農業をやるためには
「お疲れ様。無事に開拓者の街に辿り着けた」
門を入ったところで全員が集まっている。
「ここで一旦解散にしましょうか」
「そうだな。情報クランは当然街の情報を集めるだろうし。俺たちは今後どうするかの打ち合わせも必要だ。とりあえずはクランメンバーを全員呼び寄せる必要があるけどな」
攻略クランは20名強の精鋭メンバーで活動しているらしい。とは言っても以前スタンリーが話をしていた様にきつい縛りなどはなさそうな雰囲気で皆攻略を楽しんでいる人ばかりみたいだ。
情報クランも同様にメンバーをこの街に呼んで活動を開始すると言う。この街でもオフィスを借りないとね、なんていう話し声が聞こえてきた。
俺はとりあえずテイマーギルドだなと思っているとスタンリーらが近づいてきた。
「今回もタクに世話になったな」
「ありがとうございました。それにしてもタクは本当に持ってるわね」
マリアも持ち上げてくるが本に書いてあったことを言っただけだからね。近くにいたクラリアやトミーもその通りだと言ってくる。あまり持ち上げられても困るんだけど。
これからどうするのかと聞かれたのでとりあえず冒険者ギルドで転送盤の登録をしてからテイマーギルドに顔を出してから宿を探すよ。そう言って俺は彼らと別れるとその足で冒険者ギルドの転送盤を登録する。これでまた移動が楽になった。転移の腕輪を持っているので街の外からこのギルドに帰ってくる事ができる様になった。
冒険者ギルドを出ると街の様子を見ながら通りを歩く。この街は今までの街とはまた違った雰囲気だ。まずとてつもなく広い。何もない盆地に街を作ったからだろうか、広大な広さを持っていて当たり前だが1日で全部見て回れそうにない。通りにはプレイヤー御用達の武器屋や防具屋があった。中に入って忍者の装備や武器があるか聞いてみたがこの街の武器屋や防具屋で忍者のものを置いている店はないと言われた。相変わらず忍者の待遇は悪い。山裾の街に戻って忍術の店のヤヨイさんに聞いて確認してみよう。
街が広いので大きな通りが何本も走っていてそれがあちらこちらクロスしている。大通りの交差点というのだろうか、それが多い。歩くだけで自動でマップが作成されるのでそれはいいんだけどなかなか地図が埋まらない。
やっとのことでテイマーギルドを見つけた。想像通り通りの端の方にあった。従魔を預かる広場が必要だから街の中心部にはないだろうと思っていたらその通りだったよ。
「こんにちは、タクさん」
扉を開けると例によって猫耳の受付嬢2人が立ち上がって挨拶をしてきた。アンナさんとキャシーさんだと自己紹介された。この街に来て従魔を預けたのが俺が初めてだから名前を知っているのだろう。
「こんにちは。従魔は元気ですか」
「元気ですね、それにタクさんに懐いていますね」
どこのテイマーギルドも同じで奥の扉を開けると広場になっているがこの街のテイマーギルドの広場は今までのよりも広い。俺を見つけて早速すっ飛んでくるタロウとリンネ。
「主が来てくれたのです」
「ガウガウ」
「ここは気に入ったか?」
そばにやって来た2体を撫でながら言った。
「いい場所なのです。ゆっくり休めるのです。でも主がいないのでリンネとタロウはちょっと寂しいのです」
「それは仕方ないだろう。街の中では従魔は連れて歩けないのだから」
「家を持てば一緒に住めますよ」
「は?」
俺とリンネのやりとりを聞いていたアンナさんがとんでも無いことを言ったぞ。顔を向けると隣にいるキャシーさんも頷いている。どう言うこと?と聞いた俺。
「この街では農業ができるのです。畑や果樹園を借りたりあるいは自分で土地を買って自分の土地で育てることができます。タクさんが畑付きの家を買えば自宅で農業もできますし、従魔もそこに住むことができますよ」
市内は歩けないので外から戻ると従魔の場所をテイマーギルドか自宅かを選択できるらしい。そして自宅ならそこで従魔達と一緒に生活ができるということだ。
「畑付きの家を買えばタロウやリンネもそこに住めるってことか」
俺の言葉に頷いているテイマーギルドの2人。
「主、家を買うのです。大きな家を買って皆で一緒に住むのです」
「ガウガウ」
リンネもタロウもそうしろとうるさい。家の買うのはいいがどこでどうやって買えばいいんだ?
(ミント、知ってるかい?)
(農業ギルドで畑を買い、不動産屋で家を買うことができます)
不動産屋があるのか。
テイマーギルドの受付から農業ギルドの場所を聞いて通りを歩いて農業ギルドに向かう。結構歩いているぞと思った頃に農業ギルドの看板を見つけた。街が広くて歩き疲れたよ。扉を開けると他のギルドと同じくカウンターがあって受付が座っているが他のギルドとの大きな違いがあった。カウンターの横から奥にいく廊下があり、その先の扉が開いているので倉庫が見えているのだ。そっちを見ていると受付嬢が声をかけてきた。
「あちらは作った農産物を買い取って保管するための倉庫ですね。今日はどう言ったご用件ですか?」
なるほど。畑で収穫した野菜や果物をここで買い取ってもくれるのか。
「今日初めてこの街にやってきたんだけどこの街で畑と自宅が持てるって聞いたんですけど」
「畑と自宅のご購入ですか、ありがとうございます。責任者を呼んできますね」
やっぱり買えるんだ。待っていると別の扉が開いて人族の中年のおばさんがやってきた。この人が農業ギルドのギルドマスターなんだろう。
「いらっしゃい。私は農業ギルドを見ているネリーだよ。プレイヤーさんだね。家と畑を買いたいって?」
「そうなんです。従魔がいるので一緒に住みながら畑仕事をしたいと思って」
そう説明するとそばにいたネリーさんが俺の背中をバシバシと叩いた。ゲームとは言え結構痛い。
「いい心がけだよ。農業ギルドはあんたを歓迎する。まずはここ開拓者の街の農業ギルドに登録してくれるかい?その間に不動産屋を呼んでくるよ」
褒めてくれるにしては本気で叩いていたみたいだったが。とにかく俺は端末を差し出して農業ギルドに登録をした。
「タクさんですね。登録が完了しました。これで畑で取れた作物も買い取れますし、ここで売っているいろんな種や苗木を購入することができる様になりました」
それは嬉しいな。何を育てるとか全く考えていなかったし。となるとやっぱり土作業に向いているモグラをテイムする必要がありそうだ。さっきの坑道でレッドモグラをテイムしよう。
しばらく待っているとNPCのおじさんが入ってきた。手には大きなタブレットを持っている。ネリーさん曰く彼が不動産屋さんらしい。
「畑と家をセットで購入される方もいますのでね。この場所でやれば一回で済みますから」
農業ギルドの応接セットに座るといろんな家のカタログを見せてもらった。やっぱり家は和風でしょう。今のリアルの田舎の町の家も和風で気に入っているんだよな。特注というか仕様をカタログから変更することもできるらしい。
畑は買える最大の広さにしよう。ネリーさんによると果樹園と畑の両方をやるのなら最大の広さがあった方が良いねと言ってくれた。
「大は小を兼ねるって言うだろう?」
まさにその通りだ。その畑に面して和風の家を見繕う。不動産屋さんのアドバイスに従って間取りを考えるがどう見てもいらないんじゃないかという部屋がいつもついてくる。
「これは工房用の部屋です。必要になりますよ。この部屋があれば自宅で錬金、鍛治、調理や裁縫など合成ができるんです。この街の各合成ギルドで簡易キットが売っていますからそれを買えば設置も収納も楽ですし、とにかくいちいちギルドの工房まで出向く必要がない。そしてその隣のこの部屋が倉庫です。合成の材料や製品はもちろん、収穫した野菜や果物を保管しておく倉庫も必要でしょう。外から出入りもできますよ」
流石に慣れている。なるほどと納得してその2つもつけてもらうことにした。
最終的に平屋の和風の建物で畳の部屋や洋間があり居間もキッチンもあるという立派な家がタブレット上にできた。畑の一角には地下水を汲み出す立派な井戸もある。母屋の隣には工房と倉庫の建物が並んでいる。
自宅の周囲も外から丸見えだと恥ずかしいので敷地の周囲を1メートル程の高さの石垣で囲い、その石垣の上は1.5メートル程の緑の木を植えて目隠しをする。これで外からは見えない。門のところは仕方がないがかなり隠せただろう。
うん、自分でも納得できる立派な家になったぞ。
「……それでおいくらになるんでしょうか?……」
「畑と家、それに井戸や周囲の石垣に目隠し、立派な家ですから1億5千万ベニーになりますね」
タブレットを見ている不動産屋の言葉を聞いて腰が抜けた。
「い、いちおくごせんまん?」
先に値段を聞いておくべきだったよ。俺の端末を見ると残金は3,800万ベニーほどしかない。この前のNM戦で3,000万ベニーが入っているとはいえ全然足りないじゃないか。これはまずいなと思っていると、不動産屋のおじさんが俺を見て言った。
「そうです。それが定価になりますが、タク様は特別割引券をお持ちですよね。それを使えば自己負担は10分の1、つまり1,500万ベニーのお支払いで済みますよ」
「ええっ!?」
あの割引券って9割引券なの? すごい割引率。それなら買えるじゃないか。
「本当に1,500万ベニーでいいの?」
声が震えているのが自分でもわかる。その言葉にはいと頷く不動産屋さん。
買えるとわかって心に余裕が出てきた俺は一応1億5千万ベニーの内訳を聞いた。家が8千万、畑が5千万、そして周囲の囲いや井戸設置料などが2千万らしい。アバウトだがゲームだからと頷く。これがリアルだったらもっと詳しく聞くところだけど。
不動産屋さんによると畑付きなので家の場所が農業区になるが家だけなら居住区のエリアで買えるそうだ。俺は農業もしたかったからこっちで問題ない。
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