第209話 シーフードカレーについて考える
イカダの船が進みだした。
僕は船上で、タコやイカが捕れたらシーフードカレーも可能だなと考える。
では具材はいいとして、カレーのスパイスはどうやってゲットするのか?
僕が思うに、既にカレーを構成しうるスパイスは世界の各所に散逸しているのではないか。
今度、ツーテイカーのベンクマンに連絡を取り、スパイスを探してもらおう。
僕の頼みならば断るまい。
自分で言ってて一体僕は何者だ? 世界を裏から動かしてない? とか思ったが気にしないことにする。
僕は美味いものが食べたいだけなんだ……。
「ナザルさん、このあたりが漁場だよ。陶器を沈めてあるから……」
「あっ、タコツボ漁! この世界でもやってるんだなあ。感激だなあ」
プカプカと浮いているロープがある。
大きな魚の浮袋を利用し、ロープの先端を水上に出しているのだ。
これをみんなで掴んで、わっしょいわっしょい、と引っ張り上げる。
このわっしょいが面白いらしく、コゲタが「わっしょ! わっしょ!」と真似をしながらロープを引っ張っていた。
なお、ボクサーくんと女王陛下は浜辺で待っている。
陛下が乗り込むとマッチョの兄ちゃんたちはガチガチになって、漁の調子がよろしくなくなってしまうし、ボクサーくんはその陛下の護衛だからである。
なお、ボクサーくんよりもバルバラ女王の方が絶対つよい。
おっ、そうこうしているうちに、タコツボがするすると上がってきたぞ。
どれどれ?
「おおーっ! タコが入ってる! タコだなあ。イカははどうやって捕るの? えっ? 夜に釣るの? 似てるのに生態はぜんぜん違うんだな」
一つ勉強になってしまった。
タコは大漁だったので、これを食べようということになった。
イカダ船は陸に戻っていく。
海上にいたのは一時間にもならなかったな……。
陸に上がったのと同時に、体育座りして待っていたバルバラ女王陛下に聞いてみることにした。
「陛下、カレーってご存知です?」
「なんじゃそれ? もしや……美味いものなのか!?」
「むちゃくちゃ美味いです。タコやイカと合いますよ……。パンに載せても、麺に載せても美味い」
「そ、そ、それを作れるのかやナザル?」
「何が材料で必要なのかさっぱり分からなくて困っているんですよ……」
「そなたほどの男ですらそうか。おぬし、知識神の加護を受けているのじゃろう? 祈ってみるがよい」
「えっ? 僕は無神論者なんですが」
「そなたなー。そういうことは絶対口にしないほうがいいぞ。能天気に見えるファイブショーナンでも、民は月と慈愛の神を信仰しているしな」
「あっ、なーる……」
誰もが信仰を持っている世界というわけか。
「なお、わらわは人ではないので神を信じていない……。信仰とか分からん……。基本的に不老だし」
「おいぃ!」
思わず女王陛下に突っ込むところだった。
いかんいかん。
「つまりな、一般的な民は神を信じている。わらわやそなたほど強く無いからじゃ。それを否定することになるから、無神論だというのはあまり口にしてはならん」
「なるほどー」
「それに知識神は恐らく、祈られ待ちじゃぞ。自分から接触しまくってくるなんて、かなりテンションが高い状況じゃ」
「テンションが高い知識神……!!」
それはすごい話だ。
だけど、僕が知りたい知識を教えてくれる可能性も高い。
実際、リップルの枕に立った知識神は、お告げによって南国の手がかりを与えてくれたしな。
その日はタコを茹でて、みんなでタレをつけて食べた。
実に美味い。
肉厚で歯ごたえが素晴らしく、噛みしめるごとにタコの旨味が染み出してくる。
とても美味しいタコだった。
これは輸出してもかなり評価される!
「おいしー!!」
コゲタも大満足ですよ!
「この貿易は絶対に成功するだろう。ただ、タコは見た目がアレだからちゃんとプレゼンしようね」
僕の話を聞いて、ファイブショーナンの貿易担当者がふむふむと頷いていた。
「タコの見た目で忌避されやすいと。形が見えない状態まで調理して、ともに食べるのが良さそうですな。さすがは美食の伝道師……。我々だけでは、当然美味いものだという先入観でそのままお出しするところでした」
あるある。
納豆しかり、刺し身しかり、その形で食べる習慣がない地域にとっては、誰かの当然が異常に見えることは少なからずありうるからね。
この光景を見て、女王陛下は満足げにうんうん頷いているのだった。
その夜……。
隣のハンモックでコゲタがすぴすぴと寝ている。
僕は昼間、バルバラ陛下から聞いたアレを試してみるつもりだった。
「頼みますよ、知識神様。ちょっと信仰を捧げるのもやぶさかではないので、カレーの材料を教えて下さい」
そう願いながら目を閉じる僕なのだった。
すると……!
あっという間に、僕の意識がどこかに吹っ飛んでいった。
とんでもない浮遊感に思わず目を開くと……。
眼の前には、光り輝く巨大な男が浮かんでいたのだった。
その足元からは幹のようなものが伸び、全容を把握することすら困難な圧倒的スケールの何かに繋がっている。
『ようやく呼んでくれたな、ナザルよ。ファールディアは今まさに、大グルメ時代……! グルメとは知。美食は知。美食のあとのダイエットも知。全ては知識に繋がっている……!! 我が世の春が来た!!』
ブラボー!!と盛り上がるこの方はもしや!
「知識神様です?」
『その通り。私が知識神だ』
光り輝く巨大な存在は、グッとサムズ・アップしたのだった。
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