忍者の装備はここにはないらしい
「ところで今従魔のフェンリルのレベルが13だって言ったけど、それってウィンドウで確認できるの?私たちは従魔のレベルは確認できないんだけど」
クラリアが聞いてきた。
「ああ、それは俺のサポートAIが言っていたんだけど、従魔のレベルが10になると従魔の情報の一部が開示される様になっているらしい。俺の従魔の場合はレベルだけは確認できるがステータス部分は教えてくれない」
「そう言う仕様になっているのか。納得した。いや実は従魔のレベルがわからないがどうやって知るんだという問い合わせがクランに来ているのだ」
トミーによるとプレイヤー側から問い合わせが来る前からクランの中でその話になっていたらしい。従魔を育てると言ってもそのレベルが分からないのでどうなっているのだろうと。
「俺もタロウがLV10になるまでは全く分からなかった。外見もほとんど変わらなかった。LV10になってからは成長していくのが傍目で見てもわかる様になったよ」
こうして話をしてみると情報クランのトップの2人は極めてまともな人たちだった。もっと強欲というか情報をよこせ、みたいな感じで迫ってくるのかと思っていた俺にとっては意外だった。フォックスを従魔にしていないというのも好感が持てる。今までのゲームではこういう情報を取り扱っているクランが無かったこともあってちょっと構えていたんだけど杞憂だったみたいだ。
「えっと今度はこちらから聞いてもいいかな?もちろん情報を買うということでお金は払うよ」
俺が切り出すとクラリアとトミーが顔を見合わせてからクラリアが言った。
「タクの今の情報も相当の価値があるの。だから買いたい情報にもよるけど多分相殺できると思うわ」
「それは助かる。実は次の街の情報、特に忍者関係の武器や防具の情報が欲しくてね」
そう言うとその情報ならお金はいらないと言ってから教えてくれた。次の街は実際にはこの始まりの街よりもずっと規模が小さく村に毛が生えた程度の規模らしい。
武器屋や防具屋はあるが忍者関係の装備は売っていないと言われてがっくりする。
「無いのか」
「小さい村に武器屋、防具屋はそれぞれ3件あるの。でも忍者の武器や防具は取り扱っていないわね。これは確認済み」
「そこから先はまだ見つかっていないんだよね?」
「この始まりの街と次の街、この2つが最初のエリアだと言われている。ギルドで手に入る地図もそのエリアだけだ。情報クランでは次の街は新エリアを探す前線基地の位置付けになっているのではないかと見ている」
頷くとトミーが続けて言った。
「現在先行組というか攻略クランが次のエリアを見つけるべくあちこちを探してはいるがまだ見つかっていない。我々情報クランも時に彼らと共同で、時に単独でエリアを彷徨ったり村のクエストをこなしたりしているがまだだ」
どこかにトリガーがあるんだろうな。
しかし次の街にも忍者の装備がないとなるとしばらくはこの装備でレベル上げというか経験値稼ぎとなる。
「意外とタクのフェンリルがキーだったりしてね」
「それは無いんじゃないの?1人しか持っていない従魔がトリガーになる訳がないでしょ?それに俺が毎日ログインするなんて決まっていないのだし」
そう言うとクレリアもまぁねと答える。
トミーが続けて言った。
「この初期エリアも結構広い。まだ100%探し切れていないのが実態なんだ。情報クランの予想では新エリアが見つかるか開放されたらワールドアナウンスがあるんじゃないかと見ている」
確かに。じゃあそのワールドアナウンスに期待しましょう。
その後雑談をし、クラリアとトミーからフレンド登録を依頼されてフレンドになった。まったりソロプレイヤーの俺とフレンドになって意味があるのかと思ったがフェンリルの動向や忍者のレベルとステータスについて適宜教えて欲しいと言われた。もちろん従魔のレベルの情報はクランに買い取ってもらった。
「先行組だけ見ていると見落としがあるからね。合成組やまったり組には何も情報がないとは思っていないの」
次の街でも装備や武器の更新ができないとわかった俺はとりあえず宿代のかからない始まりの街で忍者のレベルをもう少し上げることにする。
タロウを連れて東の山裾にある森でレベルを上げて草原で薬草を取り、経験値を稼いで薬草からポーションを作って錬金のスキルを上げる。
情報クランに顔を出してから3日後、忍者のレベルが17になり、タロウのレベルが16になった。俺とタロウとのレベル差が1になった。そして錬金スキルは5となりようやく品質が中のポーションが作れる様になる。リキャストは1分のままだ。
それにしても時間の流れが穏やかだ。誰かに追われる様にゲームをしていた頃とは大違いだ。ゲームでストレスが溜まらない。当たり前のことなんだろうけどそれが嬉しい。
ゲーム内では連続11時間プレイすると警告が出ると言っていたが大抵はその前にログアウトしているので警告を受けたことがない俺。これも今までとは大違いの生活パターンだ。以前は決まった時間にインしてすぐに攻略開始。しかも事前に各自がサイトを見て情報を入手している前提で事が進んでいく。24時間ゲーム漬けの日々だ。その結果レアなアイテムをゲットしたり人よりも先に高いレベルになるがそれだけだ。
俺は一体何をやっているのか?楽しむ為のゲームじゃなかったのか?
ある日そう思ったら今やっているゲームが急に虚しく思えてきた。ゲームとはもっと自由にマイペースでやるものだろう。なので俺は所属していたクランを抜け、やりこんでいたゲームを辞めた。
それからしばらくして偶然手に入ったこのPWL。今度はあの二の舞はしたくないと決めてのんびりとゲームをしているが今のところ全くストレスを感じない。むしろフィールドで立ち止まって周囲の景色を見たり従魔のタロウと外で遊んだりとゲームを楽しめている。
これが俺がやりたかったゲームのスタイルだ。
東の森の中でホーンラビットを倒すとたまに兎の肉や兎の角というアイテムをドロップする。ホーンラビットは低い確率で肉や角を落とすのでそれを貯めていた俺。肉も角も10個ずつ貯まったので始まりの街で合成をすることにする。肉は調理ギルドだろうが角はどこのギルドに行けばいいんだ?
(角は錬金ギルド、あるいは鍛治ギルドが取り扱っています)
鍛治ギルド?武器になるのかな。
最初に調理ギルドに顔をだした。ギルドはどこも合成する工房を持っていて所属しているプレイヤーには無償で工房を使わせてくれる。
インベントリから兎の肉を取り出すとそれをフライパンの上で焼くだけだ。
商品 兎の焼肉
品質 普通
効果 空腹状態を少し回復する
こんなもんだろう。持っていた10個を全部焼肉にすると調理スキルが3になった。商品の品質や効果に変化はない。これで野営をしても空腹で強制ログアウトとなることはなさそうだ。
そう、このPWLではプレイヤーには腹が減るという現象が起こる。街のレストランで食べると自動的に100%まで回復するが、フィールドでは何かを食べないと空腹状態になり満腹度が0%になると強制ログアウトになる。PWLの1日、24時間で100%から0%になる設定になっていた。リアルと似ていて1日何も食べないと強制ログアウトだ。
次に鍛治ギルドに顔を出した俺はそこの受付でホーンラビットの角について聞いてみた。
「この角は矢じりの原料となります。鍛治スキルが10以上あれば自分で合成できますがそれ以下の場合には合成できません。こちらで1本100ベニーで買取りもしています。」
なるほど、用途については理解した。100ベニーの買取価格も初期エリアの一桁レベルの魔獣のドロップならそれくらいだろう。俺は半分の5本を鍛治ギルドに買い取ってもらう。少しでもギルドへの貢献度は上げたいからね。
代金を受け取った時に受付のNPCにどうやったら鍛治スキルを上げることが出来るのかと聞くとアドバイスをくれた。
「鍛治スキルを上げるのなら最初は鉱石を叩いてインゴットにするのが良いですよ」
「なるほど」
「東の山にはいくつか採掘ポイントがあります。やってみますか?」
やろうと答えるとこの鍛治ギルドでツルハシを売っているというので5本買った。ツルハシは何度か使うと壊れるらしい。とりあえず5本からスタートだ。
鍛治ギルドを出て錬金ギルドに顔を出して同じ様にホーンラビットの角について聞いてみると、
『ホーンラビットの角はトレントの根を一緒にすりつぶして使用することで痛み止めの薬となります』
トレントの根というものが必要らしい。その魔獣にはまだ出会ったことがないな。始まりの街の周辺にはいなさそうだ。とりあえず5本の角はこのままアイテムボックスで保管することにしてギルドを出た。
戦闘ではない合成もなかなか面白そうだ。様々な素材から新しい品物を作りあげる。職人と言われる人たちが多数存在しているというのも分かるな。
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