リンネ
「おおっ、これが新エリアか」
「ガウガウ」
「タロウ、俺たちはやって来たぞ!」
「ガウ!」
俺たちは洞窟を出たところで勝鬨を上げた。
山の洞窟を抜けると草原と林が点在している中を綺麗な道が伸びていてその先に城壁が見えていた。あれが第3の街だろう。洞窟を抜けてから10分程歩いたら着きそうな場所にある。
第一エリアは山以外の部分は殆ど平地だったが新しいエリアは起伏があるエリアになっていた。後ろを振り返ると洞窟を抜けていた山が見えるが前を見ると前方や左右に森が広がっていた。
丘の上からぐるっと周囲を見た限りではこの第2エリアは相当広そうだ。向こう側が見えない。
洞窟を出て一旦丘を降りてまた緩やかな丘を登った先に第3の街の入り口が有った。門の前でタロウをリターンさせて城門を潜って市内に入った俺はその街の広さにびっくりする。街を囲んでいる城壁の向こう側が見えない位に広いのだ。
街に入ってまず向かった先は冒険者ギルド。そこで登録して初めてこの街の転送盤を利用することができる。
今は多くのプレイヤーがこの街を拠点にしているのだろう。ギルドの中は様々な格好をしたプレイヤーで溢れかえっていた。その姿を見てこの街で忍者の装備と武器が買えることを思い出した。
俺がギルドに入ったら皆がこちらを見ている気がする。そりゃそうか。いまだに初期装備のままで新エリア、3つ目の街を歩いているプレイヤーは俺くらいだろうしな。
すぐにでも装備を新しく更新したいが武器屋も防具屋も複数あるだろうし店によって種類や価格が違うかも知れない。焦ってはだめだと自分に言い聞かせる。情報クランに電話をしたら情報は直ぐに得られるだろうがそれじゃあ面白くない。
このゲームを始めて自分で動き回って情報を集める楽しさを知ったしね。できる限り自分でこの街を調査するよ。
城門から市内の奥に向かって大きな通りが真っすぐに伸びている。門を入った近くにあるのが冒険者ギルドでそこで登録を済ませると何かクエストがあるか受付に聞いてみると予想通りマップ作成クエストがある。ただ街が広いので有効期限が4日間になっていた。そんなに広いの?
俺はクエストを受けると市内を歩きだした。歩きながら通りに面している店や宿の場所を覚えていく。
(この街の転送を使って始まりの街に戻って今までのギルド横の無料のギルドハウスに泊まってもいいんだろう?)
(もちろん。泊まれますが新エリアに来たので無料ではなくなりました。1度の出入りにつき3,000ベニー掛かります。これは自動でギルドカードから引き落とされます。ちなみにこの街から始まりの街への転送サービスは1度につき500ベニー掛かります)
ここから始まりの街に戻って泊まって往復すると4,000ベニーか。ということはこの街の宿は4,000ベニー以下ということになるな、それにしても最初のエリアでは無料だったギルドハウス代が一気に3,000ベニーになるとは。新エリアに来たらそっちに泊まれということかな。転送代も150から500に上がっているし。
ここ第3の街は広くて大きな通りが東西南北に何本も走っていた。マップ作成クエストをこなしながらあちこちの宿に顔を出しては部屋代を聞いていく。安いところで1泊1,500から1,700ベニー。普通クラスで1,800から2,000ベニー、その上は2,200から2,500ベニーとなっていた。
この街は人が多いので万が一を考えて歩いている時に見つけた普通クラスの宿に部屋を取っておく。1週間分を前払いして部屋を確保すると再び市内を歩き回る。
街を歩いていると冒険者ギルド以外に様々なギルドが大通りに店を構えていた。その中にはテイマーギルドもあった。ここではしっかりと大通りに店を持てたみたいだ。ただ大通りの端の方ではあったが。テイマーギルドに近づくとミントの声がした。
(この街のテイマーギルドでタクの報酬が貰えます)
なるほど。扉を開けると猫耳の受付嬢が2人いた。テイマーギルドは猫人が受付をするのだろうか。俺を見て2人が同時に立ち上がった。
「こんにちは、タクさん」
ん?名前を言う前に呼ばれたぞ?
「こんにちは。なんで俺の名前を知っているの?」
「タクさんは従魔を一番最初に手に入れたプレイヤーとしてテイマーギルドでは有名なのですよ」
「それに今回ソロでエリアボスを倒していますしね。また有名になりました」
猫耳の2人がそう教えてくれた。そう言われるとちょっとこそばゆい。
「それで今日はソロでエリアボスを討伐した報酬を受け取りに来られたのですか?」
「それもあるけど従魔の様子を見ようと思って」
タロウとは街の入り口で分かれたきりだ。新しい街のテイマーギルドで上手くやっていけるかどうか心配だったんだよね。
「それは良い心がけですね。それにちょうどよかった。こちらにどうぞ」
ちょうどよかった?
受付の奥にある扉を開くと始まりの街と同じくそこは広場になっていて、俺を見つけたタロウが一目散に走ってきて俺に抱きついてきた。と同時に真っ白な小さな狐っぽい小動物がタロウと一緒にこちらに走ってきた。
「どうだ、この街は」
耳を下げて俺に体を押し付けながらガウガウと鳴くタロウ。どうやら問題なさそうだ。それにしてもこの仕草を見ていると狼というよりもやっぱり大型犬としか思えない。
「そうか。大丈夫か。ちょっと休んだらまた外に出るからその時はよろしくな」
「ガウ!」
「それでこの可愛い狐は?」
タロウと一緒に走ってきた小さな狐もその体を俺に押し付けてくる。おれはその体を撫でながら一緒に広場に来ている猫耳の受付嬢に聞いた。
「この従魔がテイマーギルドからの報酬となります。今回はギルドが選んだ従魔をタクさんにさし上げます。これは九尾狐のメスの子供ですね。まだ子供ですから尾は1つだけですが」
「九尾狐?妖狐か」
またまた凄いのがきたな。霊狼フェンリルの次は妖狐の九尾狐だ。
「はい。九尾狐は世間ではいろいろと言われていますがこの子は素直で良い子ですよ。上手く育てると間違いなくタクさんのお役に立ちますよ。一つだけ言うとこの子は魔法が得意です」
なるほど魔法か。それは成長した時に大きな戦力になるな。顔をすり寄せてくる九尾狐の体を撫でる。真っ白の体毛がモフモフだ。隣のタロウも子供を見る様な目で九尾狐を見ていた。いやいやお前もまだ子供だろうが。
「ありがとう。じゃあ名前を付けないとね。メスって言ったよね」
はい。お願いしますという猫耳受付嬢の前で考える俺。
「この子の名前は輪廻。リンネにしよう」
名前を付けられたリンネは嬉しそうに体をすり寄せてきた。タロウもよかったなと言わんばかりにリンネに体を押し付ける。いやお前体がでかいから押し付けるとリンネがぶっ飛ぶだろうが。タロウに体を押し付けられたリンネはそこから離れると俺の腕の上を走ったかと思うと頭の上にちょこんと座った。何これ。めちゃくちゃ可愛いんだけど。
「わかりました。九尾狐をリンネという名前でタクさんの従魔として登録しました。それにしても懐いていますね。テイマーギルドとしても九尾狐の子供をタクさんに紹介してよかったです」
俺は頭にリンネを乗せながら両手でタロウの顔を撫で回している。
「タロウにリンネ。もう少ししたら外に出るからな。その時は頼むぞ」
ガウとタロウが鳴き、リンネは分かったと前足でトントンと俺の頭を軽く叩く。うん、可愛い仕草だ。
報酬をもらった俺はテイマーギルドを出ると再びマップ作成クエストを続ける。大通りを歩くだけでも時間がかかる。結局このマップ作成クエストに3日と半分の日数をかけてようやくクリアした。ミントがクエストが終わったと言ってくれた時は本当に嬉しかったよ。
ちなみに路地を歩く次のマップクエストはこの街では無かった。
無かったらやらない。のではなく無くても路地を回ってみよう。ひょっとしたら何か新しい発見があるかもしれない。武器と防具を手にいれるのは後でも良いだろう。街の中をうろうろするだけなのだから。
よし、明日からはこの街の路地探索だ。
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