エリアボス戦 その3

 翌朝、俺たちは最後の打ち合わせをしてから小屋の前で5つのパーティを組む。


「リンネ、今日は俺だけじゃないぞ、スタンリーとクラリアにも回復魔法をかけるんだぞ」


「分かったのです」


 スタンリーとクラリアからお願いねと言われて任せるのですと返事をしている。それを聞きながら俺はタロウに言った。


「タロウと俺はいつも通りだ。相手は強いから無理するなよ」


「ガウガウ」


 尻尾をブンブン振っている。うん、大丈夫だな。


「気をつけてな」


 スミス老の言葉に行って来ますと小屋の前で返事をするメンバー達。

 俺たちのパーティを先頭にして山小屋の裏の道を尾根沿いに歩いていくと石を積んだ門が見えてきた。


「あの中にある階段を降りて10分ほど歩くとエリアボスがいる広場に着く」


「強化は中でやろう」


 スタンリーの言葉で全員が階段を降りてゆっくり洞窟の中を進んでいく。途中で止まって強化魔法を掛け合う。俺は空蝉の術2を唱えた。ここからは全員が戦闘モードだ。


 洞窟の中で盾ジョブのパーティを先頭にして進んでいくと視界に広場と大きな岩のゴーレムの姿が見えた。


「エリアボスのジャイアントゴーレム。レベル90だ」


 先頭を歩いていたナイトのジャックスが言った。全員がサポートAIからボスの情報を得ている。


「ジャックスが前に出てゴーレムが動いたら戦闘開始だ。打ち合わせ通りに足と腕と下半身を狙うぞ。頭と胸は無視しよう。岩を投げてくるから注意しろ」


「行くぞ!」


 ジャックスが声を出して洞窟を進んで広場に入って数歩進んだところでいきなりゴーレムが野球の投手の様に右手をブンと振ると小岩が飛んできた。盾で受け止めるジャックス。


「大丈夫、いけるぞ」


 その声で全員が広場に入って散開する。ジャックスら2名のナイトが交互に挑発のスキルを発動してヘイトを稼ぐ間に他のメンバーは自分たちの位置どりを終えて攻撃開始の指示を待つ。


「OKだ」


 両ナイトの声が飛んできた。ヘイトをしっかり稼いだみたいだ。


「戦闘開始」


 ナイトの声を聞くや否やスタンリーが号令を出してエリアボス戦が始まった。攻略クランのトップナイトのジャックスだ、ヘイト管理が上手いんだろうな。しっかりボスと対峙している。


「時間制限がない。慌てずにやろう」


 はやる気持ちを抑える様に声が飛ぶ。皆落ち着いているな。俺は最初は遁術を足に打ってみたがしょぼかった。ちょっとがっかりだ。タロウは仕掛けずにじっとゴーレムの動きを見ている。うん、慎重なのはいいことだぞ。


 精霊士が放つ精霊魔法がゴーレムの左右の足に命中する。それに加えて狩人の矢が腹や足に命中するが相手が岩なのでダメージを与えているかどうかの判定が難しい。序盤はゴーレムは立っている場所から動かずに左右の手から岩を投げつけてきているだけだ。その岩が全てナイトに向かっている。


「精霊士、攻撃の間隔を開けて!」


 クラリアの声が飛んだ。どうしても前のめりになりがちなボス戦。タゲがふらつかない様にクラリアが全体を見る役目だ。


 ダイゴがゴーレムの左足の太ももに回し蹴りを入れた。一度蹴るとその場から離れる。続いて今度は反対側に移動して左足にも蹴りを入れる。流石にモンクの蹴りは威力があるな。蹴りが入るとでかいゴーレムの体がぐらっとしてるよ。


 ただそれでも相変わらず腕を振り回して石を投げてくる。

 俺の気がつかない間にメインナイトが交代していた。戦闘慣れしているというのはこう言うところを見るとよく分かる。


「30分経過」


 クラリアの声が飛ぶ。このエリアボス戦ではシーフとして攻撃に参加しながらパーティ全体の動きを見るのと時間管理をしている彼女。流石にクランリーダーをしているだけある。適任だよ。


「右足集中!」


 スタンリーの声で遠隔部隊は右足に集中的に魔法や矢を打つ。それが3ターンほど続くと今度は左足に同じ様に遠隔攻撃をする。さらに腹といえば腹に魔法や矢が飛ぶ。俺たちは足に集中していた。


「まだわからないけどこのまま続けて」


「分かった」


 この頃になるとタロウも攻撃に参加し、スタンリーが右足と言えば右足に蹴りを、左足と言えば左足に後ろ蹴りをして少しずつダメージを与えていた。リンネは精霊魔法を撃ったり回復魔法をスタンリーに入れたりと自分の仕事をしっかりとこなしている。


 俺もしっかりやらないとな。HQの腕輪のおかげもあり俺の目にはゴーレムの腕の動がよく見えている。振り回してくる岩の腕を交わしながら太腿に刀で傷をつけていく。


「90分経過」


 見る限りエリアボスのゴーレムに大きな変化はない。ワンパターンとも言える腕の振り回しと石投げだけだ。ただ想像以上に身体が固い。ぐらつくことはあってもすぐに立ち直ってきている。その石投げだが威力が半端ない。盾でそれを受け止めているナイトが短時間で交代していた。相当体力を削られているのだろう。


「ボスは近接攻撃を受けている時には石を投げない!」


 クラリアの声が飛んだ。誰かが近づいて攻撃している時、ボスのゴーレムは石を投げずに腕を振り回して接近しているプレイヤーに攻撃してくるのか。それを見抜いたクラリアは凄いな。


「タク頼む。時間を稼いでくれ」


 スタンリーの声がした。空蝉はまだ3枚ある。リキャストタイムもゼロ。

 俺はボスのジャイアントゴーレムの前に立って両手に持った刀で両足に攻撃を加える。


 素早さの腕輪HQのおかげで腕の動きが良く見える。交わしながら片手刀で両足に切り付けていった。それでもボスの腕のパンチを喰らうと蝉の枚数が3から2になる。1枚まで盾となって正面に立って攻撃を回避しながら片手刀で攻撃しているとその間に遠隔部隊が魔法と矢を両足や腹に次々と撃ってくる。タロウはゴーレムの背中側からその足に後ろ足の蹴りを入れていた。


 蝉が切れた瞬間に再詠唱。再び分身が3体、ただしリキャスト5分とウィンドウに出る。その間にしっかりと体力を回復したナイト3名が近づいて盾を突き出しながら片手剣で攻撃をはじめた。俺は一旦下がるとすぐにリンネから回復魔法が飛んできた。


 ナイトが大きなダメージをくらうと俺が前に出てナイトが回復するまで持たせる。そんな流れができてきたが依然としてボスの核の場所が見えない。


「180分経過」


 クラリアがそう言った直後にタロウがボスの右足に蹴りを入れると、数名から同時に


「右足太腿!」


 と声が飛んだ。俺からは見えなかったがどうやらそこに核があるらしい。


「右足集中!」


 スタンリーが叫び、1箇所に集中して近接、遠隔攻撃を加えていると、ジャイアントゴーレムが突然その場で暴れ出した。クラリアの声が飛ぶ。


「狂騒状態!」


 俺は準備していた撒菱をゴーレムの周囲にばら撒いた。全員が一旦その場から離れる。ゴーレムは両手を振り回しながら動き出したが足元にある鉄製の撒菱を踏んで体をぐらっとさせた。そこに再び遠隔攻撃が右足の太腿に集中すると、核がさっきよりもはっきりと見えてきた。ここは一気に行くところだ。


「俺が前に出るからスタンリー、頼む」


「任せろ!」


 空蝉の術2は3枚完全にある。蝉のリキャストも0分だ。俺がしっかりとタゲを取れば爆弾を投げやすいだろう。大暴れしているジャイアントゴーレムの腕が振り回されてくるのを交わし、空蝉で避けていると、


「行くぞ」


 という声がしたと同時に背後に飛んだ。その直後に俺の近くから爆弾が投げられて右足の太腿、核に命中したかと思うとジャイアントゴーレムのその足が砕け散って巨体が床の上に落ちた。そのタイミングで全員が止めを刺す攻撃をした数秒後、エリアボスのジャイアントゴーレムが光の粒になって消えていった。


「「勝ったぞ!」」


 広場にメンバーの雄叫びが響いた。タロウもリンネも俺の傍によって体をすり寄せてくる。


「やったのです。主がやったのです。凄いのです」


「ガウガウガウ」


「お前たちも凄かったぞ、よくやった」


 俺たちは誰一人死に戻ることなくエリアボスの討伐に初見で成功した。凄いぞ。

 全員で勝利を噛み締めて、お互いに健闘を讃えあっていると、ボスが倒れた広場の奥にある、それまで閉まっていた扉がゆっくりと左右に開いていった。その先はまた洞窟になっていた。


「とりあえず前に進もう」


 スタンリーを先頭にして23名のプレイヤーと2体の従魔が奥の洞窟に入ると、そう歩かない洞窟の先の地面に光っている転送盤が見えた。


「これに乗って新しいエリアに行くんだろうな」


 そう言ってスタンリーが転送盤に乗って、降りて来て俺たちを見て言った。


「乗ったらこの先の洞窟の出口に飛びますか?という問いが出てきた。間違いない」


 行こうぜと言う声と共に順番に全員が転送盤に飛び乗っていく。俺もタロウとリンネの一緒に転送盤に乗った。


『この先の洞窟の出口に飛びますか?』


 というウィンドウが現れ、はいをタッチした俺と従魔達はその場から消えた。


 飛んだ先は洞窟の中だったがその前に出口が見えていた。先に飛んだ連中が出口で皆が揃うのを待っていてくれた様だ。洞窟の出口に近づくとその先の景色が目に入ってきた。


 目の前には原生林が広がっていた。




『ワールドアナウンスです。新エリアが開放されました』


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