エリアボスを見つけた

 情報クランに連絡をするのは一度自分の目で見てからの方が良いだろう。セーフゾーンになっている山小屋で夜を過ごした俺たちは翌朝スミス老に御礼を言って山小屋を出た。小屋の裏手を尾根に沿って歩いていくと老人の言葉通りに石が積まれた門というか囲いを見つける。近づくと囲いの中に下に降りていく階段が見えた。


 階段の上で空蝉の術を唱える。タロウとリンネもいつになく真剣な目をしている。老人の話を聞いていたからだろう。いい傾向だぞ。


 10段ほどの階段を降りるとそこからは洞窟になっていた。壁がほんのりと明るく通路を照らしている。隣を歩くタロウを見ると警戒はしているが近くに敵はいない様だ。ゆっくりと洞窟を進んでいく。洞窟は緩やかな下り道になっていた。


 洞窟の中を10分程歩いたところでタロウが足を止めると姿勢を低くした。通路の先がカーブしているのでその先は見えないが強いゴーレムの親玉とやらがいる場所に近づいてきたのだろう。さらに慎重に一歩ずつ洞窟を進むと、カーブを曲がった先に大きな広場が見えてきた。その広場の奥に今まで山道で倒してきたゴーレムよりもずっと大きい全身が岩でできているゴーレムが1体立っているのが目に入ってきた。そいつの身長は3メートル以上あるだろう。体のパーツが全て岩でできている。高さもだが横幅もごつい。


(ミント、あいつの事はわかるか?)


(はい。ここのエリアボスのジャイアントゴーレム。レベル90です)


 やっぱりあれがエリアボス。そしてレベルが90?このエリアの上限が70だから20も上なのか。


(戦闘の条件は?)


(ここのエリアボスとの戦闘条件はプレイヤーは最大25名、戦闘時間の制限はありません)


 イベントNM戦も25名、あの時は戦闘時間に制限があった。今度は無いという事はあれよりも強いのか?そう思いながらジャイアントゴーレムを見ていると奴が立っている背後の壁に頑丈なドアがあるのが見えた。倒すとあのドアが開いて新エリアに続いているのだろう。


(物見の術と遁甲の術でもっと近くまで様子を見に行けるかな?)


(NM戦やエリアボスなど特殊な魔獣は皆”見破り”というスキルを保有していますので、物見の術、遁甲の術は効果がありません。空蝉の術や遁術は有効です)


 やっぱりそうか。そこまで甘くはなかった。むしろそうじゃないと忍者が無敵になっちゃうよな。事前にミントに確認してよかったよ。俺たちは洞窟の中から広場を見ているがこれが広場に入ると自動的に戦闘が始まってしまうのだろう。いやその手前からかも知れない。スミス老が気配感知の範囲が広いって言っていたし、これ以上近づくのはやめよう。


 とりあえず端末でゴーレムのスクショを撮った俺は隣にいるタロウとリンネの背中を叩いて戻ろうと踵を返すと再びゆっくりと洞窟を歩いて階段を登り、地上に出てきた。緊張が解けて大きく深呼吸する。


「あれは相当強いぞ」


「はいなのです。でも主なら勝てるのです」


「う〜ん、流石に俺1人じゃ無理だな」


 山小屋に戻った俺たちを見たスミス老。無事だったかと言ってから話をしてくれる。タロウは俺の横に腰を下ろし、リンネはいつの間にか俺の頭の上に乗っていた。


「この山の主(ヌシ)みたいなものじゃからの。簡単には倒せない」


「確かに。全身が岩でしたよ。相当硬そうだ。まともにやっても勝てないんじゃないですか?」


 俺が思ったことを言うとスミス老がまともにやったらダメじゃと言う。

 何か攻略法があるのかと聞いてみた。


「攻略法というか、奴にも弱点がある。体のどこかに核と呼ばれるものがあり、それにダメージを与えて破壊すれば討伐できると以前聞いたことがある。ただその核というのが体のどこにあるのかはわしは知らぬ。あいつと戦うのならその核にダメージを与えることが必要だ。そう聞かされておる」


 なるほど、体のどこかにある核を集中的に攻撃すれば良いのか。ただそれがどの場所なのか、その見極めが難しそうだ。それでも弱点があると聞いただけでも大きいぞ。


 俺は人を集めてまた来ますと言って小屋を後にすると転移の腕輪を使って開拓者の街に戻った。


 クラリアもトミーも街の中にいないのでメッセには


ー エリアボスを見つけた ー


 と短く送った。

 街の外にいるので、忙しいと思っていたら何とメッセを送った直後に通話が来た。


「本当なの!」


 いきなりそう言ったクラリア。


「ああ、間違いない。自分の目で確かめてきている。スクショもあるぞ」


「分かったわ。今自宅?すぐに行くわ。今もスタンリーらと一緒だから4人で行くわ。街からそう遠くない場所だから1時間もかからないから」


 実際40分程でいつもの4人、情報クランと攻略クランのトップ4人が門から庭に入ってきた。俺のメッセを聞いて外での活動を中断して戻ってきたらしい。今日は打ち合わせだから縁側ではなくて家の洋間に案内する。ソファとテーブルがあって向かい合って座れるので打ち合わせがしやすい。この家具もサービスで貰ってからはほとんど使っていなかったけどやっと使う機会が来たよ。洋間だけど窓は開けているので庭と畑が見えている。


 ちなみにタロウはいつもの精霊の木の根元に腰を下ろしているがリンネはなぜか俺の頭の上に乗っている。


「やっぱりタクがキーパーソンだったな」


 自分の畑で取れたお茶を一口飲んだスタンリーがうまいお茶だなと言ってから続けて言った。

 

「山道は俺みたいに従魔がいないと戦闘が厳しいからね。人がいないからってあそこでやってたら見つけたんだよ」


 山道を通って反対側の山裾の街側まで行こうと従魔2体と進んでいたら山の頂上近くにセーフゾーンになる山小屋がありそこにいたNPCの老人から聞いた話、そして実際にその洞窟に入っていってジャイアントゴーレムと呼ばれているNMを見た話をスクショを見ながら説明する。スクショは4人に転送済みだ。


 彼らもこのNMの背後の扉に気がついて、おそらくこれが次のエリアへ続くのだろうと言う。


「レベルが90。人数は最大25名で時間制限なし。しかも岩石のNM。大きいし相当硬そうね」


 転送したスクショを見ているマリアが言う。俺が老人から聞いた核の話をすると4人が俺に顔を向けた。


「その核がこのゴーレムのどこにあるか。おそらく物理ダメージじゃ固くてわからないだろう。魔法メインになるか?」


「物理がダメと決まった訳でもないでしょう?」


「モンクの蹴りなら行けるんじゃない?」


「矢は無理かな?」


「こいつの特殊攻撃がどうなってるかだな」


 などと4人で言い合っている。こうなると俺の出番はない。4人のやりとりを聞いているだけだ。何せここにいる4人はいろんな戦闘を経験しているプロ集団のトップだし。俺みたいにタロウやリンネ任せの戦闘しかしていない者とは経験と実力が全然違う。


「道中はタクに任せるのは決まりだな」


 トミーが言ったので思わず「えっ!」って言ったよ。


「当然だろう。タロウが優秀すぎる。斜面から攻撃できるのならあの道の攻略難易度はぐっと下がる。リンネの魔法もあるしな」


「主とタロウとリンネに任せるのです。安心なのです」


 俺が見つけたから一緒に行くんだろうなとは思ってたけど皆についていくだけだと思っていたら道中の先導って言われた。しかもリンネが安請け合いしてしまってるし。まぁ道中ならいいか。と自分で自分を納得させたよ。主役は俺じゃなくてタロウとリンネだしな。


「初見で倒すつもりなの?」


 俺が聞くとそこは臨機応変に考えているというスタンリー。


「核の場所が見つかれば行ける、見つからなければ終わり。こんな感じだろう」


 なるほど。割り切りも大切なんだな。


「最初のエリアボスの時は人数制限はなかったの。だからゴリ押しできたとも言える。でも今回は25名という制限がある。1度でクリア出来ればいいけど厳しいと思います」


 マリアも普段見せない真面目な表情だ。いずれにしても1度挑戦してみようということになって4人でメンバーの選定に入った。俺と2体の従魔は確定らしいので残り22名をどうするかと話している。


「タクは普段ゴーレムと対峙してるでしょ?刀のダメージは通る感じ?」


「通らないことはないが他の魔獣と比べると厳しいね。リンネの魔法、それとタロウの蹴りがダメージソースだよ」


 やっぱりという4人。盾は必須としてあとは精霊士、狩人、あたりを多めにしてやってみようということになった。高レベルのモンクのプレイヤーの数は少なく、攻略クランでもダイゴというリアルでもキックボクシングをやっているプレイヤーともう1人しかいないらしい。ちなみに情報クランではモンクジョブの人はいないそうだ。LV60以下のプレイヤーの中にはいるらしいがさすがに今回は無理だろう。


 ただ刀は厳しくても片手剣や大剣とは威力が違うだろうから彼らならある程度のダメージは稼げるんじゃないかな。スタンリーやトミーの剣なんて俺から見たら別次元の強さだよ。


 両クランともメンバーの予定を聞く必要があるので、暫定的に3日後にエリアボスに挑戦しようということになった。


「それにしてもタクの家って広いし落ち着くわね。家だけじゃなく庭も畑も広いしさ」


 打ち合わせが終わったところでクラリアが言った。彼らの自宅兼オフィスは結構人の出入りが多いのでクランメンバー以外の人もオフィスにいることが多いらしい。賑やかな反面落ち着かない事もあるのだという。


「いつでも来てくれて構わないよ」


 そういうとスタンリーもそうさせてもらおうかと言った。マリアは言わなくてもしょっちゅう来ている。ここはタロウもいるし良い場所ねと言っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る