情報クランに目をつけられました
一旦ログアウトしてリアルの用事を片付けた俺は再びPWLにログインすると冒険者ギルドの2階の資料室に向かう。今回は合成関係の資料を見るつもりだ。薬草からポーションができるのは知っているが具体的なレシピや作り方をミントに覚えて貰おうと片っ端から合成関係の書物に目を通した。
(どうだい?)
(はい。合成に関して知識が増えました)
と言うことで街の雑貨屋で蒸留水を買うとその足で錬金ギルドに顔をだした。
ポーションは薬草をすりつぶして蒸留水をかけて撹拌させるとできるらしい。ソロの自分には体力回復アイテムは必須だ。
ギルドの中にある工房の中にはいくつか小さな部屋があり人がいない部屋は使っても良いことになっている。幸いに空いている部屋があったので中に入ると早速錬金の合成を開始する。
摺鉢の中に薬草を入れて擦り潰していき、それに蒸留水を垂らせば簡易ポーションの出来上がりだ。味はとてもじゃないが飲めたもんじゃないが、ポーションは身体にかけても効果がある。
仕上がったポーションを見るとその品質がウインドウに表示された。
商品 ポーション
品質 低ー
効果 掛けた相手の体力をほんの少しだけ回復する(リキャスト1分)
体力=HPだからないよりマシな程度だ。最初はこんなもんだろう。錬金スキルだって1だろうし。それからも自分用に取っていた薬草を使って何度もポーションを作成した。最後は品質が低+ 掛けた相手の体力を少し回復する(リキャスト1分)と低ーから低+に上がったところで薬草が無くなった。
(今の俺の錬金スキルはわかるかい?)
(はい。タクの錬金スキルは3です)
20回程合成をして1から3になったか。これがどういう事なのか、早いか遅いのかは分からないがレベル上げと同じで回数をやれば少しずつスキルが上がると言うことが確認できた。低品質ポーションはソロの時に使おうとアイテムボックに収納する。アイテムボックスは同じ商品なら1つのカテゴリーに入る様でウィンドウから見てみると、ポーションx18となっていた。失敗があったから20個にはならなかった様だ。でも18個あれば次の街まで持つんじゃないかな。
2ヶ月遅れで始めたゲームだが始まりの街は相変わらずプレイヤーの数が多い。
普通なら皆大挙して次の街へ移動していて、この街は閑散としているはずなのだが。
このゲームの情報は掲示板に頼らなくとも街の中でも十分に取れる。昨日、昼食を食べている時に隣のテーブルに座っていた女性プレイヤー同士の会話が聞こえてきた。
どうやら2つ目の街はその次の街を攻略するための基地と言った位置付けらしく最低限の店しかない様だ。
「生産ギルドはない。喫茶店もない。レストランは数が少なくていつも満員。宿は1つしかなくてこれもいつも満員。本当に何もないわよね」
「ほんと、ほんと。あの街って防具屋と武器屋ばかりじゃん。先行組が3つ目の街を見つけてくれるまではワープで行き来しようよ」
「そうだねこっちの街の方がお店も多いし」
新しい街に着くとその街の中にある転送システムが有料、片道200ベニーで何度でも利用できるらしい。今は始まりの街と2番目の街の間だけだが。ルリとリサもこれを利用していたみたいだ。
2番目の街にある宿の部屋代は一晩150ベニーらしいが常に満室なので宿に泊まれないプレイヤー達は転送装置を使って始まりの街に戻っては翌日また転送装置で飛んで行っているのだ。ちなみにその転送装置はその地の冒険者ギルドの中にあると言うのを俺は女性の会話から知った。こうやって情報を得るのも新鮮だ。自分でプレイしているという実感が湧くよ。
次の街に武器屋と防具屋が多いというのは気になる情報だ。忍者の武器や装備があるかもしれない。
ポーションを作り貯めした俺は街を出ると相変わらずの始まりの街の東の山の裾でレベル上げをする。忍者のレベルは今は15になり、フェンリルのタロウのレベルは13だ。ソロと言いながら実際にはタロウと2人(?)で倒しているので殲滅速度が上がって、狩りの効率が上がっていた。
夕刻になって東の森から始まりの街に戻ってきて城門が見えたあたりで猫人と狼人の2人組が立ってこちらを見ているのが目に入った。俺がそちらを見ると2人とも草原を走ってこちらに近づいてきた。
「こんばんは、タクさん?」
そうだと答えると話かけてきた猫人の女性が自分はクラリアで情報クランのクランマスターだと言った。
「こっちがサブマスターのトミー」
「トミーだ。よろしく」
「タクです。こちらこそ」
顔を出そうとしていた情報クランのトップ達だ。草原で立ち止まって話をしている間タロウは俺の足元で地面の上に体を下ろしていた。
「これがタクの従魔のフェンリルね」
「そう。ルリとリサから聞いたのかな?」
そう言うと、そうなのと頷く2人。
「貴方が初めてPWLでテイマーギルドを見つけてフェンリルを従魔にしていると聞いてね。フェンリルの子供を見せてもらおうと思って」
「忍者のレベルとステータスの件も聞いている」
クラリアとトミーが続けて言ってから足元のタロウに視線を送る。
「本当にまだ子供なのね」
「これでも最初の頃よりは大きくなってる。体毛も小さい時は茶色に白が混じった程度だったけど今では白い部分がかなり増えてきたんだよ」
そう言って地面にしゃがみ込んで座っているタロウを撫でると耳を後ろに倒して気持ちよさそうにする。
良かったら詳しい話をもう一度聞かせてくれないかというのでタロウをテイマーギルドに戻した俺は2人に続いて始まりの街に入り、そのまま情報クランのオフィスに足を向けた。彼らは大きな一軒家をオフィスにしていた。クランになるとオフィスというか家が持てるんだな。借り物らしいけど。
応接室に入るとジュースが出てきた。サービス満点だ。
「タクのおかげで今やほとんどのプレイヤーがテイマーギルドに登録をしてスライムを従魔にしてるわ」
そりゃそうだろう。従魔にするだけで様々な効果がアップされる。やらない手はない。
「俺はほとんど人がいない東の山の方でレベル上げをしていて、フィールド上では他のプレイヤーとは合わないんだけど従魔のスライムは外でプレイヤーと一緒に戦闘をしてるのかい?」
そう言うと首を振る2人。
「スライムは従魔にするとアクセサリーとして身につける事ができるんだよ。そしてアクセサリーにすると街の中でも装備できる様になる。だから戦闘職の連中はペンダントやバンダナにし、合成職の連中はリストバンドやバンダナにしている人が多い」
トミーの説明を聞いてなるほどなと思った。プニプニのスライムは形を変えることができるのか。彼によるとほとんどのプレイヤーがスライムを従えているらしいが当然だろう。フォックスやフェンリルとは仕様が異なっている様だ。ただスライムをアイテムにして装備しても従魔という位置付けは変わらないのでパーティの場合従魔で1枠を使うらしい。
ちなみに目の前に座っている情報クランのマスターであるクラリアは幸運のスライムを従魔にし、トミーは経験値アップのスライムを従魔にしているらしい。そしてスライムはリリースして別のスライムを従魔にすることもできるのだと教えてくれた。流石に情報クランだ。色々と検証している。2体残っていたフォックスにしなかったのかいと聞くと、
「個人的には残り2体だからそっちを選びたかったわよ。でも情報クランが先に入手した情報で残り2体を従魔にしたとわかったら後からクレームが来るのは見えていたしね。だからこのクランは全員がスライム。素早さが上がるゴールドフォックスと遠隔攻撃がアップするグレイフォックスは私たちの情報を買ってくれた一般のプレイヤーが手にしたわ」
クランマスターのクラリアの話を聞いて俺はこのクラン、目の前の2人を見直していた。情報の取り扱いが公平だ。
「それでね、初めてテイマーギルドを見つけてくれたタクにお礼を言うのと、忍者についても教えてもらおうと思って街の外で待っていたの」
わかったと、俺はこのゲームを始める時にはまったりすることを決め、掲示板を一切見ずにプレイすると決めてそれを実行しているんだと話をする。
「のんびりとクエストをこなしていこうと思って安い報酬のクエストを受けたらそんな流れになっただけだよ」
「忍者もまったり、のんびりプレイと関係あるのかな?」
「もちろん。俺はパーティを組んで急いでレベルを上げる気は全くない。ソロ中心になるだろうし、であれば忍者一択だと思っていた。ゲームを始める前は掲示板を見ていて忍者が不遇なのは知っていたけどソロでやるのなら周囲にレベルを合わせる必要もないし自分向きだなと。以前、別のゲームでは先行組、攻略組と呼ばれている中にいてさ、そこではテンプレに沿ったプレイしかしていなかった。ギスギスした人間関係の中でプレイするのに疲れたんでPWLでは今までとは違ったプレイを楽しんでるんだよ」
「そう言う楽しみ方も良いわね」
「おかげで時間はあるからね。慌てる必要もないと思ってるよ」
聞くとクラリアもトミーもレベルが29だと言う。クラリアはシーフ。トミーは戦士でクランメンバーとパーティを組んで攻略をしたりクエストをこなしながらこうやって情報を取り扱うクランを運営しているそうだ。
「忍者の件だけど、12でステータスアップが来たという話は聞いているのだけど13以降はどうだった?」
「今、俺の忍者のレベルは15、従魔のタロウはLV13だ。忍者は12以降はレベルが上がるたびにステータスがわずかに上昇している。おかげで戦闘が楽になっている」
「なるほど。13からはレベルが上がるとステータスも上がっているのね」
「ただこれもずっとそれが続くのかはわからない。忍者のLV12までステータスを上げなかった運営だ。またどこかでステアップが止まる可能性があるかもしれないとは思ってるよ」
「確かに」
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