情報クランが絶句しています
俺の刀と防具は第3の街の武器屋で買ったものをずっと使っていた。LV33で買ったのだが今は一応52まで上がってる。買い替えるタイミングではある。
ヤヨイさんが勧めてきた刀はLV50から装備出来るもので両手に持つことで二刀流効果アップというスキルが付くらしい。自分で打った刀ではないだけどこれはお勧めよと言っていた。二刀流効果アップとは刀の鋭さが増してダメージにプラス補正があるんだと説明してくれた。当然勧められた刀に買い替える。
防具は初めて忍装束を手に入れた。と言っても上半身が上衣になっているだけで下半身は袴ではなくズボンタイプだ。あとは籠手。頭巾はない。それでもいかにも忍者という格好になった。この装束は素早さと敵に見つかりにくいという忍者の特性がアップする効果があるらしい。結局店にある一番高い防具と刀を買っちゃったよ。
「良いわね。これに買い換えてかなり強くなってるのが分かるわよ」
結構な散財をしたので貯まっていたベニーの多くを使ってしまったがベニーはまた貯めればいい。今は欲しかった装備や忍術を手にいれることが出来て大満足。
また来ますと店を出るとフレンドリストで情報クランのクラリアがインしているのを確認して端末を使って電話をする。
「こんにちは。山裾の街に来たのね。忍術を売っているお店は見つかった?」
電話に出るなりいきなり聞いてきた。
「今その店の前にいるんだ」
「じゃあすぐに行くわ」
場所を教えると数分後にクラリアとトミーの二人がやってきた。情報クランのトップ2が市内でうろうろしていて良いのだろうか。
挨拶もそこそこに二人は俺が立っている路地の周りをきょろきょろと見る。
「見つからないわね」
「ここだよ」
俺が指差すと二人がそちらに顔を向けた。
「俺の目には『店舗募集中』と書いてある札がかかっている空き家に見えるが」
「私も同じ。ここなの?」
そうだよと言って俺は店の中に入っていった。どうしたの?とヤヨイさんが聞いてきたので表で忍者でないプレイヤーがいるんだけど彼らは店舗募集中という札がかかっている空き家にしか見えないって言っているんだと話をすると、
「それが忍術。お店を隠しているのよ」
という答えだった。店から出ると二人がびっくりした顔になる。なんでもドアに近づいたと思ったら消えて、しばらくしてから突然ドアの前に姿を現したらしい。
「やっぱり忍者ジョブの人しか見えない様になっているのね」
一旦情報クランのオフィスに戻ることにする。彼らはこの街でもオフィスを借りたらしい。イベントもあり多くのプレイヤーが集まっているのでオフィスを借りても十分にペイするのだと言っている。お金持ちのクランなんだな。
オフィスの応接に座って二人にくノ一忍具店について話をした。
「その刀と防具もそこで買い替えたのね。以前と違って一目見て忍者って分かる。格好いいじゃない」
「そして忍術についてもLV50台と60台で買えるものが異なる。術1と術2があるってことだ。これは魔法にはないシステムだな。リキャストの話も面白いし、魔力の話も聞けば納得できる。そしてレベルは教えてくれないが術3もあるという話なんだな」
クラリアとトミーの言葉を頷きながら聞いている俺。
魔法は基本1種類で当人のレベルが上がるか装備関係で強化をすることでその威力が増していく。忍術だけが特殊な様だ。
「でもこの情報ってさ、忍者を選択していないプレイヤーに取ったら興味がないというか関係ないんじゃないの?」
思っていたことを口にすると、そう言うものでもないらしい。
「ジョブによってどう言う進化をするかと言うのは情報クランとして纏めているんだよ。その纏めた情報はもちろんゲーム内で販売している。あとは第2陣、さらに第3陣のプレイヤーがゲームを始めた時のために情報は常にアップデートしておきたいんだ」
トミーによればこのPWLは第一陣の15,000人がプレイしているがいずれ第2陣、第3陣と募集をかけるだろう。その時を考えているのだという。将来を見て準備しているのか。彼によると他のプレイヤーが自分が選んでいるジョブ以外の他のジョブの情報を買うこともたまにあるので、忍者の情報も今プレイしている人にも売れるかもしれないという。どういう目的で他のジョブのことを知りたいと思うのか俺は分からないんだが、人それぞれだしな。
「今はイベントの最中だ。つまり普段よりも多くの人がログインしている。情報クランとしてログインしている人の人数とジョブをチェックしているが忍者は2人だけなんだよ。しかももう1人はずっと始まりの街で合成をしている職人さんだ。レベルも一桁台のままだ」
簡単に言えば15,000人中忍者は2人。実質俺1人ってことか。
だから忍者関係の情報は俺からしか取れないのだと言うことらしいよ。
「ところで従魔達はどう?レベルが上がって何かあった?」
クラリアが言って思い出した。そうそう、それを報告しないと。
「フェンリルのタロウが俺と一緒で52、九尾狐のリンネは51だけどリンネがLV50になって俺と会話が出来る様になったよ」
「「ええええ!!!!???」」
どう言うことと身を乗り出してきた2人にLV50になったリンネが俺たちプレイヤーやNPCと普通に会話をしだしたという話をして、この街のテイマーギルドで確認したら九尾狐にはそう言う能力があるがそれは従魔とプレイヤーとの信頼関係によるものだと聞いたという話をする。
「話をさせて!いいでしょ?」
「俺も実際に見たいな」
ここからだと街の外に出るよりもテイマーギルドの方が近い。オフィスを出た俺たちは再びテイマーギルドに顔を出した。猫耳の受付嬢にこの3人で俺の従魔に会えるかと聞くと問題ないですよと言って奥の扉を開けてくれた。
例によってタロウとリンネが俺を見つけてすっ飛んできた。リンネはこっちに向かって
「主がまた来てくれたのです!」
と声を出しながら近づいてきた。それを聞いたクラリアとトミーが絶句している。初めて見たらそうなるわな。しゃがんだ俺の足元で腰を下ろして撫でろポーズをするタロウ。そしてリンネは近くに来るとクラリアとトミーを見てから俺に顔を向けて言った。
「主はお友達と一緒に来たのです?」
「そうだよ。リンネとタロウが見たいってね。自己紹介してあげな」
そう言うと、はいなのですと言って俺の頭の上に飛び乗ったリンネ。
「主のタクの従魔の九尾狐のリンネなのです。リンネは良い子なのです、タロウも良い子なのです。2体とも主が大好きなのです」
リンネの独特の口調の自己紹介を聞いていた2人。しばらくの放心状態から戻ってくるとクラリアがリンネに話かける。
「リンネちゃんはタクとお話しが出来るのね」
「そうなのです。リンネはお話が出来る九尾狐なのです。タロウもリンネを通じて話ができるのです」
そう言うとタロウがガウガウと顔を上下にしながら声を出している。
「これは凄い。いや従魔が会話が出来るなんて」
トミーも感心しきりだ。
「尾も3本に増えているだろう?この尾の本数が増えるとリンネの能力も上がるらしい」
俺がそう言うと一緒に来ていたNPCの受付嬢がその通りですと言ってくれた。その声を聞いたクラリアが受付嬢に顔を向けた。
「こうやってお話しできる従魔は九尾狐だけ?」
「それについては、はいともいいえとも答えられません」
どう言うこと?というクラリアにトミーが自分の推測だがと前置きをしてから、
「おそらく九尾狐は会話能力があるのだろう。たださっきタクが言っていたがプレイヤーと従魔との信頼関係がないと九尾狐であっても会話出来ない。そしてそれ以外の従魔については今までの街やフィールドには会話できる従魔がいないということじゃないかな」
そう言ってからNPCを見てそう言うことでしょう?と聞くとその通りですという答えが返ってきた。
「この先にいるかどうかはわからないけど、少なくとも九尾狐がこの先のエリアで見つかったとしたらそれは会話できる可能性があるってことね」
2人で話し合っている間、タロウは俺の前に座ってゴロンと横になっているしリンネは横になったタロウの上に乗って気持ちよさそうにしている。
「タクのリンネが会話能力があるってことは情報として開示していいの?」
「いいんじゃないかな。いずれバレるというかこっちは隠す気はないよ」
それからしばらく従魔達を撫でてから俺たち3人はテイマーギルドを後にした。
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