黒翡翠の欠片 NM戦
NM戦は2度目なので焦りはない。特殊フィールドに飛ぶと情報クランと攻略クランのメンバーはきびきびと動いて戦闘態勢を作った。俺は直ぐに空蝉の術1を詠唱する。ウィンドウの隅に2と言う数字とその下にリキャストタイムが表示された。
このNMは移動してから10分後にPOPし、そこから時間がカウントされる。空蝉の術をここで唱えて置けば短時間で4体分身を作り出すことが出来るからな。
「何がPOPするか」
「強いのは間違いない。楽しみだぜ」
攻略組のプレイヤー達の声が聞こえてくる。俺も昔はそうだったかもしれないが今はまったりプレイヤーだ。何より周囲よりもレベルが低い。トリガーは提供したが戦闘ではあまり貢献は出来そうにないのは自分が一番よく知っているぞ。
タロウとリンネは俺と違って気合十分だった。タロウの背中に乗っているリンネ。
「悪い奴をタロウとリンネでとっちめてやるのです」
と息巻いている。タロウもそうだそうだといわんばかりにガウガウと吠えている。
緊張して待っていると地面が光出したかと思うとこのゲームでは今まで見たことがない大きさの魔獣が現れた。体長は3メートル以上もあり、両手に片手剣を持っており胴には鎧をまとっていた。鎧を着ている魔獣は初めてだ。もちろんこの大きさの魔獣も初めて。
(オーガジェネラル。オーガを束ねる将軍です。今回のイベントNMとしては最強となります)
ミントの声が聞こえてきた。これは将軍なのか、でかいと思っていたら最強のNMだった。
プレイヤー全員がサポートAIの言葉を聞いたのだろう。
「こいつが最強のNMか」
「将軍だってさ」
「最強いいじゃないの、やってやろうぜ」
あちこちからそんな声が聞こえてくる。皆気合十分だ。それに強いのとやるのが本当に楽しそうだ。皆生き生きとしているのがわかる。
盾ジョブ連中が強化魔法を受けて戦闘が始まった。挑発を掛けた盾ジョブのナイトに両手に片手剣を持っている姿で襲いかかってきた。高レベルのナイトさんが背後に吹っ飛びそうになるのを何とか耐えた。すぐにヒールシャワーが飛んでくる。
「2枚盾で対応!」
スタンリーの声が飛ぶともう1人のナイトが前に出た。2人で挑発を繰り返しながらゼネラルの攻撃に耐える。NM戦では事前の打ち合わせ通り、攻略クランのスタンリーが戦闘の指揮を取っていた。
「皆行くぞ!打ち合わせ通りだ。前衛は足か腕、精霊士と狩人は顔を狙え」
その声でゼネラルを取り囲んでいたプレイヤーが一斉に攻撃を開始する。胴には鎧を纏っているので狙いは足か腕だ。ただそう簡単には傷を付けさせてくれない。片手剣を振って牽制してくるがその片手剣を振るスピードが速くなかなか懐に入れない。
序盤のダメージソースは精霊士の魔法と狩人の矢になっていた。ただ彼らは連続して撃ち続けるとタゲをナイトからとってしまうのでインターバルを空けざるを得ない。なかなかNMの体力を減らせない。
そんな中頑張ったのがタロウだ。各自が攻撃のタイミングを探っていると、タロウが背後から蹴りを入れた。その後もNMのオーガジェネラルの片手剣の攻撃をジャンプして避けながら背後から蹴りや前足で攻撃していく。タロウの攻撃でジェネラルが顔の向きを変えればその瞬間に前衛の剣が足に振り下ろされる。
ようやく俺達プレイヤーがオーガジェネラルに少しずつだがダメージを与える事が出来る様になっていった。とは言っても恐らくまだ殆ど体力を削ってはいないだろう。
「20分経過」
情報クランのメンバーでタイムキーパーを担当している精霊士の女性の声がフィールドに飛ぶ。もう20分経ったのか。まだ殆ど削れていないぞ。それでも攻略クランは慣れているのか同じ攻撃を執拗に繰り返している。
焦るなよ、とか。ゆっくり削ろうぜと声を掛け合いながら武器を振るプレイヤー達。盾ジョブのナイトはしっかりと2チーム交代でヘイトを稼ぎながらオーガジェネラルの剣を受け止めていた。
俺はNMに近づいて2本の刀で足に傷をつけては離れる、ヒットアンドアウェイでちまちまと攻撃していた。分身がある間は安全マージを少なめにして出来るだけ刀を振る様にしているがそれでもオーガの片手剣が振られたと思ったら分身が1つになっていた。NMの動きも相当早い。タロウは相変わらず後ろのポジションを取ると攻撃し、リンネもNMの顔に精霊魔法を撃っている。
「1時間経過」
20分毎に時間経過を報告している精霊士。今で戦闘開始から1時間、制限時間の内25%を消化したがどう見てもボスの体力を25%も削れていない。せいぜい10%ちょっとだろう。
「タロウ、リンネ」
2体が戻ってくるとサーバントポーションを身体に振りかける。それから2体を撫でてやる。
「無理するなよ」
「ガウガウ」
「大丈夫なのです。リンネは主のいう事を聞く良い子なのです。無理はしないのです」
よし行ってこいというとタロウが飛び出した。リンネは俺の傍で四つん這いで踏ん張ると精霊魔法を顔にぶつける。俺達はゆっくりとオーガジェネラルの体力を削っていた。
「2時間40分経過」
時間は進んで行くがオーガジェネラルの体力が減った様には見えない。今の所事故もなく全員が自分の仕事を全うしている。俺も数度空蝉の術を張っては足に傷をつけていた。
「しっかり削ってるぞ。そろそろ来るぞ」
俺には分からないがスタンリーには見えているのか狂騒状態が近いと大声で言った。それから数分後、ジェネラルが大声を上げると仁王立ちになる。
狂騒状態だ。
それまで同じ場所であまり動かなかったジェネラルが動いて俺達の集団に向かってきた。散開して逃げる。僧侶や精霊士が逃げ回ることで魔法が撃てなくなった。ナイトが総出で挑発スキルを繰り出して何とか足止めをするが少し経つとまた暴れて動き回り始める。動きが早く前衛の武器も届かない事が多くなってきた。
これはまずいと思っていた時にタロウがジャンプをして背中からジェネラルに飛び乗ると背中に乗ったまま後ろからその首に嚙みついた。痛みから思わずその場で立ち止まり両手に持っている片手剣を自分の背中に回すが噛みついたままその剣を避けるタロウ。背中に剣を振ろうとしているので前がガラ空きになった。
「今だ、全員でやるぞ」
前衛も後衛も一斉に魔法や剣でオーガジェネラルに襲い掛かって剣や魔法を浴びせる。タロウは体を振られながらもしっかりと首に噛み付いたままだ。
そして数分後、一番大きな叫び声を上げたオーガジェネラルが地面に倒れこんで光出した。
「「「おおおおおっ!!!!」」」
勝どきを上げるプレイヤー。俺も叫んだよ。いつの間にか頭の上に乗っていたリンネも叫んでいた。戦闘時間3時間50分、制限時間ぎりぎりの戦闘で俺達は最強のNMに勝利した。
「タク、とりあえず端末に収納して」
クラリアに言われて端末をかざすと沢山のアイテムが入ってきた。名前なんて見ずにとりあえず全部収納した。NMが消えると周囲が光り、元の草原に戻ってきた俺達。全員が高揚している。
「いやぁ強かった」
「固かったよねー」
「やっぱり強いのとやって勝つと気分がいいよな」
そんな風に言い合っている中、皆がタロウを褒めてくれる。
「タロウのおかげだ」
「そうそう。タロウがいなかったらやばかったよ」
いろんなプレイヤーから褒められながら撫でられまくっているタロウだが、まんざらでもなさそうな表情だ。耳を後ろに垂らせながら好きに撫でられている。
「タロウはよく頑張ったのです。凄いのです。主の次に凄いのです」
リンネは俺の頭の上に乗ったままそう言ったが、
「いや、タロウの方がずっと凄かっただろう」
俺は頭を動かさず目だけ上を向けて言った。見えたのはリンネの前足だけだ。
「リンネの主はいつも一番なのです」
そうか。まぁそう言われて悪い気はしないが、どう見ても今回はタロウだぞ。
「リンネも頑張ったな、えらいぞ」
「後でご褒美に撫でるのです」
「分かった」
リンネとそんなやりとりをしているとアナウンスが聞こえてきた。
『ワールドアナウンスです。今回のイベントでの最強のイベントNMがプレイヤー達によって倒されました』
それを聞いていた俺たち参加者達は全員で草原で勝鬨をあげた。周囲にいた他のプレイヤー達がこちらを見ている。やっぱりあの2つのクランが合同で倒したんだなとか言う声が聞こえてきた。そう、その通り。攻略クランと情報クランがいたから倒せたんだよ。
ひとしきり勝鬨をあげ、勝利の余韻に浸っていた俺たち。それが落ち着いて山裾の街に向かって歩いているとスタンリーとマリアが近づいてきた。
「うちのメンバー達が言っている。間違いなくフェンリルのタロウが最大の貢献者だってな」
「その通りです。あの狂騒状態が続けば時間切れになっていたでしょう。タロウのおかげですね」
マリアは真面目な顔をして言っているが片手でしっかりタロウを撫でていた。モフモフ目的なのが丸見えだよ。タロウが喜んでるからいいんだけどね。
しっかりと休むんだよと城門の前で2体をリターンさせて街の中に入った俺達。その足で情報クランのオフィスに足を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます