買っちまった。やっちまった。

 念願の家と畑を買った。次は家の場所だ。聞くと俺は家を買う最初のプレイヤーということで場所は選び放題らしい。この開拓者の街の居住エリアの奥が農業エリアになっていてそこならどこでも良いという。ちなみに家だけなら居住区内でも買えるそうだが自分は畑で農業もしたいと思っているから農業エリアで全く問題ないね。


 それまで黙ってやりとりを聞いていた農業ギルドのギルマスのネリーさんが専門家の目から見ておすすめの場所を教えてくれた。そこは居住エリアから農作業エリアに入って少し歩いた奥まった場所だった。


「土と水の質がここが一番良いんだよ。黙っていても良い物ができるのは間違いないね」


 地図を見てタブレットを見てもなかなか良い場所に見える。あとで現場を見て確認するが目立つ場所じゃないのがいい。のんびりと過ごせそうだ。


 俺は特別割引券と1,500万ベニーを不動産屋さんに振り込んだ。プレイヤー以外のNPCなどに送金する場合は送金金額の上限はないらしい。ネリーさんも一緒に現場を見に行くよと不動産屋さんと3人で居住区の先の農業エリアに入る。NPCの畑がちらほらとあるがまだまだ土地には余裕がある。


 目的地に着くとタブレットで見るよりもずっと良い場所だった。山から流れてきている川の支流が自分の敷地の中を流れていた。当然使って構わないという。井戸と川の水とで十分な水は確保できそうだ。


 俺がOKすると不動産屋さんがタブレット上で操作をした。次の瞬間に目の前に和風の家が現れた。ゲームとは言え突然家が現れてびっくりしたよ。


 中を見たが打ち合わせ通りのレイアウトになっていて工房用のスペースや倉庫も十分な広さがあった。しかもだ、初めての購入者ということで家具がサービスでついてきた。嫌なら買い替えてくれというがどう見ても立派な家具が置かれている。居間にはソファとテーブル、キッチンには食器棚など、和室を見るとびっくりした。なんと囲炉裏がある。使わない時は板を乗せてその上に畳を乗せれば部屋全てが和室になるらしい。こたつも置ける。至れり尽くせりだ。洋間は来客用だろう、ここにもソファとテーブルが置かれていた。


『ワールドアナウンスです。初めて自宅を購入したプレイヤーがでました』


 これ、ワールドアナウンス案件だったのか。


 満足した俺は不動産屋さんにお礼を言い、ネリーさんにモグラをテイムして農作業をさせるのはどうかと聞いてみる。


「悪くは無いアイデアなんだけどね、モグラってのは土を掘り起こしたり池を作るのは得意なんだけど農作業自体はできないんだよ。従魔に畑や果樹園の手伝いをさせようと思うのならモグラじゃなくてこの盆地の西側に生息している子熊かあとは滅多に会えないけど土か木の妖精を従魔にすれば楽になるよ」


 子熊?妖精?そんなのがいるんだ。


「妖精は普段は隠れているからね。簡単じゃないけどうまくテイムできればこれほど役にたつ従魔はいないね。戦闘はできないけど農作業ならプロだよ。子熊は当たり外れがあるんだよね。よい従魔が見つかるまでは自分でやりなよ」


 そうしよう。モグラのテイムはキャンセルだ。農業ギルドで農機具も売っているというから家が落ち着いたら買いに行こう。俺は自宅の敷地を出ると農業ギルドの前でネリーさんと別れてその足でテイマーギルドに向かった。タロウとリンネと一緒に住めるのだからすぐに家に移してあげないとな。


 テイマーギルドで受付で話をすると農業ギルドから連絡がきていると言ってくれた。ゲームとは言え横の連絡が早いな。すでに従魔達は俺の自宅にいるというのでトンボ帰りで自宅に戻って門を開けるとタロウとリンネがすっ飛んできた。


「主、でかしたのです。すごいのです。タロウもリンネも大興奮なのです」


 タロウも尻尾をブンブン振って喜んでくれている。リンネは言わずもがなだ。


「ここが俺たちの新しい家だ。これからは家にいる時はずっと一緒にいられるぞ」

 

 大喜びの2体の従魔を撫でまわしていると通話着信があったという点滅を見る。ワールドアナウンスがあった直後に通話が来たんだけど農業ギルドやらテイマーギルドに顔を出していて電話に出れなかったんだよね。発信者を見るとクラリアだった。


 折り返し通話をするとすぐに繋がった。


「ワールドアナウンスがあったでしょ?あれってタク?」


「そうなんだよ。この街で家を買っちゃったよ」


「どこ?どうやって、えっと、今からスタンリーとマリアも誘って行くから。あのアナウンスの直後に攻略クランからもどうやったら家を買えるんだって問い合わせが来ているのよ。他の人たち、まだこの街に来ていない人からも問い合わせがきてるのよ」


 一気に捲し立ててくる。場所を言って通話を終えるとそばにいたリンネが顔をあげた。


「主のお友達がここに来るのです?」


「そうそう。リンネもタロウもよく知っている人たちだよ」


 しばらくすると門の外にいつもの4人が立っているが入れないよと叫んでいる。


(自分の敷地に入る人を登録しないと入ることができません。4人を登録しますか)


(頼む)


 そう言うと門が開いたらしく4人が庭に入ってきた。皆目を見開いている。


「またタクがやっちまったのか」


「いや、スタンリー、そうじゃ無いって」


 俺はこの街に来てからの話を順序立てて4人に説明した。それから家の中を見せたが和室と囲炉裏には皆びっくりする。その後は和室の前にある縁側に座って話をすることにした。彼らの希望だ。タロウとリンネは広い敷地の中を元気に走り回っていた。思い切り走れるのが嬉しいのだろう。うん、好きに走っていていいぞ。縁側の前が広めの庭になっていてその先が畑になっている。今はまだ耕していないから好きな場所を走り回っても問題ない。


「テイマーギルドでの会話がトリガーになっていたんだな」


 縁側に座るとトミーが言った。彼らはとりあえずクラン仲間を呼んでからこの街について調査をしようと思っていたらしい。何か抜け駆けしたみたいですまん。


「そこは気にしなくてもいいわ。それ以上に情報が取れているんだから」


「その通りだな。それに俺達は農業区に家を持つつもりはないし」


「あの…タク。私、庭でタロウ達と遊んできてもいい?」


 モフモフしたくて我慢できなくなったのだろう。黙っていたマリアが言った。彼女はタロウのファンだからな頼むよとスタンリーもいう。こっちは問題がない。いいよと言うと庭にすっ飛んでいった。タロウもリンネもマリアとは顔馴染みだ。すぐに一緒になって遊び始めた。土地が広いから思い切り走り回っても大丈夫だ。


 家を買うお金が8千万ベニーだがそれは凝った和風の家だからでカタログでは安いのもあったと値段を教えると、買えないことはないという情報クランと攻略クランのリーダー。やっぱり持っているんだな。お金はあるところには有るんだ。俺は割引券を使ったんだよと言うと皆びっくりしていた。9割引きなんて普通はないからね。


「間違いなく家を持つ人が増えるわね。先に場所を押さえちゃいましょうか」


「そうだな。この件については先に良い場所を押さえた方が良さそうだ」


 情報クランの2人がそんな話をしていると攻略クランも先に押さえるという。ゲームだからおそらく家の売り切れはないだろうが、良い場所はなくなる可能性がある。


 あと小熊の情報、モグラの情報、そして目玉となる妖精の情報。これらは情報クランとして買い取ってくれることになった。家の情報も含めて高く売れるだろうという話だ。


「この家は天国ね。庭は広いしタロウやリンネはいるし、気持ちよい場所だし」


 たっぷりと遊んだのだろう。マリアが戻ってきた。その後ろからタロウとリンネもやってきて2体とも縁側に上がるとタロウはゴロンと横になった。日向ぼっこらしい。リンネは座っている俺の膝の上にちょこんを座って4本の尻尾をブンブンと振り回している。


「でもやっぱりタクなのよね」


 マリアが言う。当人は俺の従魔と遊べて満足したのか今は攻略クランのサブマスターの顔になっていた。


「たまたまだろう?あの北の坑道は本に書いてあったからな。俺がとってきた情報じゃないぞ」


「でも本屋さんであの本を勧められるというのがすごいのよ」


 自分ではまったりやってるつもりなのだが。ツキが少しあるのは認めるけどそれだけだろう?坑道だって1人じゃ絶対にいけないし。


「しばらくタクは農作業するつもり?」


 クラリアが聞いてきたのでそうなるだろうなと答える。


「畑を耕して何か植えようと思ってる。あとは自宅の工房で合成かな」


「そうそう、それもすごい情報だ。簡易キットを買えば自宅で合成ができるというのも。合成職人には売れる情報だな」


 あとで聞いた話だが情報クランと攻略クランは俺の家を出たあと、早速不動産屋を訪ねて居住区の中に自宅という名のクランオフィスを買ったらしい。金額は教えてくれなかったが後日見に行くとどちらのクランの建物も2階建で大きくて立派だった。やっぱりトップクランはお金もちなんだな。大通りの店は誰も買うことができないらしく通りから少し入った場所だがそれでも通りから見えるし城門からもそう遠く無い。割引券もないのにあの規模の建物が買えるというのはすごいよ。

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