緑翡翠の欠片 NM戦1
当日、俺は朝からインすると外に出て従魔を呼び出した。
「主、撫でるのです。まずはタロウとリンネを撫でるのです」
呼び出すとすぐにリンネが甘えてきた。タロウもガウガウと言いながら俺に体を擦り付けてくる。しっかり2体の従魔を撫でるとタロウもリンネもご機嫌がよくなった。
「今日は昼から大事な一戦がある。その前に新しく覚えた忍術と武器や防具に慣れたいんだ。手伝ってくれよ」
俺が2体にそう言うとタロウは任せておけと低くなきながら頭を上下に動かし、リンネは、
「分かったのです。タロウとリンネは主のお手伝いをするのです」
そう言って俺の頭の上に乗ってきた。街を出ると第3の街の方、西を目指して歩いていく。通ってきた道だから途中の魔獣の種類やレベルが分かっているからね。
歩いているとタロウが低い唸り声を出した。警戒のレベルが上がって遠くても魔獣を関知できる様だ。同時にリンネが頭の上から飛び降りて俺に強化魔法をかけてくれる。
俺は空蝉の術1と唱えた。ボワっと全身が光ったかと思うと俺に重なる様に影が浮かび上がってきた。これが分身なのだろう。そして目の前の右上に2という数字が浮かび上がった。これが分身の数を表している様だ。その下には時計の様な表示が出た。1秒ずつ減っていっている。使用しているリキャストタイムが表示されている。
「主、すごいのです。主の影が2つ見えるのです」
リンネが褒めてくれた。従魔には分身が見えるらしい。タロウも俺を見てガウガウと言っている。これは喜んでいる仕草だな。
「いいか、最初は俺が攻撃を受けてみる。俺が頼むと言ったらタロウとリンネ、頼むぞ」
「ガウガウ」
「分かったのです。とっちめてやるのです」
おお、その調子だぞ。
向こうから大柄な獣人が剣を掲げて襲ってきた。ちょっと怖いが術を信じてその相手に突進していく。俺の後ろからタロウとリンネがついてきているのは分かっていた。
獣人が剣を振り下ろした。が、俺には当たらない。右上の数字が1に減った。間違いない。
「やるぞ!」
「はいなのです」
「ガウガウ」
俺の声でタロウが獣人に襲いかかる。俺も新しい刀を持って獣人に切り掛かる。前よりも身体が動く、そして刀の威力が上がっている。LV52という自分と同じレベルの獣人に大きな傷をつけた。その直後にリンネの精霊魔法が獣人を絶命させた。
「タロウもリンネもすごいぞ」
「ガウガウ」
「タロウもリンネもできる子なのです。ちょろいものなのです」
リンネは色んな言葉を知っているな。その後も森の中で数体の獣人を倒し、火遁の術や雷遁の術などを使って忍術の感覚を覚えた俺たちは昼前に山裾の街に戻ってきた。
12時前に情報クランのオフィスの前に行くとルリ、リサをはじめクラリアやトミーらの情報クランのメンバーが集まっていた。7枠は埋まっているので情報クランからは8名が参加する事になっている。全員が揃ったところでクラリアがメンバーを前に簡単な打ち合わせをする。POPするNMは今までの例から見て大型の獣人だろうとクラリアが言った。レベルは想定だが75前後。盾と攻撃と魔法と回復のメンバーを確認した後で彼女がルリに言った。
「戦闘については今話をした通りね。それでNMを倒すとアイテムがドロップするの。そのドロップ品の分配方法を決めておいたほうが後で揉めないわね」
「具体的にどんな分配方法があるの?」
今回のNM戦のトリガーとなる緑翡翠の欠片を提供するルリがクラリアに聞いた。
「総取りかランダムね。決定権は貴女にある。全部総取りにすると一旦貴方の端末に全てのアイテムが入るの、ランダムだと無作為に分配される。NMを倒した時点で全員がドロップアイテムを見ることができるのよ。それらのアイテムは譲渡可、販売可だから一旦貴方が貰ってから渡したり売ったりできるの。今回私たち情報クランは特にアイテムを狙っていないの。興味があるのはどんなアイテムがドロップしたのかと言うことだけ。だからルリの総取りでも構わないわよ」
当人はどうしようかと言っているがリサが一旦全部ルリが貰ったらというのでそうしようかなと言って俺に顔を向けた。
「タクもそれでいい?あの時は貴方も一緒に倒しているけど」
「俺も総取りでいいと思うよ。俺は黒翡翠の欠片を持っているし」
アイテムの分配の話、つまり勝つ前提で話をしている事に驚いている俺。確かに情報クランのメンバーのレベルは俺よりも高い、そしてNM戦の経験も豊富なのだろう。相手がLV75であっても負けるという事を考えていない。流石だよ。
街を出たところで従魔を呼び出したのは俺たち3人だけだった。情報クランのメンバーはスライムを従魔にしているが今回は呼び出さないという。メンバーの数を増やしてジョブを分けた方が良いらしい。
「だからと言って貴方達もそうしてねという意味じゃないの」
もともとこっちが7枠使うということで残りのメンバーを決めたので気にしないで欲しいと言われた。
タロウとリンネがフィールドに現れると全員が注目する。タロウは大きな身体にも関わらず俺に甘えてくるし、リンネは俺の頭の上に乗ってぐるっと周囲を見ると頭の上に乗ったままで俺に聞いてきた。
「みな主のお友達なのです?」
「そうだよ。これからこの皆んなで強い敵を相手にするんだ。頼むぞ」
「分かったのです。タロウもリンネも頑張るのです」
この仕草ややりとりを見て、聞いていたクランメンバーから歓声が上がる。本当に話してるとか可愛いとか言った声だ。当のタロウとリンネはそんな声はどこ吹く風と言った調子で俺の周りを走り回ったり、ルリとリサの従魔であるギンとクロと一緒にじゃれあって遊んでいる。タロウは外見は立派なフェンリルなのにああいう仕草を見ているとまだまだ子供だなと思ってしまう。
街を出てしばらく歩くと草原に光っている場所が見えてきた。
「作戦通りにやるわよ」
作戦とは情報クランが全面に出て俺達はフォローだ。当然だよな、レベルが違うんだから。従魔については各自に任せるという。盾がガッチリとタゲをキープしてから俺たちの出番だ。それまでは邪魔にならない様に待機する。
「いいか。俺が行くぞと言うまでじっとしてるんだぞ」
傍ににいるタロウとリンネに言った。タロウは分かったと頭を上下に振り、リンネは、
「分かったのです。主の指示を待つのです」
「そうだ。2人ともいい子だ」
そう言うとリンネが俺の前でゴロンと横になった。タロウも同じ様に横になる。
「主、出番を待っている間は撫でるのです。タロウも撫でて貰いたがっているのです」
これからNM戦だというのにと思ったがすぐに出番はなさそうだしとタロウとリンネの背中を撫でているとルリが端末を光っているポイントに近づけて、すぐに言った。
「始めるわよ」
彼女がそう言うと辺りが光に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます