『美しき雪に捧ぐ』より「おやすみとおはようを」 その1 Athhissya

自分自身の作品を批評するわけですが。この作品は今の私に書ける最高傑作として世に送り出しているので、2024/05/01 現在。基本的にこの作品を褒めることしか私には出来ません。この作品はレベル4。執筆に当たっては、読者が6段階の、6段階もの楽しみ方ができるように書いています。


https://kakuyomu.jp/works/16818093074612084117/episodes/16818093074962630721

作品リンクはこちらですが、素直に第1話から読んだ方が、主人公と、美雪さんの間柄がよく分かると思います。それすら億劫な読者の為にあらすじを紹介しておきますか。小説概要ページにキャッチコピーも紹介文も一切書き残していないのは、この小説がどういう作品なのかを読者の皆さん自身に読み取って頂かないと、作品の面白みや価値が半減してしまうからなんですけどね。よろしいでしょうか。


第1話のあらすじ。幼稚園以来の交流がある美雪さんとディナーを共にするのだが、彼女には彼氏がいたのだった。という感じですね。


以降はあなたが本編を読んでいようといまいと、私は読了してくれた前提でしか記述を進めませんのでご了承ください。


 では第1段階の読解から解説していきましょう。この作品は起承転結ではないですね。三段構造という訳でもありません。とりあえずあらすじを見てみましょう。


「ディナーデートをした日から2日後の朝。主人公はデートの晩から昨日にかけてのやりとりを振り返っている。なんだかんだあって、次は競馬場へ一緒に出かけるよう誘い出すことに成功したのであった。」


それで第3話は高松宮記念のお話になっていくわけですが、ここまで大丈夫でしょうか。もちろんこの作品は競馬デートへの誘い出しに成功!では終わっていません。夏休みどこかに行こうかと誘ってフられていますし、物語は主人公が大学に到着した場面で締め括られています。


私はこのプロット構成を、アンチサクセス構成と呼んでいます。以前ブルアカの二次創作小説を執筆していた中で思い付きました。でも私が世界で初めて考え付いた手法であるはずもなく、例えばシェイクスピアの「マクベス」はまさにこの構成ですよね。


もともとは異世界ものやNTRもの作品を、無双しているキャラに自己投影しながら楽しむ読者が多いということから、一旦はサクセスストーリーの体を取って読者の自己投影を誘い出し、その後の主人公の転落や失敗を「自分のこととして」読んでもらうための罠として発案したものです。


第1話は好きな人をディナーに誘い出した→しかし彼氏がいる。第2話は競馬デートの約束を取り付けた→しかし夏休みのお出かけ案は却下される。まったく同じ構成なんですよね。読み取れたでしょうか。


 第2段階は文体ですね。第2話の中には鉤括弧が連続する会話文ゾーンらしき部分があるのですが、実際には主人公も美雪さんも、一言も声を出していないんですよね。全編が主人公の一人称ナレーションか、彼が遡っているトーク履歴内の書き言葉のみになっています。作品内にはスタンプの描写もあります。


特に2つの話題が平行して進む場面は展示方法を悩みました。トークそのもののビジュアルを再現すると、次のようになります。


「家族LINEに投げる予定だった」

「でかつよってかわいいですね」

    「俺たち家族みたいなもんだろ。」

    「でかつよってちいかわのやつ?」

「は?」(リプライ「俺たち…」)

「うん」(リプライ「でかつよって…」)

               「うん。」


あと、気付いた人もいるかもしれませんが主人公の台詞やメッセージには文章末に句点がありますが、美雪さんの文章末にはありません。これは私がpixivで作品を投稿していた時から使っている台詞の書き分け方法です。


もちろんキャラの書き分けを句点の有無だけに頼っている訳ではありませんが、これを導入することで「誰の台詞なのか」をイチイチ明記する必要がなくなり、本筋とは無関係なメタ的ノイズを1つ排除することができています。


本文は上記のようなトーク画面再現を行っていないので、スマホで読む際には、


「家族LINEに投げる予定だった」「でかつよっ

てかわいいですね」


という風に途中で折れ曲がってしまいます。読みにくいかもしれませんが、パソコンで読む際には問題がなかったんです。手直ししていない理由は単純に面倒だからってのと、こちらの方が対面で会話しているような感覚でやりとりしている主人公の認識が反映されて良いかなと考えたことによります。


 第3段階は小ネタとかですね。分かる人には分かるネタを刷り込んで、特定層の読者が掛かってくれる釣り針を増やしています。いくつか紹介していきましょう。小ネタチャンスはとことん活かしています。


1、『お帽子オッケー、おすましを済ませたらあとは出発するだけなのだけど』


小説序盤に出てくるこれ。「おすまし」という単語がトイレを意味しているとハッキリ理解確定できるのは、「いないいないばぁ」というNHKの教育番組にて誕生した『ぐるぐるどっかーん』という名曲をご存じの方くらいでしょう。主人公が焦って家を出る場面で挟んでいる「おっ、ととっと、」というフレーズも、歌詞のオマージュです。


2、『「https://x.com/lunaticmonster/status/1668931516418912256?s=53

 これが分かりやすいかな」』


このリンクは実在します。松崎ふれでぃさんの競馬史紹介漫画です。用語の説明を外部委託して、無駄な説明的文章によって文章の流れが停滞しないための工夫です。漫画を読んでもらえば分かる通り、「ステークス」はもう、意味を持たない言葉になっているわけです。


3、居そうで居ない珍名馬の名前を言い合うゲーム。


適当に名前を挙げていってもいいのですが、ここは小ネタ仕込みチャンスでしょう。登場する名前に、単なる空想の名前である、という以上の意味を持たせることで、深さを文章に与えるのです。


先行の美雪さんが「リャクダツアイ」という実在の名前を最初に挙げるの意味深ですよね。そしてタンイクダサイとフルタンの下りは僕もお気に入りです。


ウルトラソウル、ギリギリチョップ、ファイアボールは B'z の楽曲名を意識していますね。今後のための新設定付与を兼ねています。


キリエエレイソンは、主よ憐れみたまえ。という意味のラテン語です。主人公は少なからず神の救いを祈る気持ちがあったわけです。ここは第6段階の読解にも影響してくるので覚えてください。


ちなみにこの1話において、それらをすべて「くだらない」会話としてさらっと流していくのですが、読み飛ばしてしまいそうな文章の中にも、ん?と思って欲しい箇所を加えているということです。


4、

https://www.fashion-press.net/news/60299

ど厚底。買うん?


美雪さんからのリンクは、家族に送ろうとしたものの誤爆でした。ここで僕は彼女の家族に変身しているわけです。


『彼女は利口に話題の断絶を察知して、僕と美雪さんが「家族みたいな関係」であるという前提にそれ以上突っ込まなかった。僕は美雪さんから、僕が家族の一員であることを否定する隙を奪ったのである。


「僕、君の子になる。」

「嫌」


はい。』


その後は、自分の提案を相手が否定する隙を与えない話術によって、主人公は自分が彼女の理論上の、空論上の家族である状態を引き伸ばそうとしています。しかし「嫌」という一文字によって容赦なく否定され、主人公の変身は解けてしまった、という訳です。笑えますね。


5、『僕が書いた小説に登場している [雷門瞬] みたいにホームを走っては階段を飛び落ちた。』


これは「宝木遥乃」という私の小説のセルフパロディです。作品リンクは https://kakuyomu.jp/works/16818093075924939266

こちらです。実を言うとこの主人公、遅刻しているんですよ。だって、小説「宝木遥乃」は、雷門瞬が最終バスに乗り遅れた場面から始まるのですから。


しかし主人公が講義に遅れているかどうかは本編に関係が無いので読み取れなくても良いのですが、私の他の作品も読んでくれた素晴らしい読者にだけ分かるご褒美を仕込んであるんです。さて、小ネタについてはここまでにしましょうか。


あと4、5、6段階目の読解があるのですが、これらは長くなるので一旦枠を区切ります。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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