イチゴを作ろう
レベルが60になったところでどういう変化があるのかサポートAIのミントに聞いてみた。
(タロウに関してはレベルアップによるステータスアップと同時に攻撃力が一段階上になりました)
これは朗報だ。前足と蹴りかな?
(それに加えて噛みつきも含まれます)
なるほど。俺はイベントNM戦を思い出した。あの時がっちりと首の後ろに噛みついていたがあの能力が更にアップしたという事か。
(リンネに関しては尾が5本になった時点で魔法の威力がアップしています。あとはレベル上昇分のアップです)
(了解。それで俺は?)
(タクは60になって忍術2が使用可能となっています。ステータスアップの上昇率については61にならないと分かりません)
忍者は通常のアップの様だ。61になった時点でもう一度ミントに聞いてみよう。
鍛冶スキルを上げるのは力技を使うことにした。普通なら適正スキルに合わせて合成をしていく。つまりスキルが上がると合成するアイテムを変えていくのが普通だが、俺はいきなりスキル20が必要な撒菱の合成を始めた。物の本によるとこの撒菱は本当の忍者は鉄製ではなく木製のものを使っていたらしい。鉄だと重くて持ち運びに不便だったというのがその理由らしいが今はゲームだ。当然鉄で作る。使う相手も人間じゃなくて魔獣だし。
鉄のインゴットをがっつりと買い込んでから自宅の工房で合成を開始した。リンネは例によって俺の頭の上だ。リンネも大きくなって俺の頭の上は狭いと思うのだがそこは気にならないらしい。これもゲーム仕様なのだろう。ちゃんと頭の上に乗っているし。
「主、頑張るのです」
「頑張るけど、ちょっと苦労しそうなんだよな」
始めると失敗ばかりでその都度インゴットが消えていく。ただこのゲームでは失敗してもスキルが上がる仕様になっているので気にせずにガンガンハンマーで叩いていくとたまに成功する。
(撒菱2個の合成に成功しました)
(撒菱の合成に失敗しました)
(撒菱の合成に失敗しました。スキルが1上がりました)
(撒菱3個の合成に成功しました)
(撒菱2個の合成に成功しました。スキルが1上がりました)
こんな感じで丸2日ログインしている間ずっと撒菱を作り続けた結果、2日目の夕方に、
(撒菱3個の合成に成功しました。スキルが1上がりました)
このアナウンスで鍛冶スキルが20になった。合成の過程で出来上がった撒菱は結局32個だった。インゴット代と32個の撒菱代とでは釣り合わないのは知っているがこれが力技だ。これでこれから撒菱はほぼ100%合成できるだろう。忍者の道具として常備しておけるぞ。
「主、やったのです。えらいのです」
「ガウガウ」
「おう、ありがとうな」
工房の入り口のドアは開けっ放しだったのでタロウも気が向いたら工房の中に入ってきて床に座って俺の作業を見ることがあった。丁度タロウがいる時のタイミングでスキルが20になったのでタロウもリンネと一緒に祝ってくれた。嬉しいね。
「明日からはこの開拓者の街の周辺でレベル上げをするぞ。タロウとリンネも頼むぞ」
「ガウ」
「任せるのです。タロウとリンネでガンガン魔獣を倒してみせるのです」
リンネは威勢がいいな。タロウを見ると任せろとばかりに尻尾をブンブンと振り回している。この2体が優秀なおかげで随分と助かっているのは紛れもない事実だからな。本当のソロだったら未だに最初のエリアボスに勝てていないだろう。
開拓者の街の周辺の魔獣のレベルは62~64程度だ。攻略クランによるとこの街がある盆地に続いている狭い山道の中は高レベルに設定されている様で、山道にいる魔獣のレベルは途中まで攻略しているがそこでの敵のレベルが67〜68らしい。高レベルに狭い道、そりゃ苦労するよな。
盆地の奥、街から離れると魔獣のレベルも上がるがそれは攻略クランにお任せで、自分は街周辺でそこにいる敵を相手にする。レベル60で62やら63の敵を相手にして経験値を稼いでいると俺と従魔2体のレベルが61になった。
(61になったけど変化はある?)
(いえ、変化はありません。ステータスアップもこれまでと同じです)
大きな変化が無いという事が分かった。ちょっと残念だけどこれが普通なんだよな。
農作業はすっかり安定している。ニンジン、キュウリ、白菜を定期的に農業ギルドに売っているがそろそろ品目を増やしても良いかもしれない。そう思って俺は農業ギルドに顔を出した。
「タクの野菜は品質が安定しているのとニンジン、キュウリ、白菜は需要も多いので引き続き作って欲しいんだけどね」
そうなのか。農業ギルドのギルドマスターのネリーさんに言われたら品種変更をする訳にもいかないな。別にこれでがっつりと儲けようとは思っていないし。そう思っていると彼女が果樹園について言った。
「果樹園の方は変えても良いかもね。リンゴとミカン。ミカンの土地の一部をイチゴに替えてみないかい?イチゴの高設栽培をやるんだよ。初期投資は掛かる。ビニールハウスや棚や鉢が必要だけどそれらはここで売ってる。設置すればあとは水をやるだけで育つよ」
「なるほど。じゃあ思い切ってみかんを止めてそのスペースをイチゴにしてもいいのかな?」
「いいんじゃないかな。イチゴが上手く収穫できたら高く買い取るよ」
農業ギルドで設備一式を買った俺は自宅に戻るとタロウとリンネは精霊の木の根元と枝の上でそれぞれ休んでいた。
「これから仕事をするぞ」
その声で2体の従魔が起き上がると近づいてきた。
「何をするのです?リンネも手伝うのです」
頭の上に乗ったリンネが聞いてきた。タロウも俺の足元で後ろ足を落として座って見上げている。
「みかんの代わりにビニールハウスでイチゴを育てる事にしたんだ」
「やるのです。イチゴは美味しいのです。売れるのです」
リンネは商売人だな。タロウもガウガウと言っている。やろうぜ!ってことかな。
本来なら木を抜いてから地面を整地してそれからハウスを組んでととんでもない手間がかかるがそこはゲーム。
木になっているミカンを全部籠に入れるとボタン一つで綺麗にミカンの果樹が無くなって整地された土地になった。端末からビニールハウスを選択し、設置をタップして端末を地面に近づけるとあっという間にビニールハウスの出来上がりだ。
「凄いのです。家なのです」
「家じゃないぞ、これはビニールハウスだ」
「ガウガウ」
タロウが中に入りたそうにしているので扉を開けてやるとタロウとリンネが中に入っていった。整地しているからそこら中を走り回っている。俺は従魔を好きにさせながらハウスの中で棚を組み、そこに土と種が入っている鉢を並べて置いていく。棚はイチゴベットと呼ばれているらしい。ものの1時間程でビニールハウスの中がイチゴ農園になった。
棚は地面から1メートル程の高さにある。その下は空間になっている。これならタロウやリンネが走り回っても大丈夫だ。
「出来たぞ」
「立派なのが出来たのです」
「ガウガウ」
ビニールハウスの入り口は手で開閉するのではなくスプリングを使って扉を押して入り、押して出る様にした。これでタロウやリンネが出入りしても勝手に扉が閉まってくれる。こうやるんだぞとお手本を見せると2体ともに直ぐに覚えてくれた。
今までの畑もそうだったが水やりはリンネが水魔法でやってくれる。ビニールハウスで高い場所にイチゴがあるが出来るか?と聞くと。
「問題ないのです。リンネに任せるのです」
と心強い返事がかえってきた。見てるとタロウの背中に乗ってゆっくりと歩きながら水魔法で霧状の水を鉢に吹きかけている。賢いな。
イチゴはリンゴと同じく5日程で収穫できるらしい。
美味しいのが出来たら知り合いにお裾分けしよう。
買える中で一番広い畑を買って半分が野菜、半分が果樹園になっている。その果樹園の半分がビニールハウスになった。ログインすると畑の様子を見るのがルーティーンになっている。畑を見る時に隣にタロウが一緒に歩き、俺の頭の上にはリンネが乗っているのもルーティーンになった。
初収穫したイチゴを農業ギルドに持って行ったときにはネリーさんが俺のイチゴを見て驚いた声を出した。
「こりゃ想像以上に良いね。うん、これなら全く問題ないよ」
そう言って農業ギルドはミカンの時の倍以上の値段で買い取ってくれた。これは良い金策になる。もちろんイチゴ以外の農産物もしっかりと買い取って貰っている。
この日もログインしてからまずは野菜畑を見てからリンゴの果樹園を見ていると頭の上から声がした。
「主、明日は父上と母上に会いに行くのです」
あれから1か月経ったか。リンネが言うから明日が良いのだろう。
「分かった。今回は友達4人も一緒に行くぞ」
「構わないのです。皆で行くのです」
「ガウガウ」
タロウも問題が無いと言っている。
イチゴのビニールハウスからリンネの両親へのお供えと村長さんとユズさんへのお土産用としてイチゴを収穫して箱に詰めてしっかりと準備をし終えるとクラリアに電話をする。
「明日、隠れ里に行く日なんだけどそっちは大丈夫かな?」
「明日ね。問題ないわ。トミーにも言っておく」
攻略クランのスタンリーに通話すると彼も問題ない、マリアと2人で行くと言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます