黒翡翠の欠片

 ログインしている時、ウィンドウを立ち上げてフレンドリストを見るとそのフレンドが自分と同じ様にインしていれば、そのレベルと現在いる場所がクリアな色で表示される。インしていないと名前とレベルが薄い灰色で表示される。


 ルリとリサはインしていないが情報クランのクラリアとトミーはインをしていた。そして彼らがいる場所は自分が知らない場所になっていた。ちなみに2人ともLV52だった。情報を取りながら自分達もレベルを上げるなんて凄い。敬服するよ。


「彼らがいる場所、ここは東の山裾の街だな。無事に辿り着けたんだな」


 武器・防具屋のドワーフの親父から聞いた情報を彼らに流した俺としては、無事に街に到達した様なので安心する。


 自分はまだレベルが足りていないからもう少し時間がかかるだろう。どのタイミングで東を目指すのかは決めていないが、リンネがLV40になったら一度向かってみるのも良いかもしれないな。なんせ時間はたっぷりある。急いでいない。


 イベント開始の前日に、忍者のレベルが45になった。タロウも45でリンネは39だ。これで明日からのイベントの期間中の経験値アップで目標の50に到達できるだろう。その足で東の村に一度トライ、突撃してみよう。


 PWLは明日からのイベント前ということで大勢のプレイヤーがログインしていた。俺は外から戻ってきて従魔達をリターンさせると、例によってログアウト前の恒例の3番目の街の居住区にある公園でのんびりしていた。芝生の上で仰向けに寝ていると情報クランのクラリアから電話が入ってきた。


「こんばんは。今は街の中にいるんだよね?」


「そうそう。第3の街の中にいますよ」


「私も第3の街にいるのよ、タクの聞いた通りに東を目指したら街があったのよ」


「よかったですよ、ガセじゃないとは思ってたけど」


「NPCの話だからガセは無いでしょう」


 そりゃそうか。その後時間あったらクランに来ないかと言われたのでわかったと居住区から商業区に移動してその足で情報クランに顔を出した。例によって応接に案内されるとクラリアとサブマスのトミーが部屋に入ってきた。


「タクの話を聞いて攻略クランとも相談しながら東方面に絞って進んでいったの。そしたら聞いていた情報通りに山裾に街があったのよ。今回はタクの情報がすごく役に立ったから直接お礼を言おうと思ってね」


 そう言ってありがとう、助かったと頭を下げてくる2人。

 お礼なら情報提供料として報酬をもらっているからいいのに。本当に律儀でいい人たちだな。


「それでね。お礼とは別に報告があるのよ。新しい街、山裾の街の話なんだだけど、タクの情報だとあそこで忍術が売ってるって言ってたよね?」


「武器・防具屋のドワーフの親父からはそう聞いているけど?」


「それが無いのよ。見つからないの」


「ん?見つからない?」

 

 ちょっとそれは想定外だ。しかしNPCのドワーフが嘘をつくとは思えない。クラリアによると情報クランは山裾の街に着いたあとはいつもの通りメンバーで手分けをして全ての通り、路地を歩いてその街のマップを作成したらしい。


「街の大きさは始まりの街よりは大きくて、この第3の街よりは少し小さい規模なの。それでクランメンバー総出で探したけど忍術を売っている店が見つからないのよ」


 彼女がそう言うとそれまで黙ってクラリアの隣に座っていたサブマスターのトミーが俺を見ながら言った。


「タクもわかるだろうがNPCがガセを言うことはない。ただ実際に街には忍術を売っている店がない。これらの状況から見て忍術を売っている店はジョブが忍者のプレイヤーしか見つけられないのではないかと予想しているんだ。あとは可能性は低いが何かのクエストがキーになっているとか」


 トミーの言葉に頷く。その可能性はあるな。


「なるほど。確かに忍術スキルが使えるのは忍者だけだ。魔法の様に汎用性があるわけでもない」


 自分もおそらく忍者しかその店が見えないんじゃないかと推測する。クエストで出現したとしても実際に忍術を購入できるのは忍者だけだし。トミーの言う通りかも知れないな。


「その通り。なのでお願いしたい。タクが東の街に行った時に忍術を売っている店を見つけたら教えて欲しいんだ」


「それくらいお安いご用だよ。ただすぐには行けないけどね」


 俺は自分の今のレベルと従魔のレベルを2人に言った後で2人に聞いた。


「忍者が50になったら挑戦しようと思っているんだけどどうかな」


 そう言うと2人で顔を見合わせてからクラリアが言った。


「私たちは5人パーティで平均レベルが52。これで死に戻りなしで山裾の街に行けたの」


 となると50じゃ厳しいかもしれないな。


「なるほど。まぁ一度50になったら挑戦してみるよ。ちょうど明日からイベントが始まるし経験値は稼ぎやすくなるしね」


「イベントと言えばタクはアナウンスがあったNM戦のトリガーなんて手に入れてるの?」


「トリガーをすでに手に入れているプレイヤーがいるの?」


 クラリアの質問に質問で返す。俺のその質問に頷く2人。


「これが実はトリガーじゃないかと思われるアイテムは出てきているの」


 情報クランによるとそれらのアイテムは魔獣がドロップしたり、採掘場所から出てきているのだと言う。運営はさりげなくトリガーを事前にばら撒いているんだなと話を聞いているとトミーの口から意外なアイテム名が出てきた。


「先週まで出なかったアイテムがイベントの告知があった後から出した。なので翡翠系のアイテムはNM戦のトリガーじゃないかと考えているんだ」


「翡翠系?」


「そう正確には緑翡翠の欠片というアイテム。これが告知後あちこちから出ているという報告があるのよ。実際情報クランのメンバーの中にこれを持っている人がいるの」

 

 トミーに続けてクラリアが言った。緑翡翠の欠片?確か俺が持っているのは黒翡翠の欠片だったはず。


「情報クランが掴んでいるそのアイテム、トリガーだろうって予想しているのは緑翡翠の欠片だけ?」


「そうだけど。だけって、どういうこと?」


 2人が身を乗り出してきたので俺はこの街の公園でのんびりしていたら老紳士から黒翡翠の欠片をもらったと言う話をする。2人の表情が変わってさらに身をこちらに乗り出してきた。クラリアはともかく狼人のトミーが近づいてくると迫力があるんだよな。


 見せてくれというので2人の前で端末を開いてアイテムリストを2人に見せる。


「確かに黒翡翠の欠片だね。黒翡翠の欠片は初めて見たわ。譲渡不可、販売不可というのも緑翡翠と同じだわ」


「ひょっとしたらNMのランクによって色が違うのかも知れない」


「となるとタクが持っている黒翡翠の欠片はレアなNM戦、強いNM戦をやるためのトリガーという可能性もあるわね」


 俺の目の前で話し合いを始めた2人。俺は黙って2人のやりとりを聞いていた。しばらくして2人からごめんなさいと謝られたあとで、もしその黒翡翠の欠片がトリガーだとしたら情報クランとして人を集めるのでそれを使ってNMを呼び出してくれないかと言われた。情報クランが知らなかった種類の欠片であり、NMの中でもランクが上の相手のトリガーかもしれないと。もちろん俺に異存はない。


「本当にこれがNM戦のトリガーだとしたら俺がソロでやって勝てる相手じゃないじゃない。メンバーを集めてくれるのならトリガーを出すのは全然問題ないよ」


「助かる」


 そう言ってから緑翡翠以外のアイテムも探さないとねというやりとりをしている2人。


「それにしても戦闘、採掘以外、街の中からもトリガーが出るとは想像していなかったな」


「本当ね。それにしてもタクは私たちの想像以上の斜め上を行ってるわね」


「そんなことないだろう?こっちはまったりプレイヤーだよ?レベルも低いしソロだしさ、たまたまだよ」


「そのたまたまでテイマーギルドを見つけ、東の街の情報を取ってくる。情報クランから見れば持っているとしか思えないな」


 クラリアとトミーが持ち上げてくれるのは嬉しいが自分では大したことをしている意識はないんだよな。人より少しだけのんびりとゲームをしているだけなんだよね。

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