「青春小説」 卯月なのか

作品リンクはこちらです。 https://kakuyomu.jp/works/16818093076293687014

この小説はレベル3に該当します。小説を書き始めてから1年である記念にこうした作品を書き上げなさったようです。素晴らしいです。


最初に、この小説に応援コメントが付いていたので一部抜粋します。

「話がまとまっていて、スッキリと読めて面白かったです。」とな。

この作品はスッキリと読める作品では無かっただろうが。スッキリと読めたのではなくて、この感想を送った人が勝手にスッキリ読んでしまっているだけです。


レベル1解析 文章が読みやすいかどうか。読みやすいです。以上。

特に指摘するポイントはありませんでした。


レベル2解析 面白い物語かどうか。

起 街を離れる前に古本屋を訪れる主人公

承 独特な雰囲気の青春小説を見つける

転 店主のおじいさんから魔法の青春小説を譲られる

結 主人公は「人生という名の小説を、読み進めていく。」


起承転結で綺麗に物語をまとめることができますね。構成にしっかり意識を配ってることが見受けられます。


個人的にお気に入りの部分は、ここです。


「物語が進むにつれて、部活要素や恋愛要素が入ってきて、少し面白みが生まれてきた。主人公の感情も、大きく動く場面が増えている。青春の、きらきらした部分がほとんどで、やはり内容は薄い。でも、その割には、やけにリアリティがある。どのストーリーの、どの場面も、そんなに大したことでもないのに、やけに大袈裟に書かれている。でも、それはまるでクラスメイトの噂話を聴いているみたいで、そして、隣の席の女の子と話しているみたいな気持ちにもなった。そんな感情が芽生えたら、なんだかこの物語が、少しだけ良いものに見えた。主人公も、多くの人との関わりの中で、だんだんと成長していく。その様が、さっきまでより愛おしく思えた。」


日常系作品を嗜む良さがもう、如実に表現されていました。それそれ!と。


「まるでクラスメイトの噂話を聴いているみたいで、そして、隣の席の女の子と話しているみたいな気持ちにもなった。」


小説の語り手としての筆者との対話を錯覚するのは、良い読者である証拠です。良い読み手になりうる人は、良い書き手にもなることが出来ます。そして自分が良い読み手であるかどうかは、本を読むことでしか確認できませんよね。みなさん、本は読んでいますか?自作の小説やサイトに投稿されているアマチュアのものでは無く、出版されていたり、文学史に残っていたりする作品を読んだ方が良いことくらいは思いつくんじゃ無いですかね。話が逸れました。


レベル3 ここからが本題です。やはり気になるのは、


「人生という名の小説を、読み進めていく。」


という最後のフレーズかと思います。かなり唐突じゃ無いですか?C, CDC, CDC, HighG くらいの唐突さ。文章の繋がりをもっとスムーズにするなら例えば、


[もしこの本がおじいさんの言うとおり魔法の小説なのだとしたら、前の持ち主はどんな人生を送っていたのだろうかと興味が出て、ページをパラパラとめくった。しかし本の途中からは200ページくらいぶち抜きで青いインクが文章を隠してしまっていて、何も読めなかった。

先の見えない物語、それはあるで僕らの人生そのもののようだなとも思えた。いや、もしかしたら人生そのものが、先の見えない物語みたいなのかもしれない。僕は不思議な本を本棚に戻して、僕の日常へと出発した。

今日も僕は、人生という名の小説を読み進めていく。]


という調子で加筆すると思います。これで C, E, G, HighC, HighG くらいにはスムーズになりましたね。ただ、あくまでもこれは「私ならそうする」に過ぎず、卯月なのかさんの文体としてはオリジナルのままの方がむしろ、少し浮き出ている最後の1文から[その魔法の小説らしき本は現在進行形で主人公の人生を小説へと書き出しているのだ]というオチに辿り着くヒントとして目立っていることになります。これはもう、個性です。善し悪しでは無く、どのように文章を書きたいかという筆者の意図は筆者によって異なって当たり前です。


[その魔法の小説らしき本は現在進行形で主人公の人生を小説へと書き出しているのだ]というオチの話に戻りますと、この[]内の情報は本文中に明記されて居ませんよね。ですがこの作品において筆者は明らかにこのオチを意識していますし、良い読者であればそれが読み取れたはずです。ですがやはり書いていない。書いてないことを読み取ることを強いている小説を「すっきりと読める」などと評価する人間は恐らく読解力を発揮できなかった、勝手にすっきり読んでしまったのでしょう。


この小説はレベル3です。何を書くかよりも、如何に書くかに執筆意欲のリソースを費やしていて、私は読んでいて「小説はこうじゃなくっちゃあな」と思いました。お世辞では無く素晴らしい短編だと思います。


卯月なのかさんの他の小説も見せていただくと、このトラブルシューティングにおいてレベル3の要件を満たしている作品がもう1つありました。ここで取り上げた「青春小説」と、「煌めきの速度」という作品です。


「煌めきの速度」 卯月なのか https://kakuyomu.jp/works/16817330669266151150


ただ、どちらもワンイシューなんですよね。もっと良い読者にしか気付けないしかけをいっぱい含ませて欲しいなあと思います。例えば[なぜ魔法の本を読めなくしていたインクが青かったのか]とか、[主人公が古本屋にて小説を読んだ時点で本に書かれていたのは誰の人生だったのか]とか、謎として掘り下げできそうな要素がせっかくこの小説のあちこちに転がっていたのに、それらを活かそうとする意図があまり読み取れず、記述せずしてオチを書くというテクニックの実践に終始しているように思いました。


私ならお先真っ暗ということで真っ黒なインクか、先行き不透明ということで真っ白なインクにしますね。そして本を読んでいるシーンには、「自分のことのように」といったフレーズを挿入して、[自分のことのようにもなにも、その本は読む人自身の人生が書かれている小説なのだけど、主人公はそれを女子高生と対話しているような気分で読んでいる]という奇妙な状況を示唆できるのになあと思いました。


まだ活動を始めて1周年ということで、かくいう私もまだ2年ですが、卯月なのかさんがこれから更に深い、読み応えのある、レベル4くらいの小説を書けるようになることを期待しております。そのためにはまず、言葉を大切にすること、紡ぐ言葉1つ1つにこの小説の中だけでの特別な意味を与えようとする試みが大切かなと思います。


ともかく、素晴らしい作品をありがとうございました。

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