空蝉の術2を手に入れた

 スタンリーによるとこの街がある盆地は相当広いが少しずつ調査範囲を広げて探索をしている。ただ街から離れるとレベルが上がるので経験値稼ぎ、レベル上げと並行して探索をしているらしい。


「そろそろ次のエリアが出てもおかしくない。探索と言いながらエリアボスを探していると言っていいだろう。ただ敵のレベルが高くてね。苦労してるんだよ」


「タクがまた何か見つけてくれるかな、なんて期待してるのよ」


「それは流石に無茶振りだろう。最近はゲーム内引きこもり状態だよ。レベルもまだ58だしさ」


「そうは言ってもやってくれるのがタク。俺達と情報クランとの間ではそういう認識だ」


 なんでだろう。2大クランのトップ連中が俺を買いかぶりすぎる。こっちはのんびりソロプレイヤーだというのにさ。


 ちなみにスタンリーとマリアは既にレベルが65になっていた。トミーも65、クラリアは64。このレベルで俺との差8は滅茶苦茶大きい。そしてそのレベルでも苦戦するってどんだけ敵は強いんだよ。


「第一エリアがそうだった様にここでもエリアでのレベル上限があるだろうとみている。俺達のクランではとりあえずそこまでレベルを上げようと話しているんだ」


 第1エリアの上限レベル33だから第2は66だったりしてね。そんな単純な話じゃないと思うけど。


 俺は家を買ってからはひきこもりになっていたので最近の街の情報には疎い。彼らによるとオレンジモグラやレッドモグラは戦闘での従魔としてはどうもイマイチらしい。もふもふ愛好家は従魔にしているが、従魔にしたがテイマーギルドでリリースするプレイヤーもそれなりにいるという。ちなみにマリアはもふもふ好きだがモグラのモフモフはちょっと違うんだと言っていた。彼女にとってモフモフとはタロウの毛並みのことなのだろう。


 開拓者の街と言いながら街は出来上がっているし広い、何より家が持てるのが良いとプレイヤーの間では概ね好評でお金を貯めて居住区に家を買う人が少しずつ増えていると言っていた。流石に家と畑を同時に買う人はまだ出ていないらしいが。まぁ、俺の場合は特別割引券という魔法のアイテムがあったから買えただけで、それがなかったらいまだに宿暮らしだったのは間違いない。



 PWLの2回目のプレイヤー募集の話は情報クランだけでなく自分たちの様な第1陣のプレイヤーの中でも話題になっているそうだ。


「ああ言う時ってバージョンアップがあってその後は大抵イベントとかキャンペーンがあるのよね。それに期待しているの」


 確かにそうだ。新規さんが来たら経験値増キャンペーンとかアイテムドロップ率アップとかやるよな。ひょっとしたら前回の様なNM戦がまたあるのかも知れない。それはそれで楽しみだ。


 攻略クランも新規さんが来てクラン参加を希望した場合には頭から拒否するつもりはないらしい。誰でもOKとなると人が増えるのでそこは面接などで篩にかけるが基本は新規も歓迎というスタンスになるだろうとスタンリーが言っている。


「新しい視点というのはいつも欲しいからね。それに俺たちはガチガチの攻略組じゃない。皆でわいわいやりながら攻略するのが楽しいと感じるメンバーばかりなんだよ」


「情報クランも同じ考えみたいよ。新しい人が新しい発見をするかも知れないって基本は歓迎するスタイルみたい」


 どっちのクランも人気があるはずだ。募集かけたら大勢が応募するのだろうな。


「タクは新人さんが入ってきてもソロを続けるのだろう?」


「そうだね。クランに所属する気はないし、誰かと固定のパーティを組む気もない。タロウとリンネがいるし十分かな」


「タロウとリンネがしっかり主をサポートするのです。主はどんと構えているだけでいいのです」


 それまで黙っていたリンネが俺の頭の上から言った。


「リンネもタロウもタクが大好きだものね」


「そうなのです。主は良い人なのです。タロウもリンネも主が大好きなのです」


「ガウガウ」


 そうだと言わんばかりにタロウも尻尾をブンブンと振りながら鳴いている。


「集中、警戒と威圧のスキルだっけ?それにタロウ本体もフェンリルで強い。リンネは僧侶と精霊士のハイブリッドの九尾狐だ。よくまぁこれほどまでに優秀な2体を従魔にしてるよ。タクと従魔2体で下手なパーティよりもずっと強いからな。しかもタク当人も二刀流だし空蝉の術で攻撃を完全に回避できる。いい組み合わせだよ」


「だから期待しちゃうのよね」


 スタンリーとマリアはそう言うけど当人は従魔2体におんぶに抱っこ状態だと思ってるからね。しかし彼らやクラリアのクランとは一緒に動くことが多い。迷惑をかけない様にレベル60までは早くあげよう。


 

 翌日インするとタロウとリンネを前にして俺は宣言した。


「これからしばらくレベル上げをするぞ。目標は全員LV60だ」


「ガウ!」


「リンネも頑張るのです」


 翌日、坑道の山裾の街側に飛んだ俺たちはそこから山裾に沿って隠れ里方面に移動しながら片っ端から敵を倒していく。60前後の敵がいるので今のレベルでちょうど良い相手になる。


「タロウ、威圧するんだ」「ガウ」


「リンネ、魔法だ」「はいなのです」


 そんな調子で朝から夕方まで休憩を挟みながらひたすら戦闘をした俺たちはレベルが1つ上がって59になった。リンネのレベルもここで追いついて同じ59になった。タロウもリンネも途中からは俺が何も言わなくても適切なタイミングでスキルを発動することができる様になっていた。連携ってのは大事だね。従魔達もしっかりと学習してくれている。


 そしてその2日後、俺たちは念願のLV60に到達した。いやあ3日間、根を詰めてひたすら外に出ていたけどやっとだよ。


「主、60なのです。すごいのです」


「ガウガウ」


 レベルが60になって数体倒したところで自宅に戻ると従魔達が俺のそばに来て祝ってくれる。


「タロウもリンネも60だぞ。お前達もすごいぞ」


 タロウは尾っぽをブンブンと振って喜びを表現し、リンネは俺の頭の上で何度もジャンプをする。頭が痛いのだが許してやろう。


「主、忍術を買うのです。強くなったので買えるのです」


 そうだ。術2を買わないと。

 2体にお留守番を頼んで俺は自宅から山裾の村に飛んだ。


 くノ一忍具店のヤヨイさんは店に入ってきた俺を見るなり、


「あら、忍者のレベルが60になったのね。おめでとう」

 

 そう言って60から使える忍術を棚から取って来てくれた。当然全部買いましたよ。お金は幸いにたっぷりとある。坑道の情報量だけで200万ベニー以上になったからね。クラリアによると開拓者の街へ行くツアーが大盛況でウハウハだったらしい。それ以外の情報料ももらっていたので家と畑を買って減ったお財布の中がまた暖かくなっていたのだ。


 その場で新しい忍術を全部読んだ俺は、無事に空蝉の術2を覚えることが出来て分身が3体に増えた。遁術も買い替えたことでその威力が増すという触れ込みだ。


「うん。また強くなってるわよ」


 術を全部習得した俺をみてヤヨイさんが言った。


「ありがとう」


「忍具関係は次のエリアに行かないとお店がないんだよね」


「そうなの。でもタク自身も強くなってるから。このエリアでも十分に活躍できるわよ」


 ヤヨイさんによれば俺の装備は今時点では忍者として一番良い装備を身につけているので自信を持っていいらしい。


「そうそう。撒菱を持っておくと便利よ。あとで回収するのが面倒だけど効果は高いの」


 魔獣に投げると足に刺さって動きが遅くなるのでレベルの高い魔獣相手には有効だという。なるほど足止め用か。


「これって合成で作れるかな」


 俺は10個入り1セットになっているものを2セット買ってから聞いてみた。1つも買わずに合成でできるかなんて聞くのは失礼でしょ?


「できるわよ。確か鍛治のレベルが20あれば作れたはずよ」


 20か、鍛治スキルは14だ。よし!ジョブレベルは60になったから次は鍛治レベルを20まであげよう。


 こうしてやることを決めてゲームをするのが楽しい。今までは義務感でインしていたが自分のやりたいことを決めてインするのが本来のゲームの楽しみ方なのだろう。

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