第245話 村長が出てきた
垂れ耳コボルドの村に歓迎される形となった僕たち。
まずはここの代表に挨拶をせねばということになった。
幸い、向こうからやってきてくれる。
クリーム色の短め毛並みで、黒い耳がたれていて、タプっと皮が余ってる感じのわがままボディ……。
パグだ!!
「わしが村長です」
「あ、これはどうも。ナザルと言います。知識神様の使徒みたいなのもやってます」
「おおっ、神の御使いでしたか! ははーっ」
たぷたぷーと皮を揺らしながら、ひざまずく村長なのだった。
そしてすぐにピョコンと立ち上がる。
「なんというか仕草が可愛らしい人だね……」
リップルが村長に触りたくてうずうずしている。
分かる、分かるぞ。
村長は僕らの注目されると、舌を出してペロリと自分の低い鼻を舐めた。
犬仕草!!
「な、撫でたい……!!」
「落ち着けリップル! もっと親しくなってから撫でさせてもらおう。村長、実は僕らはここで食べられているというお米に興味があってですね」
「ほほー! お米とな!」
村長がくりくりっ!と目を剥いた。
その後、ニコニコーっとした笑顔になる。
「ありゃあウマいからのう。一緒に食べていくかね」
「ぜひぜひ。気の良い人で良かった」
他にやってきていたダックスフントみたいなコボルドが、「そんちょうやさしい。でも、よそものけいかいする。いまやさしいの、あなたかみさまのつかいだから」
と説明してくれた。
どうやらこの人は、村長の奥さんらしい。
後ろにちっちゃいコボルドがわあわあ言いながらついてきている。
子沢山だ。
村長は恐らく賢い上位種コボルドで、奥さんは一般コボルドなんだな。
「村長、奥さんのどういうところに惚れてご結婚を?」
「むふふ、妻はとっても世話焼きさんなのだ。わしはよくお尻がかゆくなって木にこすりつけて変な虫がついてしまったりするのじゃが、妻はそれを察して先にお尻を掻いてくれる」
「ははー、いい奥さんですねえ」
「じゃろうー?」
村長がニコニコする。
上位種とか通常種とか関係なく、愛なんだな、愛。
「らぶらぶー」
コゲタが村長と奥さんを見て、端的な感想を述べた。
そうだなー。
ラブラブだなー。
ちなみにコゲタだが、垂れ耳コボルドの村に来てからいろいろな人から熱視線を送られているぞ。
モテモテだな。
僕から見ると、そのコボルドがオスなのかメスなのかさっぱり分からんが……。
「村は新しい血が入ってくれることを歓迎してる。住んでもいいよ」
「だめー! コゲタはご主人といっしょなの!」
「そうかー」
無理強いはしないのだ。
さてさて、コボルドご飯を拝見するとしよう。
村の中央には、土で作られたお鍋がたくさんある。
ここにめいめいお米を入れて、芋を一緒に入れて、その他にハーブやら野菜やら肉やらを入れてぐつぐつ煮込む。
「茹でるタイプかな?」
僕はこの光景をじーっと眺めることにした。
外国人が料理を凝視しているのが珍しいらしく、鍋担当のコボルドたちは張り切ってお米をかき回していた。
火加減は割とちゃんとしてるな。
そしてしばらくかき回したあと、蓋をした。
おっ、ここで放置!
分かってるー!!
ただただお湯で茹でるだけではない。
ちゃんとお米に水を吸わせて蒸らす段階を経るのね。
これは高度な炊き方ではないかと思う。
僕が思うに、彼らの作るお米の炊き方とは……!!
「できたよ!」
料理していたコボルドが、満面の笑顔で僕に振り返った。
見てほしいんだな!
「どれどれ? みんなの料理を見せてもらっていいですか?」
僕が声を掛けたら、鍋を担当していたコボルドたちがワーッと盛り上がった。
外国人に炊いたお米を見せるだけで、お祭りみたいな騒ぎだな!
だが、僕はここで心の底から驚くことになる。
何故なら……。
炊きあがったご飯は、野菜と肉のお出汁できつね色になっていたからである。
こ、これはーっ!!
「炊き込みご飯!! 炊き込みご飯じゃないか!! 割と玄米みが強いけど、それでもこれは完全に炊き込みご飯だ!! なるほどなあ。これなら一つで色々な栄養を摂れる。しかも美味しい。完璧すぎる……」
「おいしそう?」
「すごく美味しそう」
「やったー!!」
「ねえねえみつかいのひと、こっちは? こっちは?」
「おほー! こっちはハーブを入れて香り米みたいにした炊き込みご飯か!! これはこれで美味しそうだなあ……」
「やったー!!」
一つ一つの鍋が本当に美味しそうだ。
なんだなんだ!?
垂れ耳コボルドの村はご飯料理の天才しかいないのか……!?
「大変だリップル」
「おおナザル、どうしたんだい?」
振り返ったら、リップルが村長と奥さんを抱きかかえて撫で回していた。
村長、なんかトリップしてるみたいな目をしているぞ!
奥さんは目を細めて実に気持ちよさそうだ。
さらにコゲタはなんか、ちょっと高いところに座っていて、その眼の前でコボルドたちが小枝を使って決闘みたいなことをしていた。
なんだなんだ!?
僕が料理を凝視している間に何が起こっていたんだ……!?
「みつかいさん、ぜんぶのごはん、ちょっとずつたべる?」
「えっ、いいんですか!? そいつは素晴らしい提案だなあ! いただきます!!」
僕は僕で嬉しい忙しさだぞ!
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