ドワーフは無愛想なのか

 新しい街に着いた。装備と防具を手に入れてタロウとリンネを連れて外で経験値を稼ぎたいし、この広い街の隅々まで探索もしてみたい。やることが多すぎるな。物事の順序としてはまず装備系を充実させてから外で自分と従魔のレベル上げだろう。そう考えるとこの街の様子をはっきりと掴んで装備を手に入れるのが先だ。


 第3のこの街は広いが大きく分けて商業区、居住区、公園と3つに分かれていた。ゲームの仕様なのか居住区には店が一軒もなく全て商業区に集まっている。これがリアルだと一部混在している場所があるが通りを境にして綺麗に分かれているのは歩く方にしてみれば助かる。


 もちろんこの3つの中では商業区が一番大きい。商業区だけでも始まりの街よりも広そうだ。自分用のマップを作製しながらは商業区の路地を順に歩いていた。マップは歩くだけで勝手に作成されていく。


 路地を歩き始めるとその中にもレストランやアイテム屋、宿屋があるのを見つける。宿なんて大通りに面しているのよりも安くて静かそうだよ。1週間経ったら宿を変えよう。


 商業区内の路地を探索して3日目の午後、大通りから路地に入った奥の方に武器・防具屋という小さな看板を見つけた。今まで数多くの路地をみたが武器・防具屋なんて店は全くなかった。大通りでは武器は武器屋、防具は防具屋と別れているのにこの店は1つの店で武器と防具を売っているのだろうか。


 扉を開けるとドアの上に付けてある鈴が涼しい音を立てた。中は想像以上に広く店に入って右手は武器、左手は防具と分けられて陳列されている。


「いらっしゃい」


 鈴の音はさわやかだったが奥から聞こえてきたのはだみ声、その声に続いて背の低い顔中に髭を生やしている背の低い50代くらいに見える男が出てきた。ドワーフだ。このゲームで初めて見たぞ。シャツにオーバーオールのその姿はまるでテンプレドワーフそのものだ。


「こんにちは。街を探索していて路地を歩いてたらこの店を見つけたんだよ」


「なるほど」


 そう答えているとまた奥から今度は女性の声がしてきた


「あんた、お客さんかい?」


 言いながら出てきた女性は人族のふっくらとした女性だ、年齢はこちらも40は越えているだろう。俺を見てちょっとびっくりした表情になる。


「あら、プレイヤーのお客さんかい、珍しいね、いらっしゃい。ゆっくり見ていってね」


「どうも」

 

 プレイヤーが珍しいということはNPCご用達という設定なのか、それともここまでプレイヤーが来ることがないのか。大通りに結構な数の武器屋や防具屋があるから大抵はそっちで買っているんだろう。


 俺が奥さん(だよな)と挨拶を交わしている間、ドワーフの親父は俺の腰をじっとみていた。


「その腰に差しているのは刀か?」


 視線を俺の腰に注いだまま親父さんが聞いてきた。


「そう。ジョブが忍者なんでね」


「刀に防具が欲しいのか?」


 ドワーフとは無駄口を叩かない種族なのかどうかは俺は知らないが、少なくとも目の前にいる親父は無駄口を叩かない。自分の知りたい事だけを聞いている。奥さんが愛想が良いので余計に不愛想さが目立つ。


「そうなんですよ。見せてくれますか?」


 親父はこっちだと店の奥に俺を案内した。親父が立ち止まった棚には刀が綺麗に並べられている。大通りの武器屋よりも数が多く、値段もピンキリだ。1本2,000ベニーから始まって、一番高いのは1本50,000ベニーとなっている。大通りでいろんな店をサーチしたが50,000の刀は無かった。一番高い刀が35,000ベニーだった。やっぱり高いのは見た目も良い。1本50,000ベニーの刀は当然ながら陳列されている中で一番格好というか見栄えが良い。


 棚に並べられている刀を見たまま聞いた。


「いろんな値段があるんですけど、どう違うんです?」


「特殊効果が付いている。攻撃力を上げたり素早さを上げたり、それによって値段が違う。攻撃力をあげたのがこれだ、素早さを挙げたのがこれ。そして一番高いこの刀は攻撃力、素早さが同時上がる機能が付いている」


 親父さんは無愛想だが親切だ。丁寧に教えてくれる。


「具体的な数値については教えて貰えないんですよね」


 そうだと頷く親父。これは愛想に関係なく教えてくれないのだろう。数値的な差が分からないので価格見合いなのかどうかは分からない。博打みたいなもんだ。ただそこまで悪質ではないだろうと信じたい。ゲームの中でNPCの店がぼったくりや詐欺商法してたら泣くよ。


 刀は一旦保留にして装備を見る事にする。こちらにはヒューマンの奥さんが付いてきた。


「この辺りが忍者が装備できる防具になってるんだよ」


 見てみると忍者は軽装備しか装備できない。隠密行動をすることがあるという前提なのだろうか。重装備は見た目も重そうだ。その代わり安定感があり防御力が高そうに見える。装束と言ったいかにも忍者専用装備はここに限らずこの街のどの店にも置いていないみたいで軽装備から選ぶしかなさそうだ。


「忍者用としてお勧めはありますか?」


「ん~、ならこんな感じかな」


 俺の質問に奥さんが取り出したのは濃い紫色をしているズボンとシャツ、それに濃い茶色の皮のベストという組み合わせだ。


「あんたは忍者だからね。素早さと隠密つまり敵からみつかりにくいという機能で組んでみたの。シャツとズボンはセットで着ると素早さが上がり、ベストは敵から見つかり難くなる。見つかり難くなるってだけで見つからないわけじゃないからね。防御力は落ちるけどそれは忍者が軽装備しか身につけられないから少々防御力を上げたところで同じでしょ。それよりも避けたり素早く動く方に重点を置いた方が良いんじゃない?」


 言われてみればその通りだ。ソロでやることが多いだろうし大ダメージを食らうと即詰みだ。そう考えるとダメージを食らわない様に避ける、逃げるといった素早さを上げるのは正解かもしれない。見つかりにくくなるというのも少しでも生存率を上げるには良い機能だろう。


 奥さんがお勧めの防具のセットとこの店で一番値段が高い刀2本。何とか買えるっちゃ買えるんだよな。どうしようかな。


「良し! これとこれを買う!」


 少し迷ったけど店の夫婦が勧めてきた防具と一番高い刀を買う事にする。〆て20万ベニーを超えたがどうせ持つのなら良いのを持たないと。何せソロなんだから。


 俺はその場で着替えさせてもらった。やっと初期装備から脱却だ。左右の腰に差した新しい刀も格好良い。


「沢山買ってくれたからお礼にこれを付けてやろう」


 俺が着替えて出てくると親父さんがそう言って手渡してくれたのはバンダナだ。色は濃い緑色をしている。無駄口を叩かないのはドワーフじゃなくてこの人の性格だろう。サービスしてくれたから親父さんの評価を変えたよ。


 ありがとうと言って早速頭に巻いている俺を見て親父さんが言った。


「そのバンダナには忍術の効果が上がる付帯効果が付いている」


「忍術?忍術がこの街で買えるのかい?」


 バンダナを巻き終えた俺はびっくりして言った。忍術があれば攻めのパターンが増える。そう期待したが親父さんは首を左右に振った。


「いや。この街にはない。ただこの街を出て真っすぐ東に行くと、高い山の裾に街がある。そこなら手に入るだろう」


 おおっ、新しい街の情報だ。この街では忍術は手に入らないがその代わりに新しい街の情報をゲットだ。これで次の街にいく目標ができた。


「レベルを上げて強くならないと東の山裾の街まで行けないわよ」


 奥さんが教えてくれた。


「わかった。色々とありがとう」


 新しい装備に着替えた俺はドワーフとヒューマンの夫婦にお礼を言って店を出た。

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