第243話 食うぞ白米!
炊きあがった白米は、つやつやのピッカピカ。
既にここに飯の友を用意してある。
釣った魚を焼いて、塩を振っただけのやつだ。
十分ではないか!
食器がフォークしか無いのが不満だが仕方ない。
チョップスティックはアーランに戻ってから調達しよう。
確か似たようなの開発されて使われていたし。
器に盛られた米をフォークでそっと掬う。
この粘り気!!
米だ。
ジャポニカ米である!
焼き魚はちょっと表面が焦げているが、そこが美味いのだ。
「いただきます」
「いただきまあす!」
コゲタは魚をもうご飯の上に載せている。
焼き魚丼というわけか。
いきなりレベルが高いな……!
さてさて、まずは米飯を口に入れて味わうのだ。
おお、米……!
日本にいた頃は気付かなかったが、米とはこれほど香りの高いものだったのか。
やや硬めに炊いた米だが、幸いなことに芯は無い。
白米の風味が涙が出るほど懐かしい。
噛むほどに、甘みが出てくる。
あー、美味い。
しみじみ美味い。
「ふむふむ! 淡白な味だから焼き魚を支えて、その味を強調してくれているね。これはなかなか……」
もりもり食べるリップル。
米に抵抗がないらしい。
僕は色々聞きたいところはあったが、まずは自分の米を食べきらねば口を開くのが惜しい。
指とフォークで魚をほぐし、米と一緒に食べた。
うんうん。
美味い美味い。
これだよこれ。
素朴な味だが、これが食べたかったんだ。
僕はうんうん頷きながら、皿に盛った米を食べきった。
そしてお代わりをし、魚もちょうど食べきる。
「いやあ、満足満足……」
横ではコゲタも焼き魚丼を食べきって、満足げである。
マキシフはコゲタの真似をしてみたらしい。
「炊いたお米というのは、柔らかすぎなくて食べやすいですね。コゲタのやり方も、一度に米と魚が食べられてとてもいい。美味しかったです」
「うん! おいしかったー!」
コボルドたちは素直でいいねえ!
一前食べ終えてそれなりに満足したらしいリップル。
彼女が僕に聞いてきた。
「それにしても、確かに今まで食べたことがない種類の穀物だったけれど、君がこの米に対して、そこまで強い情熱を燃やすのはなぜだい? 麦の方がわかりやすく、いろいろな活用ができるだろう?」
「そう、それは間違いない。だが、米の本当の持ち味というのはアーランに持ち帰ってから発揮されるものなんだ」
「ほう? それはつまり……食材が多ければ多いほど生きる穀物ということかい? だとすると……この淡白な味の穀物に、様々な料理を合わせて食べていけるということか……!」
「察しがいい! つまり、今までの料理は今までの料理のまま、この米と一緒に食べることでさらに美味しさが引き立つようになるんだ。味がちょっと濃すぎる料理もあっただろ? あれは米に乗せたりして食べるとちょうどよくなる」
「なるほどなあ。他と合わせること前提の主食ということか。アーランでも昔は蕎麦のガレットや麦そのものを茹でて食べたりもしていたが、それはこれほど食べやすく、滋味豊かではなかった。ただ水で炊くだけで柔らかく美味しくなる穀物……。これは革命かもしれない」
伊達に安楽椅子冒険者をやっていないな!
全て言う通りだ!
いやあ、リップルを連れてきて本当に良かった。
僕がジーンとしていると、ダイフク氏が「はい!」と挙手した。
「わしもそろそろ食べたいのですがな」
「忘れてた!」
「そんなー」
ちょっと冷めてきた米を、僕はおにぎりにしてやった。
残りがこれで片付く。
ダイフク氏は塩を軽く振ったおにぎりを、ペロリと飲み込んだ。
「おほー! こりゃあちょうどいいですな! 柔らかい! そしてこの滑りすぎず、張り付きすぎず、乾いてもいない喉越し! 美味いですなー」
「喉越し判定でも高得点だったか」
「かなり高得点ですぞ。これほど安定した食べ物はなかなかありませんな。アーランで食べたうどん玉に匹敵します」
「うどんを丸めたやつか! 確かにおにぎりにかなり近い」
「うどん玉はちょっと水気が多いのですが、このおにぎりという食べ物は水気もちょうどいい! ベスト・オブ喉越しと言えましょう」
「褒められているのだろうが複雑な気分だな……」
さて、これで食べてもいいお米は食べ尽くした。
いやあ満足した。
居並ぶみんなからも好評だった。
「私としては、米の可能性に興味があるな。確か、垂れ耳コボルドたちも米を主食にしているんだろう?」
「スケアクロウのモリブ氏によるとそうらしい。米の食べ方なら彼らを訪ねろって言ってた」
「だったら、行ってみようじゃないか。ここからなら数時間で、垂れ耳コボルドの集落につくらしいから」
「そうなの!?」
そんな情報は聞いてなかった。
「簡単な推理だよ。スケアクロウの住処には建物が米を貯蔵する倉以外に存在しない。なのに、コボルドたちは米を受け取りにやって来るんだろう? 話を聞いたけど、この島には馬も牛もいない。つまり、物を運ぶために使役される動物が存在しないんだ。コボルドたちは自らの足で米を担いで帰っていく」
「ふんふん……つまり、日帰りで米を持って帰れるくらいの距離に彼らは住んでいると?」
「そうなるね。やって来る時間はたいてい昼過ぎということだ。朝に彼らの住処を出て、昼に到着し、持ち帰ると夕方になると見たよ」
「なるほどなあ」
なお、スケアクロウは田んぼから絶対に離れないため、ちょっと離れた場所のこともよく分からないんだそうだ。
水田に入れる水を管理する時のみ、川まで移動したりする。
だから、あくまで彼らの話は事実の陳列になるのだ。
そこからリップルが推理したわけだが……。
「だったら、訪ねるしかないな」
「そうだねえ。行くかい?」
「行こう!」
「コゲタもいく!」
ということで。
僕らは昼過ぎにスケアクロウの里を発つことを決めるのだった。
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