初ダンジョン

 この日はインすると最初にレベル上げをした。ここ数日レベル上げを頑張ったおかげで俺達のレベルは56になった。先行組、攻略組から見るとまだまだ低いレベルだよ。でもゆっくりと上がっていっているのが実感できるのは嬉しいね。


 昼過ぎに山裾の街に戻って来て、この街で昼食を食べようと市内をウロウロしているといつか食べた野菜スープの屋台を思いだした。


 確か市内でレストランをやってるって言っていたなとその場所を思い出して通りを歩いて目的のレストランを見つける。お昼のピークを過ぎていたせいか中に入ると結構空席があった。


「いらっしゃい。プレイヤーさんですね。何にしますか?」


 給仕の若い女の子がテーブルにやってきた。


「イベントの時に食べた野菜スープが美味しくてそれを食べに来たんだよ」


 そう言うとありがとうございますとお礼を言った給仕さん。本当によく出来てるよ。言葉だけじゃなく表情や動きも多彩だ。リアルと変わらないね。


「野菜スープとパスタの組み合わせはどうですか?。うちの店はパスタも自慢なんですよ」


「じゃあそれで」


 暫く待っているとお待たせしました。と盆の上に野菜スープとパスタを乗せて運んできてくれた。野菜スープは屋台と同じ味で美味しかったしパスタも絶品だ。全部平らげると席を立ったタイミングで厨房から親父さんが出てきた。屋台で野菜スープをサービスしてくれたその人だった。


「よお、来てくれたんだな」


 向こうも俺を覚えていてくれた。こういうのは地味に嬉しい。


「屋台で食べた野菜スープが美味しかったからね。それと今日はパスタも食べたけどこれも絶品だよ。凄く美味しかった」


「そりゃありがとうよ。良かったら贔屓にしてくれよな」


「もちろん。また寄せてもらうよ」

 

 食事は良い気分転換になる。美味しかったら尚更だ。

 

 飯も食ったしどうするかなと通りの端で立ち止まって考える。合成は最近根を詰めて頑張った。外でのレベル上げは午前中やったし。


 そうだ、ダンジョンに行ってみよう。と唐突に思い立った。

 持ち物の中にツルハシがあるのを確認すると街の奥に向かって緩やかな坂を上っていく。同じ目的のプレイヤーだろう。坂を上っていく人と坂の上から降りてくる人がいる。大抵はパーティを組んでいた。ソロなのは俺くらいだ。


 坂を登り切ったところの山裾にぽっかりと洞窟の様に穴が開いていた。その穴の近くに小屋があってNPCの衛兵が詰めている。


「この穴を入って暫くは採掘場所だ。そこでは魔獣が出ない代わりに自分達の従魔も呼び出せない。洞窟を奥に進んでいくと広場がって詰め所がある。そこから先はダンジョン扱いとなって魔獣が出て来るから気を付けるんだ」


 お礼を言って洞窟に入った。中には灯りが付いていて分岐にはちゃんと分岐、本道と立札が出ていて中で迷わない気配りがされていた。歩いていると光っている場所を見つけたのでツルハシを当てるとキンという高い音がした。


(鉄鉱石を1つ手に入れました)


 こんな調子で道中で3つ程鉄鉱石を手に入れて歩いていくと広場に出た。洞窟の中にぽっかりと広がっている空間だ。その広場の奥、俺が入ってきた場所の反対側に小屋が合ってNPCが立っている。あそこがダンジョンの入り口だろう。


 広場にはプレイヤー達がパーティごとに固まっていた。その中にモグラを連れているプレイヤーがいた。


 初めて見るモグラは身長は1メートル程で全身が茶色だが4本の足首から先はオレンジ色になっていた。本当のモグラは目が殆ど見えないと聞いているがこのゲームでのモグラは黒目をぱっちりと開けている。


 可愛いけれども、テイムするまではあいつは魔獣なんだよな。

 

 気を引き締めた俺はこの場所でタロウとリンネを呼び出した。


 いつものフィールドではない景色に一瞬だけびっくりしたがすぐに2体とも俺に寄ってきた。撫でていると気持ちよさそうに両耳を倒しているタロウ。リンネは俺の頭の上に乗ると後ろ足だけ俺の頭の上に乗せて伸び上がって周囲を見る。ミーアキャットスタイル。俺はリンネのこの格好をそう呼んでいる。


「主、ここは新しい場所なのです?。リンネが知らない場所なのです」


「そうだ。ここはダンジョンという場所の入り口だよ。これからあの洞窟の中に入るぞ、魔獣がいるから倒しながら進んでいくんだ」


「ガウガウ」


「分かったのです。魔獣を手当たり次第にやっつけてやるのです」


 2体の従魔を呼び出した時から広場で注目を浴びている俺達。タロウもリンネも人気があるからな。リンネと会話をしているのを見ていた周囲のプレイヤー達。特に女性陣からは、


「ほんとに話ができるんだ」


「フェンリルも可愛いわね」


と言う声が聞こえてきていた。


 あまり見せつけるのもどうかなと俺達は洞窟の入り口に近づいていった。入り口に立っていたNPCの衛兵が俺達を見て言った。


「中には魔獣がいる。気を付けるんだぞ」


「はいなのです」


 リンネが俺の代わりに返事をしてくれた。



 初めてのダンジョンだ。



 ダンジョンに入ると洞窟が奥に伸びていた。幅が広くて高さもある。壁はぼんやりと光っていて通路の奥まで続いていた。視界が悪いと言う程でもない。


 俺の横を歩いているタロウも今の所いつもと同じだ。リンネはダンジョンに入ってからは俺の頭の上ではなくタロウの背中に乗って前を見ていた。俺はダンジョンに入った所で空蝉の術1を唱えている。準備万端だ。


 タロウが低いうなり声を上げたかと思うとリンネの身体が震えて強化魔法が掛けられる。魔法を掛けたリンネはタロウから飛び降りる。俺も両手に刀を持った。すぐに洞窟の奥から大きな黒い生き物が飛んできた。


(ケイブバット LV55です)


 タロウが威圧を掛けると蝙蝠がターゲットをタロウにする。向かってきたところをタロウと俺で攻撃すると3,4度刀を振るったところで蝙蝠が光の粒になって消えた。


「主、この調子で頑張るのです」


「そうだな。頑張ろう」


 その後も単体で襲って来る蝙蝠を倒していると洞窟が2つに分岐していた。ここには立札はない。当たり前だよな。左の洞窟はややのぼり、右はやや下りになっている。上ってみようかと左の洞窟を進みだした。


 相変わらず出てくる魔獣はLV55、時に56の蝙蝠だ。単発なので助かるよ。洞窟の中を飛んでいるがタロウが威圧をすると上から降りてくるのでそれを待って攻撃すれば楽に倒せる。


 途中で同じ様にコウモリを相手にしているプレイヤー達のパーティにも会うが洞窟が広いので戦闘の邪魔にならない様に彼らを避けながら奥に進んでいく。洞窟で休んでいるパーティの前を通ると例によってリンネとタロウが注目の的だ。


 俺たちはさらに奥に進んでいった。今のところ出会うのは蝙蝠ばかりでもぐらの姿はまだ見ていない。今もケーブバットを倒すと洞窟の壁に持たれて休憩する。俺が座るとその前でタロウがゴロンと横になり、リンネは俺とタロウの小さな隙間に体を入れていた。2体の獣魔を撫でている俺。こうしてみるとタロウも大きくなったな。


「これならそのうちに俺、タロウに乗れるんじゃない」


 そう呟いた俺の言葉を聞いていたリンネ。ムクっと起き上がると俺を見て言う。


「主は今でもタロウに乗れるのです。タロウも背中に乗れと言っているのです」


「まじか?」


 そう言ってタロウを見るとゴロンと寝たまま尻尾を激しく振っている。起き上がると撫でて貰えないとでも思っているのかな。でも可愛いぞ。


「大丈夫なのです。リンネも乗るのです。これであっという間に移動ができるのです」


 確かにリンネの言う通りだ。移動は随分と楽になるな。帰りは転移の腕輪もあるし。ダンジョンの中だと流石にまずいから今度フィールドで乗ってみよう。


 休憩を終えると奥に進んでいってみたが結局コウモリしかおらず、そのレベルが上がってきた。


(三連バットです。LV60です)


 コウモリが3匹連なって襲ってくる。ヘイトは連動しているのでタロウが威圧をかけると3匹ともタロウに向かってくる。それを倒すのだが結構きつい。まだこっちが56だから死闘になる。何とか倒すと俺たちは引き返して分岐を右に行くことにした。


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