70・南国に魚介類を食べに行こう

第207話 ついでで仕事を受ける

 さて、ファイブショーナンから今後、タコやイカ、貝などが仕入れられることが決定したわけだが……。

 そうなったら、アーランの人々の口に合うかどうかをこの舌で確認せねばなるまい!


「ファイブショーナン方面の仕事はない?」


「はぐれギルマンが街道近くで暴れているそうです。これの退治依頼が来ていますが、かなり手練れのギルマンらしく」


 シルバー級の依頼か。

 受付嬢エリィが結婚準備で職場にいないので、今日の担当受付嬢はのっぽでメガネの女性だ。


「ですけど、噂の油使いナザルさんなら大丈夫ですよね。よろしくお願いします」


「ああ、ソロでサクッと狩ってくる。そのついでにファイブショーナンに行く……」


「そちらが本題ですか。ギルマンのエラを持ってきてくだされば依頼成功となりますので、それだけはお忘れなくです」


「もちろん!」


 私情を入れてこない辺り、いい受付嬢だなあー。

 こうして僕は……。


 いつもの通りコゲタを連れて出発したのだった。


「あったかくなった!」


「そうだぞ。アーランをちょっと離れると暖かくなるんだ。不思議だよなあ」


 気候がバッサリあちこちで分かれている辺りが、ファンタジー世界ということだろうか。

 しばらく歩いていくと、夕方ころに砂浜が見えてきた。

 おお、いるいる、街道近くをウロウロしているギルマンだ。


 この辺りは常に小春日和みたいな気温だから、ギルマンも過ごしやすいんだろう。

 僕を見つけると、「ウケケー!!」とか叫んで戦闘態勢に入ってきた。


 僕はすぽーんと油の大きな弾を飛ばし、一発でギルマンをふっ飛ばした。

 で、吹っ飛んだ瞬間に勝負が決まっている。

 相手がいかなる手練れであろうが、僕の油を当てられたなら……。


「ウグワーッ! がぼがぼがぼ」


 油でエラと器官をやられて、地上で溺れる。

 で、のたうち回ってその場から逃げられないから、追加の油がどんどんやってきて、ついに油の玉の中に閉じ込められるというわけだ。


 よし、動かなくなった。


「こわいおさかなが!」


「うんうん、怖いお魚はやっつけたからね」


 油を回収した後、砂浜の上で微動だにしない。

 油は恐ろしいねえ。


 僕はのこのこ近寄って、エラをサクッと切り取った。

 これをぶら下げて、干しながら歩く……。


 こうすることで、ファイブショーナンに滞在している間も腐らずに済むという寸法なのだ。

 ギルマンの干物だな。


「たべれる?」


「一応人間型の種族だから、食べるのはやめておいたほうがいいかなー」


「わかった! おいしくなさそうだもんね」


「そうだね、ちゃんと分かってて偉いぞコゲタ」


「わん!」


 こうしてさっさと仕事を終えた僕は、コゲタとともに本来の目的であるファイブショーナン行きの旅を……。


「もけけーっ!!」


「また出た!! はぐれギルマン、複数体いたんだなあ。確かにそれなら結構な脅威だ」


 三体のギルマンが砂をはねのけて飛びかかってくる。

 狙いは僕一人だ。


 いやあ、間違いない。

 最大の脅威は僕だからだ。


 だが、足りないなあ。

 僕は足元に油を発生させ、つるりと後方に滑った。

 相手からは、ノーモーションでいいきなり後ろに動いて見えたに違いない。


 そして着地場所には、たっぷりと油を張ってある。


「ぎょぎょぎょー!!」


 空中では体勢を変えられない。

 彼らは油の上に着地し、つるんと転んだ。


 詰みである。

 油が襲いかかる。

 誰もこれを避けられない。


 地上に立っている時点で、ギフトなしが僕とやり合える道理がない。

 仕事の成果を表すエラの数が、四つに増えた。


 コゲタは素早く茂みに隠れていたらしい。 

 偉い。

 きちんと身を守れてるね!


 アイアン級くらいの実力はもうあるんじゃないかな!


「ご主人~なにがあったのかぜんぜんわかんなかったー」


「僕の戦い方は本気になるほど難しくなるからなあ……」


 空間そのものをトラップにして、相手を高速で詰ませるやり方だからね。

 我ながら、どんどんこの力の使い方が上手くなって来ている気がする。

 一度やってみたいのは、山程魔晶石を買ってきて、その魔力を全部油に変えて使ってみたいなあと……。


 だが、美食には関係ないからいいか!

 はぐれギルマンは今ので全部だったようで、旅は安全なものに戻った。


 途中、ファイブショーナンの兵士たちと行きあった。

 彼ら、数日を掛けてかなり広い範囲をパトロールして回ってるんだよな。


「やや、美食の伝道師ナザルさん!!」


「ええ、僕です」


「ここから先では、はぐれギルマンが出るようです。気を付けて……」


 僕は四つのエラを見せた。


「あっ、も、もう既に……?」


「美食の伝導の副業で冒険者もやっているので……」


「さ、さすがです……!」


「ご主人つよい!」


 むふーっと自慢げなコゲタなのだった。

 結局、この兵士たちの目的ははぐれギルマンの討伐だったらしく。


 役割を果たす必要がなくなったので、僕らをエスコートしながらファイブショーナンへ向かうことになったのだった。


 お陰で、大人数用でキャンプをしたり、大きな鍋物を作ったりで楽しむことができたぞ。

 なんだかんだで大鍋で作る大人数料理、美味しいからね。


 煮物を作ったのだが……。

 そろそろカレー、作れるんじゃね……?


 僕は恐るべき可能性に気づいてしまうのだった。


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