そんな簡単に方針変更していいのか?
用事を片付けてログインするとメッセージがあるという点滅がウインドウに出ていた。情報クランの2人からだ。フレンドリストをみると2人ともこの街にいる。クラリアに通話をするとすぐに彼女が出た。トミーと2人でオフィスにいるので来てくれて構わないという。
情報クランのオフィスに顔を出した俺は2人を前にして俺は自分が思いついたことを伝える。手に入れた「この街と鉱山の歴史」という本をテーブルの上に広げて該当するページを見せて説明をしている間黙って聞いていた2人。
「う〜ん。そう言うことか」
「どおりで山道の攻略が厳しいはずだ」
俺の話が終わると2人が腕を組みながら声を出した。2人によると山道の攻略がなかなか捗っておらず、レベルが上がっても奥に進むと敵のレベルも上がっていて苦労しているらしい。
クラリアが端末を見て攻略クランのスタンリーとサブマスターのマリアをこのオフィスに呼び出した。しばらくして2人がやってきた。スタンリーは部屋に俺がいるのを見ると挨拶もそこそこに聞いてきた。
「タクがいいヒントを掴んだのかな」
「掴んだというか、気がついたというか」
トミーに頼むと言われてもう一度2人に自分の想像を話する。北の山にも坑道があり細々と採掘を続けていること、この街のレストランが開拓者の街から馬車で新鮮な野菜や果物を仕入れていることを聞いた。この2つから考えて北の山のどこかに生きている坑道があり、それが山の向こう側に続いているのではないかと。話をした最後にこれはあくまで俺個人の想像で確定じゃないからなと念を押した。
話しを聞いた攻略クランのトップ2人も情報クランと同じ様に唸り声を出す。
「方針を変更した方がよさそうだ」
唸り声の後にスタンリーが言った。俺以外の3人もその言葉に頷いている。
だから確定じゃないって言っているのにと思うが4人は俺が正解を持ってきたと思っているらしい。
「となると北の山の東側を起点にして西側に移動しながら坑道を探した方がよさそうですね」
すぐにマリアが方針を出す。流石に攻略クランだよね。情報を入手するとすぐに方針が出されていく。彼らの話では山道は険しくで攻略が本当に進んでいなかったらしい。ただこれはあくまで推定、予測だぞ。
「タクの情報だと馬車が開拓者の村からこの村に来ているということだ。つまり坑道は山裾にあると見て良いだろう」
「あの山道を馬車で通るのは不可能じゃないが現実的ではない。となると坑道を利用したトンネルがあると考えるのが妥当よね」
情報クランの2人もそう言ってこの場で攻略の方針が変更されることになった。俺は情報を提供した立場なのでそこから先はソファに座って4人のやり取りを聞いていたのだが、明日からやろうかといった時のメンバーに何故か俺と俺の従魔達が組み込まれている。
「ちょっと待ってよ。何でそこで俺もメンバーに入ってるんだよ。俺の忍者はLV56しかないんだよ。足手纏いでしかないだろう?情報というか推測は出した。あとはそっちの仕事じゃないのか?」
俺の言葉に首を左右に振る4人。何でだよ?何で全員揃って首を左右に振るんだよ。それも見事にシンクロしてるし。
「タクは持っているプレイヤーだからね。メンバーに入れるのは当然だな」
いやいや、待ってくれとスタンリーに言い返そうと思ったら先にトミーがいった。
「従魔も優秀だしな。十分に戦力になるよ」
俺は攻略組じゃないんだよ、まったりプレイヤーなんだよと言うが4人はもう決まりだからと俺をメンバーから外す気はさらさらないらしい。
「いいじゃん。情報料はもらえるし開拓者の街に一番乗りができるし、良いことずくめじゃないの」
「いや、クラリア、それは何かおかしい気がするぞ」
そう主張するが来てくれと、最後は懇願までされちゃったよ。
「わかった、わかった。行くから。一緒に行くけど期待すんなよ」
そう言わざるを得ない雰囲気だ。最後はやけくそ気味に言ってみたが、
「いえいえ、大いに期待してますよ」
ニコニコしながらそう言ったマリアに止めを刺された。
野営の準備をしておいてねと言われて用意をした翌日、指定された時間の前に山裾の街の城門を出たところの草原でタロウとリンネを呼び出す。例によって近くに登場するなりタロウは俺の体に自分の体をグイグイと押し付けてくる。リンネは頭の上に乗ってミーアキャットポーズで周囲を見渡すと、頭の上に乗ったままで言う。
「外なのです。ダンジョンよりもずっと明るいのです」
確かにな。どうやらリンネはダンジョンよりもフィールドがお好きな様だ。タロウもそうらしい。門を出入りするプレイヤーに見られながらも草原でタロウとリンネを撫でたり構ったりしていると城門から今回攻略するであろうメンバーが次々と出てきた。情報クランと攻略クランの攻略組のメンバーだ。全員とはイベントNM戦で一緒に戦った仲間だ。久しぶりとか挨拶を交わす。
それにしても自分の場違い感が半端ないんけど。パッとみた限りでも俺以外全員のレベルが60越えだぜ。
今回はそれぞれのクランから5名パーティが2つで合計10名、そして俺と従魔2体で攻略するらしい。俺と従魔は遊軍だ。まぁいつも通りだな。山の攻略は数が多けりゃいいってものでもないらしい。道が広くない可能性もある。なので精鋭を集めたよというスタンリー。
全員が揃うとスタンリーが代表して皆に話をする。
「タクの情報で北の山の中に坑道があり、それが山の向こう側に続いている可能性が出てきた。なので今日はまずはいつもの山道の入り口に向かうがそこから山裾を西に進みながら探索をしていく」
行こうかという声で11名と2体の従魔が北を目指して進み出した。俺の隣をタロウが歩きその背中にリンネが乗っている。
「主も乗るのです」
「今日は他の人がいるからやめておくよ」
「タロウは乗って欲しいと言っているのです」
「タロウ、今度な」
「ガウガウ」
そんな寂しそうな声で鳴くなよ。
俺と従魔とのやりとりを聞いていたメンバー。マリアはフェンリルのタロウのモフモフが良いらしい。今も気がつけば俺の近く、いやタロウの近くを歩いていた。そのマリアがリンネの言葉に食いついてきた。
「フェンリルのタロウに乗れるの?」
「リンネとタロウはそう言うんだよ」
俺がそう言うとタロウの背に乗っているリンネが言った。
「タロウの背中に乗っていいのは主とリンネだけなのです」
「だけどな、テイマーギルドの人も言ってただろ?俺がタロウに乗ると疲れやすくなるって。これからいっぱい歩いて戦闘もあるんだ。タロウが疲れたら困るだろう」
「わかったのです。リンネだけが背中に乗るのです」
お前は乗っとくんかい。
歩いているとタロウが低い唸り声を上げた。
「魔獣が近くにいる」
その言葉で全員が戦闘モードに入る。しばらくして森の中から獣人が現れた。
(オーガソルジャー LV62です)
やっぱり北に行くとレベルが高いな。と思っていたら10名で瞬殺していた。プレイヤーとほぼ同じレベルなのだろうが数の暴力で瞬殺だ。倒されると少し経験値が入ってきた。何もしていないのに経験値が入ってくる。何となく落ち着かない。
その後もタロウが唸り声を上げる、敵が現れるというパターンが続いた。タロウの周囲を警戒する能力は俺が想像していた以上に高かった。
「タロウが警戒してくれるおかげで不意打ちを喰らわない。これは助かるな」
「狩人のサーチはスキルで連続で使うと疲れるらしいけどタロウは大丈夫みたいだしね」
戦闘を終えて奥に進みながらそんな話をする攻略、情報クランのメンバー達。俺は全く貢献できないがタロウが貢献しているのなら良いか。実際にタロウはすごく頑張っていた。俺とリンネは応援係だ。
「タロウはすごいのです。できる子なのです」
倒すたびにそう言うリンネ。俺は撫でろと体を押し付けてくるタロウを撫でながらリンネに言った。
「そうだな、タロウはすごいな。それでリンネはどうなんだ?」
「リンネの出番はまだなのです。今は力を溜めているのです」
しれっと言うリンネ。ものは言いようだ。
「その時になったら頼むぞ」
「任せるのです」
北の森を抜けると目の前に山々が見えてきた。この山の向こうに開拓者の街があるという話だ。
「あれが山道の入り口なんだ。狭いだろう?」
トミーが指差す方向に顔を向けると確かに細い道が山の奥に伸びている。せいぜい人が2、3人並んで歩けるくらいの幅だ。歩くだけならいいだろうが戦闘になると剣を振り回す。そうなると一人分の幅しかない。
「本当だな。これは狭いわ」
確かにきつそうだと思うと同時にこの山道を馬車が来ることは無理だなというのも実感する。
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