たまには皆でのんびりしよう

 自宅に妖精がやって来たと言う連絡を入れてしばらくすると夕方になってクラリアとトミーが門から入ってきた。活動が終わってからきたのかな。


「こんにちはなのです」


「ガウガウ」


「相変わらず驚かせてくれるな」


 挨拶を済ませるなりそう言うトミー。クラリアは早速精霊の木の枝に止まっている妖精を見ていた。


「茶色い方が土の妖精でラン。緑の方が木の妖精でリーファだよ」


「リンネとタロウのお友達が増えたのです」


「そうね。新しいお友達だね」


 クラリアがそう言ってから俺たちが座っている縁側にくると腰を下ろした。リンネはちゃっかりと俺の頭の上に乗っている。タロウは精霊の木の根元、いつもの場所で横になっていた。妖精達は精霊の木の枝に止まっている。リンネの指定席じゃない枝だ。体が小さいから他の枝でも大丈夫みたいだ。


「妖精については情報が入っていたけど実際に妖精を見るのは初めてね」


 俺はテイマーギルドから聞いた話をそのまま2人に伝えた。


「農作業のプロか。つまり妖精はこの精霊の木の力の届く範囲でしか活動ができないということだな」


「俺の妖精はそうみたいだ。ただテイマーギルドでも妖精を預かれると言っていた。俺にしてみれば彼らが農作業のプロということで美味しい野菜や果物が出来るんじゃないかと期待しているんだよ」


 ランとリーファは純粋に農業系の妖精だからフィールドで活躍することはない。ただ俺にとっては農業をやってくれる従魔ということで大変助かる。


 戦闘に直接関係がないから情報クランとしては興味がないのかなと思っていたがそうではないらしい。


「プレイヤーが妖精を従魔にした。従魔に出来るという情報は価値があるのよ。精霊の木があの隠れ里にしかないと決まった訳じゃないし、なによりも元々西の森には妖精がいるって言われているしね。これからそこで妖精を見つけてテイムするプレイヤーが出るかも知れない。そんな時の為に情報として公開するのは必要なのよ」


 なるほど、言われてみればクラリアの言う通りだ。いろいろと考えているんだ。感心するよ。


「タクが精霊の木を大事に育てたから妖精がやってきたんだろうな」

 

 そう言うが俺はタロウとリンネがここだと言った場所に苗木を植えて、あとはたまに水をやってたくらいなんだけどな。


 そんな話をしていると門からスタンリーとマリアが入ってきた。タロウが横になりながら尾をブンブンと振り回している。彼らもこの日の活動を終えてやってきた。


「妖精が家に来たんだって?」


 俺はスタンリーにもメッセを送っていたので会うなりそう言ってくる。精霊の木にいるよと言うとそちらに顔を向けた。


「隠れ里での話でいるとは思っていたけどな。タクの家にまでくるとは」


「2体とも可愛いわね」


 早速タロウを撫でているマリアが木の上に座っている2体の妖精を見て言った。俺がランとリーファを呼ぶと木の枝から立ち上がると背中の羽をパタパタとさせてゆっくりと縁側までやってきて俺の左右の両肩の上にそれぞれ座った。それを見て全員が可愛いねと声を出す。


「戦闘には関係ないけどこう言う情報って大事なのよね。誰もが戦闘狂じゃないしタクの様にいろんなことをしたくてゲームをしている人も多くいる。PWLは自分のやりたいことをやってください。というのが基本のポリシー。戦闘もそれ以外の情報もゲームを楽しみたいというプレイヤーから見るとこう言う情報も必要なのよ」


 クラリアの言っていることはよくわかる。PWLはゲームのゴールがない。つまり昔でいうところの魔王を倒して世界が平和になりました。というゲームではなく、この世界をずっと楽しんでねというスタンスだ。ひょっとしたらゴールという終着点を考えていないのかもしれない。


 リアルで疲れたり、気分転換でゲームをしてリフレッシュする。もちろん時間があればじっくりやり込める要素もある。よくできているゲームだよ。 


「俺達も攻略組と言いながら朝から晩まで攻略ばかりしてる訳じゃないしな。こうやってゲームの中でフレンドの家に行ったりするのも楽しんでいるんだよ」


「そうそう。タロウといると落ち着くのよね」

 

 タロウを撫で回しているマリア。

 

 しばらく言葉もなく全員がぼーっとしていた。俺がお茶を淹れるとありがとうと言ってからスタンリーがそう言えばと言って湯呑みを縁側に置くと続けて言った。


「第2陣の中ですでに垢BANされたプレイヤーが出たらしいな」


 彼の言葉にクラリアとトミーが頷く。垢BANとはアカウントを停止されたことだ。垢はアカウント、BANは禁止という意味から来た一種のゲーム用語。要はゲームの規約違反をしてアカウントを抹消されたプレイヤーだ。情報クランはその情報も掴んでいた。何でも知っているんだな。


「第1陣の中にもバンされた人はいるのかい?」


 そう聞いた俺。クラリアがいるわよと即答した。すでに第1陣では100名程が暴言やハラスメント行為でアカウント停止されているという。第2陣では5名がすでに垢BANされたらしい。


「運営がかなりシビアに管理しているわね。最初のチュートリアルで警告なしにアカウント停止することもあるって書いてある。実際に警告があったのかなかったのかは分からないんだけど突然目の前から消えたって被害にあったプレイヤーが言っていたの」


 垢BANの理由は女性へのハラスメントと恫喝行為だという。2万人以上もいればいろんな人がいる。勘違いする人もいるのだろう。


「垢BANとは違うけどPWLにPKを導入しろと運営にメールをしているグループもあるって聞いているのよ」


 どこから情報を取ってくるのか知らないが情報クランはゲーム以外の情報も収集している様だ。


「グループ?」


 思わず聞いたよ。


「そう。1人じゃないってこと。数人らしいんだけどね」


 最初からPKはありませんと謳っているゲームをしつつ、元々の規約にないものを作れと言う神経が俺には分からない。PKをしたいのならPKを公認しているゲームをすれば良いだけの話じゃないのか。余所にはPK有りのゲームなんていくらでもある。


「タクの言う通りだ。だからそいつらは余りしつこく要求すると垢BANされると思うぜ」


 トミーが言っている通りだろう。それが通るのなら普通のプレイヤーがこのゲームから逃げていくだろうしな。



 その後も雑談をしてから4人は俺の自宅からそれぞれのクランに戻っていった。それを待っていたかの様に4体の従魔達が俺が座っている縁側に集まってきた。


「主と遊ぶのです」


「ガウガウ」


「♪」


「♪♪」


 4人が来ている間は大人しくしてくれていたからな。ログアウトまでは4体の従魔と庭や畑で遊ぶことにする。


 タロウの背に乗って畑の見回りをすれば俺の前にリンネが座り、両肩にのったランとリーファがステッキを振って畑の面倒を見る。果樹園では俺が取ったリンゴの実をタロウの籠に入れるのを見ている従魔達。ビニールハウスに入るとリンネが水をやり、ランとリーファがステッキを振る。それが終わると床から1メートル程の高さがあるのでその地面の上をタロウやリンネが好きに走り回っていた。ランとリーファも思い思いにビニールハウスの中を飛んではイチゴの鉢に腰かけたりリンネの背中に乗ったりしている。


 俺がビニールハウスの地面の上に腰を下ろしてそんな光景を見ていると皆集まってきた。タロウが目の前にゴロンと横になり、リンネは膝の上にちょこんと乗る。


「主、撫でるのです」


「分かったよ」


 ランとリーファも撫でて欲しそうなので指で羽根に気を付けながら背中を撫でていると羽根をパタパタとさせている。2本の手で4体を撫でるのは難しいぞ。依怙贔屓できないからな。


「ランとリーファも主に撫でてもらって喜んでいるのです」


「そうか。畑仕事を頑張ってくれているからな。これくらいならいつでも撫でてあげるよ」


 今日も1日しっかりとゲームを楽しんだぞ。


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