くノ一忍具店

 改めてログインした俺はまずはサポートAIのミントと話をする。


(俺の忍者だけどさ、LV50を超えて変化はあるの?)


(はい。タクはLV50になってステータスの上昇率が上がりました)


(どういうこと?)


(50からは51に上がった時のステータスの上昇率は40台までのレベルアップ時の上昇率よりも高くなっています。51から52の時も同じ様にアップした上昇率でステータスが上がっています)


 つまり50以降はレベルが上がる度に上がるステータスの上がりが大きいということか。低レベルでは不遇な忍者だが12で化けて、そして50以降でもう一段強く可能性があるということになる。言われてみれば50以降は刀で魔獣を切りつけた時の動きや切れ味がよくなったなと感じていたんだけど、これはレベルが上がったからだろうと思っていたが実際はレベルアップに加えてステータスが大きくアップしたからだったんだ。納得した。


(分かった。次に従魔だけどフェンリルのタロウは50になってどうなった?何か変わったことはある?)


 サポートAIは将来のことや数値については殆ど答えてくれないが起こったことについてはきちんと説明をしてくれる。今もこうやって聞くと教えてくれた。ただ数値は教えてくれないんだよね。


(タロウは50になって全ての能力がアップしたと同時に威圧と警戒のレベルが上がっています。集中が戦闘時に常時発動になりました)

 

(常時発動は大きいな。それと周囲を警戒するレベルが上がる。つまり警戒できる範囲が広くなっているということかな?)


(その通りです)


 なるほど。タロウはしっかりと強くなってるな。警戒はフィールドで大事なスキルだし威圧は相手が短時間だがビビって動きを止める。これはどちらも使えるね。集中は言わずもがなだ。


(九尾狐のリンネは50で会話を覚えたんだけど、それ以外に何かあるかな)


(リンネは50でプレイヤー、NPCと会話ができる様になりました。能力についてはレベルだけではなく尾の数にもよります。50で尾が3本になりましたので魔法の威力と魔力が増えています)


 なるほど。リンネはレベルだけじゃなくて尾の数も成長のキーになるんだな。


(ありがとう。助かったよ)


(どういたしまして)



 ミントとのやりとりを終えると宿から街に出た。この街は山裾の傾斜にそって大きく広がっている街だ。街全体が緩やかな坂に沿って広がっていた。


 まずは転送盤の登録にと冒険者ギルドに顔を出すとそこは多くのプレイヤーが集まっていた。聞くともなくやりとりを聞いているとNM戦のメンバー募集やら参加募集のやりとりが多い。皆レアアイテム狙いだったり、強い相手とやってみたいんだろう。


 イベントはリアルであと3日、そろそろ最後の追い込みかな。俺も持っているトリガーを使わないといけない。今日はがっつりとゲームをしよう。


 転送の登録を終えるといつもの通りに市内をうろうろすることにした。忍術を売っている店を探しがてら市内のマップを作成する。


 この街も商業区と居住区に分かれているのでまずは商業区からだ。街を歩き始めて気がついた。この街の背後にある山には鉱山があるのだろう。鍛治関係の店が多い、しかも通りの良い場所を押さえている。武器はもちろんだけどそれ以外の日用品なんかを扱っている店も多く並んでいた。


 大通りを歩いて路地を見ていくとテイマーギルドを見つけた。


「こんにちは、タクさん」


 ギルドに入ると受付のNPCから名前を呼ばれる。ここでも有名みたいだ。そしてやっぱり受付は二人とも猫耳だった。名前はカレンさんとジェシーさん


「こんにちは。タロウとリンネは元気にしているかなと思って」


「元気ですよ、こちらにどうぞ」


 今までのテイマーギルドと同じで奥のドアを開けると広場になっていた。俺の姿を見つけたタロウとリンネが猛ダッシュで飛びついてきた。タロウはもう姿は立派なフェンリルだ。その大きな体で飛びつかれると後ろに倒れそうになるんだよ。


「あるじ、主」


 リンネはそう言って飛びかかってくると思いきやいつも通りに腕を駆け上がって頭の上に移動した。


「タロウもリンネも元気だったか?」


「ガウガウ」


 タロウは俺の体に自分の体を押し付けながら嬉しそうに吠えており、リンネはと言うと俺の頭の上にちょこんと座ると、


「リンネは元気なのです。いつも元気なのです。タロウも元気なのです」


 そう言ってくれた。2体の従魔と戯れあっているのを見ていた2人の受付嬢。


「タロウもリンネも本当にタクさんに懐いていますね」


「主はいい人なのです。間違いないのです」


 受付嬢の2人にきちんと答えるリンネ。


「もともと九尾狐はこうやって言葉が話せるのかい?」


 頭にリンネを乗せたまま顔を受付嬢に向けて聞いてみた。


「そうですね。ただプレイヤーとの親密度が低いとずっと話さないこともありますよ。タクさんとリンネとは十分に信頼関係ができていますからこうやって話をすることができます」


 カレンさんがそう教えてくれた。


「タロウは話せませんがそれでも様子を見ればわかります。タロウもタクさんとすっかり信頼関係ができていますね。従魔との信頼関係が強くなると従魔自体が強くなることがあるのですよ。タロウもリンネも期待できますね」


 ジェシーさんが言った。なるほど、従魔の成長率はプレイヤーとの信頼関係にも左右されるんだ。ずっとこうしていたいけど今日は忍術の店を探すという使命がある。2体の従魔を戻してギルドのロビーに戻ってきた俺は受付にお礼を言ってギルドを出る前に聞いてみた。


「この街で忍術を売っている店があるって聞いているんだけど場所知ってる?」


「知っていますよ」


 即答だった。聞いてよかったよ。

 場所を聞いた俺はお礼を言ってテイマーギルドを出ると一旦大通りに出て山の方に向かって歩き、商業区と居住区の境に近い路地を曲がった。その路地を入って少し歩くと目的の店があった。両隣は雑貨屋さんだ。


『くノ一忍具店』


 くのいち忍具店。経営者が女性なのかな。看板を見てそう思いながらドアを開ける。


 ”女”という漢字を分解すると平仮名の”く”、そして”ノ”、漢字の”一”となることから、女忍者のことをくノ一と呼ぶ隠語であるということは俺も知っている。


「こんにちは」

 

 店に入って声をかけると奥からはーいという声がした。やっぱり女性だ。


「いらっしゃい。あっ、忍者さんね。だからこの店を見つけたのね」


 くノ一忍具店という店の名前だから店の人も忍者の格好をしているのかと思ったらいたって普通の格好だった。店内には巻物やそれ以外に手裏剣や撒菱なんかも売られている。


「テイマーギルドで教えて貰ったんだけど店の前にちゃんとくノ一忍具店って看板を掲げているのが見えたよ」


「ジョブが忍者の人しか見えない様に店全体に結界を張っているのよ」


 納得するが、同時にプレイヤーで忍者を選んでいる人って今やほとんどいない絶滅危惧種だと聞いている。つまりこの店は流行ってないんじゃないかな。まぁゲームだしそこまで心配しなくても良いか。


 俺が黙っていると店主が私の名前はヤヨイなのと話しかけてきた。タクだと自己紹介をして忍者のレベルが52だと言うと問題ないわねと言う。


「忍術を買いに来たのでしょう?忍術はLV50以上で使えるの。タクが52なら問題ないわね」


 そう言って棚を指差す。


「この辺りが50から59で買える忍術。60以上になるとこっちよ」


 忍者のレベルによって買える忍術と買えない忍術があるらしい。初めて知ったよ。

ヤヨイさんによるとレベルによって使える忍術が違うらしい。どう違うのか聞いてみると彼女は巻物を2つ持ってきた。


「これは空蝉の術1。50台で使える忍術ね。それでこっちが空蝉の術2。こっちは60になると使える忍術。空蝉の術1は自分の分身を2つ作れるの。そして術2になると分身が3つになるのよ。あとは術のリキャストタイムが違うの。術1はリキャストが10分、術2になると5分になるのよ」


 あと火遁や水遁と言った攻撃忍術は1よりも2の方が威力が大きくなるらしい。彼女に聞いて初めて知ったのだが忍術は魔法のカテゴリーになっており、その関係でジョブの忍者はデフォで最初から魔力があるらしい。ただ精霊士や僧侶に比べると多くない。となるとやっぱりメインは空蝉の術で遁術はサブ扱いだな。


「忍者のレベルがさらに上がると術3があるんだけどこの店では扱っていないのよ」


 忍術は巻物に目を通すだけで自分のモノにできるらしい。俺は50台で買える巻物をとりあえず全部買った。全部忍術1で。買うと言っても実際は読む権利を買うと言った方がいいだろう。巻物は1度使うと効果が切れるがそれを別の特殊な巻物に書写すればまた使える様になる。術3が習得できるレベルは言ってくれないんだよな。


 空蝉の術(分身を2体作る)、隠遁の術(足音が小さくなる。足音が消えるわけではない)。あとは火遁、水遁、氷遁、雷遁、土遁、風遁と6属性の遁術の巻物を買った。


 ヤヨイさんからここで覚えて良いわよと言われたので全ての巻物に目を通して念願だった忍術をモノにすることができた。


「LV60になったらまた来てくれたら術2が買えるわよ」


 そう言ったヤヨイさんが俺の装備を見ながら言った。


「忍術以外に刀と装束も売っているけど見てみる?」


「えっ!売っているの?」


 彼女によると忍者自体が少ないので武器屋や防具屋でも扱ってくれる店がほとんどないらしい。


「最初は卸してたんだけどね、買い手がいないらしくって最近は市内の武器屋や防具屋さんが仕入れてくれないのよ。だからこの店で売っているの」


 聞くと奥に工房があって自分でも刀を打っているのだという。

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