2度目の隠れ里

 翌日待ち合わせ場所の開拓者の街の門を出た所に早めに来て従魔2体を撫でていると情報クランの2人、続いて攻略クランの2人が門から出てきた。


「リンネちゃん、今日はよろしくね」


 クラリアが俺の頭の上に乗っているリンネに挨拶をした。


「はいなのです。今日はよろしくなのです」


 マリアは相変わらずタロウを撫でている。いつもと同じだな。


 街を出て山の坑道までの間に当然だが魔獣に遭遇する。ただこの4人が強いのなんの。それにタロウが参加してあっという間に倒していく。全く俺の出番がない。


「でもさ、レベルが上がるとネクストの必要経験値が多くなるだろう?なかなかレベルが上がらなくなっているんだよ」


 たった今敵を倒したスタンリーが言った。確かにどのゲームでもレベルが上がると次のレベル上げる為に必要となる経験値の総量が増える。

 

「エリアボスはまだ見つかっていないのかい?」


「まだなんだよな。エリアが広くてね」


 そんなやり取りをしながらも出会う敵を次々と倒していくこのメンバー。俺はちょっと刀を振ってるだけで経験値を貰っている。レベル61になったと喜んでいたけど67の連中とは全然違うわ。


 危なげなく坑道にたどり着いてワープをして反対の出口に飛んだ俺達。


「これからね」


「とりあえず坑道を出たら右、山裾に沿って進んでいくと3,4時時間程でセーフゾーンの東屋があるんだよ」


 クラリアの声にそう答えると全員が装備を確認する。リンネは戦闘中は地面に降りて魔法を撃つが終わるとすぐに俺の頭の上に乗ってくる。タロウはいつも俺の隣だ。


 ここからは自分が先頭になる。坑道の出口で空蝉の術2を唱えた。


「主の分身が3つ見えるのです」


「タクも60になって術を買い替えたのね」


 とクラリア。


「そう。やっと分身が3体になったよ。生き残る確率が上がった」


「攻撃を完全無効にする分身が3体。リキャスト5分か。忍者は強いジョブだな」


 術を見ていたスタンリーが言うが俺に言わせると彼の方がずっと強い。戦士で片手剣を自由自在に振り回して魔獣に大きな傷をつけていくのは思わず見とれてしまう程だ。


 坑道を出ると山裾を右に、森を左に見ながら裾に沿って歩いていく。当然魔獣にも会うが相変わらずあっという間に倒しながら西に進んでいく事3時間少しで見覚えのある東屋が目に入ってきた。今日はここにユズさんはいない。


「最初はここに村長の娘さんがいたんだよ。彼女が案内してくれた」


「という事はここから近いのだな」


「近い。すぐだよ」


 聞いてきたトミーに答えると近いから休まなくても良いだろうと東屋の中を通り抜ける。これで地図上にセーフゾーンとして記録されるはずだ。


 東屋を出て山裾を歩き、大きな岩を見つけるとその周囲をぐるっと回る。目の前にまた大きな岩があった。どこから見ても岩だ。


「ここだよ」


 そう言って俺が片手を岩に突き出すとその岩を突き抜けて手が消えた。


「なるほど。これがカラクリか」


「これは見つからないわね。しかも普段は本当の岩なのでしょう?」


「そうみたいだ。リンネがいるからダミー岩にしてくれている」


 俺以外の4人が感心した声を出している。


 俺を先頭にして4人と従魔2体が岩をすり抜けるとそこは坑道だった。ここからは戦闘が無いので全員が武器をしまう。両側の壁に松明がともっている坑道を歩くとその先に茅葺きの家が見えてきた。


「あれが隠れ里だ」


 坑道を出たところに1人の女性が立っていた。村長の娘さんのユズさんだ。


「こんにちは。いらっしゃい。お待ちしておりました」


「こんにちは。月に1度の約束でリンネを連れてきました。それと友人4名も」


「はい、問題ありません。皆様こちらにどうぞ」


 歩き出すと頭の上に乗っているリンネが言った。


「主、リンネは父上と母上の所に行くのです」


「そうだな。行ってきていいぞ」


「はいなのです」


 そう言うと頭の上から飛び降りたリンネは5本の尻尾を振りながら一目散に村長の家の裏にある祠を目指して駆けていった。



「ようこそ隠れ里にいらっしゃいました。タク殿は久しぶりですな」


 ユズさんの案内で村長の家に上がった俺たちはこの前と同じ和室に通された。タロウは和室から見える庭に腰を下ろしている。4人がそれぞれ自己紹介をし終えると村長が彼ら4人を見て言った。


「ここは隠れ里。九尾狐様に守って頂いておる村です。この村に外の方が来られることはほとんどありません。ただそこにいらっしゃるタク殿の従魔が九尾狐でしかもこの村の祠に住んでおられる九尾狐の夫婦の娘さんと分かりましたので、大主様からの命でこの里の入り口を開けて招待させて貰ったのです」


 暗にこの場所を広めないで欲しいと村長が言っていた。

 俺はおもむろに端末からイチゴを詰めた箱を取り出した。


「村長、これは私の畑で採れたイチゴなんですよ。リンネが一生懸命に毎日水やりをして育ててくれています。後で祠にもお供えしますがこれは村長様用に持ってきました」


 箱を受け取った村長はその箱を開けるとおおっと声を出した。


「真っ赤なイチゴですね。この村はイチゴが採れないのですよ。これは有難い」


「これから月に1度来るときは持ってきますよ」


「それは是非お願いしますよ」


 難しい顔で話をしていた村長の表情が緩んだ。


「祠にもお供えに行くのですが構いませんか?」


「どうぞ。先に参られるとよいでしょう。戻ってきたら村を案内しましょう」


 俺達が立ち上がると庭のタロウも立ち上がって先に玄関に行く。俺達が家の玄関を出たところでタロウが待っていた。


 俺は4人を連れて村長の家の裏にある石畳の参道を歩いていく。村の通りにも、そしてこの参道にも九尾狐の置物が置かれていた。


「よく作りこまれてるわね。第3の街でタクが手に入れた九尾狐のリンネがこのエリアのこの村の出身だなんてね」


「こういった一種のサブクエストって面白いのが多いよね」


 松明が灯されている参道を歩きながらクラリアとマリアがそんな話をしている。鳥居の先にリンネがいて俺を待っていた。


「父上と母上が主とお友達を待っているのです」

 

 鳥居の先にある祠の前には九尾狐の夫婦が2匹並んでいた。


「父上、母上、主が来たのです。約束どおりなのです」


 首を上下に動かして頷いている両親の狐。


「タク、久しぶりだの」


 祠に近づいたところで父親が言った。


「こんにちは。これ、俺の畑で作ったイチゴです。どうぞ」


 頭を下げてそう言った俺は祠の棚に箱から出したイチゴを置いた。辺りに良い匂いがする。


「ありがとう」


 短く礼を言った父親。その後はリンネの両親の前で一緒にきた4人を紹介する。


「娘のリンネによればタクと一緒に来ている友人達も皆良い人間だという。これからもリンネをよろしく頼む」


「この子はまだまだ子供ですからね。いろんな人間と知り合っていろんな経験をすることがいずれ大主となる時に役に立つでしょう」


 父親と母親が交互に言う間、俺達は黙って話を聞いていた。リンネも珍しく神妙な表情をしている。


「急にお邪魔してごめんなさい。ここに隠れ里があるとタクに聞いて一度だけ見てみたかったの」


 クラリアがそう言った。大主は構わないと言ったあと、


「村の事は村の長に聞くがよいだろう。我らはここにいてこの渓谷の村を守っているだけだからの」


 そう言った。


 俺達は大主と呼ばれている九尾狐の夫婦にお礼を言って祠を後にする。リンネはもう少し両親と一緒に過ごしてから戻って来るらしい。


「あれがリンネのご両親か」


「2匹ともしっかり尾が9本あったわね」


 よく見ているな。

 階段を降りるとユズさんが村長の家の前に立っていた。


「小さな村ですがご案内しましょう」


「ありがとう」


 ユズさんに続いてタロウを含めた俺達5人が村の中を歩いていく。道端には九尾狐の置物があちこち置かれていた。村人達は部外者の俺達を見ると挨拶をしてくる。拒絶している雰囲気じゃない。


「この隠れ里にはお店屋さんはあるんですか?」


 前を歩いているユズさんにクラリアが話かけた。村を歩き始めてからスタンリーとトミーは周辺を見ている。何かないかと探っている目だ。


「ありますよ、こちらです」


 歩いてる通りの右の前にある家がそうだった。この村では全てが茅葺きになっているのでぱっと見た限りではどの家も同じに見える。


 近づいてようやくその家が店であることが分かった。ガラスの引き戸の奥に商品が置かれている棚が見えた。こんにちはと言いながらユズさんが引き戸を開けると奥からおばさんが出てきて俺達を見て言った。


「おや、プレイヤーさん達かい、珍しいね。大したものは無いけれどもゆっくりと見ていってくださいな」


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