わらしべ長者 その1
そこは雑貨店、リアルでいうところのコンビニ店だった。店の中もよくあるコンビニの広さがある。中には食料品が売ってある棚があり、その横には食器や皿、衣服などの日用品も売っている。店に入ると全員がバラバラになって店の中を見て回ることにした。
「流石に武器や防具は売っていないか」
「隠れ里だからな。最初からそれは期待はしていないよ」
棚の向こう側からスタンリーとトミーのやり取りが聞こえてきた。俺は1人で中を見ている。ここには薬品が売ってある。ポーションを見ると普通品質で結構高い値札が付いていた。確か収納に合成で作ったポーションがあったなとリストを見ると”品質:高ー” となっているのポーションが20個程ある。
「自分の合成スキルを上げるために沢山作ったポーションが余っているんでお店に置いていきますね」
それを聞いた店のおばさんがいいのかい? 助かるよと言った。
「村の人が農作業なんかで怪我をすることが多くてね。ちょっとした怪我ならポーションをかけたら治るっていうんで結構売れるんだよ」
これから来る時はいちごとポーションだな。頭にしっかりとインプットした。ポーション20個をおばさんに渡すとこれはいいポーションだねぇ、こんなに沢山貰えるのかい?ありがとう、ともう一度お礼を言ってからちょっと待ってておくれと店の奥に消えて言った。
しばらくすると巻物の様なものを2つ持ってきた。
「これは昔からこの店に置いてあったんだけど誰も使えないんで長い間ほったらかしになっている忍術だよ」
「えっ!?忍術?」
忍術と聞いて店にいた他の4人も俺の周りというかおばさんの周りに集まってきた。
「あんた忍者だろう?だったらこれが使えるんじゃないかい」
そう言って巻物をまず1つ手渡してきた。
「これは物見の術1と言って足音を消す術だね。ただ攻撃すると術は解ける」
誰かがすごいなと言っている。俺も声には出さないが同じだ。
そしてもう1つの巻物を俺に手渡した。
「それでこっちは遁甲の術1と言って姿を消す術だね。ただ物見の術と同じで攻撃すると術は解ける。2つとも差し上げるよ」
礼をいった俺は、もらった巻物をその場で広げて読んでみる。物見の術も遁甲の術も効果は今おばさんが言ったとおりだが術に効果時間が書いてあった。どちらも3分だ。そして習得レベルが60になっていた。60まで忍者をあげておいてよかったよ。
2つの巻物を読むと
(物見の術、遁甲の術を習得しました)
というミントの声が聞こえてきた。
「2つとも無事に会得できました。ありがとう」
「いやいや、誰も使えないのなら忍者さんに使ってもらった方がこっちも嬉しいよ。ポーションのお礼さね」
こっちもやっと肩の荷が降りた気分だよと言っているおばさん。
「これがタクなのね」
やりとりを聞いていたマリアが言った。
「持っているとはこういうことだな」
トミーも感心した声だ。俺はただポーションを上げただけなのにな。個人的には貰いすぎだと思ってる。次回はたっぷりとポーションといちごを持ってこよう。
「それにしてもすごい術じゃない、姿を決して音を消せれば強敵に気づかれずに近づけるってことね」
「この術は簡単に手に入らないのだろう。それを見事引き当ててきたな。効果時間が3分か、3分は短い様で意外と長いぞ」
クラリアに続いてスタンリーも言った。持ち上げ過ぎだって。
ただこの術は使い方次第ではかなり有効だな。特に強敵から逃げる時。転移の腕輪とこの2つの術があれば大抵の場面で逃げられそうだよ。
お礼を言って店を出た俺たちは村長の家に戻ってきた。
「そうですか、忍術の巻物を貰いましたか。あれは長い間誰も使えなかったのですよ。昔忍者の人が余ったからとこの村に置いていったものと言われております。ただ当然村人は使えない。キクさんの店に保管してもらっておったんだが、そうか、タク殿が貰ってくれたましたか」
あの店のおばさんの名前はキクさんなんだ。
「いや、まさかこの村で忍術が手に入るなんて思ってもいませんでしたよ」
「それもこれも、タク殿が大主様の娘さんを従魔として正しく育てているからでしょう」
なるほど。根っこはそこなのね。
「ただいまなのです」
村長の家にリンネが戻ってきた。庭から部屋に入るとすぐに俺の頭の上に乗ってくる。
「両親とたっぷりお話しできたかい?」
「はいなのです。また来月も来るのです」
そうだなというと俺の頭から降りたリンネは庭にいるタロウの元に行った。タロウの背中に乗って2体で戯れあっている。リンネは優しい子だよ。
俺が庭で戯れあっているリンネとタロウを見ている間に他の4人は村長のクルスさんとその隣に座っているユズさんらとこのエリアについて話をしていた。
「開拓者の街ができる前はあの広い盆地には魔獣が闊歩しておったと聞いております。開拓者さん達が苦労して魔獣を倒してはあの地に街を作ったのです。なんでも盆地の中では一番魔獣のレベルが低いのがあの辺りだったとか。反対側はとてもじゃないが倒せない強さの魔獣がいたそうですよ」
その言葉を聞いていたクラリアが頭の中で地図を描いていたのだろう。
「となるとあの盆地の東南部分に開拓者の街があるので北西部分が魔獣のレベルが高いといことになりますね」
「そうなりますかな。まぁわしらはそう聞いておるだけで実際にその場に行ったわけではありませんからな」
新しいエリアやエリアボスの情報は村長は教えてくれなかった。本当に知らないのか、それとも何かがまだ足りないのかはわからない。
4人の目的は達せられた様だ。俺たちはお礼を言って立ち上がった。
「村の中まで見させてもらってありがとうございました」
代表してクラリアが村長に礼を言う。
「ここにおられる皆様ならいつでも歓迎しますよ。もっともタクの従魔のリンネが一緒だという条件が付きますが」
「それでもそう言って頂いて嬉しいです」
村長と娘のユズさんにもう一度お礼を言った俺たちは村長の家を後にして村の中を歩きながら坑道に向かう。
「道端のあちこちに九尾狐の置物が置かれていて、純和風の家が並んでいる。いいところね」
「岐阜県にある白川郷を思い出したよ」
帰りは坑道を逆に歩いてカラクリ岩をスッと抜けて山裾に出てきた俺たち。とりあえず東屋まで移動してそこで休憩することにした。タロウは俺のそばに腰を下ろし、リンネは俺の膝の上に乗っている。
「やはり北西方面の攻略となりそうだな」
というスタンリーの言葉から4人はどうやって攻略しようかと言う話をし始めた。俺は彼らの話を聞いているだけだ。LV61じゃ戦力にならないのは分かっている。
北に上がってから北西を目指すか、西に上がってから北上をするかというルートで意見を交換している4人。聞いていると北西部分はまだほとんど探索できていないらしい。セーフゾーンを見つけるのが先じゃないかとトミーが言っている。
確かに遠出をするとなるとセーフゾーンの場所は生死に関わる。どうやら情報クランと攻略クランとで2つに分かれて北に上がる組と西に移動する組に分かれてセーフゾーンを探すことに目標を切り替えた様だ。
「タクをほったらかしておいて申し訳ないわね」
「全然。俺のことは気にせずにしっかりと意見を擦り合わせてくれよな」
「どこかでタクの応援が必要になると俺はみている。その時は頼むよ」
「スタンリーは俺を買い被りすぎなんだよな」
俺がそう言うと3人が首を横に振った。
「主は頼りになるのです。だから頼るのです」
俺の膝の上に座っているリンネが顔をあげてそう言う。
「ほらっ、リンネもそう言ってるじゃない」
マリアが言って3人がリンネの言うとおりだと次々に言う。
俺は苦笑するしか無かった。こっちは攻略組じゃないっちゅうねん。
その後山裾を着た時と逆に進んで坑道についた俺たちは坑道内ワープを経て夕刻に無事に開拓者の街に戻ってきた。この4人がいるとほとんどノンストップで進めるから移動時間が短い。
「タク、今日はありがとうね」
門の前に着くとクラリアが言った。
「またあの村に行く時は声をかけてくれるか。まだ何かありそうな気がしているんだ」
そう言ったのはスタンリーだ。トミーも何かありそうだよなと言っている。
「分かった。月に1度行くからまた4人には声かけるよ」
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