第208話 手伝ってやろう、えっ、油禁止!?

 兵士たちとともに、ワイワイと移動した。

 兵士の中に、なんとコボルドの兵士もいるではないか。


 これは南国に適応したボクサー種のコボルド……。

 普通に僕の肩くらいの背丈があるぞ。


「おっきいねー」


「きみはちいさいねー」


 おっ、でも言語能力はコゲタと変わらんな。

 コボルド同士で、ぺちゃくちゃお喋りしている。


「大型種のコボルドは戦闘力も高いんですよ。我々よりもずっと足も早いですし、いざとなれば噛みつき攻撃もある」


「おお、強い!」


 身の回りにちっちゃいコボルドしかいなかったからな。

 コゲタはほどほどの背丈までは育つタイプらしい。

 いや、豆柴種なら今くらいがマックスか。

 

 どうなるんだろうなー。


「ごしゅじーん! コゲタもおっきくなりたい!」


「コゲタは小さいままでも可愛くていいのだが!」


「えー」


 コゲタが面白い顔をしたので、ボクサー種の彼がわはははと笑っていた。

 兵士たちもわははと笑った。

 仲良しではないか。


「実は女王陛下の提案で、コボルド兵を受け入れてまして。彼は近隣でぶらぶらしてたのでスカウトしたんです」


「ぼくはご主人をもつことがゆめだったので、じょおうへいかがご主人になってくださったんです」


「なるほどなあ」


 ボクサーくん、真面目ないい子ではないか。

 幼い頃に両親とはぐれ、それからはフォーゼフの家畜の世話とか、畑の手伝いなんかをして暮らしてきたらしい。

 だが見た目が怖いということで、大きくなった彼は職を追われた。


 犬も見た目の時代か……!

 そんなボクサーくんを拾ったのが、バルバラ陛下だったのだ!

 なんかコゲタを見てて羨ましくなったらしい。


 外遊が多いバルバラ陛下は、ボクサーくんの持つ種族的戦闘力に目をつけ、護衛にするため兵士として鍛えているのだ。


「ところでボクサーくん、耳がちょっと垂れているね……」


「ぼくのおとうさんはみなみのくにからきたのです」


「なるほどなあー! まさに僕らは南の国に行くところなのだ!」


「ぼくのふるさとです! おみやげほしいです!」


 言語化能力が高いぞボクサーくん。

 コゲタは近くで尻尾を振りながら、僕とボクサーくんを交互に見ながら舌を出しているというのに。

 いや、コゲタはこれで完成している無類の可愛さ。これでいいのだ。


 そんな感じで、ボクサーくんにインタビューしてたらファイブショーナンに到着してしまったぞ。

 今回の旅の大きな収穫だったなあ。


「コゲタは新しいお友達ができてしまったな」


「うん! ボクサーくん!」


「ぼくのなまえは、ご主人がむつかしいなまえをつけてくれたんですけど」


 難しすぎて覚えきれないらしい。

 ボクサーくんが簡単でいいかもな。

 よし、女王陛下に上申しておこう。


「かえったら、ご主人にあいにいくのです」


「そっか。じゃあ僕らも行こう」


 ボクサーくんと一緒に、コゲタを連れて宮殿へ向かう。


「おお、ナザルではないか! 最近よく会うのう……」


 女王陛下は、宮殿の入口で階段に腰掛けて涼んでいた。

 なんちゅうところに最高権力者がいるの。


「この国は全てわらわの所有物じゃ。わらわがどこにいてもいいのじゃ。おおー! ジャベルブホルスキー戻ってきたか!」


「ひどい名前だ」


 そりゃあ覚えられないよ。

 僕はバルバラ女王に、彼の名をボクサーくんにすべきだと熱弁した。

 女王はハッとする。


「そうか、覚えられぬということを忘れておった。ではナザルが言うことじゃから、ボクサーという名でよかろう」


 ということで、ボクサーくんはボクサーくんとなった。

 コゲタがいぇーい、とジャンプしてタッチを要求したので、ボクサーくんもちょっとかがんでタッチをしてあげたのだった。

 優しい子だなあ。


「いざ戦いとなれば苛烈じゃぞ。戦闘種のコボルドであろうな」


「やはりボクサー犬ですからね……。ところで陛下」


「なんじゃ。そなたが来た理由なら予想がついておるぞ。これから我が国が輸出する品を先につまみ食いに来たのであろう」


「鋭い……。僕から申し上げることは本当に何もなくなってしまった」


「わかり易すぎるのじゃ。そなた、あまりにも裏表がない。では、漁をしているのを見に行くぞ」


 女王陛下とボクサーくんとともに、一旦国を出る。

 何せ、ファイブショーナン周辺は全て切り立った崖だ。

 ここから船を出すことは不可能なのである!


 ということで、国を一旦出て、港専用に作られた場所で漁を行うのだ。

 ファイブショーナン本国は、ながーい糸を用いた釣りしかできないからね。


 では漁船はというと……。


「あれじゃ!」


「あっ!! でかいイカダ!!」


 それは大変大きなイカダであった。

 なんと素朴な船であろうか。

 中身を掘ってカヌーみたいにするとかそういうことはしないのね。


「陛下ー!」


 むきむきのお兄ちゃんたちが漁船の上にいて、手を振っている。

 そしてボクサーくんとコゲタを見て、


「いぬー!」


 とニコニコしながら手を振った。

 犬が大好きなんだな。

 なんと気の良い連中だろうか。


「そなたら! ここにおる男を知っておるかや? この者こそ、美食の伝道師ナザルなのじゃ!」


 陛下が僕を紹介したら、ムキムキお兄ちゃんたちが「オー」と驚いた。

 イカダ船から次々降りてきて、


「あなたが紹介してくれたキーウリに味噌をつけたやつ、最高に美味しいです」


「もう、もろきゅうなしじゃ生きられない」


 握手やハグを求めてくる!

 も、もしやファイブショーナンでは、もろきゅうが空前のブームだったのか!!


 もろきゅうの爽やかな水気と塩気は、常夏の国に必要なものが全てあるからな……。


「ありがとうみんな。僕が漁を手伝いましょう。新鮮なタコやイカを刺身で食べたい」


「あっ、噂に違わぬ人格」


 僕の発言を聞いて、お兄ちゃんたちがドン引きした。

 刺身文化はなかったか……。


 いや、魚の刺身は食べてた気がするから、頭足類の刺身を食べる習慣が無いだけに違いない。

 どーれ、僕が美味さを教えてやろう。


「ああ、そうじゃナザル!」


「なんですかね」


「漁で油は厳禁じゃぞ。必要なだけ捕るのが漁。そなたの油は捕りすぎる」


 な、な、なんだってー!!

 僕のアイデンティティーが!!


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