エリアのレベル上限があるなんて

 ポーションは自作した中品質ポーションがある。うさぎの肉と水は収納に入っている。念のためにテントも買った。


 始まりの街のホームの中で持ち物の最終確認をした俺は気合を入れて部屋を出るとその足で城門を抜けて草原に出る。呼び出したタロウの頭を撫でながら、


「これから北の街と言うか村を目指すぞ。途中で出会う魔獣は倒していくからな」


「ガウ」


 声を上げながら頷くタロウ。じゃあ行こうともう一度気合を入れて始まりの街から次の村に向かって石畳の道を歩き始めた。街を出て1時間以内のエリアは過去に薬草取りやレベル上げで来たことがあるが2時間程歩くと初めて見る風景になった。と言っても草原とあとは森というか林ばかりだ。遠くに山が見えている。


 途中で出会う魔獣はLV15から上がってLV16,17が出だしたがこっちは俺もタロウもLV20だ。問題ない。


 元々は人の往来が多い街道なのだろう。ただ今は新しいエリアが見つかって、皆そちらに行っているのでプレイヤーの数が少ない。その結果、結構な頻度で魔獣との戦闘になる。これは誤算だったが一方で移動しながら俺とタロウの経験値稼ぎとしては悪くなかった。


 タロウは俺が何も言わなくても自分の判断で後ろ足蹴りを繰り出してLV18のゴブリンを一撃で倒しているし2人で協力すれば2体程度のリンクなら問題なく対処が出来ていた。攻撃力アップの集中スキルを使うまでもない。


 タロウが強くなっていて良かった。


 石畳の道は途中から土の道に変わっていたが次の村まで続いているのは知っていたのでそのまま道を歩いて行く。途中で肉をかじって空腹感を回復しつつ歩いていくと始まりの街を出てから7時間程が経った頃に2つ目の村の入り口が見えてきた。


 予想よりずっと順調だった。いや、トラブルよりも順調の方が良いに決まっているんだけど。


 村にある冒険者ギルドに入ると結構なプレイヤーが集まっていた。聞くともなく彼らの話を聞いていると皆レベルを上げる為に即席パーティを組んで村の北側でレベル上げをしていて、夕刻になって村に戻ってきた所みたいだ。


 始まりの街からこの村までは魔獣のレベルは最大でも18だが、村から北、西、東方面に進んでいくと急激に魔獣のレベルが上がっていくらしい。新エリアへは村から北西の方向に進んだところにある深い森の一番奥から行けるらしいが、その森の奥では敵のレベルが最低でも34に設定されている。つまりそれ以上がゴロゴロいるということだ。


 という話をプレイヤー同士がギルドのホールで話をしているのを盗み聞きしていた俺。時刻は夕刻だったし村の探索は明日にしよう。とギルドの奥にある転送盤に触れて始まりの街に戻ってきた。これで明日からは村まで飛んでそこでレベル上げが出来る。


 俺は情報ギルドから結構な報酬を受け取っていて、そこそこお金を持っているので転送盤を利用して始まりの街と村とを行き来するのは全く問題ない。武器と防具についても店に売っていないのだから更新もできない。今でも初期装備の防具のままだ。今だに初期装備でいるのは俺くらいだよ。恥ずかしいが仕方がない。



 翌日、始まりの街から村に飛んだ俺は早速タロウとレベル上げを開始する。LV20ちょっとで新しいエリアに行くのは寄生丸出しだし、やっぱり最低でも30までは上げないとまずいでしょう。ギルドで聞いてみるとLV30に近いプレイヤーは村の北西エリア、LV21-26のレベルのプレイヤーは北東方面、か西方面、そしてLV18-20までは東方面とレベルに応じて狩場が分かれていると教えてくれた。タロウもいるから北東方面に行ってみて、無理ならそこから南下して村の東方面に行こうと村を出て北東方向に足を向けた。


 LV20の俺にとってこのエリアはまだ早いなと思っていたが魔獣と戦ってみるとタロウが大きな戦力になってくれた。問題無く狩れる。やや格上でもあり得られる経験値が多いのだろう。北東でレベル上げをした日の夕刻にはLV21になった。もちろんタロウもだ。


 そして翌日にはLV22になる。ライバル(他のプレイヤー)がいないので狩場を独占した結果1日で相当数のゴブリンや2角ウサギを倒すことができた。ホーンラビットは1角ウサギだがレベルがあがると角が2本になる。ウサギの肉や角も貯まってきた。


 夕刻になると始まりの街に戻って調理ギルドでウサギの肉を焼いてスキルを上げ、角は半分だけ鍛冶ギルドに売る。この代金で街と村の往復の転送代を払っても十分におつりがくる。


 我ながら効率的じゃないか。

 ワールドアナウンスの後のリサの電話以降は何も情報が無いので新しいエリアや街がどうなっているのかは分からないが気にならない。マイペースでやるって決めている自分にとってはとりあえず目の前の目標は自分とタロウをLV30まで上げることだ。


 一番最初に村に着いた日から1週間ほど経つと村にいるプレイヤーの数が目に見えて減ってきた。皆順調にレベルを上げて新エリアに行っているのだろう。おかげで狩場でのライバルが減ってどこに行っても狩り放題になっていた。


 北東エリアでLV27まで上げた俺の今の狩場は村から出て北西のエリアだ。奥に進めば新エリアになるだろうがその前に高レベルの敵が徘徊している。一度偵察に行ってみたがLV35前後の魔獣が固まっていたので回れ右をして戻ってきた。奥に出向くのはまだ先になりそうだ。とりあえず森の入り口でLV28~LV30相手にレベル上げをしている。


 タロウはますます強くなっている様に見える。新しい技やスキルを覚えている訳ではないがステータスが順調に上がっているのだろ。タロウだけで格上の敵を次々とワンキルしているのを見て俺の出番がないんじゃないかと落ちこんだのは内緒だ。


 経験値は自分が倒そうがタロウが倒そうが同じ様に入ってくるのでタロウに格上を、自分は同格を相手に別々に倒して経験値を稼いでいる。これで狩りの効率がぐっと上がった。


 村に来てから3週間後、俺とタロウのレベルは目標のLV30になった。


 だが、その時は新エリアに向かうツアーはとうに無くなっていて、村にいるのは周辺で素材集めをしている合成職人のプレイヤー以外だと俺だけになっていた。


 とりあえず街に戻って日課になっている調理ギルドで2角ウサギの肉を焼いていると調理スキルが6に上がった。肉を焼くだけでスキルが上がるのかとギルド職員に聞くと素材となる肉のレベルもスキルに影響するらしいという説明をしてくれた。なるほど。


 うさぎの角は鍛治ギルドに売ると同時にそのタイミングで鍛治ギルドの工房にいた鍛治職人のアンドレイにも少し差し上げた。残りは錬金ギルドですりつぶして粉状になったのをアイテムボックスに入れている。擦っているだけでもスキルが上がるのを知ってからはこうして粉状にしてスキル上げをしながら収納している。戦闘の合間にこうやってちまちまと合成をやるのもいいね。



 それでエリアの攻略だが、新エリアに挑戦するプレイヤーが減った以上、他力本願ではなく自力でやるしかなくなった。フレに頼むという手もあるが、その前に自分で挑戦してみたい。


 ログインすると村に飛んでそのまま北西エリアを目指す。タロウと2人で行くには最低でもLV40は必要だろう。エリアボスってのを倒す必要があるらしいから俺とタロウだけだとどちらもLV45以上が必要になるかもしれない。


 それだけのレベルが必要であればそれだけレベルを上げれば良い。簡単な話だ。

 レベルは上がれば上がるほど必要経験値が増えるのはどのゲームでも同じだ。PWLも例外じゃない。


 一方で格下より同格、同格より格上を倒した方が得られる経験値は多い。俺は最弱忍者だが最強の相棒がいる。1人なら茨の道かもしれないがタロウがいればそこまで厳しい事はないだろう。時間はいくらでもあるしね。


 北西エリアに近づいたところでミントに聞いてみる。


(レベルを45まで上げたらエリアボスに勝てるかね?)


(このエリアでのプレイヤーのレベル上限は33で、それ以上は上がりません)


 思わずその場で立ち止まってしまった。ちょっと待て。エリアにレベル上限があるのかよ。知らなかったよ。というかこれは相当不味くないか。LV33でエリアボスに挑戦することになる。


(エリアボスのレベルは分かる?)


(はい。攻略されているエリアボスのデータがあります。今のエリアボスのレベルは40です)


(今のエリアボス?どう言うこと?)


(エリアボスは一度倒されると弱体化されます。元々のレベルは50でしたが倒されて今は40になっています)


 なんと! LV50のボスをLV33のプレイヤー集団が倒したのか。


(ここのエリアボスの攻略については人数制限、時間制限がありません)


 死に戻り前提で大勢で挑戦したってことか。数の暴力で押し切るって凄いな。LV33の連中がLV50に挑んだんだ、相当被害が出ただろう。それにしてもミントが気になる言い方をしてるな。ここのエリアボスについては、と言ってる。この先のエリアではまた仕様が変わる可能性があるってことか。前回の戦略が次も通じるとは限らない。


 いやらしいゲームだぜ。


 それにしてもLV40か。タロウのバフをもらってLV33の俺とタロウで勝てるかな。最後はルリとリサにヘルプを頼む事にしても、まずは一度挑戦してみよう。ゲームだから安全確実な事ばかりやってても面白くない。


 となるとLV33が目標のレベルだ。あと3レベル。頑張ろう。

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