第246話 炊き込みご飯大作戦

 垂れ耳コボルド村の名物料理が、まさかの炊き込みご飯だった!

 ご飯ものが完成しちまったな……。


 いきなりの大ご馳走じゃないか。

 僕は戦慄しながら、コボルドの人から専用のお皿をもらった。

 素焼きのお皿だ。


「これはもしや」


「ぼくらでつくりました!」


「すごいなあー」


「えへへ」


 コボルドの人が照れた。

 いや、本当に凄い。

 焼き物ができるだけの火力を確保できているのも凄い。


 どうやら、森の外れにツボなどを焼く窯があり、そこでコボルドたちの調理器具や食器を作っているのだそうだ。

 さらに、陶器を尖らせて槍にもしており、本当に土でなんでも作ってしまうのだ。


 大したものである。


「もしかして、スケアクロウの里の建物や器もみなさんが?」


「みんなでスケアクロウをてつだいました!」


 なるほど、合作だった!

 カズテスの島はみんな仲良しなのだなあ。

 ほっこりする。

 よく考えたら、利害が相反しない仲だもんなあ。


「あとはぼくらのうんこも運んでて」


「あー、肥料! 完全にウィンウィンじゃないか」


 ちょっとジーンと来たところで、実食。

 様々な種類の炊き込みご飯を、ちょっとずつお皿に盛ってもらうのだ。


「どーぞ」


「こりゃどうも。おおー、きのこと野菜の炊き込みご飯ですか! どれどれ……? んー、きのこの滋味が染みててしみじみ美味い! ご飯はちょっと柔らかめだね。野菜の水分が出てるのかな。お腹に優しそうだからリップルが好きそう」


 美味い美味い。


「こっちもどーぞ」


「どうもどうも、これは肉入りの炊き込みご飯ですね。鳥肉なの?」


「ぼくらをねらってくるとりをね、かえりうちにして」


「食べちゃうと? ワイルド~!」


 コボルドは群れでの狩りに特化しており、囮役が鳥をおびき寄せ、それが地上に向かってきた瞬間、周りに隠れていた仲間が一斉に弓矢を放つのだとか。

 一斉攻撃をされたら、流石の猛禽類もたまったものではない。

 こうして鳥はみんなのご飯になるのだ。


「ふだんはカリカリにやいてとってあります」


「あー、腐らないように水分を飛ばすんだ」


 それでも、湿気の多い熱帯雨林では数日しか持たないそうな。

 常に獲物を確保しないといけない仕様なんだな、この地域は。


 さて、そんな苦労の末にゲットされた、カリカリ鳥肉をお出汁に使った炊き込みご飯は……。

 おっ、米の戻し汁でジューシーになっている!

 こっちは肉汁の旨味が染み込んで美味しいですねえ。


「若い子向けのパワー炊き込みご飯って感じだ。コゲタが好きそう」


「こっちをどーぞ!」


「おおーっ、なんかカラフルな炊き込みご飯! えっ、木の実とか果物を入れたの? フルーツご飯だなあ。前世の僕なら受け付けなかったことだろう。だが今は違う!!」


 ぱくっ!!

 スイーツ系ご飯、悪くない。

 甘酸っぱい。


 そして、酢豚の中のナッツみたいな歯ごたえ。

 ああ、この甘酸っぱさ、まさに酢豚の味わいなんだ!


「こっちもコゲタが好きそうだなあ」


 むしゃむしゃといただいた。


「さいごどーぞ」


「おおっ! お焦げ付きの炊き込みご飯! ちょっとパリパリしてるところがあってなかなか美味い……」


 こっちは王道だ。

 僕好みだな。

 芋や豆、たけのこみたいなのといっしょに炊き込むことで、土の鍋に接していた部分がほどよくカリカリのパリパリになるのだ。


 結論、全部美味い。

 素朴だが、どれもこれもアーランに直接持ち込んでも戦えるレベルだ!


 いや、これは米の戦闘力も高いんだな。

 炊く時に味付けすると、よく吸い込むからなあ……。


 僕が一通り味見したものを持っていき、リップルとコゲタも実食となった。

 案の定、リップルは最初のあっさり柔らか炊き込みご飯が気に入ったようだ。

 だが以外なことに……。


「この酸っぱい炊き込みご飯美味しいね。お茶にも合いそう」


「ああ、それはそう。ある意味スイーツご飯みたいなもんだし」


 自然の甘みと酸味は心にもお腹にも優しい。


「ナザル、これのレシピを教えてもらってくれない? 私、アーランでもこれを作ってもらうんだ」


「自分で作ろうという発想は……?」


「ははは、料理上手がたくさんいるアーランで、どうして私が素人料理をやる必要があるんだ」


 まあごもっとも。

 なお、コゲタには全てが好評だった。

 もりもりもりーっと全部食べて、お腹いっぱいになって地面にコロンと転がった。


「もうたべられないー」


「いっぱい食べたなー」


 お腹がぽんぽんになっている。

 そこへ村長がやってきて、「どうだった?」と聞いてきた。


「いやあ、本当に美味しかったです」


「本当か! うれしいなあ!」


 ニコニコする村長。


「うちで作っているお米のお料理、あれで全部。いつもは一つだけしか作らないけど、御使いの人が来たのでいっぺんに作った。今日はお祭り」


「なんと! 我々のためにお祭りを!? ありがとうございます!」


 そんなわけで、その日はたくさんの炊き込みご飯が作られた。

 村中のコボルドが集まってきて、炊き込みご飯をもりもり食べたのだった。


 いやあいい環境だなあー。

 ちなみに、垂れ耳コボルドの村にはお酒も存在していて、ほったらかしていたらお米が発酵して、酔っ払うものに変わっていたんだとか。

 甘酒では!? 


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