81・突撃、垂れ耳コボルドの集落!

第244話 森を抜けると、そこはコボルドの住処だった

 昼にスケアクロウの里を発った僕らである。

 水田地帯からちょっと先に行ったところに、森が広がっている。

 なんと熱帯雨林だ。


 虫が寄り付かないように、周囲を油の霧で覆いながら移動しよう。


「ひえーっ、蒸し暑い蒸し暑い」


 リップルが早くも音を上げ始めた!

 まあこの人の場合、弱音を吐くのが早いだけで体力はかなりある方だと思う。

 伊達に過去の英雄ではない。


 コゲタは鼻歌混じりにトコトコ歩く。

 ちょっと暑そうだが、若いコボルドはそんなものには負けない体力があるのだ。


 おっ、近づいてきていた蚊みたいなのが僕の油の霧に絡まれて落ちていくぞ。

 ははは、近寄れまい。

 害虫対策は完璧なのだ。


 僕らが歩くのはいわゆる獣道。

 とは言っても、コボルドたちがそこを頻繁に利用しているらしい。

 しっかり踏み固められており、歩きやすい。


 茂みや枝葉を切り払う必要だってない。

 これは、米俵を運ぶ高さまでの枝をあらかじめ切ってあるのだろうな。


 よく出来ている。


 あちこちから獣や鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 実に熱帯雨林という感じだ!


 茂みからは、こちらをじっと見つめる肉食獣の姿がある。

 ジャガーとかそういう感じかしら。


 だが相手が悪い。

 僕がいるからな。


 一番小さいコゲタを狙っているのかも知れないが、そこは僕のまもりが最も厚い場所だぞ。

 あとリップルもいる。


 我々に死角なし!

 結局、ジャガーは油のにおいが苦手なようで、遠巻きに眺めるだけで近寄ってこなかった。


 その他、獣道の近くで求愛のダンスをする鳥などを見た。

 獣道、なにげに動物たちの安全地帯になっていたりする?


 コボルドの群れがお米を運んでいくんだもんな。

 熱帯雨林で暮らす彼らが、無防備で肉食獣に弱い存在だとは思えない。


 恐らく、生き残れるほどの戦闘力を持っているのだろう。

 これは、コボルドたちに会う際、気を引き締めて行かねばな……。


「ご主人ー! こっちのこぼるどのひとたち、たのしみねー!」


「そうだなー楽しみだなー!」


 コゲタがウキウキしているから、ま、いいか!!

 僕は考えるのをやめたぞ。


「ナザルはちょっと脳天気なくらいでいいんじゃないかな? そろそろ君を脅かすものはあまりいなくなってるだろう」


 それもそうかも知れない……。

 この間も、海の上でシーサーペントやらに襲撃されても心穏やかだったからなあ。


 やはり遠巻きにしているジャガー以下、ニシキヘビみたいなのや大猿みたいなのやらを眺めながら、僕はニコニコと道を行くことにした。

 誰も襲ってこない。


 おっと、大猿がそーっと木から下ってきて、油の霧に手を伸ばした。

 手が油でネットリしたので、「ムキャーッ!?」とか驚いて体で手を拭こうとした。

 伸びる油。


 おお、パニックになってるパニックになっている。

 これを見て、熱帯雨林の捕食者たちは流石に諦めたようだ。

 次々に姿を消す。


「ヒエラルキーが決まったようだな……」


「ナザル、なにげに楽しんでる?」


「……実は。しかしこんなに緑に満ち溢れている場所なのに、全く食べられそうなものがないな」


「ああ。森は本来、人が生きることのできない環境だからね」


 緑の砂漠とはよく言ったものだ。

 砂漠にはカレーコがあるから、あっちのほうが生き延びられるかもしれない。


 ということで、現地の捕食者を威嚇しながら突き進んだら、何も起こらなかったのだった。

 よしよし、熱帯雨林を分からせてやったぞ。


 こうして森を抜けると……。

 いや、森の中ほどに集落があるのか。


 木々が切り開かれており、その丸太で家を建てているようだ。

 小さい人たちがワイワイと歩き回ったり昼寝をしたりしており……。


 先程までの、生死をかけた感じのひりひりした熱帯雨林とは全く別物の環境なのだ。


 間違いない!

 垂れ耳コボルドの里だ!!


 僕とリップルが姿を表すと、小さい垂れ耳コボルドたちが「キャーッ」とびっくりして各々の家に飛び込んでいく。

 なお、お昼寝をしているコボルドたちはそのままお昼寝を続行しており、全く気付いていない。

 なんという呑気さだろう。


 で、戦闘向けのコボルドらしき人々が出てきた。

 ブルドッグとかダルメシアンのコボルドだ。


 おお、垂れ耳だ垂れ耳だ!

 垂れ耳のコボルドがたくさんいる!


「こんにちはー!!」


 コゲタが元気に声を張り上げる。

 すると、飛び出してきた戦闘向けコボルドたちはハッとして立ち止まった。


「こんにちは!」


 おお、挨拶が返ってきた!

 僕とリップルも「こんにちは」と挨拶。

 そうしたら、隠れていた小さいコボルドたちもわあわあと家から飛び出してきた。


 挨拶の威力は凄まじいな……!

 あとは、コゲタの存在がコボルドたちの緊張を解いたらしい。


「みみがとがってる!」「みみとがりコボルド!」「ふしぎー!」


 こっちから見ると、コボルドは垂れ耳が普通なんだな。


「えー。僕らは海の向こうから来ました! 僕はナザルです!」


「リップルだよ」


「コゲタです!」


 自己紹介したら、コボルドたちがオーとどよめいた。

 なんというか実に純朴な人々だな……!


「なにをしにきたの?」


 真っ直ぐな質問が投げかけられた。

 答えは一つ。


「ここのコボルドたちが、お米をどうやって食べるのか見せてもらいに来たんだ」


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