戦利品がいっぱい出た

 情報クランのオフィスの中にある会議室に全員が入ると俺は端末から戦利品、アイテムを順に取り出してテーブルの上に置いていく。

 

 最初に片手剣を置いたところでおおっという声が上がった。見たこともない剣だ。という声が聞こえる。それからもアイテムを出すたびに歓声が上がる会議室。やっぱり新しいアイテムには皆興味津々だ。俺だってそうだし。


 最終的にNMのオーガジェネラルを倒して得られたアイテムは27個あった。


武器

 片手剣2本(どちらも同じもの)

 短剣 2本

 弓  1張

 杖  2本


防具

 ローブ 2着(白くて赤の縁取りがある。僧侶用)

 ローブ 2着(紺に金の縁取りがある。精霊士用)

 革のシャツとズボンのセット (戦士、シーフ、狩人用)2セット

 盾 1個


装備

 怪力の腕輪 1個

 知性の腕輪 1個

 転移の腕輪 1個

 守りの腕輪 1個

 遠隔の腕輪 1個


アイテム

 エクストラポーション 3個 (体力を完全に回復する。リキャスト0秒)

 エクストラマジックポーション 3個 (魔力を完全に回復する。リキャスト0秒)

 特別割引券


ベニー

 額面5,000万ベニーの小切手(端末を小切手にかざす事で入金できる)


 小切手も入れて27アイテムもでた。最大参加人数分よりも多い。流石にイベント最強のNMのドロップ品だね。全てのアイテムをテーブルに出し終えると全員が俺を見た。ん?何故にこちらを見ている?


「すごいのが一杯出たね」


 全員の視線を浴びているのでとりあえずそう言ってみた。するとクラリアが言った。


「これらのアイテムはタクのトリガーを使って使ったNMを倒して出たの。全部のアイテムでタクに優先権があるのよ」


 ちょっと待ってよ。俺1人じゃ絶対に勝てなかったんだよ?俺はそう言って全部貰おうなんて言う気は全くないと言った。


「見てみてよ、武器系って俺が使えるのは1つもないじゃない。刀もないし。ローブだって皮の防具だって忍者は装備できない。貰っても使えないから皆で分けてくれよ」


 ここははっきりと言っておかないと。


「じゃあ最初にタクが欲しいのを選んでくれ。残ったのをここにいるメンバーで分ける」


「それがいいな」


 スタンリーが言うとトミーもそれでいいと言う。他のメンバーも口々にそれでいいと言った。分かったと俺はテーブルに視線を戻す。


 俺がテーブルの上に置かれているアイテムで興味があるのは2つしかない。見たときにすぐに俺はサポートAIのミントに聞いていた。


(ミント、転移の腕輪について教えて)


(はい。転移の腕輪を装備しているとフィールド上のどこからでも自分がすでに登録してある転移盤の好きな場所まで飛ぶことができます。回数制限はありません。お金もかかりません)


 山の中でも森の中でもどこからでも好きな街に帰ることができる。これは欲しいと思っていた。


「じゃあ、悪いけど俺は転移の腕輪と何か分からないけど特別割引券というのをもらう。これだけでいいよ」


 俺が転移の腕輪を手に取るとやっぱりそれになるよな。とスタンリーが言った。クラリアも同じ様に言ってからこの腕輪はお金に変えられない価値があるわねと続けて言う。彼らもサポートAIを通じてこの腕輪の能力を聞いたのだろ。


「他にはいいの?」


 腕輪と割引券を手に取った俺を見てクラリアが聞いてきた。


「これで充分だよ。ここにいる全員の協力があって倒せたんだ。あとはみんなで分けてくれて構わない」


 特別割引券ってのが分からないけど何かを割引いてくれるのだろう。割引率も書いていないので何割引かもわからない。新しい忍者の装備とかが安く買えるんだったらいいなという期待を込めてこれも貰った。


 その後はもめることなくアイテムを分配していく。皆大人だよ。普通はアイテムの取り合いでギスギスするんだがそうじゃない。皆クランにとってどういう分配がいいかというところから考えている。野良パーティじゃこうはいかなかっただろう。


 全員の分配が終わると最後に小切手だけがテーブルの上に残った。


「5,000万ベニーの小切手。これはタクね」


「そうだな。タクが貰うのは当然だな。俺たちは皆なにがしかのアイテムを貰ったし」

 

 クラリアとスタンリーが言ったが、


「いやいや、それもおかしいって。皆も準備でポーションとかでお金使ってるじゃない。俺が全部もらうのはおかしいって。さっきも言ったけどさ、1人じゃ倒せないんだから」


 転移の腕輪と割引券を貰って、さらにこんなに沢山の現金を貰ったらこれからずっと気が引けたままだよ。ところが皆はタクの物だタクのお金だと言って譲らない。


 埒が開かないまま時間が過ぎていった。こりゃ纏まらないのかなと思っているとスタンリーが一つ提案があると言った。


「俺の提案は5,000万ベニーから1人辺り100万ベニーを参加者に分配し残りをタクの取り分とすることだ」


 俺以外の参加者は全員で20名。20名X100万、つまり2,000万ベニーを渡したとしても自分に3,000万ベニーが残る。


「いやいや、それだと俺がまだ貰いすぎじゃないの?」


「黒翡翠の欠片、イベント最強のNM、そのトリガーを見つけてきたのはタクだ。俺たちは強いNMと対戦して結果いろんなアイテムを貰った。あのトリガーがなければ得られなかったアイテムばかりだ。タクが多く貰うのは当然だよ」


 スタンリーが言うとサブマスターのマリアが賛成する。情報クランに顔を向けるとマスターのクラリアも、サブマスターのトミーもその案でいいんじゃないかと賛成した。他の参加者もそれでいいとか、さすがマスター頭いいねとか言っている。


 トリガーを出しただけで3,000万。しかも転移の腕輪まで貰っている。


「本来はタクが全部貰っても誰も何も言わないよ。だけどどうしてもタクが全額は貰えないというのならその一部を参加者に分配したらどうかと思ったんだ」


 スタンリーらは攻略クランのメンバーに、クラリアらは情報クランのメンバーに今のスタンリーの提案はどうかと聞けば全員がそれでいいんじゃないという答えだった。フレンドのルリとリサもそれで問題ないという。


「スタンリーも言っているけど私たちはアイテムを貰っているからね。本来それで十分よ。だから彼の提案でいいと思うわよ。それに最初のNM戦でも装備をもらっているし」


 やっと話がまとまった。


 俺は小切手を端末にかざして一旦5,000万を入金するとその場で一人当たり100万ベニーを分配というか振り込んでいく。最終的に自分の端末には3,000万ベニーがしっかりと残っていた。一気に大金持ちになったよ。


 ふぅ、それにしても疲れたよ。

 ぐったりしていると、


「経験値、増えてるでしょ?」


 あっ、クラリアに言われて気がついた。端末を見るとレベルが何と2つも上がっていた。忍者が55になっていた。


「午前のNM戦で1つ上がって、今ので2つ上がった」


 攻略組も情報組も皆レベルが1つか2つ上がったらしい。


「それだけ強い相手だったということね」


 マリアが言うと皆が頷く。

 

「楽しかったね。ワールドアナウンスもゲットしたし。イベント最終日に相応しいイベントだった」


 クラリアの言葉に本当にそうだねと言うメンバー。俺も全くその通りだった。楽しいイベントでおまけにすごいアイテムまで手にいれることができた。満足だよ。


 全ての戦利品の分配が終わった。このパーティも一旦解散だ。


「またタクと一緒に何かやりたいな」


 帰り支度をしながらスタンリーが言った。


「その前にレベルを上げないとな。皆に迷惑かけない様にしておくよ」


「従魔もだがタクも相当優秀だね。今日のNM戦を見てそう感じたよ」


「それは買いかぶりだよ。こっちはソロが主体のまったりプレイヤーだよ」


「そう言うことにしておこうか」


 ん?含みがあるな。どうもスタンリーは俺の事を過大評価している気がするんだよね。いい人だからいいんだけど。

 

 いい人といえばスタンリーはじめ攻略クランの人たちが想像以上に良い人ばかりだったのは今日の収穫だったよ。以前のゲームの悪印象を引きずり過ぎていたかもしれない。前のゲームは前のゲーム。PWLはPWLとこれからは別に考えよう。


 スタンリー達攻略クランは休み明けからまたこの新エリアの探索を始めるのだという。このエリアはかなり広くて北の方は山が連なっていてなかなか探索が大変らしい。でもだからこそ何かがありそうだと思わないかと言ってきた。そうかもなと返事をする。


「タクも何か見つけたり聞いたら教えてくれるかな」


「聞いたらね」


「この街の情報もタクが取ってきたんだろう?期待してるよ」


 俺はあまり過度な期待はすんなよと言っておいた。たまたま聞いた話なだけなのだから。




「「お疲れ様」」


「「お疲れ様でしたー またよろしくー」」


 NM攻略パーティが解散したのは日曜日の夕刻遅い時間だった。


 流石に1日にNM2連戦というのは疲れる。皆んなと別れた俺はログアウトする前に山裾の街のテイマーギルドに顔を出した。今日頑張ったタロウとリンネを労ってやらないとな。


「主、主が来てくれたのです」

 

 テイマーギルドに入って奥の扉を開けるといつもの様にタロウとリンネがすっ飛んできた。俺が地面にしゃがみ込むとその前に体をゴロンと横にして懐いてくるタロウ。リンネも今は俺の膝の上に乗っている。今は俺の膝の上に座りたい気分らしい。2体の従魔の背中を撫でて労ってやる。


「今日はタロウもリンネもよく頑張ったな。おかげで2回とも勝利したよ」


「頑張ったのです。タロウもリンネも主のために頑張ったのです」


「ガウガウ」


 ゴロンと横になりながら話すリンネとタロウ。そうそう本当に今日はお前達は頑張ったぞ、えらいえらい。


 従魔を撫でていると気がついた。いつの間にかリンネの尾が4本になっていた。そしてタロウはまた少し大きくなっていた。


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