エリアボス戦 その1

 攻略クランのオフィスの中に入るのは初めてだ。場所は情報クランからそう遠くない場所にあって情報クラン同様に良い場所を押さえていた。情報クランと同じ2階建の建物で会議室は2階にあった。どちらのクランのオフィスも立派な建物だよ。お金持ちなんだな。


 オフィスの入り口で出迎えてくれたサブマスターのマリアと一緒に2階に上がると情報クランのメンバー達をはじめボス戦の参加者がすでに来ていた。挨拶を交わして椅子に座ると前の席に座っていたクランマスターのスタンリーが立ち上がって打ち合わせが始まった。


 会議室の前方にスタンリーらの横にはホワイトボードがありそこにエリアボス戦に関わる情報が書かれている。PWLではこんなのも売ってるんだとホワイトボードを見てびっくりしたよ。


 そこには俺から聞いたボスの情報が纏められていた。それに目を通しているとスタンリーの声がした。


「タクの情報をこのホワイトボードにまとめたが、この理解であっているかい?」


「あっている。あと先日、言い忘れたが山の頂上付近にある山小屋、セーフゾーンにいるNPCの話だとボスは気配感知の範囲が広いらしい。俺は通路から見たけどひょっとしたら広場に入る前にボスが気が付く可能性があるよ」


 山小屋から入り口までは大体100メートル、階段を下に降りて10分程歩いたらボスがいると説明すると、その階段を降りたところでいつ始まっても良い準備をして洞窟を進むことにする。


 今回は25名のうち、俺と従魔で3枠を使っているので22名、情報クランから10名、攻略クランから12名が参加するらしい。ジョブ構成を考えてこうなったのだと説明があった。


 ナイトは3名。僧侶が4名、精霊士は5名、モンクが2名、戦士が3名、シーフが1名、狩人が4名の22名、それに俺とタロウとリンネだ。


 前衛ジョブに対して僧侶が少なめだが前衛は各自がポーション持参でやるらしい。僧侶は基本ナイトに張り付いてフォローをする。スタンリーの説明を聞いている22名のメンバーも全員がLV70。自分も70まで上げておいてよかった。


「タクの情報ではゴーレムは何もないところから石を掴んで投げつけてくるらしい。後衛や狩人はタゲを取らない様に上手くコントロールしてくれ」


 俺は思いだした事があった。手を上げて発言する。


「物見の術と遁甲の術はボス戦やNM戦では使えない。相手に見破りというスキルがあるから意味がないそうだ。なのでそれを使う作戦は無しで頼む」


「やっぱりか」


「無敵になっちゃうものね」


 スタンリーとマリアもそこは予想していたみたいだ。


「ナイトが3人だが、万が一の時はどうする?」


 座っている一人が質問した。


「ナイトもそうだが今回のボス戦は時間制限がないということで、ナイトをフォローする僧侶も魔力切れの可能性がある。その場合はタクに一時的に盾になってもらう」


「へ?」


 思わず変な声を出してしまったよ。俺が盾?ん?どういうこと?

 スタンリーが俺を見てから全員を見回して言った。


「ここにいる全員は知っているが忍者は空蝉の術が使える。タクは術2を覚えていてこの場合分身が3体、そして術のリキャストは5分だ。さらに忍者の特性で素早さがかなりある」

 

 HQの腕輪の事だな。HQとは言えないから表現はぼかしているけど。


「俺は前から忍者は回避盾として有効じゃないかと思ってたんだ。魔法、物理を3回まで無効化できる。リキャストをうまく使えば最大6回だ。これはでかい。その間にこちらの態勢を立て直せる」


 スタンリーの説明を聞いている参加者は皆なるほどと頷いている。いや、誰か疑問持ってよ。忍者が盾だよ?


「面白い戦法ね。タクならいけそうね」


 クラリアが無責任な発言をするがやめてほしい。


「あくまで忍盾は緊急用だ。基本はナイトで対応してほしい。ただそういう手があるということを知っておいて貰うことで無理せずに盾を順に交代できるだろう。忍者が空蝉の術でボスの攻撃を避けている間に各自がポーションやマジックポーションで回復できるからな」


 その出番がないことを祈ってるよ。


 基本はナイトがガッチリとタゲを取っている間に狩人と精霊士が遠隔攻撃でボスの体力を削っていく。戦士とモンクはナイトの反対側に立って背後から攻撃する。いずれもタゲ、ヘイトだけは取らない様に注意することなど説明が続いた。


 その後は核への攻撃についての話になった。これについては腹か腕か足だろうということなので精霊士と狩人は命中させやすい腹と足を狙うことになった。腕は振り回してくるとなかなか遠隔攻撃が当たらない。背後から戦士が腕や腹に傷をつける。モンクは足を集中的に狙う。


 俺とタロウも足を狙おう。リンネにも足を狙えと言っておこう。


 パーティというかグループ分けになって俺と従魔のグループはシーフのクラリアと戦士のスタンリーの5人になった。当然だが俺たち5人はフリーランスで動くらしい。


「タクの忍盾の出番の時は俺が言う。それまでは好きに攻撃してくれ」


 スタンリーの指示はそれだけだ。うん、分かりやすい、単純なのが良いよ。

 俺とタロウ、リンネは山道の移動で活躍して本番はプロ集団にやってもらおう。この会議室に集まっているメンバーの装備を見るだけで金が掛かっているのが俺でもわかるもの。


 そして俺が隠れ里から持ち帰った爆弾についてはスタンリーが投げることになった。隠れ里の情報はここにいるメンバーは知っている。口外無用で説明をしたらしい。


「ただ爆弾については状況を見て投げない可能性もある。1個しかないからな。倒せると思ったら使う。無理なら使わない。その場合は全員死に戻りで再挑戦になる」


 スタンリーが言うと参加者がそれでいいだろうとか、核が見つかるかどうかだよな、初見でクリアできると思わない方がいいんじゃない。とか言う声が飛んだ。皆冷静だよ。


 打ち合わせが終わったら雑談になった。明日までやることもないので皆思い思いに話をしている。俺は近くにいたモンクのダイゴに声をかけた。彼とは山裾の街から開拓者の街に移動する坑道探索で一緒になっている。


「新規プレイヤーの中で攻略クランの入会希望者って多いんじゃないの?」


「その通りでね。今はこれがあるから中断してるけどさ、結構な数の応募者が来てるね」


 ダイゴはリアルでもスタンリーと友達だった関係でこの攻略クランを立ち上げた時の初期メンバーの一人らしい。自分は上に立つよりも魔獣を蹴っ飛ばしている方が好きなんだよと幹部のお誘いを断ったんだと笑いながら言っている。


「じゃあ明日は思い切り蹴っ飛ばせるじゃない」


「そうなんだよな。楽しみだよ」


 そんな話をしているとサブマスターのマリアが近くにやってきた。それを見たダイゴが俺に教えてくれる。


「彼女も初期メンバーでね。ゲームが始まって最初の頃から俺とスタンリー、マリアそしてあそこにいる僧侶のルミ、それからナイトのジャックスの5人でよくパーティを組んでたんだよ。それがそのまま攻略クラン立ち上げに繋がったのさ」


 その流れでスタンリーがクランマスターで彼女がサブマスターになったらしい。そのマリアだが優秀なのは今までの付き合いで俺でもわかる。タロウラブだが普段はしっかりとスタンリーをサポートしているんだろう。大所帯のクランをまとめる苦労は俺も別のゲームで経験したけど大変なんだよな。


「明日はタクがキーになると思っているのよね」


「もう、勘弁してくれよ。さっきの忍盾なんてこの場で初めて聞いたんだしさ」


「でもスタンリーのあのアイデアは中々だと思うぞ。最大6回完全無効にできるなんて他のジョブじゃないからな」


「その出番がないのを祈っているよ」


「それよりもさ、落ち着いたら俺にも隠れ里を案内してくれよ」


「それくらいならお安いご用だよ。でも何もないからな」


 打ち合わせが終わって自宅に戻った俺は近寄ってきたタロウとリンネに明日のボス戦について話をする。山道は俺たちが先頭を進んでゴーレムをやっつけることになったと言う。


「任せるのです。主とタロウとリンネで敵を蹴散らしながら進むのです」


「ガウガウ」


「その通りだ。それでだ。ボス戦だが俺たちはあの大きなゴーレムの足を集中的に狙う。いいな、足だぞ」


 俺がそう言うとタロウがその場で後ろ蹴りの格好をする。そうだそれだ。


「リンネの魔法も足を狙うのです」


「リンネもその通りだ。俺たちの仕事は足への攻撃だ」


 タロウはわかったと吠え、リンネはバッチリなのですと俺に言った。


 うちの従魔は2体とも優秀だから間違いはないだろう。間違いを起こすとすれば俺なんだよな。


 この日はそれから畑と果樹園、ビニールハウスで野菜や果物の収穫をして農業ギルドに卸したところでログアウトした。


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