緑翡翠の欠片 NM戦2
光が消えるとさっきと同じ場所にいた。
「これがNM戦専用のフィールドなの、周囲は気にしなくても良いから。5分後にPOPするわよ」
クラリアの声を聞いた俺は空蝉の術1を唱える。リキャストが10分だから湧く前に唱えておいた方が少しでもリキャが短くなるんじゃないと思ったんだよ。
さっきまで戯れていたタロウとリンネもNMが湧くと聞いて真剣な表情になっていた。そうだ、この子達はやる時はやる子なのだ。えらいぞ。
あの光っている場所に湧くのだろう。すでに情報クランの盾ジョブの人やサブマスのトミーらが武器を構えて戦闘態勢になっている。
NMがPOPするまでの間に僧侶が自分の担当する盾ジョブの背後に位置すると強化魔法を掛ける。戦士やシーフと言った攻撃ジョブの面々は盾ジョブと僧侶の間に立っており、精霊士は僧侶と同じ場所で準備をする。
「すげぇ」
一瞬で戦闘態勢に入ったプレイヤー達を見て感心する俺。情報クランとはいえ彼らが何度も強敵を攻略しているというのも頷ける。彼らの動きを見て戦闘に慣れているなと感じた。
そんな彼らを横目に俺と従魔は僧侶や精霊士と同じ場所で待機だ。僧侶のリサは俺と同じ場所だが戦士のルリは盾ジョブの後ろに立っている。
「来るぞ!」
トミーがそう言った瞬間、地面からNMがPOPした。大型のオークだ。エリアボス並みかそれ以上の大きさだろうしかも棍棒じゃなくて右手に剣を持っている。剣だよ!
NMが登場すると同時に盾の部隊前に出ると挑発のスキルを発動してNMのタゲを取る。盾は交代でタゲを取りながらその周囲から戦士らが攻撃を加えるという戦術だ。オーソドックスだが安定する戦い方と言える。自分も他のゲームの時にはこのスタイルで何度も戦闘をしたなと思い出していた。優秀な戦法はゲームが変わってもプレイヤー達の間で引き継がれるものなんだな。
戦闘が始まって暫くはNMの攻撃を盾ジョブのプレイヤーが防ぎながら挑発スキルと片手剣で応戦している。盾の背後からは僧侶が交代で回復魔法をうってプレイヤーの体力をキープしていた。
「そろそろOKだ」
この戦闘を指揮しているトミーが叫ぶと待機していた他のプレイヤー達がNMの周囲に散開し攻撃を開始する。
「タロウ、リンネ、俺達も行くぞ」
「ガウガウ」
「はいなのです」
タロウが飛び出してNMのオークの背後から蹴りや前足での攻撃を加える、リンネは体を震わせると顔を狙って精霊魔法を撃つ。俺も飛び出すとオークの横に立って両手に持っている刀で攻撃を始めた。ただ流石にNMだけあって身体が固い。傷はつけられるが全てが浅い。レベル差があるにしてもこれは凹むよ。
「前衛、一旦引く!」
トミーの声でオークの周囲にいた前衛プレイヤーが一斉に離れた。もちろん、俺もタロウも離れる。
ここでもう一度盾ジョブにしっかりとタゲをキープさせる作戦らしい。いつの間にかNMのタゲを持っているプレイヤーが変わっていた。NMが振り回す片手剣を盾でがっちりと受け止める時に出る派手な音が聞こえてくる。
「攻撃再開!」
再び全員で殴りかかる。このゲームでは敵のHPバーというのが表示されないのでどれくらい相手の体力を削ったのかが見えないのだが情報クランの連中はNM戦に慣れているのだろう。
「そろそろ狂騒状態になるぞ」
残りのHPが1/3か1/4になったら狂騒状態になるが、トミーはそのタイミングをしっかりと掴んでいた。情報クランのサブマスだが攻略組として十分に戦力になるんじゃないかと思う程に強いし指示が的確だ。クランマスターのクラリアもシーフというジョブ特性を使ってリキャスト毎に背後から不意打ちを撃って大きなダメージを与えていた。
トミーが叫んでからそう時間が経たずにNMのオークが狂騒状態になった。今までと違って全身が赤くなり、片手剣を今まで以上に素早く振り回してくる。それをがっちりと受け止める盾ジョブ。今は2人が前線に出てオークの攻撃を受け止めていた。
「みんな行くぞ!」
再びトミーの声がすると振り回している片手剣を避けながら全員がオークに近づいて攻撃していく。俺も飛び込んで片手刀を振り回して傷をつける。想像以上に早いオークの片手剣で分身1体が消えた。空蝉の術を唱えていなかったらあの一撃で死に戻りだっただろう。いや、助かった。
「主、無理は禁物なのです」
俺の後ろからリンネが言った。分かったと注意をしながらちまちまと刀を振り回していると2体目の分身も消される。
直ぐに背後に下がって空蝉の術1を再詠唱してオークに殴りかかっていった。リキャスト10分だから今回の分身が消されたら前に出られない。だったら消えるまで全力でやってやるぜ。
オークNMの体力があとどれほどあるか分からない中で攻撃を加えているとオークが背を伸ばして大きな雄たけびを上げた。
「もう少しだ。気を抜くな!」
何度も経験してNMのパターンを理解しているのだろう。ラストスパートとばかりに剣や魔法が次々とオークに命中すると最後の雄たけびを上げたオークがその場に倒れて光出した。
「倒したのか?」
「はいなのです。敵を倒したのです。勝ったのです」
攻撃を止めてNMから離れた俺の側にタロウとリンネがやってきた。
「そうか」
思ったよりも強かったぞ。緑翡翠の欠片のNMがこの強さなら俺の黒翡翠の欠片の時はどうなるんだろうか。なんて思っていると
「楽勝だったな」
「慣れてるしね」
と言った声が情報クランのメンバー同士で交わされているのが聞こえてきた。これで楽勝なのか。傍に寄ってきた2体の従魔を撫でながらやっぱり高レベルの人達は違うなと感心する。
「アイテムが一杯出たよ」
ルリが言ったので俺も端末を取り出した。そこにはドロップアイテムが列挙されていた。結構な数が出ている。
ルリが一旦収納することになった。ここは特殊フィールド扱いになっていて戦闘が終わると一定時間後に元いた草原に戻されるらしい。
ルリがアイテムを収納すると画面がぼやけ、次の瞬間俺達は山裾の街の郊外にある草原の上に戻ってきた。NM戦が出来る草原は賑やかであちこちで人が集まっていた。これからNM戦でもやるのだろう。
驚いたことに今のNM戦で俺と従魔のレベルがそれぞれ1つ上がった。ルリとリサに聞くと彼女達そして彼女の従魔達もレベルアップしたのだという。強いだけあって経験値も多いんだ。
情報クランのオフィスに移動しようと全員が草原を歩いて街を目指す。タロウは背中にギンとクロを乗せて俺の隣を歩いており、リンネは指定席の俺の頭の上に乗っかっている。
城門近くになると俺はタロウとリンネを撫でながら言った。
「ちょっと休んでおいてくれ、また次の戦闘があるから。今度は今のよりも強いぞ」
任せろとばかりにガウガウと言うタロウ。
「リンネもしっかりと休んでおくのです」
2体をリターンさせて街の中に入った俺達は情報クランのオフィスに移動した。
会議室に入るとルリがNM戦で得たアイテムをテーブルの上に順に出していく。ドロップ品は全部で8個あった。15人のNM戦で8個出るのが多いのかどうかは俺には分からない。ただクラリアはテーブルに置かれたアイテムに目を配る。
「今までのと数は同じね。アイテムは若干違っているけど情報クランで掴んでいるアイテムリストに乗っている物ばかりよ」
そう言った。結局ルリとリサで片手剣、ローブ、力の腕輪(おそらくSTRがいくつかアップする)、魔力の腕輪、素早さの指輪を手に入れた。後に残った弓、短剣、ベレー帽(効果不明)は情報クランにお礼として差し上げる事になった。
トミーによるとベレー帽は既に1つ持っていて現在効果を検証中なのだという。2つあれば比較検討が出来るので助かると言っていた。
アイテムの分配が終わったところでクランリーダーのクラリアが俺に顔を向けた。
「この後のNM戦もよろしくね」
「こちらこそよろしく頼みます」
時計を見るとリアルで1時間後にここに集合だ。ルリとリサは一旦落ちて時間前に再度ログインするという。
俺は悩んだ結果時間まで山裾の街をウロウロすることにした。
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