第3話

「病院に行けよ。頭のな」

「何で!!? 僕が央佳なの分かっただろ!!?」

「『女の子になっちゃった』って、お前ねぇ……そんな話があるかよ。やっぱり央佳から話を聞いて入れ替わってるとか、そんな感じだろ?」

「本当にそうなんだよ!! 理由とか説明できないけど……」

「はっ!!?」

 その時である。雪柾は雷に打たれたように目を見開く。

「えっ、な、何、どうしたの?」

「……」

「……雪柾?」

「……そもそもお前は本当に女なのか?」

「……だって胸も下の方も確認したし……」

「誰が?」

「確認したの? 自分でだけど」

「あくまで自己申告。それだけで俺にそれを信じろってのか?」

「……」

 この時点で央佳は嫌な予感。

「確認しない事にはな……」

「ちょっと待って、何、その笑顔? どんな感情でその顔してんの?」

「笑ってないけど」

「笑ってるよ!! 凄い良い笑顔だよ!!」

「なぁ、もう確認するしかないだろ」

「な、何を?」

「まずはおっぱいを」

「嫌だよ!! それに『まず』って何だよ!!?」

「だってしょうがないだろ。女である証拠が無いんだから」

「胸だったら服の上からでも……」

 央佳は自分の胸元に視線を落とすが……

「分からないだろ。それじゃ」

「……うん……」

 確かに央佳の胸元は男の時と変わりなく見えた。ストンとして全く膨らんでいない。

 男性の時なら胸を見せる事に全く抵抗は無い。だが女性になって、女性の胸を男性に見せる。その事が想像以上に恥ずかしい。

「央佳、お前が女になった事、俺に信じさせてくれ。頼む」

 なぜか雪柾は土下座。

「おっぱいが見たいだけで土下座まで……」

「違います。そういう事じゃないです。とにかく確認だけさせてください、お願いします」

「……敬語……」

 確かに言葉だけで信用をさせるのは難しい。央佳自身も逆の立場ならそう思う。

 どうしよう……唸る央佳。

 ……

 …………

 ………………

「分かった……一瞬だけだからな」

「おおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

「だからその笑顔」

 制服の上着を脱ぐ。肌着代わりのTシャツの裾に手を掛けた。

 そしてゆっくり上げる。露わになるお腹。

「本当に少しだけだからね」

「お、おう」

「……」

 シャッ、シャッ

 一瞬だけ上げ、一瞬で下げる。

 確実に胸は露わになったはず。

「……」

「分かった?」

「いや、分かんないけど」

 眉を顰める雪柾。

「見えただろ?」

「見えたけど、マジ分かんねぇ。平らなのしか分かんねぇ」

「ブッ飛ばしたい」

「だってしょうがないだろ」

「こ、これでどうだ!!?」

 シャッ、シャッ

 シャッ、シャッ

「いや、だから一瞬じゃ確認できないんだって」

「ううっ……殺す……」

 シャッ

 恥ずかしさに顔を逸らす央佳。Tシャツは上げられたまま。

「……」

「……」

「……」

「……ちょっと……どう?」

「……」

 何も答えない雪柾。ただ見つめ続けていた。

「雪柾」

「……」

 何も答えない雪柾。その手がスッと伸びて……

 ぴとっ

「触るな!!」

 ガゴンッ

「ぐはっ」

 央佳のストレートパンチが雪柾の顔面を打ち抜くのだった。

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