主は間違えないのです
翌日から俺達が先頭に立って探索を再開する。リンネはタロウの上に乗れと言うが、勘弁してくれ。人がいない時にやるからと2体の獣魔をなだめて山裾を西に進み出した。途中までは探索済みなので歩くスピードを上げる。タロウが唸り声をあげると後ろから来ている本体に合図をして倒してもらう。
昨日見た場所を過ぎてからは慎重に進み出した。山裾と言いながら森がすぐそこにあるので森の中の警戒が必要だ。それをタロウに任せて俺とリンネは山側を見ながら進んでいく。山裾も凸凹があり、先が見えない。その裾に沿って蛇行しながら進んでいると昨日の地点を過ぎて2時間程歩いたところに小さな坑道の入り口を見つけた。
「やっぱりこの山にも坑道があったな」
「これでタクの予想が正しかった事が証明されたわね」
スタンリーとクラリアがそう言ってくれるがこの坑道は小さくて馬車が通れる幅はない。俺はそう言ったがクラリアとマリアはそうじゃ無いと言う。
「大きさじゃなくって、坑道があったということが大事なのだから」
「その通りね、このまま探索を続けましょう。きっと馬車が通れる程の大きな坑道があるはずよ」
実際に坑道があったからだろう。メンバーの表情が明るい。俺は自分が本で読んだ通りだったので皆をミスリードしなくてよかったと喜びよりも安堵したよ。
最初の坑道が見つかると続いて坑道が見つかった。このあたりが採掘ポイントだったのだろう。ただどれも大きな坑道ではなかった。そこから更に10分程西に歩いたところで先頭を歩いている俺と従魔が大きな坑道を見つけた。すぐに全員が集まってくる。坑道は暗くて奥が見えないが馬車なら十分に通れそうな入り口だった。
タロウが坑道に入って奥を警戒するが唸り声を出さないので全員が坑道から少し入ったところで休憩がてら作戦会議となる。俺も一応参加して座りながら皆の話を聞いていた。
「奥がどうなってるかだな」
「松明はあるわよ。私とシーフのクラリアの2人で探索に行く?」
「それならタロウに行かせよう。こいつなら灯りもいらないぞ。そうだよな?」
スタンリーとマリアのやりとりを聞いていた俺がそう言ってタロウを見るとまかせろとばかりにガウガウと声を上げた。俺がタロウの頭をぽんぽんと叩いていると俺の頭の上に乗っているリンネが言った。
「リンネも行くのです。タロウの背中に乗って奥を見てくるのです」
「お前は大丈夫なのか?」
「もちろんなのです。タロウとリンネでしっかり見てくるのです」
「そう言うことならここはタクの従魔達に任せようか」
スタンリーが言った。
「タロウとリンネ、頼むぞ。奥がどうなっているのか見てくるんだ」
「任せるのです」
起き上がっているタロウの背中に乗っているリンネ2体とも準備万端だ。俺が気をつけて行ってこいというと2体が洞窟の奥に走っていった。残ったプレイヤーが坑道の出口を警戒しながら休んでいると5分ほどして奥からタロウが戻ってきた。
「ダメなのです。奥は行き止まりだったのです。タロウが蹴ってもびくともしないのです」
タロウも蹴破れなかったので残念そうだが、蹴って壊れる程脆くないぞ。そもそも開通しているのなら行き止まりではない。どうやらこの坑道ではなさそうだ。
休憩を終えた俺たちは再び山裾に沿って歩き出した。山裾の凹凸に沿って30分程歩くと再び大きな坑道を見つける。さっきのよりも更に大きい。中に入ってまたタロウとリンネに行ってもらおうかという話をした時、突然タロウが奥に向かって低い唸り声を上げた。
全員がすぐに戦闘態勢になる。すると自分たちがいる場所、坑道に入ってすぐの場所から20メートル程の奥の地面が光だした。
「転送盤だ」
誰かが声を出した。じっと見ていると光った転送盤に馬車と御者のNPCのおじさんの姿が現れた。向こうもまさかここに人がいるとは思っていなかったのだろう。驚いた表情になったがそのあと向こうから声をかけてきた。
「プレイヤーさん達かな。びっくりしたよ。開拓者の街に行く途中かね」
「こんにちは。そうなの」
その言葉で全員が戦闘態勢を解き、同時にこれが正解のルートだったと知って表情が緩む。クラリアが前に出てきて馬車に乗っているおじさんに話しかける。他のメンバーはクラリアに任せてやりとりを聞くことにした。
「今光ったその転送盤を使ったら私たちも山の向こう側に行けるの?」
「これを使うのは初めてかな?それだったら無理じゃよ。この転送盤はこことこの坑道の反対側、開拓者の街がある盆地の出口近くの2箇所にあるんじゃが、最初だけはこの2箇所を登録する必要があるんじゃ。登録が済むと次からは転送盤を使って坑道の中を移動できるんじゃよ」
なるほど。そういうカラクリがあるんだ。開通すれば坑道をショートカットできる。
「坑道の中には魔獣がいるのかしら?」
「ああ、いるぞ。ただそうだな、あんた達なら苦労せんだろう」
おじさんは俺たちの方を見てからそう言った。このレベルだと行けるそうだ。もちろん俺以外のメンバーのレベルの事だけど。
新鮮な野菜と果物を山裾の街に届けねばならんからこれで失礼すると行って馬車に乗ったおじさんが坑道を出ていくと、俺たちは転送盤が光った地面に近づいていく。
そこには地面の上に魔法陣の様な線が敷かれた土と同じ色をしている金属の板が置かれていた。最初にクラリアが乗る。
「脳内にアナウンスがあるわ。坑道転送盤その2を記録しましたって」
それを聞いた全員が順に転送盤の上にのる。俺とタロウ、リンネも乗った。
(坑道転送盤その2を記録しました)
サポートAIのミントの声がした。
「タクの予想通りだったな」
全員が記録したところでスタンリーがそばに来て言った。
「予想が外れていなくてよかったよ」
「主は間違えないのです」
俺が言うとリンネが俺の頭の上からどうだと言わんばかりの口調で言った。
「その通りだな。リンネの主は間違えないよな」
スタンリーが言うとその通りなのですとドヤ顔をするリンネ。いや見えないけど分かる。間違いなく今のリンネはドヤ顔をしているぞ。
坑道を奥に進んでいくと途中でコウモリやらモグラなどに出会うがこのメンバーの敵ではないと言っていたおじさんの言葉通りだった。結構な頻度で接敵するが全て倒していく。
この坑道のモグラは山裾の街のオレンジモグラと違って4本の足首が赤いんだよ。ミントに言わせるとレッドモグラというらしい。レベルも山裾のモグラよりも2つ程高い。
メンバーの1人がテイムに成功したので俺も落ち着いたらこの坑道のモグラをテイムしようかな。農業に使えるかもしれないしオレンジモグラよりもレベルが高いしね。
魔獣を倒しながら4時間程坑道を進んでいくと先に出口が見え、その手前にさっきと同じ様な転送盤があった。
(坑道転送盤その1を記録しました)
(これで坑道内はショートカットできる様になったのかな?)
(その通りです)
情報クランのメンバーが試して見ると転送盤の上にのるとしばらくして消え、そしてしばらくすると戻ってきた。彼女によれば、2つ登録した後で転送盤の上に乗るとウインドウが現れ、その2へ移動しますかと聞いてきてはいをタップすると向こう側に飛べるそうだ。帰りも同じ様にして戻ってこられる。情報クランはこうやって検証しているんだな。
坑道を抜けた俺たちは思わず声を出した。そこは四方を山に囲まれている広い盆地になっていて見る限り森や川、大きな池もある。そして前方右手の山の方にものすごく長い城壁に囲まれた街の遠景が見えていた。城壁の向こう側が見えない程だ。
「第3の街よりも広そうだな」
「城壁があるってことは敵がいるってことだ。気を引き締めていこう」
そこから戦闘をしながら3時間ほど移動した俺たちは開拓者の街に無事に辿り着いた。
途中で出会った敵のレベルは65から67前後と高かったがこのメンバーではそう苦労することもなく1人の脱落者も出さずに全員が街の門を潜った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます