希望者が集まった

 その後、3人で雑談をしているとそうそう、知ってる?とクラリアが聞いてきた。何かと聞けばもうすぐPWLの第2陣を募集するという噂があるらしい。ネットは今それで盛り上がっているのだという。最近販売されたVRMMOの中でこのPWLがダントツで人気があるそうだ。プレイヤーがSNSで綺麗なスクショをアップしたりブログ等でプレイのしやすさやリアルと変わらないNPCの対応等アップしたこともあって運営会社にはいつ第2陣を公募するのかという問い合わせが殺到しているのだと教えてくれた。


 確かにグラフィックは綺麗だよ。それは認める。そして一番大事な事だがゲーム自体も面白い。しっかりと作り込まれている。データはマスクになっているがそれとは別にあちこちにヒントが散りばめられていてじっくりと遊べる仕様になっている。ただ敵を倒して進んでいくゲームじゃないというのが万人受けするのだろう。ゲーム内課金がないのも公平ということで評価されているらしい。


「あと女性に人気があるのよ。PWLはハラスメント系に対しては他のゲームよりも数段厳しいチェックをしているの」


 ゲームの中でナンパやセクハラなんてと思うかも知れないがこれが意外と多い。パワハラもしかりだ。


 アバターという殻を被っているので自分が直接言っていない、やっていないという感覚になるのかリアルではやらない言葉使いや行為をする奴らがいる。PWLではその場合には予告なしでアカウントを即時に削除しますと最初のチュートリアルでしっかりと説明がされる。義兄の会社、頑張っているんだな。


「それで実際に第2陣の応募はやりそうなの?」


「おそらくね。公式サイトでもかなり匂わせてきているの。数か月以内じゃないかしら」


「何人募集するんだろう」


「第1陣と同じくらいじゃないかと言われているな」


 15,000人か、このフィールドと街の広さなら余裕に思えるな。


「私たち初期組は忍者が茨の道だって思ってたけど、実際はそうじゃないって分かったから第2陣では忍者を選択する人も多いんじゃないかしら」


 これはクラリアの予想だ。初期組の中で知り合いを第2陣の追加応募で誘うことがあるだろう、その時にジョブの話とかもするんじゃないかという読みをしているそうだ。


「ソロでやろうと考えてるのなら悪くないジョブだと思うよ。ただ回復手段がないから薬品かあるいはリンネみたいな回復が出来る従魔をテイムする必要はあるけど」


「タクの場合には従魔が優秀だからな。その辺りは認識の齟齬が出ない様にしないといけないだろう。少しでもそう言う手助けにと情報クランでは各ジョブの情報を売っているが、これが結構売れているんだよ。もちろんその中には忍者の情報もある。買っているプレイヤーは第2陣で友人を誘う時の参考にしているんじゃないかと見ている」


 トミーが教えてくれた。だから今のところほぼ俺1人だと言われている忍者の情報も更新しているんだという。



 次に里に行くときは必ず声をかけてねというクラリアの声を背中に聞いてクランを後にした俺。


 俺はそのまま畑に水を撒き、薬草を刈り取ると家に上がらずに庭から工房に移動した。

採取した薬草でポーション合成だ。


商品 ポーション

品質 高ー

効果 掛けた相手の体力を大きく回復する(リキャスト20秒)


 鉢で薬草を擦りつぶして水をゆっくりと滴らせて作る。10個程ポーションを作ると錬金スキルが上がって15になった。余った薬草は工房の隣にある倉庫の棚に保管しておく。ゲームモードでこうやって保管すると腐ったりしないのはいいよね。


「主は何をやっても上手なのです」


 ポーションの合成をじっと俺の頭の上から見ていたリンネ。


「そうか、ありがとう」


 頭に乗っているリンネを両手で胸の前で抱えてその頭を撫でると5本の尻尾が揺れているのが見えた。機嫌が良いサインだ。


 俺はリンネを撫でながら考えていた。

 隠れ里に向かって山裾を歩いている時にそれなりの戦闘を経験したがまだレベルが上がるまではいっていない。忍者を60に上げて術2を覚えたいし、錬金はもちろん、鍛治や調理や裁縫の合成もしたい、農業も面白いとやりたい事だらけだ。以前の自分なら人より先に進む事しか考えていなかったからこういう楽しみ方を知らなかった。実際のんびりやってみるとこれが楽しい。



 隠れ里から貰って植えた木は毎日成長が分かる程に大きくなっていき、数日たつとしっかりと地面に根を伸ばした大木になった。高さは10メートル位か。地上5メートルのあたりから枝が真横に四方八方に伸びていてその枝の先に菱形の緑の葉がついていた。地面の上に木陰が広がっている。


「立派な木なのです」


「本当だよな」


 縁側から精霊の木と呼ばれる木を見ている俺とリンネ。タロウは精霊の木の根元の木陰で横になって一定のリズムで尻尾を振っている。お気に入りの場所だ。


「リンネも行ってくるのです」


「いいぞ、行ってこい」


「はいなのです」


 縁側から降りたリンネは精霊の木に向かうと一気に幹を登って幹から伸びている太い枝の1つの上で横になった。


「ここは良い場所なのです」


 太い枝の上に乗ってご機嫌だな。リンネも尻尾を振っている。どうやらあの場所が気に入ったみたいだ。


 タロウもリンネも機嫌が良いのなら俺としては何も言うことがない。


 2体がほっこりしている間に畑の収穫と次の種を撒き、実った果物を収穫した俺はそれを農業ギルドに卸す為にギルドに向かう。


「かなりよくなってるよ。品質が安定してきたね。これなら高く買い取れるね」


 農業ギルドのネリーさんに褒められたぞ。実際今までよりも高く買い取ってくれた。

 彼女によればまだ他のプレイヤーでこの街で畑を買った人はいないが農業ギルドには多くのプレイヤーが登録してくれたそうだ。フィールドで見つけた果物を持ち込んできて買い取りを依頼しているらしい。


 皆畑を買う前にまず家を買うだろしな。


「そう言えばこの前隠れ里に行ってきたよ」


「そうかい。あそこで採れる果物や野菜は大きくて質がいいんだよ。地形と土なんだろうね」


 場所柄沢山採れるという訳ではないらしい。ネリーさん曰くあそこの果物が絶品らしい。なかなかうちには回ってこないんだよねと言っていた。レストランが特別なルートで直接仕入れているらしい。それにしてもやっぱり隠れ里の事を知っていたんだな。こちらがあるレベルになるというかクエストを進めていくと普通に会話してくるがそれ以下だったら会話にならないのだろう。


 隠れ里で野菜か果物を買えることが出来たら売ってくれと言われて自宅に戻ってきた。

 

 自宅の工房でポーションの合成をしているとミントの声がした


(タクが許可を与えている人が2人、敷地の中に入ってきました)


 誰かなと工房の部屋から庭に出てみると攻略クランのマスターのスタンリーとサブマスのマリアだった。


「こんにちは、急に邪魔したけど大丈夫だったかな? フレンドリストを見たら市内にいたんでね」


「大丈夫。今ちょっと合成してただけだから」


 俺とスタンリーがやり取りをしている間にマリアは既に精霊の木の根元にいるタロウの傍に移動してタロウを撫でまわしていた。リンネは横になっていた精霊の木の太い枝から降りてきたかと思うと俺の頭の上に乗った。


「いらっしゃいませなのです」


「やあ、リンネ。こんにちは」


「こんにちはなのです」


 どこに座ると聞くと縁側が良いという。スタンリーも縁側派だったのか。暫くタロウを撫でて満足したのかマリアもやってきた。2人とも街の中でも冒険者の恰好のままだ。自宅が手に入る様になってからプレイヤーの中には女性を中心にして市内では私服でウロウロしている人が増えてきている。開拓者の街、山裾の街、第3の街の洋服屋あたりで私服の品数が増えているらしい。


 俺は常に忍者の格好だが。聞くとスタンリーもマリアも私服を持っているらしい。縁側で俺、スタンリー、マリアの並びで座っている。


「情報クランのトミーと一緒に外に出ていたんだよ。そこで隠れ里の話を聞いてね」


「なるほど」


「その隠れ里に一度案内してもらえないかなと思ってお願いに来たんです」


「案内は全然かまわないよ。村長によるとプレイヤーは俺以外4人までは大丈夫らしいから情報クランが行く時に一緒に行く?」


 俺が言うと是非そうしてくれと言う。ただ攻略クランが興味を持ちそうな物は無いんじゃないのかなと言うとそうじゃないらしい。


「新しい街があれば見たくなる。しかも普通に行ける村じゃない。リンネの両親がいるんだろう?そういう伝手がないと行けない場所なら余計に行きたくなるな」


「ひょっとしたら次の攻略のヒントがあるかも知れないでしょ?」


 情報クランには筋を通していてタクがOKなら情報クランから2名、攻略クランから2名という事になっているらしい。手回しがいいな。


「ところで、タロウが横になっているあの大きな木は?」


「あれはその隠れ里の村長がくれたんだよ。何でも精霊の木と言う名前で植えるとその家が幸福になる。妖精が宿っていると言われているらしくてね。隠れ里の全ての家の庭にはこの木が植えられているんだって」


「妖精か。確かタクもその情報を得てたよな」


 頷いてから俺は言った。


「ただ隠れ里の村長も言っていたけど、そう言われているが実際に妖精を見た人は誰もいないらしいよ。でも効果はあるみたいでね、これを植えてから畑の食物や果実の品質が良くなっている。農業ギルドでの買取り価格が上がった。あとはタロウが気に入ってくれていつもあそこで横になってるよ。リンネもあの枝の上がお気に入りみたいだ」


「そうなのです。リンネもタロウも精霊の木が大好きなのです。落ち着くのです」


「だそうだ」

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