エリアボス戦
1週間後、忍者のレベルがようやく33になった。タロウも同時に33になっている。サポートAIのミントによれば従魔のレベルもこのエリアでは33が上限らしい。
準備が整った。
プレイヤーと従魔がLV33の上限のレベルでLV40のエリアボスを倒さないと新エリアに行けないという厳しい条件だが、俺は以前、別のゲームで似たような状況を何度も経験している。
その経験から言えば攻略の鍵はずばり、
① 回復アイテムは出し惜しみせずに使う。
② 焦るな。時間をかけろ。
③ 一度でクリアしようと思うな。
これに尽きる。ただし1度目は様子見だと言って手を抜く事はしない。
自分で合成した中品質のポーションではなく、始まりの街で買える最高級のポーションを用意し、更に万が一に備えて始まりの街で刀を2本追加で買った。戦闘中に刀が折れたら即詰みだからな。長期戦に備えて食料も補充。
これらを用意し終えると、俺は始まりの街の中にあるテイマーギルドに顔を出した。
「タクさん、こんにちは」
ギルドに入るとすっかり馴染みになった猫耳の受付嬢が挨拶をしてくる。彼女の名前はメインさん。挨拶を返すと彼女に聞いた。
「メインさん、従魔の体力を回復するアイテムってあるの?」
「はい。サーバントポーションというのがありますよ」
おっ、予想通りだ。
椅子から立ち上がった彼女が奥から取り出してきたポーションは従魔専用のポーションでプレイヤーには効果は無いらしい。
「この液体を従魔に掛けると体力が回復します。タクさんのフェンリルであれば3本かければ10%の体力から100%に戻りますね」
「サーバントポーションのリキャストタイムは?」
「プレイヤーと違って従魔用のポーションにリキャストタイムは有りません。連続して使用できます」
メインさんの話を聞いて作戦が見えてきた。タロウにサーバントポーションをかけ続ければ致命的なダメージを受けない限り大丈夫だろう。タロウをメインにして俺は背後か横からちまちまと攻撃するのがよさそうだ。素早さも力も俺よりもタロウの方がずっと上なのはここ数日の経験値稼ぎで知っている。情けないが冷静に戦力を分析するとこの作戦になるんだよな。
PWLでは従魔の体力がゼロ、つまりやられちゃった時にはそのエリアにあるテイマーギルドに戻され、ゲームで丸1日、24時間は呼び出すことができない。
サーバントポーションはプレイヤーが使うポーションよりも高価だったが俺は大量に買い込んだ。出し惜しみするつもりはない。お金持ちとまでは言わないがそれなりにベニーを持っているからね。ケチって負けたくはないんだよ。
全ての準備が整った。だがこれでいきなりエリアボスに挑むのは愚の骨頂だ。まずはサーバントポーションの使い方に慣れないとな。2つ目の村に飛んだ俺はそこから北西の森に行くと森の中を進みながら高レベルのゴブリンを相手にシミュレーションをする。
数度の戦闘でサーバントポーションの使い方や自分用のポーションの使い方等を身体で覚えると、いよいよ北西の森の奥にいるエリアボスを目指す。途中で出会う高レベルの敵でしっかりと鍛錬をした俺とタロウは森を抜けるとちょっとした広場に出た。いやもう道中はタロウが大活躍だったよ。
たどり着いた広場の先、奥には山裾にぽっかりと口を開けた洞窟があり、その洞窟の入り口に門番の様に今まで相手にしてきた魔獣よりも数倍大きなゴブリンが1体、右手にでかい棍棒を持って立っている。タロウがそいつを見て低いうなり声をあげた。
(エリアボスです。レベルは40です)
ミントの言葉を聞きながらもでかいゴブリンを睨みつける俺。ある程度近づかないと動かない様だ。それにしてもでかい、そして持っている棍棒も半端ない大きさだ、あれを振り回されると掠っただけでも瀕死になるだろう。
ポーション類を確認した俺は隣でうなり声を上げているタロウの頭を叩きながら
「タロウ、あいつを倒すぞ。あいつの攻撃を食らわない様にしろ、動き回って倒すんだ」
「ガウゥ」
タロウに集中というとバフを掛けてくれた。柔らかい光が包まれ、消えると、
「行くぞ!」
俺の声でタロウが駆け出した。後に続く俺。エリアボスのゴブリンは俺達を認識すると棍棒を振り上げて威嚇してくる。
ソロでエリアボスとの闘いが始まった。
タロウが先に走ってゴブリンの正面から威嚇をし始めると俺はボスの背後に移動してボスを挟む位置を取ると背後から両手に持っている刀でボスの太ももに切り付ける。するとボスがこちらを向くがその瞬間にタロウがいきなり後ろ足蹴りを太腿にかました。またタロウを向くボス。そして俺の刀。バフが効いている間は全力で攻撃したほうが良い。
棍棒を振り下ろすボスだがタロウは上手く交わしていてダメージを受けていない。振り下ろされた棍棒が何度も地面に叩きつけられるとその瞬間に背後から刀で同じ個所を狙って傷をつけていく。最初はタロウだけに振り下ろされていた棍棒だがバフが切れた頃から俺にも棍棒が振り下ろされる様になった。幸いにモーションが大きいので何とか避けられている。
これ逆に人が多いと棍棒が横に払われて大怪我するんじゃないの?ソロだから上から振り下ろすだけだ…おおおっと
そう思っていたらいきなり棍棒が横に払われた。何とか後ろに下がって避けたがブンと言う音と風圧が襲ってきた。
一度でも食らうと終わりだ、かといって慎重にやってるだけじゃ倒せない。
タロウと交互でボスの両足に何度も攻撃をしているが今の所ボスの動きに変化はない。体力がかなり多いのだろう。ただ刀が当たっている、蹴りや爪が当たっているということは間違いなくダメージを与えているということだ。体力が多くても無限にある訳ではない。焦らず慎重にやればいいんだ。
そう分かっていても集中力を長時間続けるのはきつい。エリアボスは相変わらず棍棒を振り回し、時に横に払ってくる。それを避けながら俺とタロウはちまちまとボスの両足に傷をつけていた。ボスがでかいから足しか攻撃できない。
疲れてくるとタロウにサーバントポーションを掛け自分にもポーションを掛ける。まだ行けると思うタイミングでアイテムを使う様にしていた。ケチって取り返しがつかない事態だけは避けたい。
戦闘が始まって30分以上は経っているはずだがボスの挙動は戦闘開始時とほとんど変わっていない様に見える。単調な攻撃パターンだが頑丈そうな体躯と持っている武器の攻撃を避けながらの自分たちの攻撃なので大きなダメージを与えられていない様だ。
そう思っていた時だ、ボスが俺の方を向いた隙にタロウが後ろ足蹴りを食らわせるとその身体がぐらっとした。今まで見なかった動きだ。
「タロウ、こいつもダメージを食らってるぞ、今までの調子で続けよう!」
「ガウガウ」
タロウにサーバントポーションを掛け、再び自分にもポーションを掛ける。焦るな、焦るなと自分に言い聞かせないとどうしても前のめりになりがちだ。他のゲームを経験しているのが役に立っている。ここで焦ると碌なことがない。
戦闘開始して1時間は間違いなく過ぎているだろう、大量に用意した2種類のポーションも半分以上使っている。エリアボスは見ても分かる程動きが緩慢になってきているが油断は禁物だ。ボスの中には体力、HPがある程度減ると狂騒状態になる奴がいる。
HPバーというものはこのゲームでは表示されないが間違いなく結構な体力を削っているはずだ。タロウにもサーバントポーションを切らさない様に掛ける。タロウに再度集中のスキル、バフを指示して殴りかかる
突然エリアボスが大きな叫び声を出したかと思うと持っている棍棒を遮二無二振り回し始めた。狂騒状態だ。これはまずい。全く近づけない。でかい棍棒を大きく振り回しながら迫ってくるボスから逃げ回る俺。どうやらがっつりとタゲと取ってしまったらしい。ポーションを使うという行為もヘイトを稼いでる様だ。
とか思っている間にも絶え間なく繰り出される棍棒を後ろに飛んだり左右に飛んだりして何とか避けているとボスの背中側から迫っていたタロウが大きくジャンプすると空中で身体の向きを変えて後ろ向きになるとそのまま後ろ足の蹴りをボスの首の後ろに叩き込んだ。
大きな叫び声をあげて棍棒を振り回していたボスだが背後からのタロウの不意打ちと今まで足をやられていて踏ん張りがきかなかったのか、そのまま前のめりのまま顔から地面に倒れてしまう。
「タロウ、一気にやるぞ」
ここを逃すと次があるのかどうかも分からない。俺は倒れこんだボスの耳に何度も刀を突き刺し、タロウは後ろ足で何度もボスの顔を蹴っ飛ばす。
今まで一番でかい叫び声をあげたエリアボスのゴブリンが光の粒になって消えた。
「おおおっ!初見でエリアボスを倒したぞ」
「ガウ!ガウ!!」
はぁはぁと息を切らせながらタロウと抱き合って喜んでいると、
『ワールドアナウンスです。初挑戦でエリアボスのソロでの討伐に初めて成功しました』
ん?今のアナウンスって俺の事?
(はい。タクが初挑戦でエリアボスをソロで倒した最初のプレイヤーとなります)
いやいやソロって言われてもさ、タロウもいたし、何よりボスのレベルが50から40に下がってるんだぜ?
(従魔はカウントされません。レベルが下がったのはソロで倒せるか倒せないかのギリギリの設定に変更したからです。その新しい設定で初めての挑戦でタクがエリアボスを倒したことになります)
そう言う事になるのか。まぁなんでもいいんだけど。とにかくこれで新エリアに行けると洞窟に歩きかけると再びAIのミントの声がした。
(初めてソロで倒したタクに報酬が出ます。報酬は装備か従魔のいずれかで次の街で受け取りが可能です)
次の街のどこに行けばいいのか分からないが行けば分かる様になっているんだろう。まぁ従魔ならテイマーギルドだよな。
(従魔にしよう)
報酬が出ると聞いて疲れがふっとんだ。
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