忍者は特殊だった

 俺とタロウは始まりの街の東にある森の奥にいた。ここでの相手はLV10からLV12のゴブリンだ。


 塵も積もれば山となるという言葉がある。弱いと言われている忍者でも敵を倒せば幾ばくかの経験値が入る。それを続けていると蓄積された経験値が上限に達してレベルがアップする。


「やっとLV12になったぞ」


 そう呟く。魔獣を倒す度に端末を見ていたのだ。今ゴブリンを倒してから端末を見るとLV11だったのが12になっていた。足元にいるタロウもおめでとうと言わんばかりに足元をぐるぐると走り回っている。


 いやぁタロウが手伝ってくれなかったらもっと時間が掛かっていただろう。ここ数日でタロウの身体が大きくなって毛並みも増え、元々は茶色が多かったのが白い毛が少しずつ増えてきている。自分が知っているフェンリルなら青みがかった白の体毛だ。少しずつ成長している様だ。



(忍者がLV12になってタクのステータスが上昇しました)


 ん?今サポートAIのミントが変な事を言ったぞ。


(えっと、LV12でステータスが上がるってこと?)


(忍者はそういうシステムの様です。次のステータスアップのレベルがいくらなのかは不明です)


 なるほど。上がった時点でAIが認識するということか。


(他のジョブも同じなのかな?)


(申し訳ありません。他のジョブの情報は持ち合わせておりません)


 う~ん、徹底的に隠してくるな。ただ忍者が弱いというのはLV1から11までステータスに変化がない。つまりLV11もLV1もほぼ同じでレベル上昇分の体力(HP)の増加分とあと何だろう、二刀流スキル?推測だがこれらが上がっているだけでSTRやAGIと言ったステータスの変化は無いという事なのか。それにしてもステータスアップをLV12という中途半端なレベルに設定しているとは。


 弱いけどLV10までやってみよう。ひょっとしたら大きな変化があるかもしれない。そうやって頑張ってLV10になっても相変わらず弱ければ見切りを付けたくなるのも当然だよ。


 戦士やシーフと言ったジョブはレベルが1つ上がるごとに少しずつステータスの上昇があるんだろう。そうだとすれば相対的に見て忍者が弱いという位置づけになるのも分かる話だ。LV12になる前に忍者をギブアップして他のジョブをやろうとキャラを作り変える人が多いというのも頷ける。


 ちまちまとLV12まで忍者を上げる時間があれば恐らく他のジョブならもっと高いレベルになるのだろう。


(タロウのレベルは分かるかい?)


(はい。タクと同じタイミングでタロウはLV10になっています。タロウがLV10になった時点でタロウの一部の情報を見る事が出来る様になりました)


(タロウのステータスは?)


(それについては見ることができません)


 なるほど。ただ戦闘をしてみて分かったのはタロウ、フェンリルはレベルアップするごとにステータスが上昇しているということだ。


 じゃあ早速ステータスアップした忍者でやってみよう。


 俺とタロウは始まりの街の西の森の奥をウロウロするとゴブリンを1体見つける。


(ゴブリン、LV12です)


 丁度よい相手が現れた。


「タロウ、最初は俺だけで相手をするから待っていてくれ。俺がタロウって名前を呼んだら手助けを頼むぞ」


「ガゥ」


 おっ、タロウの鳴き声も変わったな。渋い低音になってる。


 俺は両手に刀を持つと近づいてくるゴブリンをにらみつける。さっきまではこのレベルのゴブリンが相手の時には、タロウが近づいてゴブリンの気を引いたところを俺が刀で切り付けては離れる。ヒットアンドアウェイの戦法で刀を4,5回切り付けて倒していた。


 ステータスが上がってどうなるのか。


 棍棒を持っている手を上に上げてうなり声を上げて襲いかかってきたゴブリン、その攻撃を回避しながら片手剣をゴブリンの腹に一閃する。

 

 体の動きが今までと全然違う。それに与えるダメージも同じ様にさっきと全然違う。

すれ違いざまに腹を切ったゴブリンは2度目に刀を振ると首と胴が綺麗に離れて絶命した。1度目の攻撃でほとんど死んでいた様だ。


「凄いな。全然違う」


 背後にいたタロウもその場でジャンプして喜んでくれた。これなら何とかなりそうだぞ。


 その後も夕方まで東の森の奥でゴブリンを相手にした俺とタロウは日が暮れる前に始まるりの街に戻ってきた。レベルは13にはならなかったが殲滅速度が速くなったので明日か明後日にはまたレベルが上がるかもしれない。


 街の手前でタロウをリターンさせ、城門を潜って街の中に入るとそのままギルドに顔を出してレベル上げの次いでに採取した薬草の一部を換金した。


「品質が安定していますね。はい、3,000ベニーです」


 何回も薬草取りをすればコツを覚えてくる。最近は袋一杯に詰め込んで3,000ベニーを報酬として受け取るのが日課になっていた。



 今日はそろそろ落ちるかなと思っていると


(タク宛てにメッセージが来ています)


 ミントの声がした。ウィンドウでメッセージを開いて読む。


(相手と話す事はできるの?)


(フレンド登録している相手ならできます。ウィンドウの電話マークに触れれば大丈夫です。会話は端末を口に近づけて行ってください)


 俺はギルドの隅に移動してミントが言った通りに電話マークに触れた。呼び出し音がして直ぐに女性、ルリの声が脳内から聞こえてきた。


「今大丈夫だった?電話よりもまずメッセを送ったんだけど」


「大丈夫。ギルドにいる」


 カードを口元に近づけて答える。


「よかった。リサも一緒なの。今からこっちに来られる?」

 

 そう言った後で2人がいる喫茶店の名前と場所を聞いた俺は電話を切るとギルドを出てその場所に向かう。扉を開けると奥のテーブルに座っていた2人。こちらと目が合うと手を振ってきた。この前とは違う喫茶店だ。あちこちよく知ってるな。


「久しぶり」


 彼女達の座っているテーブルの空いている椅子に座るとお互いに挨拶をする。2人から呼び出された時点で話の内容は予想できていた。今目の前に座っている2人の表情を見てる限りは上手くいった様だ。


「やっとテイマーギルドに登録して指輪を手にいれることができたの。その報告というかお礼をしようと思って」


「よかったじゃない」


 きちんとクエストをこなせばテイマーギルドに登録できると言うのが確認できたので俺も一安心だ。


「ただね、タクから聞いていた初回登録の時とは違ってたのよ」


 タクの話を聞いてから2人はまず公園清掃のクエストを受けて6つの公園全部の清掃をしたらしい。その時点でテイマーギルドに行ってみたがギルドの建物が見えなかったので2度目のマップ作成クエストを受けてそれを達成すると無事にあの場所にテイマーギルドが現れたのだという。


「2度目の地図クエストもさ、受付からは言わないのよ。こっちから他に地図作成クエストってありますか?って聞いて初めて勧めてきたのよね」


「クエストをこなす順序も大事だってことだな」


 俺がそう言うとそうそうと同意する2人。2人は先に薬草取りのクエストをやってしまったから2度目の路地の地図作成クエストをギルドが勧めなくなったのではと予想しているらしい。聞いている限り2人の予想通りだろう。


「テイマーギルドで従魔は手に入れられたのかい?」


「タクの時ってリストにあったのはスライム10体と神獣2体って言ってたよね」


「そう。神獣2体は最初のリストには入っていなくて他にはないのか?って聞いたら出してきたリストに有ったんだけどね」


 テイマーギルドにたどり着いた2人がカウンターで猫耳の受付嬢にギルド加入の意思を示して指輪を貰ったところでギルドから最初の従魔リストってのを見せられたらしい。


「それがスライム10体。合成関連が8体と戦闘関連が2体。タクが言っていた通りだった」


 そうだったなと黙って聞いていると、


「ところがさ、その10体って無償じゃなくて有償。つまり従魔を買い取る必要があるのよ」


「え?! 本当かい?」


 スライム10体はどれも1体10,000ベニー。しかも所有できるのは1体だけ。


「あの猫耳の受付によるとタクは初めて登録した冒険者だから特別でこれが普通だって言ってた」


 10,000ベニーか。従魔が持っている特殊効果を考えると妥当なのかは分からない。彼女達はタクのやり方を聞いていたからスライムのリストを見たあとで他には無いのかと聞いたらしい。


「そしたら2枚目の紙がカウンターの下から出てきたの。登録されていたのは狐だったわ」



 シルバーフォックス 近接武器の攻撃力をアップする

 ゴールドフォックス 素早さをアップする

 グレイフォックス  遠隔武器の攻撃力をアップする

 ブラックフォックス 魔力をアップする



 と4体の狐がリストに載っていたらしい。これ以外は?と聞いたらこれだけですと言われたと言う。やっぱりフェンリルやガルーダは初回限定の従魔っぽい。


「選べるのは1体だけ、20,000ベニーを支払って登録するの」


「2万?いい値段するんだな。2人ともお金は持ってたの?」

 

 頷く2人。金持ちなんだな。


 それでルリがシルバーフォックスを、リサがブラックフォックスをその場で買って従魔にしたんだという。スライムにしなかったんだなと言ったら2人が同時にモフモフ出来ないじゃないと言っていた。


「しかもさ、私たちが2体のフォックスを買ったあとでリストを見るとフォックスが残り2体になっていたの。ゴールドとグレイしか残っていなかったの」


 つまりフォックスも1体だけしかいないということか。早いもの勝ちだ。


「それが昨日の話。それで今日フィールドで呼び出して一緒に戦ったの。私もリサも従魔のサポートが実感できるレベルだった」


「それと戦闘が無い時は首に巻き付いたりや頭の上に乗ってきてね、それが滅茶苦茶可愛いのよ」


 話を聞いている限り2人は2体の従魔に満足している様だ。よかった。紹介した甲斐があったよ。


 2人のレベルは22でこれは周囲のプレイヤーと比較すると平均のレベルらしい。攻略組の中にはLV30越えもいると言う話だ。初めて会った時が18だから数日でレベルが4つ上がっている。聞いてみると2つ目の街の周辺で野良パーティを組んで経験値稼ぎをしたからだという。LV上げの野良パーティが解散してから始まりの街に戻ってちまちまとクエストをこなしていたらしい。2つ目の街から始まりの街へは相互に使える有料の転送サービスがあるのだと言う。



「タクは相変わらず忍者なのね」


 従魔の報告が済んだ2人。ジュースを口に運んでいたリサが言った。


「そうだよ。今日LV12になったらやっとステータスがアップしたよ」


 リサの言葉に答えると2人がどういう事?と聞いてきたので自分の考察を2人に話する。


「えっと、つまり忍者はLV1からLV11まではステータスの上昇が一切無いってこと?」


「恐らくそうだろう。LV12になったら急にゴブリン討伐が楽になったよ」


「それって凄い情報じゃない。売れるわよ」


「売れる?」



 ルリが売れると言っているが何のことかさっぱり分からない。その表情を見ていた2人。ルリが教えてくれた。このPWLの中に冒険者、プレイヤーが作った情報クランがあるのよと言う。


「この世界の情報とか地図とか強い敵の攻略方法とか隠しクエストなんかを集めてきて、有料で提供しているクランがあるの。それが情報クラン。もちろん全員がプレイヤーよ。皆レベルが高くて自分達で攻略したりしながらも同時に他のプレイヤーから情報を買い取ったりしているの」


 クランメンバーは30名程いるらしい。情報の売り買いをするクランと言いながらも自分たちで攻略して情報をとることも多いらしくメンバーには高レベルが多いそうだ。


「なるほど。掲示板情報じゃなくてゲーム内で情報のやり取りをするんだ」


「掲示板だとガセの情報や話もあるしね。彼らが売る情報にガセは無いという評判よ。それに自分の関係のある情報、しかも精度の高い情報が早く買える。買い取りについては情報の内容によって買い取り価格は変わるんだけど今の忍者の情報は売れるわよ」


「テイマーギルドの情報も売れるのかい?」


 俺が聞くともちろん、そっちの方が本命よと言う2人。


「ここに来て貰ったのは私達が無事に従魔をゲットしたという報告もあるんだけど、それと同時にテイマーギルドと忍者の情報を一緒に情報クランに売らない?っていう話しよ」


 情報を開示するのは全然構わない。合成職人は当然だがティムに興味のないプレイヤーでも経験値ボーナスのあるゴールドスライムや幸運があるメタルスライムを従魔にするだろう。


 ただまったりやるって決めているから余り目立ちたくないんだよな。

 少し考えてから俺は目の前の2人をみた。


「情報を売るのは全然構わないけど2人で行ってくれるかな?。2人も従魔をゲット出来ているんだろう?むしろ俺のケースがレアなんだからさ。2人がテイマーギルドを見つけた方法を売ってくれていいよ」


 その言葉を聞いていた2人。



「じゃあ、私たち2人でクランに行くわ。その時に忍者の情報も一緒に売ってくる」


 リサが言ってきた。2人で行ってくれるのなら是非お願いしたい。



 こっちはのんびりとPWLをやろうとしているので目立ちたくはない。忍者の情報もテイマーギルドの情報もまとめてそっちでやってくれるのならそれが一番有難い。



 情報が売れたら連絡するという彼女達と別れるとこの日のゲーム内の活動を終えてギルドハウスでログアウトした。

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