爆弾と大主様の話

 とりあえず3日後にエリアボスのNMと対戦することになり、情報クランと攻略クランではメンバーの選定などで忙しくなる。だが俺は暇だ。


 なのでリンネの故郷である隠れ里に行くことにした。


「嬉しいのです。主は良い人なのです」


 リンネが喜ぶのを見るのは楽しいしな。それにタロウもあの里が気にっているみたいで俺が里に行くかというと尻尾をブンブンと振り回している。


 ポーションとイチゴを準備した俺は坑道ワープを抜けてから山裾を歩いて行き、セーフゾーンの東屋に着くとそこで一旦休憩をする。移動中の戦闘はもう危なげなく勝利することができる様になっていて行き掛けの駄賃とばかりに印章も数枚手に入れていた。端末を見るといつの間にか印章も31枚になっていた。


 カラクリ岩もスッと抜けた。リンネの気配を感じた大主様が仕掛けを解いていてくれた様だ。坑道を抜けたところに長の娘さんのユズさんが立っていて俺たちを出迎えてくれた。


「こんにちは。少し早かったけどいいですか?」


「こんにちは。もちろんです。大主様も娘さんをお待ちですよ」


「主、今日は主と一緒にお参りに行くのです」


 じゃあまず祠にお参りに行こうと俺たちは村長の家の裏にある参道を歩いて祠にお参りをする。鳥居をくぐるとリンネの両親である九尾狐の夫婦が現れた。すぐに親の元に駆けていくリンネ。母親にすりすりしているリンネを見ていた父親が顔をこちらに向けた。


「うちの娘をしっかりと育ててくれているの。礼を言う」


「リンネは素直で良い子です。それに日々強くなっていますよ」


 そう言って俺は端末からイチゴを詰めた箱を取り出してお供えする。もう少しここにいるというリンネを残して俺たちは村長の家を訪ねた。クルスさんがいつもの和室に案内してくれた。和室から庭を見るとすでにタロウは庭でゴロンと横になっていた。


「なるほど、山の中にいる硬い岩の身体をしている大きなゴーレムを倒しに行くのですか」


 最近はどうしておるのかなと聞かれ、2日後に盆地を囲んでいる山にいる強いゴーレムを倒しに行くのだという話をするとそう言った村長さん。俺の話を聞いたあとで、そういえばと言って部屋を出て行った村長のクルスさんがしばらくすると戻ってきた。手には木箱を持っている。


「昔、この村に続く坑道を作る時に、途中に硬い岩がありましてな。わしらが掘ってもなかなか削れなかった。その時に当時の錬金術師さんが爆弾を作ってくれましてそれを使って岩を削ったことがあります。その時使った爆弾の残りがこれです」


 爆弾?そんなものが錬金術で作れるの?村長さんが箱を開けるとそこには握り拳大の大きさの爆弾が1つ入っていた。


「爆弾と言ってもそう大きな威力ではありません。威力が大きすぎるとそれを使う我々の危険度が増しますからね。ただ固い岩を砕くのには効果があった様です。ここにある爆弾も今はもう村には不要なもの、よかったら使ってくだされ。役に立つかもしれません」


 村長に言わせるとしっかり保存していたので使用は問題ない。使い方は簡単で投げて目標にぶつけて衝撃を与えるだけでよいらしい。


 お礼を言って爆弾の入っている木箱を収納にしまいこむ。安全だとは言っても突然爆発するんじゃないかと不安になるよ。ただこれであの固いゴーレムにダメージを与えることはできそうだ。これ一発で倒せないにしても効果があるのは間違いないだろう。何と言っても爆弾だからね。


 再びお礼を言って村長の家を出るとキクさんのコンビニに顔を出してポーションの補充とイチゴをお土産に渡した。イチゴは大好物らしく、えらく感謝され、代わりにとこの里で取れる果物をたくさん貰った。一籠分も貰っちゃったよ。これは農業ギルドのネリーさんにあげよう。


 そろそろ帰ろうかとタロウと一緒に祠に行くと、リンネとその両親が鳥居の先で俺たちを待っていた。


「主、父上がお話しがあるそうなのです」


 リンネが言うと彼女の父親が俺を見る。


「娘から聞いたが近々山の洞窟の奥におる固い岩の魔獣を倒しに行くそうだの」


「その通りです。さっき村長さんにもその話をしたら爆弾を1つ頂きました」


 父親の九尾狐はそうかと頷いてから言った。


「大きな岩の魔獣は我らもその昔に戦ったことがある。あやつは何もないところから大きな石を投げつけてくるぞ。気をつけるが良い」


 えげつないな。事前に聞いていなかったら大きなダメージを喰らうところだ。俺が頷くと父親が続けていう。


「固い体をしておる。狙いは核だろう」


「それは聞きましたがその核がどこにあるのか。それを見つけないと厳しいと言われています」


「核は心臓とは違う。頭とも違う。お主らの固定概念を捨てよ」


 つまり胸や頭にはないということだ。続いて核がある場所を教えてくれるのかなと思ってしばらく待っていてもそれ以上父親は言わなかった。これも仕様なのかな。ただ今のヒントは参考になる。残っている場所は腕、足、そして腹だ。


「ありがとうございます。参考になりました」


「気を抜くでないぞ。勝てぬ相手ではないはずだ」


 色々と含みのある発言だがどうやら手も足も出ないという訳じゃなさそうだ。今の話と村長から貰った爆弾を使えば何とかなるってことだろうな。


「父上、母上、リンネはまた来るのです」


 そう言って両親に挨拶をしたリンネが俺の頭の上に乗ってから俺たちは階段を降り、村長のクルスさんとユズさんにお礼を言って村から自宅に戻ってきた。


 籠いっぱいのお土産は農業ギルドに差し上げるつもりだったけどネリーさんがどうしても買い取ると言って聞かない。結局買い取って貰ったけどそれが結構な金額でびっくりしたよ。


「あの里で採れる果物や野菜はね。幻の産品と言われているんだよ。どこの街のレストランでもあの村の産品を欲しがらないところなんてないのさ。だからしっかり買い取らせてもらうよ。うちだってこれで儲けられるんだからね」


 そういうものらしい。


 農業ギルドから自宅に戻ってタロウとリンネを撫でていると門からいつもの4人が庭に入ってきた。


 農業ギルドから出たところでクラリアに電話をして攻略に関して話しがあると連絡を入れて、農業ギルドからだと情報クランのオフィスが近いからそちらに行くと言ったんだけど、4人が俺の自宅で打ち合わせをしたいというので自宅で待っていたんだよね。マリアは早速タロウを撫で回している。それを見ながら3人が縁側に座ったところで今日隠れ里に行ってきた時の話をする。話を聞いている4人の目の色が変わった。


「爆弾はあるの?」


「ああ、これだよ」


 収納から取り出した箱をクラリアに渡す。ついでにそっちで持っておいてって押し付けた。


「爆弾は初めて登場したな。つまりどこかにレシピがあるってことだ」


 箱を開けた爆弾を見ていたトミーが言った。その後でおそらく先のエリアに行かないとそのレシピはないんだろうなという結論に達していた。俺もそう思う。つまりこの爆弾は貴重品だ。


「それよりも核の場所が頭や心臓じゃないというのは重要な情報だ。固定概念を捨てろか。腕、足、腹あたりを集中的にやろう」


「爆弾は1個しかない。使い所を間違わない様にしないとね」


「あと、何もないところから大きな石を投げつけてくるのは厄介ね。後衛や狩人さんがタゲを取らない様にしないと」


 縁側で俺以外の4人で作戦会議が進んでいる。これにももう慣れたよ。

 彼らもエリアボスの戦闘を前にして昨日も今日もこの開拓者の街の中でメンバー選定と戦闘の準備をしていたらしい。2日後のボス戦は確定になった。俺なんて準備って言ってもすぐにできちゃうのだがクランともなると色々と準備があるみたいだ。


「それでだ、やっぱりタクがキーパーソンになったな」


 4人の話がひとしきり終わったところでスタンリーが俺を見て言った。


「爆弾に核のある場所の示唆、情報がなければ初見は勝てなかっただろうけど、これで初見での勝利が見えてきたな」


 スタンリーに続いてトミーが言い、女性二人もその通りねと頷く。


「いやいや、それは勝ってから言おうや」


「勝ち筋が見えてきた。これだけでも大きんだよ」


「スタンリーの言う通りね。やっぱりタクは持ってる人なのよ。決まりね」


 クラリアが勝手に断定してるぞ。

 相談の結果明日の午後、エリアボスを攻略する前日に参加するメンバーで最終の打ち合わせをすることになった。場所は攻略クランの会議室になった。


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