リンネなのです

 約束をした日、第3の街の城門の外で待っているとルリとリサがやってきた。二人は早速自分たちの従魔を呼び出す。3人に4体の従魔で賑やかになった。


「お待たせ、じゃあ早速いきましょうか」


 目標は東の街だ、とりあえず行けるところまで行こう。

 戦士のルリ、僧侶のリサは共にレベル49で従魔のフォックスのギンとクロ達は45、俺のレベルは48でタロウが48、リンネは45。なんとか迷惑はかけなくて済みそうだ。即席パーティを組んだ俺たち。



 この第3の街からは道路が無い、なのでひたすら東を目指して進んでいく。草原を抜けて森に入ってしばらくすると魔獣とエンカウントした。魔獣というか獣人だ。


(オーク、LV50です)


 リサがルリに強化魔法をかけ、リンネは俺に強化魔法をかける。本職のリサほどじゃないがリンネの魔法もそこそこ使えるレベルになっていた。


「リンネちゃん、凄いね」


 リサに褒められて嬉しいのか2本の尻尾を立ててV字を作るリンネ。

 獣人はルリと俺とタロウで殴り掛かればLV50のオークも苦労することなく倒すことができた。5人で倒す相手を従魔を入れて7人(?)で倒しているからだろう。見ているとギンもクロも強くなっている様でルリの剣の威力は高く、リサの魔法の効果も大きい。


 目指すは東の街、その途中にある森の中で俺達は魔獣を相手に経験値稼ぎをしていた。意外とやれる。それが俺達3人の印象だった。しかも7枠使っているが経験値が多い。イベント期間だからだろうが、これは助かるぞ。


 戦士、忍者、僧侶の3名に加えてバフを掛けるフォックスのギンとクロの2体、それと戦闘力の高いフェンリルのタロウに魔法使いのリンネ。いい面子じゃないですか。


 今もLV51の獣人を倒し、周囲の警戒をタロウに任せ、森の中で休憩をしている所だった。


「もっと苦労するかと思ったけど結構出来てるね」


「油断は禁物だけど、リサが言う通りだね。いい感じだよ」


「タロウの攻撃力も高いし、リンネは精霊魔法も撃てる。タクの従魔は本当に優秀だよ」


 褒められているのが分かっているのだろう。タロウは俺の足元で顔を太腿に擦り付けてくるし、リンネは俺の頭の上で後ろ足だけで身体を立てている。リンネは戦闘が終わるとすぐに俺の頭に駆けあがってくるんだよな。もう慣れたけど。タロウ、周囲の警戒を頼むよ。


 少し休んだ俺達は再び東を目指す。5/7と普通より経験値の入りは悪いがそれを補って余りある殲滅力とイベントの経験値増の効果でむしろソロよりもずっと稼げていた。奥に進んで行く途中で全員のレベルが1つ上がり、その場少し経験値を稼いだところで引き返して一旦第3の街に戻ってきた。無理したらもっと先に進めたかもしれないけど、女性2人がリアルの用事があるとかで続きは明日にしようと言うことになった。こっちも急いでる訳でもないので東の街へのアタックは明日になった。


 この日1日で俺たちは皆レベルが2つ上がった。リンネは3つも上がっている。

俺とタロウが50になった、リンネは48。そしてルリとリサは51になってそれぞれの従魔も48になった。このメンバーだと自分より上のレベルの敵が倒せるので入ってくる経験値も多い。



 そして翌日、この日は3人とも東の街への到達を目指して気合を入れてフィールドに飛び出した。タロウとリンネも分かっているのかいつもより気合が入っていそうだ。リンネは俺の頭の上でミーアキャットの日光浴の様に身体を起こして周囲を見ている。戦闘となれば俺の頭から降りて魔法を撃ってくれる。本当に出来た従魔だよ。


 森の中で魔獣を倒した後、ルリがこれなにかしら?と言って端末を手に持って俺達に近づいてきた。アイテムを入手しましたという脳内アナウンスがあったらしい。あれじゃないかな?


「アイテム名、何になってる?」


「えっとね、緑翡翠の欠片ってなってるよ」


 やっぱりだ。


「それ、NM戦のトリガーみたいだよ」


 俺が情報クランから聞いた話を2人にするとこれがそうなんだ、とか初めて出たねとか言っている。情報クランから聞いたNM戦のやり方を説明すると一度これを使ってやってみようと言う話になった。2人から俺も是非一緒にと言われた。もちろん断る理由はない。何事も経験だよ。


 それからも森の中で魔獣を倒しながら奥に進んで行く。リンネの精霊魔法も凄いが

フェンリルのタロウだって負けてはいない。戦闘が始まれば素早い動きで敵の周りを走り回り、威嚇し、前足と蹴りで攻撃する。LV52の魔獣がタロウの蹴りでふらついたところにルリの剣と俺の刀で倒しきる。

 

 朝から気合を入れて進んだ俺達は森を抜ける手前でまた全員のレベルが1つ上がった。リンネとギンとクロはその前に1つ上がっていた。



 そこでとんでもない事が起こった。全員のレベルが上がる、当然従魔達のレベルも上がってリンネがレベル50になった時だ。



「…るじ、主(あるじ)」


「ん?」


 最初誰が言ってるのか分からなかった。声は頭の上から聞こえてきている様だけど?


「えええええっ! リンネちゃん、話してるよ!」


 最初に気が付いたのは近くにいたリサだった。それを聞いていたルリもすっ飛んできた。俺もびっくりだ。


「リンネ、今話したのはリンネなのか?」


「そうなのです。主のタクの従魔のリンネなのです。リンネはレベルが上がって尻尾が増えてお話ができる様になったのです」


 俺の頭の上に乗ったまま話しかけてくるリンネ。

 おったまげてこけそうになったよ。まさかのまさか。従魔が言葉を話すなんて。リンネが俺の頭から地面に降りると俺の顔を見る。よく見れば確かに尾が増えて3本になっているじゃない。LV50になってリンネが大きく成長した。


「リンネ、凄いな」


 そう言ってしゃがみ込んでリンネの頭を撫でると、


「そうなのです。リンネは出来る従魔なのです。だからもっと撫でてくれてもいいのです」


 かなり個性的な話し方だがコミュニケーションは問題がないな。

 俺とリンネのやり取りを聞いていたルリもリサも驚いた表情のままだ。ぽかんと口を大きく開けていた。


「とにかく東の街に行こうか、たぶんもうすぐだろう」


 もっと撫でていたいがここはまだ森の中だ。立ち上がった俺がそう言うとその言葉で我に返った女性2人。そうね、とにかく街を目指しましょうと歩き始めると再び俺の頭の上に乗るリンネ。


「リンネ、タロウの言葉は分かるのか?」


「分かるのです。タロウも主に仕えていて喜んでいるのです。タロウとリンネでしっかりと主をお守りするのです」


 そう言うとタロウがガウガウと声をだした。分かっている様だ。


「お、おう。頼むぞ」


「ゲームだって分かってるけどこうやって従魔が話しをするのを目の当たりにすると感激するわね」


「本当ね。タクはいいなぁ、私の従魔も話できないかな」


 本当に羨ましいと言った表情でリンネを見ている2人だが俺だってリンネが話できるなんて思ってもいなかったからさ、そんなに羨ましがられてもこっちが困っちゃうよ。


「リンネちゃん、私達の従魔もお話が出来る様になるかな?」


「リンネは知らないのです。でもギンもクロもどちらも良い子なのです。どちらもお互いの主が大好きなのです」


 狐の仲間のリンネが言っているのだから間違いないだろう。

 リンネの言葉を聞いた2人が良かったと言っている。ギンもクロもマフラーの様にお互いの首に巻きつきながら尻尾をブンブン振っていた。


 その後も魔獣や獣人を倒しながら東に進んでいく。リンネが目立っていたがタロウもまた一段と強くなっていた。体も大きくなり全体に青みがかってきている。どこから見ても立派なフェンリルだ。戦闘でも相手を威嚇し素早い動きで襲いかかる。すごいぞタロウ。


 俺たちは戦闘を続けながら森を抜けた。目の前が草原になって目的地への目印になっている山が近くに見えてきた。


「それにしても従魔が話せるなんてすごいね」


「リンネちゃんの情報は情報クランで高く売れるんじゃない?」


 移動中もずっとその話で盛り上がる。リンネが言葉を話し出してからの戦闘の時は俺が指示するとすぐに返事をする。いや、今までもすぐに動いてくれたんだけどさ、返事されると嬉しいじゃない。


「リンネ、精霊魔法」


「はいなのです!」


 返事と同時に全身を震わせて魔法を撃ってくれる。

 戦闘に勝利すると2体が寄ってくる。これは今までもそうだったのだが。


「主、ご褒美に撫でるのです。タロウも撫でて欲しいと言っているのです」


 と言ってくる様になったがこれが滅茶苦茶可愛いんだよ。タロウもリンネを通じて意思表示をしている(と思っているのだろう)。グイグイとあまえてくる。


 その後も魔獣や獣人を倒しながら東に進んでいく。リンネで盛り上がっていた俺達はその後も魔獣を倒して東に進んでいくと前方に山裾の街が見えてきた。いやぁ早かったよ。このメンバーが強かったんだろう。もっとてこずるかと思っていたからね。


 俺のレベルも52になっていた。タロウも52、リンネは51になった。彼女たちの従魔もそれぞれレベルが上がっていた。



「やったー!新しい街に着いたわよ」


 城門の前で3人で拳をぶつけあう。従魔は従魔同士で身体をぶつけあって感情を表していた。ひとしきり感激しあった俺達は街の前で従魔をリターンさせる。リンネは、


「リンネはお休みの時間なのです」


 そう言ってタロウと一緒に消えて行った。戻る時にはセリフはこの1つなのかいくつかパターンがあるのか要検証だな。


 とにもかくにもだ、イベント4日目にして俺達は目標である東の山裾の街に到達したぞ!


 

 街の探索はそれぞれでやろうとここでパーティを解散することにした。


「ありがとう。助かったよ」


「お互い様よ、リンネちゃんと話もできたし。何より新しい街に着いたしね!」


「そうそう。タクの従魔達が優秀だったからね」


「そっちもだろう?このメンバーだからうまく行けたんだよ」


 街に入ると今までとはまた雰囲気が違っていた。山が近くにあるせいか煉瓦造りの家が多い、ただ街の中は木々が多く、川も流れていて落ち着いた雰囲気だ。


 ルリとリサはこの街の宿でログアウトするという。俺は街の探索と忍術の店を探してみたい気持ちはあったが、リアル朝から夕方までログインし続けていたこともあり彼女達と同様この街で一旦落ちる事にした。

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