あれ?知らなかったんですか?

 路地から大通りに出て探索のために別の路地に入ったところで電話がかかってきた。


「情報クランのクラリアよ。今いいかしら」


「大丈夫。新しい街の市内を歩いているところだから」


「それだったらうちのクランに顔を出さない?」


 ソロでまったりの俺に何を聞きたいんだろう。こっちは時間はあるから構わないけど。それよりも、


「第3の街にもクランオフィスを借りたのかい?」


「そうなの。それで始まりの街のハウスは返却したの。暫くはこの街が拠点になるでしょうし」


 人が多い場所に情報が集まる。鉄則だよな。クランの場所を聞いた俺は電話を終えるとその場所に向かう。しっかりと街を歩き回っていて良かった。おかげで迷わずにオフィスにたどり着いた。入り口で挨拶をして応接室に入って座るなり、


「装備を替えたのね」


 開口一番クラリアが言った。隣にはサブクランマスターのトミーが座っている。クラリアがそう言っているが目の前の2人も以前とは違う装備を身に付けていた。


「やっと初期装備から脱却できたよ」


 忍者は大変ねと言った後で、


「確認したい事があって来てもらったの。タクはワールドアナウンス聞いた?初見でソロでエリアボスを倒したっていうアナウンスよ」


 と聞いてきた。ああ、その件か。


「もちろん。俺が初めてだったみたいだね。エリアボスのでかいゴブリンをフェンリルのタロウと一緒に倒したらアナウンスがあったよ」


 そう答えると2人で顔を見合わせてやっぱりねと言っている。


「プレイヤーの中で話題になっているのよ。誰が倒したんだろうって」


「そうなの?そんな大層なものかな。ソロって言ってもフェンリルのタロウがダメージソースで俺は始まりの街で買った刀でちょこちょことと傷を付けてたくらいだし。ソロで倒したという気がしないんだよ。しかもボスは最初はレベル50だってけど討伐されてからはレートが下がってレベル40になっていたじゃない。あれが50だったら絶対に無理だったよ」


 本当にそう思っている。


「そうかもしれないけど、でもね、エリアボスにソロで挑戦するということを考える事自体普通じゃないわよ」


「クラリアの言う通りでね。普通ならどうやって楽にクリアしようかと考える。しかもボスは弱体化されている。だから最近は大勢の人を集めて1発でクリアするという流れになっていたんだよ」


 俺は2番目の村でレベル上げをしている間にどんどん新エリアに人が流れて最後は殆ど人がいなくなっていたので仕方なくソロで挑戦したのだと説明する。実際にその通りだし。


「LV33のソロがLV40のボスに勝つのは簡単じゃない。最後の方に狂騒状態になったでしょう?」


「ああ。俺に向かってでかい棍棒をブンブン振り回してきたよ。当てられたやばいって逃げ回っているとボスの後ろから従魔のフェンリルがスキルで後ろ蹴りを決めてくれたから勝てた様なもんだ。うちの従魔がヒーローだよ」


「フェンリルを従魔にしているのはタクだけだ。他の従魔なら無理ゲーだよ」


 言われてみればそうかもしれない。確かにフェンリル以外の従魔なら厳しいだろう。


「それで報酬はあったの?」


 ワールドアナウンスが出る程だから何か報酬があるはずだと情報クランの中で話をしていたらしい。俺の話を聞きたいというのはそれだな。


「ああ。新しい従魔を貰ったよ」


「「新しい従魔!!」」


 また2人が食いついてきた。俺はマップクエストで市内を歩いているとテイマーギルドの近くに来た時にテイマーギルドから報酬が出ると聞いてギルドに入って報酬を貰ったという話をすると、


「また選べたの?」


 前のめりになっているクラリアが聞いてきた。


「いや今度はテイマーギルドからこの従魔ですと最初から決まっていた従魔を貰ったよ。メスの九尾狐の子供だった」


「九尾狐! 妖狐だよね」


「また凄い従魔が報酬だったんだな」


 2人が新しい従魔を見たいと言ったのでクランのオフィスを出て街の外でタロウとリンネを呼び出した。フィールドに現れた2体は直ぐに俺に寄り添ってきた。タロウは身体を擦り付け、リンネは俺の体を駆け上がると頭の上にちょこんと座る。


「これが九尾狐の子供か」


「可愛いわね」


 俺の頭の上に乗ったリンネを見て言う二人。


「まだ子供だから尾は1つだけどね。成長すると増えるらしい。テイマーギルドによると魔法が得意らしいって」


「ほぅ。魔法が使える従魔か。成長が楽しみだな」


 フィールドで話をする3人。3人が草原に腰を下ろすと座った足の間にタロウが身体を入れて横になった。リンネは頭の上のままだ。こして見るとタロウの体毛は白なんだけど以前に比べるとやや青みがかってきたな。成長している証拠だ。


 俺がタロウを撫でているのをじっと見ていたトミーに言わせるとこのエリアに来てテイマー好きのプレイヤーがフィールドをあちこち動き回ってはテイムできる魔獣を探しているらしい。


「可愛いのがまだ見つかっていないと皆ぼやいてるよ」


「そのうちに見つかるんじゃないかな。ところでこの新エリアで2つ目の街に到達したプレイヤーはいるの?」


「まだなのよ。先行組というか攻略クラン、もちろん私達もあちこち動いているんだけど魔獣のレベルが高くなっているのもあるけどこのエリアは広いでしょ?どこにあるか目途すらついていないの」


 あれ?聞いてないのかな。


 俺は武器・防具屋でドワーフの親父から聞いた話。街を出て東に真っすぐに行くと高い山の裾辺りに街があると聞いたと言うと2人が驚いた顔になる。今までで一番の驚愕した2人の顔を見たぞ。


「この街を出て真東、高い山の裾近くに街がある?」


 トミーが俺が言った言葉を反復する。


「そう言ってた。俺が刀と防具を買った店の親父がこのバンダナをくれたんだよ。沢山買ってくれたからサービスだと言ってね。その親父がいうにはこのバンダナには忍術スキルが上がる効果が付いている。そう言うから俺はこの街で忍術が売っているのかって聞いたら、ここにはないがここから真っ直ぐ東の方角に行ったところにある高い山の山裾に街があってそこで売っているぞって教えてくれた。山裾の街って奥さんが言っていたな」

 

 俺が武器と防具を買った路地の店は彼らも知っていた。ただ店の中にまでは入っていないらしい。親父はドワーフで奥さんはヒューマンだったというと後で見に行こうと2人で話をしている。


「なるほど。買い物の金額が張ったから教えてくれたのね」


「それにしても凄い情報だ。そこがこのエリアで何番目の街かは分からないが闇雲に探す必要がなくなった」


 3番目の街、新エリアの街から出たすぐのところで3人と2体の従魔らが座り込んで話をしているのを外から帰ってくるプレイヤー達がチラチラとこちらを見ている。情報クランのマスターとサブマスターは有名人だからだろうな。


「トミーも言ってるけどそれがこのエリアの何番目の街かは俺は知らないよ。それと武器・防具屋の奥さんが言ってた。レベルを上げて強くならないと行けないって」


 俺は新エリアに来たばかりなので忍者のレベルは33だが攻略組の中にはLV40越えがいるらしい。聞くとトミーが39でクラリアも38だと言っていた。レベルが上がるとNEXTの経験値が増えるから表面的には差が縮まった様に見えるが実際は違う。俺の33とトミーの39じゃ大人と子供以上の力の差があるんじゃないかな。


「皆ここ第3の街をベースに東西北方面に足を伸ばして経験値を稼ぎながら次の街を探していたところなの。タクの情報は高く売れるわよ」


 それからはクラリアとトミーの2人で東の山裾に行くにはどれくらいのレベルが必要なのかという話をしているのを俺は従魔2体の体を撫でながら聞いていた。リンネは自分が撫でてもらいたくなると頭から降りて俺の足の上に座ってくる。タロウの青い体毛とリンネの白い体毛を両手でもふりながら聞いていると東に向かっている攻略組もいて彼らのレベルは40が最高らしいがそれでも東の森の中の入り口あたりまでしか行けていない様だ。


「いずれにしてもこの情報はギルドで買い取らせてもらうわ。従魔の情報と合わせて30万ベニーで良いかしら?」


 30万?そんなに高くなるの? 高い装備を買った俺は嬉しいんだけど、それでも高すぎないか?


 俺のびっくりした表情を見ていたのかトミーが言った。


「どの方面を攻めるのかというのが絞り込みできるだけで全然違う。タクが思っている以上にこの情報には価値があるんだ」


 以前やっていたゲームではゲーム内に情報クランってのが無かったからわからなかったよ。プロの情報クランが30万って言っているからそうなのかなと思っていると脳内でミントの声がした


(クラリアさんから30万ベニーの送金がありました)


「PWLってお金を送ることができるんだ」


「1回の送金が100万までという上限はあるけどね。サポートAIに頼んでウインドウから操作できるの」


 なるほど。便利だな。俺は入金を確認してクラリアにお礼を言った。


「こちらこそ。また何かあったら教えてね」


「分かった」


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