にやってきました」
「なるほど。妖精が現れましたか」
暫くの沈黙の後で村長のクルスさんが口を開いた。
「大主様はタク殿を余程気に入られている様だ。いやこれは嫉妬ではありません。我々が守り神と奉っている九尾狐の大主様の力を再認識しておるのです。妖精は精霊の木に呼ばれたと言っている様ですが、本当は大主様が精霊の木にその命を与えておったのですよ。恐らくですが隠れ里から外に出た精霊の木はあれが初めて。それが立派に成長した時に自分の命を実行する、妖精を呼び寄せる様にしておったのでしょう」
難しい話だが、要は俺達がきちんと木の面倒を見たから精霊の木の呼びかけに応えて妖精が来た。そう言う事なんだろうな。もっとも面倒を見ていたのは俺と言うよりはタロウとリンネだけど。
「リンネ殿も立派に成長されている様だ。この村は将来も安心ですよ」
クルス村長はそう言ってお茶を一口飲んでその湯呑を自分の前に置いてから俺を見て言った。
「これからもリンネ殿をよろしく頼みます」
「分かりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます