ルリとリサ
タロウを従魔にしてからゲーム内日数で2日間、始まりの街の郊外で薬草取りをしながら魔獣退治をして忍者のレベルが5になった。1日でレベルが1から3に上がったが、3から5にレベルを上げるのに2日掛かっている。得られる経験値が少なくなってきているせいだがそこはあまり気にせずに薬草を持ち込んでベニーを稼ぎながらのんびりとレベル上げをする。俺は全然強くなっていないが、フェンリルのタロウは見た目は変わっていないが成長していると信じたい。
「今日は違う場所に行ってみるぞ」
外に出てタロウを呼び出すとしゃがみ込んで頭を撫でながら言う。首を激しく上下に振って応えるタロウ。タロウも撫でられるのが好きな様だ。これでもフェンリルなんだよな。
今までは街から西方面のフィールドでレベル上げ兼薬草取りをしていたが今日は東方面に行ってみよう。
昨日街に戻ってきた時は同じタイミングで街に向かって歩いていたプレイヤー達からガン見されてた。まぁ見られていたのはタロウだが。話かけられたら答えるけどこっちから話をするのは自慢してるみたいなので今日は人が少ないエリアを選んだというのもある。
街を出て東の方向にも広い草原が広がっているがその先は森、そしてその更に奥には高い山が連なっているのが見えていた。草原を森に向かって歩いているとちらほらとスライムの姿が見える。
「タロウ、行け!」
「ウォン」
タロウがスライムに向かって走って行き、その前足でスライムを押さえつけるとスライムが倒れて光の粒になった。
「よくやったぞ」
タロウのレベルを見る事は出来ないが戦闘を見てる限り強くなっているのは間違いなさそう。テイマーギルドの受付の話だとマスター、つまり俺が魔獣を倒せばその経験値は従魔も共有できると言っていたけどそれだけで従魔のレベルを上げるよりは実戦で強くなりながらレベルを上げた方が良いに決まってる。スライム退治はタロウに任せているが昨日よりもずっと動きが良くなっている気がするんだよな。成長してるのは間違いないぞ。
スライムを倒して森の中に入るとホーンラビットの姿が見える。予想通りこっちの森にもいたな。これが今の俺の獲物だ。頭にある角を武器にしてジャンプして襲い掛かってくる。LVは5~7。できればこいつでLV8くらいまでは上げたい。タロウも戦いたそうだがあの角をまともに食らうと大怪我をするのは間違いないので背後で待機させている。
(ホーンラビット LV5です) ミントの声がした。
「行くぞ」
両手に持っている刀同士を叩くとホーンラビットがこちらに向かって突進してきた。腰を落として構え、相手がジャンプした瞬間に身体を横にずらせながら右手に持っている刀を横に払うと一振りで倒れた。相手がLV5なら一振りで、それ以上のレベルなら左右の刀を1度づつ振ると倒れる。
朝から昼過ぎまで森の中でホーンラビットやスライムを倒しまくっていた俺はLVが1つ上がって6になった。夕方までやればもう1つは上がるかもしれないが腹も減ってきたし戦闘の合間に収穫していた薬草も袋一杯になっていたので一旦街に戻る事にする。
森を抜けて草原をのんびり歩いていく。足元ではタロウが走り回っていた。ここまでのんびりゲームをするのは初めてだなと思い、周囲の景色を見ながら草原を歩いていると始まりの街の城壁が見えてきた。
城門に近づくと戦士風の女性とローブを身に付けている魔法使い風の女性が門の外に立っていてこちらを見ているのが目に入ってきた。門に近づくと、
「「こんにちは」」
「こんにちは」
話かけられてこちらも挨拶をして立ち止まるとタロウも足元に腰を落とす。女性2人の視線は俺じゃなくた足元のフェンリルのタロウに釘付けだ。
「いきなり話かけてごめんなさい」
「いや、大丈夫。こいつの事で聞きたいのかな」
2人とも俺とタロウを交互に見ている。このゲームではテイマーはジョブとして存在していない。それがどうしてティム出来ているのか知りたがっているのが丸わかりだ。
「そうなの。良かったら教えてくれない?」
「いいけどこいつ、名前はタロウっていうんだけど従魔は始まりの街の中には入れないんだよ」
女性2人はそれを聞いてびっくりしたがすぐに納得した表情になった。
「だから街の中では1人だったのね」
「見てたのかい?」
「見てたというかたまたま今朝貴方がギルドから出て外に行くのを見つけたのよ。私達もあの時ギルドにいたのよ」
なるほど。俺は毎日ギルドで薬草取りのクエストを受けてから外に出てレベル上げをしながら薬草を集めている。そこを見られたのなら分かる。
ちょっと待っててくれと言って指輪に触れてタロウをリターンさせた。
「その指輪は?」
今度は指輪に注目する2人。
「ああ、テイマーギルドで貰った」
「「テイマーギルド?」」
「どこにあるの?知らないわよ」
「どこ?街の中にあるの?」
2人の食いつきが凄い。とりあえず始まりの街に戻ろうと市内に入ると2人がよく行くという喫茶店に行った。俺は喫茶店なんて入ったことが無いから全く知らないがここは個室があるらしい。
「個室の方が落ち着くでしょ?」
個室に入る時にそう言っていた。俺はどっちでも良かったのだが女性が奢ってくれるというのでそのまま個室に入って席に着くと自己紹介だ。
急に話しかけて、誘ってごめんなさいねと言って2人が自己紹介をする。
戦士の女性はルリと言ってLV18の猫人だ。ローブの女性は僧侶のリサと言って同じくLV18。こちらはエルフ。この2人はリアルの知り合いで2人でパーティを組んでいて攻略の時にはギルドの掲示板の募集に乗っかって攻略をしているらしい。
「俺はタク。LV6の忍者で数日前にこの世界にやってきた新参者だよ」
「PWL、まだ2回目の販売してないよね」
「そしてジョブが忍者なんだ」
お互いに顔を見合わせて2人が言っている。
「ああ。ちょっと色々あってこのゲームを手に入れたのが遅れてね」
2人ともそれ以上は突っ込んでこなかった。お互いに必要以上にリアルに踏み込まないというネットゲームの暗黙の了解を理解している。
目の前の2人はPWLでは従魔がいないのだけが不満だよねと言い合っていたところに、昨日草原で小さな狼を連れている俺を見てびっくりしたのだという。ペット大好きだという2人はいてもたってもいられなくなって俺が街に戻るのをずっと門で待っていたらしい。
頼んだジュースが来てウエイトレスのNPCが個室から出ると2人が早速聞いてきた。
「それでテイマーの事なんだけど」
「ギルドが有るってことは。タクだけが特別って事はないよね?」
「それは無いと思う。恐らくクエストをこなすと現れるんじゃないかな」
「「クエスト?」」
どこからテイマーギルドに繋がるのかが分からないので俺はPWLにインしてからの行動を彼女達に話をする。まだ数日しか経っていないからしっかりと覚えてるんだよね。元々言いふらす気はないけど隠す気もなかったから聞かれたら答えるよ。
俺は冒険者ギルドから市内の地図作成を受けて、その後は全ての公園の清掃、それから路地マップ作成の途中でテイマーギルドを見つけたら初登録のプレイヤー特典で従魔を手に入れた事まで話をする。
話をしている間ずっと黙って聞いていた2人。
俺が話終えると2人が残っているジュースを一気に飲んで立ち上がった。
なんだ?どうした?
「まずはそのテイマーギルドの場所に連れて行ってくれる?」
「そうそう。クエストを受けないと見つからないのかどうか確認したいのよ」
なるほど。立ちあがっている2人の前で慌ててジュースを飲み干すと茶店を出て3人で大通りを歩いていく。
「テイマーギルドって街の入り口と反対側にあるのね」
「こっちはお店も無いから来ないわよ」
「ここだよ」
通りから路地に入っていくとその突き当りの近くにテイマーギルドが有った。ただ2人には見えない様だ。
「私には見えないよ」
「私も。普通の民家みたい」
「じゃあ中に入ってくるよ」
俺はテイマーギルドの扉を開けると中に入って受付に近づいていった。
「タクさん、いらっしゃい」
いつもの猫耳の受付嬢が立ち上がって挨拶をしてきた。
「こんにちは。タロウの様子はどうかな?」
「ええ。元気いっぱいですね。しっかり育てられているのが分かります。これなら成長も早く、そして強い従魔に育ちますよ」
「期待大だね」
ありがとう、また来るとよギルドを出ると目の前に2人が立っていた。
「突然目の前から消えたと思ったらしばらくしてまた突然現われたよ」
「であればクエストを進めないと中に入れないって事になるね」
俺の言葉にそうなるねと2人。場所を確認すると今度は違う喫茶店に入った。女ってのはこういうのが好きだよな。俺はお腹が結構水ぶくれしているが2人は平気らしく、今度はパフェを頼んでいた。
「タクの話だとタロウ、従魔のフェンリルの子供って初回登録者の特典だって言ってたわよね」
「そうなんだよ。ガルーダとどっちにしようか迷ったんだけどね」
俺は10体のスライムと2体の神獣が載っていたリストの話をすると2人ともそりゃフェンリルかガルーダになるよねと言っている。
「じゃあ私達がテイマーギルドに登録できてもフェンリルやガルーダは手に入らないってことか」
ルリがそう言うが僧侶のリサは、
「でもその代わりに別の従魔リストがあるかも知れないじゃない?だってテイマーギルドだよ?」
そう言うとルリもそうだよねと言っている。確かにテイマーギルドに所属したら特典がありそうな気はする。知らんけど。
クエストの事を聞くと最初のマップクエは終えてあるらしい。そこから薬草取りのクエストを受けたので公園清掃のクエストはしていないという。
「トリガーがどれか分からないけど確実にやるのなら公園掃除からだよね」
2人はこの後ギルドで公園清掃クエストを受けると言う。
「そう言えばさ、少し前に掲示板に初期装備で公園掃除してるプレイヤーがいるって書かれていたけどそれってタクの事じゃない?」
リサが話題を変えて言うとルリもそうそう、それあったよねと言う。
「俺は掲示板を見ない様にしてるから知らないんだけど、俺が公園掃除をしている際に他のプレイヤーを見たことはないな」
「掲示板見ないの?」
「ゲームを初めてからは一切見ていないね」
そう言ってから俺は見ない理由を2人に話をする。
「そう言うことでこのPWLでは先行組じゃなくてのんびりまったりしようと思ってね」
「それで忍者なのね」
「ゲームを始める前は見ていたけど外れジョブって書かれてたよな。忍者で初めて挫折してジョブを取り直ししたプレイヤーが結構いたって書いてあったな。でもPWLは基本ソロでやるつもりだったから忍者一択だったよ」
2人によると忍者を選んだ多くのプレイヤーがジョブチェンジをしたという。その理由もタクが知っていた通りで武器が弱くソロジョブと言いながら経験値稼ぎが難しいというのが理由だ。低レベルでは忍術も覚えることができなくて刀2本を装備しても戦士の片手剣やシーフの短剣にも劣るらしい。その上にはじまりの街で買えるのは1種類の刀だけで忍者が装備できる防具は売っていない。
忍者のLVを10まで上げた人はいないんじゃないと言う程、皆早めにギブアップした様だ。
「俺は時間は掛かっても気にしないからね。のんびりやるつもりだよ」
「フェンリルのタロウも仲間になってるしね」
「そう言う事」
猫人のルリとエルフのリサとはフレンド登録をする。初めてのフレンドだ。テイマーギルドで登録できたら連絡をくれることになった。
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