イベントが始まった
インすると既にイベントが始まっていた。開始時間が夜の0時からだったので、その時間を待っていたプレイヤーも多いのだろう。自分はその時間はしっかり寝ていたよ。だって夜だよ?
朝起きて一通りの用事を済ませてからインすると、第3の街は賑やかでだった。プレイヤーの数も多いがNPCの中にも着飾っている人がいた。聞くと彼らにとってイベントとはお祭りらしい。
「この期間は店や屋台も値段を下げたり普段より量を増やしたりするんだ。公園にも屋台が出たりするんだよ。時間があるのなら覗いていったらどうだい?」
街の中で着飾った格好をしていたおばさんに聞くとそんな答えが返ってきた。外に出て経験値を稼ぐ前にちょっと見てみようと、まずはいつも行っている居住区内にある公園に行くと、おばさんが言っていた通りに公園の中に屋台が沢山出ていて、食べ物や飲み物、おもちゃなんかを売っている。大勢の人が公園に集まっていた。
ほとんどがNPCだがプレイヤーの姿もチラホラと見える。そりゃそうだろう、皆が皆レベル上げや合成やNM戦ばかりしてる訳じゃないしな、自分と同じ様にイベントの雰囲気を楽しむプレイヤーがいて当然だ。
公園に並んでいる屋台で串焼きを買ってそれを手に持ちながら他の屋台をを見るともなく見ていると声を掛けられた。振り返るとNPCではなくてプレイヤーだ。装備から見た感じ、戦士なのかな?金髪、青い目のヒューマンだ。
「こんにちは」
「こんにちは。外には出ないのかな?」
「さっきインしたばかりでね。外に出る前に街の雰囲気を見てみようと思って」
「俺と同じだね。もっともこっちは外から戻ってきて休憩中なんだよ。クランメンバーも今はこの街か東の山裾の街の中をウロウロしていると思う。休憩中に街の中の雰囲気を見てみようと散歩していたんだ」
俺が手に持っている串焼きを見てどこで買ったのか聞かれたので、屋台で串焼きを買ったと知ると自分も買って来ようと俺が買ったのと同じ屋台で買ってきた。
彼はスタンリーという名前で攻略をメインにしているクランに所属しているのだと言う。
俺達は公園にあるベンチに座って話をしている。美味いと言って串焼きを食べていた。屋台を勧めた身としては美味しいと言ってもらえると嬉しい。
「攻略組なら朝から晩までガツガツとやってるんだと思ってたよ」
俺がそう言うとそんな事はないよと否定された。
「ネットではPWLはこの種VRMMOゲームのガチ攻略勢から見るとぬるいゲームって言われているだろう?実際そうなんだよ。このゲームでガチガチに攻略だけをするプレイヤーは殆どいないと思うよ。俺達も攻略組と言われているけど実際は戦闘好きのメンバーが集まってクランを作って楽しんでやっているって言った方がいいね。新しい敵やNMと対戦するのが楽しいとか面白いと感じている連中ばかりだよ。活動も結構自由だよ」
なるほど。攻略というか強い相手と戦闘をすることが好きなクランなんだな。そう言うとそっちに近いねと言う。彼らは自分達単独での活動もあるが、エリア探しなんかは情報クランの連中たちと共同で進めているんだと言った。メンバーの中には社会人もいて自分もそうだと言う。
「だからイベントだと言ってもずっとフィールドにいる訳じゃない。リアルで用事がある人もいるし、時間を決めてその時間はしっかりと攻略するけどそれ以外の時間はフリーなんだよ」
自分が過去のゲームで知っている攻略組とこのPWLの攻略組はどうやら似て非なる者の様だ。そうは言ってもしっかりと攻略は進めている様でスタンリーのレベルは55でトップクラスだと教えてくれた。LV55って俺から見たら相当高い。
「タクは忍者なのかい?」
俺の装備を見た彼が言った。
「そう。ソロでまったりやろうと思ってね。となると忍者一択だった。まだレベルが45だけど」
他のゲームではガチ攻略勢としてプレイしていたがぎすぎすした人間関係やテンプレの武器、装備以外は認めないという風潮に嫌気がさしてそのゲームを止めて、PWLではのんびりすることに決めたんだよと説明する。
「そう言う点ではこのPWLはいいよな。やりたい事が沢山あるし、攻略だけをしなくても十分にゲームを楽しめる」
「俺もそう思う。実際楽しんでるしね」
スタンリーが攻略組だというのでトリガーによるNM戦をやったのかと聞くと既に2戦やったという。フィールド上にいくつか光っている場所があってそこにトリガーを近づけるとNM戦の条件、参加可能人数だとか制限時間といった条件がトリガーを持っているプレイヤーのみにアナウンスがあるらしい。その時点ではトリガーはまだ使用していないので条件を確認、準備をした後で改めてトリガーを出して初めて戦闘となる様だ。
NMは大型獣人で倒すと片手剣や後衛のローブ等をドロップしたらしい。どれもまだ店に売っていないアイテムだったらしく手に入れたプレイヤーは大喜びしたそうだ。
「おっと、そろそろ集合時間だ。タクと話が出来て楽しかったよ」
俺達はフレンド交換をした。またどこかで会おうと言って彼とは別れたが攻略組と会うなんて街の中くらいで外では先ず出会わないだろう。
その後も少し街の中をブラブラした俺はフィールドに出てタロウとリンネを呼び出した。タロウは俺の足元、リンネは俺の頭の上、それぞれが定位置についた。
「これからレベル上げをやるぞ!目指せ東の街だ」
そう言うとタロウがガウガウと唸り、リンネは前足で俺の頭を叩いた。うん、平常運転でよろしい。それから俺達は街の西ではなく北方面を探索しながら出会う魔獣を倒して経験値を稼ぐ。西の森は昆虫系が主体だったが北方面に行くと動物系になる。と言ってもティムしたくなる様なのは見つかっていない。
(一角サイです。LV46です)
でかい角があるサイの様な魔獣は図体もでかく、体力も多いが力技で押して来る相手は俺達にとっては問題ない。
リンネの魔法とタロウの力技、たまーに俺の刀でLV46から48の相手を倒して経験値を稼いでいった。ただ森の奥に進むとレベルが上がって50以上がいたので回れ右をして戻ってきている。恐らく自分はこの街にいるプレイヤーの中ではレベルが低い方なのだろう。周辺にライバルがいないのである意味狩り放題だ。
ただ、これは後で聞いた話だがほとんどのプレイヤーは東の街を目指しながらレベル上げをしていたということで北方面が空いていたのはそう言う理由だったらしい。自分としては場所が空いていたから問題はないんだけどね。
半日ほどレベル上げをして俺もタロウもリンネもレベルが上がった。この調子で行けばイベント期間中に東の街に行けるかもしれない。リンネや40になってそれぞれの魔法の威力がアップした様だ。これは助かるぞ。
レベル上げが終わったあとは街まで戻ってたけど、街には入らずに門に近いところで俺はタロウとリンネを好きに遊ばせる。この周辺は魔獣が少なく、いても今の2体の従魔なら魔獣と遭遇したとしてもそれぞれソロで対応が出来る。
タロウもリンネも最初は喜んで走り回っていたが、飽きたのか草原に座っている俺の所に戻ってくると足元に座って撫でろと身体を押し付けてきた。右手でリンネを、左手でタロウのそれぞれの背中を撫でていると自ら草原の上でゴロンと横になる。AIとは思えない仕草だ。
日が西に傾いて座っていてもその影が伸びてきてそろそろ帰ろうかと思っていた時、ルリとリサが首にマフラーの様にして従魔の狐を巻いている格好で近づいてきた。
「お久しぶり」
「やあ、久しぶり」
よいしょと2人が座ると彼らの従魔であるギンちゃんとクロちゃんが首から降りてタロウやリンネと一緒に遊びだした。リンネちゃん、可愛いわねと言っている2人。そうは言うけどギンとクロも可愛いじゃない。
「東の街には到達したの?」
「まだ。そろそろ挑戦しようかって思っている所」
ルリによればイベント中は自分達と従魔のレベル上げをしながら街中をウロウロする予定らしい。俺と一緒だ。2人のレベルは49で従魔は45らしい。従魔については俺のタロウの方が上だ。
「攻略組でもないしさ、NM戦のトリガーだっけ?そういうアイテムも持っていないし、リサとイベント中はのんびりと過ごそうかって話をしてるの」
タクのレベルは?と聞かれたので46だよと答えると、
「じゃあこの3人でレベル上げしない?。経験値が増えるから3人と4体でもいいんじゃないかな」
言われてみればそうだ。このゲームではパーティが5名となっているがそれは6名以上になると得られる経験値が下がるからだ。5人まではマックスの経験値を貰えるが6人になると得られる経験値が1人当たり5/6となり、7人だと5/7になる。
なので5名が最適だと言われていた。逆に4名の場合は1人当たり5/4の経験値が入るとはならない。5名以下は同じなのだ。どうせやるのなら東方面に進んで魔獣を倒しながら街を目指して行けるところまで行ってみようと言う話になった。
2日後の朝に第3の街のギルド前。という約束を交わした俺達はその後暫く従魔を遊ばせた後で街に戻り、俺はそのままログアウトした。
翌日は丸一日、インしている間フィールドでレベル上げをする。少しでもルリとリサとのレベル差を縮めておかないと迷惑をかけるからね。
経験値増の恩恵もあり1日頑張ったおかげで忍者が48になった。タロウも48だそしてリンネが45になった。従魔達も強くなってるぞ。リンネの尾はまだ2本だが魔法の威力が増したことでレベル上げが楽になった。
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