第4話
「馬鹿か、死ね、触って良いなんて言ってない。死ね、馬鹿」
央佳は制服を整える。
「悪い。俺の中の漢が抑えきれなかった。でも下もどうか確認しないと」
「……」
「じょ、冗談に決まってんだろ。そんな睨むなよ……」
「でもこれで分かったよね?」
「まぁ、確かに男の胸じゃなかったな。本当にお前が央佳だとして、何か原因とか思い付くか?」
「本当に央佳なんだけど、思い付かない。そもそもこんな状況に説明なんか付かないって。でもやっぱり病院に行った方が良いかな?」
「体調が悪いとか無いなら様子見の方が良いんじゃないか? 研究の実験体にされるなんて事もあるかも」
実験体……まるでどこかのSF映画だが、否定する事もできない。こんな症例は聞いた事もない。大騒ぎになりそう。
「……うん、そうする……もしかしたらまた急に体が戻るかも知れないし。雪柾も協力して、僕の事がバレないように」
「その前に央佳、一つだけ確認したいんだが」
「何?」
「自分の体、触った?」
「……」
「……」
「す、少しだけね……」
「それでこそ、フゥゥゥゥッ!!」
「何が『それでこそ』だよ……」
★★★
普通に授業を受けて、普通に友達と話し、普通に放課後を迎える。誰も央佳の変化に気付く者はいなかった。
「じゃあ、バイトあるから行くわ」
ファミレスでバイトをする雪柾である。
央佳が一人になると……
「桜井くん、一限目に不破くんとサボったけど大丈夫だった? 何かされたりしてない?」
隣の席の女生徒である。
「だから大丈夫だって。雪柾はホントそんな悪い奴じゃないから」
央佳は苦笑いを浮かべる。
「でもさ、いつも睨んでくんだけど」
前の席の男子生徒。
「あれ、本人にそのつもりないから。元々ああいう顔だし」
「そうは言うけど……とにかく桜井くん、不破くんに何かされたら誰かに相談しないとダメだよ」
雪柾、完全に腫物扱い。しかしこれには理由がある。入学早々に喧嘩で停学処分を受けているからである。
★★★
「女子のズボンは珍しいじゃん」
「どう、うちの部活見てみない? 女子は少ないから大歓迎だよ」
「かわいいね、君」
それは入学後。学校内の至る所で部活の紹介と勧誘が行われていた。
「いや、僕、男なんで」
確かに央佳は体格も小さく、顔付きも女性に近い。
「ホント、マジで? そう見えないんだけど」
「冗談でしょ?」
「とりあえず中で話そうよ」
上級生の勧誘がしつこい。
「あのですね。迷惑なんですけど。嫌がってるの分かりませんか?」
冷めた視線を向ける央佳。
この見た目の為、こういう絡まれ方をされる事は多い。そしてその絡まれ方が一番嫌いなのである。
「あれ、怒ってる?」
「部活に誘ってるだけなんだから、そんな言い方しなくても良いだろ」
「まぁまぁ、落ち着けって」
ポンポンと体を触られる。
「触るな」
そして央佳は見た目よりも気が強い。その手を跳ね除ける。
険悪な雰囲気の中。
「どうした、何かあったか?」
雪柾が合流。
央佳から見れば普通の表情の雪柾だが、上級生から見れば睨みを効かせる雪柾の表情。
結果として……
「……どうしてこんな事に……」
雪柾の足元に転がる上級生三人。雪柾の体格が良いのは幼い頃から習っている空手の影響があるのだろうか。
「……でも、手を出してきたのは向こうが最初だから……」
そう央佳と雪柾は降り掛かる火の粉を払っただけなのだ……しかし……雪柾、停学処分。
その後、央佳の説明で停学は取り消しとなったが、時すでに遅し。もちろん昔からの同級生は普通に接しているが、高校からの同級生は雪柾を不良だと思っているのである。
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