追加募集とV.UPが発表されました

 PWLの追加募集が近々開始されると発表された。第2次募集は1万人らしい。

 俺はこの話を開拓者の街にある情報クランのオフィスでクラリアから聞いた。


「1万5千人じゃないんだな」


「そうみたい。それでね、噂だととんでもない競争率になってるらしいの。まだ正式に応募受付は始まっていないんだけど10万人以上が応募するんじゃないかっていう噂よ」


 最低でも10倍の競争率か、俺だったら間違いなく落選するだろうな。義兄がいてくれてよかった。情報クランはこのタイミングでバージョンアップがあると見ているらしい。何か新しいコンテンツかアイテムが出るんじゃないかって期待しているのだという。


「それでクラリアのところは新規プレイヤーをメンバーに入れる予定なんだろう?」


「人数は決めていないけど希望者がいたら一定数の人に入ってもらうつもりなの。攻略組もそうみたいよ」


 クランに人を入れるやり方は様々だ。面接をするところもあれば実技をするところもある。情報クランも攻略クランもおそらくクランに入会を希望するプレイヤーは多いんだろうな。以前にルリとリサが言っていたが、初期組のプレイヤーの中でも今でもこの2つのクランに入りたいという人は多いらしい。


「このタイミングでタクもうちに入らない?歓迎するわよ」


「俺はいつも言ってるけどどこのクランにも入る気はない。もちろん自分で作る気もない。気ままなソロプレイヤーでこのゲームを楽しむつもり」


 追加募集の話が終わったところで今の攻略状況についてクラリアが教えてくれた。隠れ里での打ち合わせ通りに今は攻略クランがこの街から北のエリアを攻略していて、情報クランはこの街の西のエリアを攻略中らしい。どちらの方角もフィールドが広くて敵はそこそこ強い。連戦となることが多く、あまり探索地域が広がっていないんだと。


「私たちは西を調べているんだけど相手のレベルは73まで上がってる。そして複数体で固まってたりするのよ」


 俺は農業ギルドのギルマスのネリーさんが言っていた事を思い出した。


「西の森か。そこには子熊がいるって聞いたんだけど」


「いるわよ。レベル72なの。テイムしようとうちのメンバーが何度か挑戦しているんだけどまだできていないの。子熊と言っても強いのよ。毎回失敗してるわ」


 なるほど。子熊というイメージで簡単にテイムできるのかと思ってたけどそうじゃないんだな。


「タクは最近はどこでレベル上げしてるの?」

 

 クラリアに聞かれて俺は山裾の村がある側の山道でゴーレム相手にレベル上げをしていると言う。タロウが山の斜面を苦にしないんだよと言うと納得した表情になった。


「確かにフェンリルなら山の斜面でも問題なさそうね。道が細いのはパーティだとやりにくい場所だけどタクと従魔達なら逆にやりやすくなるのか。リンネは魔法使いだし」


「その通り。敵のレベルもちょうど良い感じでね。忍者が63に上がったよ」


 そうそう。と俺は隠れ里で貰った物見の術と遁甲の術の巻物を山裾の街にある忍具店にあげたら500万とか1000万とかで売ろうかなって話をしてたよと言った。もっと驚くのかなと思ったけどクラリアは意外と冷静だ。


「それくらいの価値がある忍術よ。忍者でない私でもあの2つの術の有効性はわかるもの。スタンリーも言ってたわよ。音を消して姿を消せることができる魔法はないから忍者は相当強くなるだろうって。でも自分だけのものにしないのはやっぱりタクね」


「俺だけっていうのは何か嫌じゃない。後から忍者を目指す人も頑張ったら覚えられるというのが普通だろう?」


 とまぁここまでは普通の報告だったんだけど、俺が2つの術を店に差し上げた見返りに素早さの腕輪のHQを貰ったというとクラリアがびっくりした表情になる。まさかここで反応するとは。


 ちょっと見せてと欲しい。というので右手首にはめている腕輪を彼女に渡す。


「装備品アイテムのHQが存在したのね」


 しばらく腕輪を見てから俺に返してくれた。


「うちのクランにも合成職人さんはいるのよ。彼らが作れるHQは装備品じゃないのよね。薬品とか食料品ならHQはできるけど武器や防具、そして装備品はHQができないって言ってるわ。それが仕様だって。職人さん達がギルドのNPCに聞いたらそう答えたらしいの。だから皆そういう理解でいるの。でも今の話じゃちゃんと装備品にHQがあったってことになるわね」


 俺は忍具店の店主の彼氏(NPC)が錬金術士でHQを作って彼女にプレゼントしたと聞いているよと言うと、


「HQは恐らくそれ1つよ。何かの偶然か私たちが知らない全く違うレシピを使ったか。いずれにしてもレア中のレアであることは間違いないわ」


 クラリアの話を聞いていて、ようやくどうやら俺は凄いものを貰ったんだと実感する。まさかそこまでレアだとは思いもしなかったよ。


「それで効果は?」


「それははっきりと分かるくらいに違った。格上の敵でもその動きを見切れるというか避けられる回数が増えた。おかげで山道での戦闘も随分楽になっているよ」


 このHQの件は情報クランとして流すか流さないか、しっかりと相談するという。クラリアに言わせるとあまりにもインパクトが強すぎるということらしい。情報の開示の仕方を間違えると今一生懸命に頑張っている合成職人のプレイヤーに対して周りが強いプレッシャーをかけることで当人達がやる気をなくし、最悪ログインしなくなるかもしれない可能性があると言っている。装備品にHQがあったというのはそれほどまでの大事件だそうだ。

 

 以前から俺は知ったことを彼女やトミーに言うだけで、そこから先に自分が関与する気は全くない。今回の件もこうやって彼女に話した時点で俺の方は終わり。あとは情報クランでやってちょうだいというスタンスだ。


「タクは間違いなくこのゲームの先頭を走ってるわね。攻略という意味じゃなくてゲームを楽しむという点では間違いなくダントツのトップよ」


「PWLは戦闘以外でも楽しめる要素が多いよね。俺がトップかどうかはわからないし、興味もないけどさ、NPCというかAIがここまで優秀なゲームってなかったじゃない。だから色々楽しんでるのは事実だよ」


 だから2次募集でもものすごい人が応募するのだろう。そう言うとその通りねと彼女も同意してくれた。


 情報クランが買い取る情報料はクラリアやトミーに任せている。最近は後で振り込まれてくることが多い。


 情報クランを出て自宅に戻ると農業タイム。畑や果樹園の様子を見て、水をやると最後にビニールハウスの中に入る。当然タロウとリンネも一緒だ。水やりはリンネの仕事だからね。タロウの背中に乗って水魔法でイチゴの水やりをしているリンネ。もうすっかり慣れたものだ。一回りしてくると、


「これでばっちりなのです」


 リンネがそう言うと水やりは終わりだ。その後はタロウとリンネはいつもの場所、タロウが精霊の木の根元の土の上、リンネはその木の太い枝の上でそれぞれリラックスする。俺はその間に合成をしてスキルを上げる。


 合成をしているとウィンドウにメッセージが来ているという表示が出た。開くと運営からだった。クラリアの予想通りで今から1週間後にバージョンアップに備えたメンテナンスが丸1日入るらしい。その後2次募集として1万人を募集する予定だという内容だった。情報クランの読み通りだな。


 バージョンアップの内容というところをタップすると何がどうなるのかという簡単な説明があった。



①新しいコンテンツとしてトリガーNM戦のフィールドを実装します。これはトリガーとなる印章を集め、ある場所で指定された枚数を差し出すことによりNM戦とのフィールドに自動的に飛ばされ、そこでの戦闘となります。印章はフィールドにいる魔獣がランダムにドロップします。この印章は譲渡不可のアイテムとなりますがパーティメンバーが同時に端末を差し出す事で合計の枚数がカウントされます。NM戦に勝利しますと宝箱が出現します。参加しているプレイヤーが全員戦闘不能になった場合には自動的に全員が始まりの町の冒険者ギルドの奥にある。ゲストハウスに転送されます。

②合成で作成出来るアイテムが増えます。

③一部の合成品についてギルドでの買取価格の調整をします。


 情報クランの予想通りに新しいコンテンツが来ていた。


 この中だと大多数のプレイヤーが①に注目するだろう。俺はソロ中心だけどソロでも挑戦できる印章NM戦というはあるんだろうか。合成職人に取ったら②や③は興味があるところだろうな。



 これを見るだけで分かる。情報クランはこれから大忙しになるな。

 

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